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序章
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その世界には、大陸が三つあり、灯奇大陸、ルーファ大陸、アトランテ大陸が存在した。
そして、そこに住むものは人や動物の他に龍がいた。
龍は神にも等しい存在として人々に敬われ、動物からも本能的に頂点に立つ存在として扱われている。
しかし、龍の棲みかは依然として知られず、長命でありながら人前に滅多に現すことは無かった。
そんな中でも龍と心を通わせ信頼関係を築いていたのが、三大陸の中で中立を保つ白神殿である。
白神殿に仕える最高位の巫女は龍からの言葉を受け取った際に、必要であれば三大陸の国々の長たちに助言を行うことが許されている。
巫女の存在を守るために龍は力を貸し、巫女もまた人から龍が虐げられることのない様に誓いをたて、神官たちはその関係を守るために全ての力を捧げることとなっている。
三大陸の中での国が変わろうとも、この龍と白神殿の関係は永遠に続くかと思われた。
ある時をもって最高位の巫女の姿が消え、一部の龍たちが人によって死んだという噂が流れるまでは。
大陸歴543年、灯奇大陸にある柚旗皇国を第23代皇帝李翔騎が治めており、その妻や子どもらは皇宮内の後宮に居を構えていた。
在位21年となる皇帝であるが、前皇帝の逝去に伴い20歳にて皇帝の位についた。
柚旗皇国の領地は灯奇大陸全てであり、大陸内には他国の侵略の恐れはない。
しかし、国内の部族や領地の一部で独立しようとする動きがあれば、皇国側から粛清対象とされた。
幸いにも現皇帝の治世では粛清は起きておらず、他の大陸との交易を行い、穏やかさを保っていた。
時に皇帝の息女、皇女李白華15歳の時であった。
「皇帝陛下に拝謁致します。」
皇宮内の政治を行う場所である正殿に声が響く。
「顔をあげよ。赦す。」
李翔騎は最上位の席から拝謁者に対して声をかける。
「ありがとうございます。」
顔をあげたのは女性に成長する間近の少女であり、李翔騎の娘、李白華であった。
白華は皇女と言いながらも装飾は最低限に抑え、質素な服装ではあったが、姿勢は凛として崩れず、成長すれば美姫になるに違いないと思わせる容姿である。
「皇帝陛下、発言をお許しいただけますでしょうか?」
「良かろう。赦す。」
翔騎は四十を越えたものの容貌は未だ衰えず、為政者としての風格を持っている。
即位したときから精悍さや大人らしく艶を持ち合わせているものの老いなどは見えず、男盛りであった。
政務にも積極的であり、皇帝の権威を揺るぎないものにするために尽力し、その手腕は長年の執政により老獪さも兼ね備えつつある。
「ありがとうございます。今回、私にご下命いただいた件についてですが、いささか荷が勝ちすぎると熟孝し、適した人材の再考をお願い致します。」
「ほう?できぬと申すか。せっかくの後宮を出ての仕事であるぞ?」
翔騎は肘掛けに頬杖をつきながら、片側の口角を上げて問いかける。
「恐れながら、魔獣『黒炎』の討伐は私には不向きかと思われます。どうか、お聞き入れ下さいませ。」
白華は頭を垂れながら願い出ると、翔騎は眉をひそめた。
「ならぬ。」
「何卒、臣下としての進言として再度を…」
白華は翔騎の言葉に再度食いつく。
命令を何としても取り下げてほしいためである。
しかし、翔騎は取り合わなかった。
「くどい。明後日には出立せよ。命令である。」
翔騎は白華から視線をそらし、もはや興味がないという様子になる。
「……かしこまりました。」
これ以上は無駄な怒りを買ってしまうことになりかねないと白華は引くしかなかった。
「用件はそれだけならば退出せよ。」
「はい。それでは失礼致します。」
一礼し、白華はそのまま正殿を下がった。
「何でだあああああ!」
正殿を出て後宮内の隅で蹲りながら絶叫する少女が先ほど皇帝に進言を行っていた皇女だ。
「仮にも皇女に何故討伐案件持ってくるんだ!他の姉上や妹たちには全然無いくせに!むしろ兄上たち男兄弟どもにも無いじゃないか!何か?母親が身分不明の側室の娘だから使い捨てにされろっていうの?」
足元の草をぶちりぶちりと抜きながら言葉を吐き出す。
「しかも、今回の討伐に行ったら私はまた悲惨な感じで死ぬっていうのにいいい!」
少女は頭を抱えながら後宮の隅で叫んだ。
皇女李白華は一度死んで人生やり直しの最中なのである。
そして、そこに住むものは人や動物の他に龍がいた。
龍は神にも等しい存在として人々に敬われ、動物からも本能的に頂点に立つ存在として扱われている。
しかし、龍の棲みかは依然として知られず、長命でありながら人前に滅多に現すことは無かった。
そんな中でも龍と心を通わせ信頼関係を築いていたのが、三大陸の中で中立を保つ白神殿である。
白神殿に仕える最高位の巫女は龍からの言葉を受け取った際に、必要であれば三大陸の国々の長たちに助言を行うことが許されている。
巫女の存在を守るために龍は力を貸し、巫女もまた人から龍が虐げられることのない様に誓いをたて、神官たちはその関係を守るために全ての力を捧げることとなっている。
三大陸の中での国が変わろうとも、この龍と白神殿の関係は永遠に続くかと思われた。
ある時をもって最高位の巫女の姿が消え、一部の龍たちが人によって死んだという噂が流れるまでは。
大陸歴543年、灯奇大陸にある柚旗皇国を第23代皇帝李翔騎が治めており、その妻や子どもらは皇宮内の後宮に居を構えていた。
在位21年となる皇帝であるが、前皇帝の逝去に伴い20歳にて皇帝の位についた。
柚旗皇国の領地は灯奇大陸全てであり、大陸内には他国の侵略の恐れはない。
しかし、国内の部族や領地の一部で独立しようとする動きがあれば、皇国側から粛清対象とされた。
幸いにも現皇帝の治世では粛清は起きておらず、他の大陸との交易を行い、穏やかさを保っていた。
時に皇帝の息女、皇女李白華15歳の時であった。
「皇帝陛下に拝謁致します。」
皇宮内の政治を行う場所である正殿に声が響く。
「顔をあげよ。赦す。」
李翔騎は最上位の席から拝謁者に対して声をかける。
「ありがとうございます。」
顔をあげたのは女性に成長する間近の少女であり、李翔騎の娘、李白華であった。
白華は皇女と言いながらも装飾は最低限に抑え、質素な服装ではあったが、姿勢は凛として崩れず、成長すれば美姫になるに違いないと思わせる容姿である。
「皇帝陛下、発言をお許しいただけますでしょうか?」
「良かろう。赦す。」
翔騎は四十を越えたものの容貌は未だ衰えず、為政者としての風格を持っている。
即位したときから精悍さや大人らしく艶を持ち合わせているものの老いなどは見えず、男盛りであった。
政務にも積極的であり、皇帝の権威を揺るぎないものにするために尽力し、その手腕は長年の執政により老獪さも兼ね備えつつある。
「ありがとうございます。今回、私にご下命いただいた件についてですが、いささか荷が勝ちすぎると熟孝し、適した人材の再考をお願い致します。」
「ほう?できぬと申すか。せっかくの後宮を出ての仕事であるぞ?」
翔騎は肘掛けに頬杖をつきながら、片側の口角を上げて問いかける。
「恐れながら、魔獣『黒炎』の討伐は私には不向きかと思われます。どうか、お聞き入れ下さいませ。」
白華は頭を垂れながら願い出ると、翔騎は眉をひそめた。
「ならぬ。」
「何卒、臣下としての進言として再度を…」
白華は翔騎の言葉に再度食いつく。
命令を何としても取り下げてほしいためである。
しかし、翔騎は取り合わなかった。
「くどい。明後日には出立せよ。命令である。」
翔騎は白華から視線をそらし、もはや興味がないという様子になる。
「……かしこまりました。」
これ以上は無駄な怒りを買ってしまうことになりかねないと白華は引くしかなかった。
「用件はそれだけならば退出せよ。」
「はい。それでは失礼致します。」
一礼し、白華はそのまま正殿を下がった。
「何でだあああああ!」
正殿を出て後宮内の隅で蹲りながら絶叫する少女が先ほど皇帝に進言を行っていた皇女だ。
「仮にも皇女に何故討伐案件持ってくるんだ!他の姉上や妹たちには全然無いくせに!むしろ兄上たち男兄弟どもにも無いじゃないか!何か?母親が身分不明の側室の娘だから使い捨てにされろっていうの?」
足元の草をぶちりぶちりと抜きながら言葉を吐き出す。
「しかも、今回の討伐に行ったら私はまた悲惨な感じで死ぬっていうのにいいい!」
少女は頭を抱えながら後宮の隅で叫んだ。
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