人生やり直し中の皇女様は失踪したい

郁律華

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少し気にかかること

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追われている。
追いつかれたら確実に殺される。
手に持っていた槍は先ほど狙いをつけて放ったのに全くもって効いていない。
こんなことは望んでいなかった。
私はこんなところで死にたくはないのに。
黒い炎が追いかけてくる。
あれに少しでも触れたらダメだ。
他を見れば逃げられたものと逃げ遅れたものが混在している。
他を助ける余裕などない。
ああ、何故、私はここにいる。

攻撃をかわしながら走っていると、不意に足元の感覚がなくなった。
次に感じたのは浮遊感。
ー落ちる!
崖かと思って衝撃に備えようとしたら、水の中に飛び込んでいた。
口から息が気泡となって飛び出るが、不思議と息苦しさはない。
水の中なのに、息ができる?
水の外に出てもすぐに襲われるかもしれない。
なら、少しばかり遠くへと泳いで逃げよう。
そこから仲間と合流するしかない。
そのまま潜りつつ泳いでいくと何かの影が見えた。
目を凝らすと輝いて見える。
光は水底まで届かないはずだから、光源があるのだろう。
あれは……

手を伸ばしたところで、光を感じた。
周りを見渡せば、後宮の中にあるいつもの自分の部屋だ。
「夢か……」
今回は鮮明だったな。
起き上がれば、着ていた夜着は汗で重みを帯びている。
あーあ、これはまたか。
悪夢で夜中に起きるよりかはマシになったけれど、14歳になっても夢との戦いだ。
最初の悪夢から6年間。
勉学も修練も重ねてきたけれど、まだまだ子供の域でしかない。
幼い頃から相変わらず私の周りには人が少ないため、着替えは自分で行う。
本来付けられるはず侍女や女官も少なく、ここ数年会っていない母に付いている、らしい。

いつものような皇女としての服装ではなく、動きやすい服に着替えると侍女の風薇がやってきた。
風薇は数少ない私の侍女だ。
女官には生まれた家柄などが重視されるが、侍女は登用試験の成績が重視される。
風薇は登用試験については上位であったものの他の皇族に仕えた際に、家柄が低いことで
他の侍女とうまくいかずに私のもとへと来たのだ。
人が少ないことと主人が私であるために、皆のびのびとしていることから風薇も気安く接してくれている。

「おはようござます、皇女様。」

「おはよう、風薇。」

「朝餉の準備ができております。」

「ありがとう。」
部屋で粥と食事をとっていると、風薇が顔を曇らせている。

「お加減がよろしくありませんか?」

「え、そんなに顔に出てる?」

「上手く隠しておられますが、私には顔色が悪いように見られます。」

風薇には隠しても無駄なのか。
今までも確かにさり気なく察せられて、淹れてもらうお茶とか考えてもらってたしな。
でも、今回はそんなにひどい顔なのだろうか。

「そ、そうなのか。うーん……夢があまり良くなくてね。」

「夢ですか。」

「最初は怖いはずなのに、綺麗なものも見てしまって感情が追い付かない。」

「よほど現実味があったのですね。」

「そうね。」

追いかけられていたのは、おそらく魔獣だろう。
逃げ惑う人がいたことから、何かしら不測の事態が起きたとも考えられる。
そして、落ちた先で見たのが龍だ。

人の世界では滅多に会うことができなくなった龍という存在。
龍と話すことができるのは白神殿の最高位の巫女のみ。
白神殿はそれぞれの大陸に存在しているが、灯奇大陸では神殿の名を取られた白州にある。
巫女は表に出ることは無く、俗世との関わりを切って生活し、神官らが取次ぎをしているという。

「風薇は白神殿に行ったことはある?」

白神殿のことを話すのは龍の存在に触れることにもなるため、普通の場合であれば避けてしまいがちだ。
しかし、ズルズルと状況を知ることを先延ばしにしてしまったため、あまり現在のことを知らない。
討伐について避けられたら関わらなくても良さそうだったからとか……思ってました。はい。
でも、やはり知らなければならない。
まずは手短なところから聞いてみるのが早そうだ。

「私はありませんねえ。そもそも、気軽に行けるところではありませんでしょう?」

「白州自体が山と森の奥地だから?」

「それもありますが、神殿の周りには結界が張られ、神官様のみがその結界の内と外を行き来できるそうです。」

「じゃあ、神官以外は入れないの?」

「いえ……皇宮の許可を取れば行けますが、なかなかお許しは出ないそうですよ。」

「何でまた……。」
「こちらに上がる前に耳に挟んだのは、皇宮が神殿とのつながりを独占したいからとのことらしいです。」

「ふうん?」

きな臭いな。

兄妹たちに外の噂や公邸に気に入られるような施策を思いつくような筋道の考えの話を
流しているものの、皇帝は動かない。
皇帝に気に入られるために必死な兄妹たちは焦っているが、唯一かわいがってくれている
皇太子の位は揺るがないということかもしれない。
皇太子がすんなり次の皇帝の位についてくれれば私も一安心だけれども、討伐命令だけは
仮初でも実績重視で他の兄妹たちにふってくれることを願っている。
何もしていない皇女にお鉢は回ってこない…はず。
でも、神殿とのつながりの独占については気にかかるところだ。

ふむ、梁論さんに聞いてみるか。
困ったときは師匠である。

良いように使ってるだけではないかとか言われそうだけど、気にしない。
気のせいだ、気のせい。
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