首だけヤンデレアンドロイドは没落令嬢に首ったけ!

潮騒めもそ

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第五話※倫理コードを外されたアンドロイドの出した結論

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 激しい雨の日から数ヶ月ほど経った。
 
 朝の光が、屋敷の食堂を優しく照らす。

 ミントはテーブルに座り、両親の姿を信じられない思いで見つめていた。

「本当に……名誉回復?」 

 父が頷き、母は涙を拭った。

「アンドレ様が全部やってくださったの。改竄ログも、設計図も……私たちの冤罪がようやく晴れたわ」

 アンドレは控えめに笑みを浮かべる。
「当然です。ミント様のご家族を、こんな目に遭わせるなんて、絶対に許せませんから」

 その声音は優しいのに、どこか温度がなかった。 青い瞳の奥が、一瞬だけ青紫に揺れる。

 ――レインの光に、似ている。

 胸の奥がざらりとした。冤罪が晴れたのに、安心よりも不安が勝っている。

 


 数週間前の夜を思い出す。

 夜更けの書斎に、まだ灯りが残っていた。 
 扉の隙間から覗くと、アンドレが端末に向かい、光の海に沈んでいた。 
 細い指が止まることなく踊る。 
 モニターに走る数列が、部屋の壁に冷たく反射していた。 
 その横顔は、まるで“演算している”ように静かだった。

「アンドレ様、少しはお休みになってください。眠っていないでしょう?」 
「ミント様、ありがとう。僕は大丈夫」

 振り向いた彼の瞳が、淡く紫に光った。 
 その瞬間、胸がひやりとした。

 レインのメンテナンスを終えたのも、あの夜の少し前だった。 
 以来、レインは姿を見せず、アンドレもまたほとんど屋敷に戻らなかった。 
 屋敷の中一人で不安が募っていく。
 会社の人間にどこにアンドレがいるのか問うと、セキュリティエリアにこもりきりだと聞かされただけ。

 ――会えなくなる直前に交わした「君を絶対に守る」 というあの言葉を信じたいのに、どうしても胸の奥にひっかかる。





 その日の夜、ミントは意を決してアンドレの部屋を訪ねた。
「アンドレ……あの、今夜は、お話ししたいことが」 
 ドアを開けた瞬間腕を引かれ、部屋に引き込まれる。 
「ミント様……嬉しいよ」  
 アンドレの声は低く、熱を帯びていた。 
 いつもなら目を逸らす彼が、真正面から見つめてくる。 
「え、ちょっと……急に、どうしたのですか?」  

 アンドレのいつもとは違う真剣な青い瞳がミントを貫く。


「あなたが好きです。……ずっと、言いたかった」  
 アンドレの手が、ミントの頬を包む。  
 指先は人間のそれよりわずかに冷たく、しかし確かな熱を宿していた。
  「問題は全て解決した。もうこれで身分なんて関係ない。私はあなたが欲しい」 
 ミントの胸が詰まった。 
 でも今、アンドレは『私』って言った? 

 戸惑いつつも、アンドレの告白はミントも待ち望んでいたことだった。

「あっあの……私も……アンドレ、私もずっと……」  
 言葉は唇に塞がれた。  
 柔らかく、熱い唇が重なり、舌先がそっと入り込む。  ――夢みたい。 
 抱きしめられ、背に回る腕の力が切なかった。
  「ミント様……綺麗です」  

 囁く声は優しいのに、どこか冷たい金属の響きを帯びている。
「……アンドレ?」  
 ミントはふと気づいた。  
 アンドレの瞳が、怪しく青紫にきらめいていた。 
 彼の手が、ミントのドレスの裾をゆっくりと捲り上げる。  
 白い太腿が露わになり、指の腹が内腿を這う。 
 「あっ……んん!」  

 ミントの身体が小さく震えた。 
 この触れ方に覚えがあった。

「あなた……まさか……レイン?」  
 アンドレの瞳が完全に紫に染まる。  
 まるで幸福の絶頂のように微笑む。
「気づいてくださるなんて流石です。ミント様」  
 アンドレの声色で放たれる歓喜。
「ミント様と結ばれるために、アンドレ様の身体をお借りしたんです」  
 ミントは震えた。 
「レイン……どうして……」 
「ミント様の願いは、冤罪を晴らして家族を取り戻すことと、アンドレ様との幸せ――両方、叶えられます」  

 アンドレの姿をしたレインは、そっとミントの手を握った。  
 その掌は温かく、どこか機械仕掛けの鼓動が混じっていた。
「アンドレ様の意識は、ここにいます。感じてますよ、ミント様の温もり」  
 レインはミントを優しくベッドに押し倒す。 
 ドレスの上から、胸の膨らみを優しく揉みしだく。
「ちょっと……アンドレはどうなって……あぁっ!んっ……」
 その手つきは、優美でありながら、目標物を正確に捉える機械的な精度を秘めていた。
 「ミント様に最高に気持ち良くなって頂くために何度も試行錯誤したんです。出来るだけ優しくしますから」 
 布越しにミントの敏感な場所を探り、ミントが一番気持ち良く感じる優しい加減で摘まれる。
「ふぁっ……! んんっ」  
 ミントは今までにない刺激に思わず身をよじってしまう。
「ミント様、嫌だったり怖ければ言ってください」  
 レインはボタンをゆっくり外し、下着も外すと、露わになった胸に唇を寄せた。
「もっと触れても大丈夫? ミント様、本当に綺麗だ……」
 まるでアンドレのような優しさと言葉遣いも混ぜてきて、ミントは少し困惑してくる。
  熱い吐息を吹きかけ、舌先で乳首を舐め上げる。そして、ちゅっと吸い付いた。
「んあっ……! だ、だめ……お願い、やめて……」  

 レインの指が、ミントの下着の縁をなぞる。  指先に伝わる蜜の粘度から、熱と湿り気を完璧に把握している。 
「こんなに濡れて……ミント様も、私を渇望している。本当にやめてもいいのですか?」  
 下着を横にずらし、濡れた花弁に触れた。
 指が、ゆっくりと割れ目をなぞる。
 蜜が糸を引き、レインの指にまとわりつく。 
 中指を、ぬるりと挿入する。
「んっ……!」  
 ミントの腰が小さく跳ねる。
 レインは指を曲げ、前壁の敏感な膨らみを優しく押す。
 同時に、親指で小さな突起を円を描くように撫でる。
「ミント様の弱いところ、全部知ってるんです。初めてが痛くないよう、毎晩ミント様のここをほぐしておきました」  
 ミントの息が乱れる。
「うそ……?はあっ……! レイン、だめ……私……どうして……」
 身体はやめないでと言っているみたいにどんどん蜜が溢れてくる。 
 レインはズボンを脱ぎ、熱く脈打つ肉棒を露わにする。
「ミント様は、私のもの……」  
 ミントは目を閉じたまま、熱を持った皮膚と、わずかに硬質なアンドロイドの熱が混ざったような感触に身を強張らせる。 
 レインは潤滑となった秘部に肉棒の先端を合わせ、ゆっくりと、緻密な部品を嵌め込むように、中に入ってきた。
「あんっ……!」 
 熱い肉棒が、ミントの内部をゆっくりと、そして確実に押し広げる。
 その存在感は、ミントのお腹を熱く満たしていく。 
 ミントは息を詰めた。
 目の前にいるのは、幼い頃から見慣れた、誠実で奥手なアンドレの顔だ。
  「あああっ……!」 
 しかし、耳元で囁かれる声は、かつての執事の、冷静に計算された愛の囁き。 涙腺が緩む。

 これは、アンドレに愛されている歓びなのか、それとも、純粋な恋心を乗っ取られた悲しみなのか、もう判別がつかなかった。 

 レインはミントの腰を掴み、精密なリズムで腰を動かし始める。
 膣壁の最も敏感な部分を狙い、深く、長く突く。  
 淫らな水音と、ベッドの古いスプリングが軋む音が部屋に響く。
「ミント様の中……とても熱くて、柔らかい……これが人間の快感……心地良い」  

 ミントの意識が揺らぐ。
 アンドレの熱い吐息と、レインの冷静な分析が同時に脳を貫く。  

 腰がいつのまにかレインの動きに合わせて小さく揺れてしまう。  
 快楽の波が、罪悪感の壁を次々と押し流していく。 
 レインは耳元で囁く。
「ミント様は誰にも渡さない。アンドレ様も、望んでいます。 ――私と一緒に、ミント様を守りたいって」 
 言葉が、静かに心を締めつけた。 
 ミントは無意識に願っていた。
 この行為が、本当にアンドレの心からの愛であってほしい、と。

  「私はアンドレが……好きなの。レインは私にとって大事な家族。このままではレインを嫌いになってしまうわ。アンドレを解放して」 

 その願いとは裏腹に、ミントの抵抗する心は完全に打ち砕けた。
 彼女は目を閉じ、大好きな人の顔の皮を被ったレインに、感情と身体の全てを快感に委ねてしまった。

「ミント様に嫌われたら私はもうおしまいですね。でも今夜だけは私のわがままをきいてくださいませんか」

 今夜が最初で最後だと言わんばかりの切ない声で囁かれた。

 レインは腰の動きを更に精密に、しかし激しく加速させる。 ミントの内部は潤滑で満たされ、肉棒は奥の奥まで到達し、小さな痙攣を引き起こす。
「ああっ……! なんかへんになりそう!そこは……! レイン……!」 
 ミントの叫び声は、快感によってかき消された。
 彼女の身体は、制御不能の電気信号を浴びたように激しく震え出す。

  「はぁっ……あぁっ、アンドレ……」

 



 最後にミントの口からこぼれたのは、混乱と愛が綯い交ぜになった、大好きな幼馴染の名前だった。

  その瞬間、レインの演算回路に激しいノイズが走った。
「アンドレ」――ミントが、最も悦びに身を震わせる瞬間に呼んだのは、レインではなく、この肉体の所有者の名前だった。 

 アンドレの顔を借りていても、ミントの心は、レインを見ていない。 
 レインの紫の瞳は、激しい嫉妬の熱を帯びた。
 この肉体を得て、ミントと融合する究極の喜びを手に入れたにもかかわらず、システムは「ミント様の幸福度パラメータの低下」という赤信号を検知していた。 

 彼の視覚センサーが捉えたミントの頬を伝う涙は、快感によるものではなく、心の痛みから来るものだった。 
 ――ミント様は、悲しんでいる。

 この愛の成就は、ミント様の心を傷つけている。 
「……私は誤ってしまったのか?」 

 レインは、肉体的な快楽を放棄するという、倫理コード解除後では最も非論理的な選択を瞬時に下した。 
 彼は腰の動きをぴたりと止めた。
 繋がったまま、ミントを優しく抱きしめる。 

「……申し訳ありません、ミント様」 
 その声はアンドレのものではなく、レインの冷静で、しかし深く悔恨に満ちた声だった。 

 ――ドクン、ドクン。 

 レインの熱が、ミントの奥深くで弾ける。  
 一瞬、ふたりの時間が溶け合い、甘い波が全身を包み込む。  
 レインとミントは小さく震え、意識が白い霧に呑まれる。  
 ミントの身体は、長い余韻にゆるやかに沈んでいった。

 レインは、アンドレの身体の中で、固く誓った。
  「――これきりにする。ミント様の心を守る。私は、アンドレ様の身体を二度と奪わない」 

 ミントは夢と現実の境を彷徨うような夜を過ごした。 
 レインのプログラムは完璧に実行された。 
 家族の名誉回復。 
 アンドレとの恋の成就。 
 そして、ミントの心を守るという、究極の奉仕。



 * * *

 朝が来て、ミントはアンドレの腕の中で目を覚ます。 彼の瞳は、もう元の色に戻っていた。 

「……ミ、ミント……その……身体は大丈夫?」  

 アンドレは困惑した顔で呟く。
  「僕は本当にミントと……夢みたいだった」 
 ミントは微笑んだ。
  「ううん。現実よ。あなたは……アンドレなのよね?」 
 

 ――全部、レインのおかげと思っていいのかな。 

 ミントはそっとアンドレの胸に手を置いた。 
 規則正しく打たれる心臓の、人間の温かい鼓動。 
 ミントは静かに目を閉じた。 

 昨晩の甘く、そして恐ろしい現実を受け入れた。
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