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――雪の結界の中で、クラリスが見た“幻”は、あまりに鮮明だった。
王立魔法学園の講堂。だがそこに広がっていたのは、断罪の場ではなかった。壇上に立つジルベルトは、いつものように堂々と演説していたが、その言葉には決定的に何かが欠けていた。
「……これは、私が知っている場面じゃない」
クラリスは幻の中に身を委ねながら、冷静にその光景を観察した。幻属性の術式は、ただ記憶を再生するだけでなく、可能性――選ばれなかった“もしも”を映し出すことがある。
壇上にいる聖女セレスティアは、いつものように微笑んでいた。しかし彼女の背後に立つのは、ジルベルトではなかった。
「……第二王子、ユリウス?」
冷ややかな眼差しで周囲を見回す青年。社交には関心を持たず、ただ王族として名を連ねるだけと思われていたユリウスが、そこではまるで“主役”のような光を放っていた。
そして、聖女の隣に立つその姿は、どこか不自然だった。
「この光景は……誰かが“見せたい”と望んだもの?」
クラリスは幻を深く読み取ろうとした。幻の中に潜む意図。誰かの記憶、あるいは精霊の導き。それはやがて、幻を超えて“情報”に近い何かへと変貌し始めた。
次の瞬間、視界が暗転し――
「……っ!」
クラリスは現実に引き戻された。かまくらの中で呼吸が浅くなる。意識の負担が大きすぎたのだ。額に冷や汗が滲んでいた。
「……危なかったわね」
幻の精霊がそっと現れた。青白く揺らぐ光が、どこか不安げに揺れている。
「あなたが見たのは、“他者の幻影”です。干渉は禁忌に近い」
「でも、明確な意思があったわ。あれは誰かが、私に『見せた』のよ」
「では、その誰かはあなたを利用したいのか、救いたいのか。判断を間違えれば、再び――断罪されるでしょう」
クラリスは唇を噛みしめた。冷たい雪の中でも、胸の奥がざわついている。あの幻がただの妄想ではないと、確信できるだけの“違和感”があった。
「ユリウス……。彼もまた、断罪される側の人間なのかもしれない」
膝に手を置き、ゆっくりと立ち上がる。かまくらの入口から差し込む光の中、クラリスは一歩を踏み出した。
(私は、まだ終わってなんかいない)
聖女にすべてを奪われた悪役令嬢?
いいえ――これはまだ、序章に過ぎなかった。
ラウエンシュタインの雪は、静かに、その決意を見守っていた。
王立魔法学園の講堂。だがそこに広がっていたのは、断罪の場ではなかった。壇上に立つジルベルトは、いつものように堂々と演説していたが、その言葉には決定的に何かが欠けていた。
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次の瞬間、視界が暗転し――
「……っ!」
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「……危なかったわね」
幻の精霊がそっと現れた。青白く揺らぐ光が、どこか不安げに揺れている。
「あなたが見たのは、“他者の幻影”です。干渉は禁忌に近い」
「でも、明確な意思があったわ。あれは誰かが、私に『見せた』のよ」
「では、その誰かはあなたを利用したいのか、救いたいのか。判断を間違えれば、再び――断罪されるでしょう」
クラリスは唇を噛みしめた。冷たい雪の中でも、胸の奥がざわついている。あの幻がただの妄想ではないと、確信できるだけの“違和感”があった。
「ユリウス……。彼もまた、断罪される側の人間なのかもしれない」
膝に手を置き、ゆっくりと立ち上がる。かまくらの入口から差し込む光の中、クラリスは一歩を踏み出した。
(私は、まだ終わってなんかいない)
聖女にすべてを奪われた悪役令嬢?
いいえ――これはまだ、序章に過ぎなかった。
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