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王都に柔らかな雨が降った日、クラリスは一通の書簡を認めていた。
宛先は、王立魔法学園。
《貴学において、幻属性魔法の正規科目化と、幻術適性者の保護に関する提案》
それはかつて“曖昧で不安定な術”とされ、嘲笑と偏見に晒され続けた魔法に、正式な位置を与えるための提言だった。
クラリスはその筆を止めると、ふと窓の外を見た。
そこには雨に濡れる石畳と、傘も差さず走り回る子どもたちの姿。
その笑い声は、どこまでも澄んでいた。
「姉上、来て来て!」
レオンの声が、庭から聞こえる。
「濡れるわよ!」
「いいの!今日は“幻探し”してるんだ!」
しばらくすると、レオンは手のひらに乗るほどの小さな花を持って戻ってきた。
「姉上、これ見て。“幻の花”なんだって!雨が降った日にだけ咲く、幻属性に反応する草花なんだよ!」
「そんなの、どこで聞いたの?」
「市場の魔道具屋のおばさんが言ってた!」
クラリスは花を受け取り、じっと見つめた。
確かに、淡い光を帯びて揺れている。だが、それは決して幻ではない。
触れられて、感じられて、確かにそこに“在る”。
「……幻とは、消えるものじゃないのね」
「え?」
「いいえ、独り言よ」
彼女は微笑むと、花を乾いた布に包み、机の上にそっと置いた。
そのとき、屋敷の扉が静かに開いた。
現れたのは、王都学術院からの使者だった。
「ラウエンシュタイン嬢。幻術研究の正規認定に向けた予備会合が決定いたしました。貴女の“幻と真実の記録”を基礎文献として正式採用する旨、通達です」
クラリスは立ち上がり、丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます。……あの日、壇上で語った言葉が、ようやく教科書の頁に残せるのですね」
「はい。聖女制度の時代が終わった後、民が“祈りの意味”を学ぶために必要な記録として」
クラリスは、かすかに息を吐いた。
かつて“引きこもり”と嘲笑された少女が、今、王国の未来を語る“記録”を編んでいる。
幻は、もはや迷いでも虚構でもない。
それは、“誰かが見た真実”であり、
“誰かが信じてくれた希望”だった。
クラリスは最後に、学園への書簡にこう記した。
《幻術とは、心を写す鏡であり、未来を問う問いである。
――そして、語る者がいる限り、それは真実として残り続ける》
窓の外、雨はやんでいた。
だがその地面には、小さな幻の花がいくつも咲いていた。
確かにそこに、未来が息づいていた。
宛先は、王立魔法学園。
《貴学において、幻属性魔法の正規科目化と、幻術適性者の保護に関する提案》
それはかつて“曖昧で不安定な術”とされ、嘲笑と偏見に晒され続けた魔法に、正式な位置を与えるための提言だった。
クラリスはその筆を止めると、ふと窓の外を見た。
そこには雨に濡れる石畳と、傘も差さず走り回る子どもたちの姿。
その笑い声は、どこまでも澄んでいた。
「姉上、来て来て!」
レオンの声が、庭から聞こえる。
「濡れるわよ!」
「いいの!今日は“幻探し”してるんだ!」
しばらくすると、レオンは手のひらに乗るほどの小さな花を持って戻ってきた。
「姉上、これ見て。“幻の花”なんだって!雨が降った日にだけ咲く、幻属性に反応する草花なんだよ!」
「そんなの、どこで聞いたの?」
「市場の魔道具屋のおばさんが言ってた!」
クラリスは花を受け取り、じっと見つめた。
確かに、淡い光を帯びて揺れている。だが、それは決して幻ではない。
触れられて、感じられて、確かにそこに“在る”。
「……幻とは、消えるものじゃないのね」
「え?」
「いいえ、独り言よ」
彼女は微笑むと、花を乾いた布に包み、机の上にそっと置いた。
そのとき、屋敷の扉が静かに開いた。
現れたのは、王都学術院からの使者だった。
「ラウエンシュタイン嬢。幻術研究の正規認定に向けた予備会合が決定いたしました。貴女の“幻と真実の記録”を基礎文献として正式採用する旨、通達です」
クラリスは立ち上がり、丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます。……あの日、壇上で語った言葉が、ようやく教科書の頁に残せるのですね」
「はい。聖女制度の時代が終わった後、民が“祈りの意味”を学ぶために必要な記録として」
クラリスは、かすかに息を吐いた。
かつて“引きこもり”と嘲笑された少女が、今、王国の未来を語る“記録”を編んでいる。
幻は、もはや迷いでも虚構でもない。
それは、“誰かが見た真実”であり、
“誰かが信じてくれた希望”だった。
クラリスは最後に、学園への書簡にこう記した。
《幻術とは、心を写す鏡であり、未来を問う問いである。
――そして、語る者がいる限り、それは真実として残り続ける》
窓の外、雨はやんでいた。
だがその地面には、小さな幻の花がいくつも咲いていた。
確かにそこに、未来が息づいていた。
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