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ライト

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意識は、意地で縫いとめる。
すると、暖かな光が、私を守るように全身を包み込んでくれる感覚があった。

しゃらん

綺麗な音と、私に伸ばされた手が優しく倒れた身体を抱き寄せてくれた。“隣国の王子様”と呼ばれた人物は、私の背中にそっと布を当てて、入り口の少女に声をかけた。

「私の前で、殺生はいただけないな。“時の乙女”よ、この少女は私が預からせてもらおうか」

しゃらんっ

「っー~~」

発せられた言葉は、私には聞き取ることが出来なかった。

パタンっと襖が閉じて、初めから何も無かったように静寂が訪れる、甘い香りと、目の前に見える人の事を考える。

ーー助かった?

と、思うと同時に、焼けるように熱い背中に痛みが走る。痛くて動く事が出来ないなんて、初めてだから思考も止まる。わかるのは、意識は失ってはいけない気がする!ということ。

「安心して、今は、君を助けてあげるから」

優しく微笑んで、手のひらでそっと目を覆われる。

「おやすみ、“聖女と精霊に愛された娘”よ」


リズの意識が途切れ、テキパキと処置を施し寝台へ寝かせる。彼女をまもるように、淡く包み込む光が優しく灯るのをみて、青年は儚く微笑む。

「もう。お別れみたいだね。また、会おうね、リズちゃん」


ふわふわと、温かいお湯につかっているような、心地よい感覚がする。トンっと、足が地面につく感覚がある。周りをみると、見たことのある、学園の廊下。立ち尽くす私の横を通りすぎる人が振り返って、手を差し伸べる。その人が、優しく笑顔を向けてくれるのが嬉しくて、自分も笑顔になり、差し出された手を取る。
今日は何をしようか、裏庭に綺麗な花が咲いたよ。新作の物語が手に入ったよ。今日の授業はね。
他愛のない話をしながら、穏やかで、でも時々胸が苦しくなる日々を送っていた。
そして、それを第三者の様な感覚でみている自分がいる。そうか、これはゲームをしている時の感覚で、隣にいるのは・・・

「ーーズ。リズ。」

はっとして目を開けると、見慣れた天井と、ライトが見えた。

「よかった、目が覚めた」

私の手を握り、額に祈る様にあてて、深く息を吐いた姿に、とても愛おしさを感じる。
ー胸がなんだかきゅんって、なんだろうな。

「私・・は?」

「急に倒れたんだよ、もう、とても驚いたんだ。」

ー倒れた?だけ?
起き上がろうとすると、背中が痛むのを感じた、思わず顔を歪めると、ベッドに居たミラさんが、そっと背中にすり寄って淡い光を放つ。光はほのかに冷たく感じで、痛みも感じなくなった。

「闇と時の力を感じます」

静かな声の主はエメロスだった。

「陛下の残された痕跡にも、似たような感覚がありました。リズ様、“どちらへ行かれていたか”教えていただけますでしょうか」

“どちらへ行かれていたか”

ライトは“倒れた”って、でも、背中の痛みは本物で、私は答えられなくて、でもエメロスから目はそらせなくて、必死に言葉を探す。
こんな展開は、ゲームにはなかったし、陛下が消えるルートって

と、そこまで考えて思いつく。
自分が攻略出来なかったルート、ネットや攻略本ですら掲載されていなかった道があった気がする。それにーー

「知らない場所に居たの。」

あの女の人

しゃらんっっ

聞き覚えのある音につられて左手をみると、あの時の男の人がしていた腕輪がはめられていて

「っっリズ、それ」

ライトの目が驚きに見開かれた





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