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プロローグ
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「クロア・アルミダ。お前との婚約を破棄する」
突然の宣言だった。
貴族が集まる夜会にて、シェルハル王国の王太子、ウルド・シェルハルから婚約破棄を言い渡された。
その相手は、クロア・アルミダ。
この小国、シェルハル王国の公爵令嬢として王太子と婚約していた、この国の未来の王妃になるべき姫だった。
「何故でしょうか……? ウルド様……」
琥珀色の瞳が、驚きで大きく見開く。
それ以上の疑問を口にしようとするが言葉にならず、クロアは口をはくはくと動かすことしかできなかった。
ウラドはそんな様子の彼女を、まるで親の仇を見ているかのように睨み付けながら言った。
「男を手玉に取り、その男たちに囲まれて鳴くなど汚らしい。それだけに飽き足らず、不正を働いて功績を上げていたなど……お前がそんな悪事を働いているとは思わなかった。
共に過ごした時間が我が人生の汚点だ。今日を以って婚約を破棄し、代わりに新しい婚約者を迎える。お前の悪事を暴いた彼女こそ、私の妻として最も相応しい。来なさい、カーラ」
「はい……ウルド様」
そう言われて舞台に立ったのは、クロアの妹のカーラだった。
幸せそうに身を寄せ合う二人。それを祝福する貴族たち。そこにはクロアの家族も含まれていた。
異様な光景だ。そんな勝手なことは許されないはず。
それに抗議しようとして……それを遮るように、この会場にいた国王は宣言した。
「そしてクロア・アルミダ。お前は、わざとこの国の結界を緩ませ魔族の侵入を許した。これはこの国の人間としてあるまじき行為だ! 大罪人であるお前をここにはおけん! 今日を以って『特攻隊』として、魔王討伐の任を与える!」
『特攻隊』。その単語を聞いて、クロアは顔を青ざめた。
この世界に突然に現れ、蹂躙をし続けている魔族の長――『魔王』アルシエル。
闇の世界に棲む、《原初の悪魔》という最強最悪の悪魔族であり、他の悪魔達を束ねる王。数々の勇者が彼を倒す為に立ち向かったが……未だ倒せずにいる化け物だ。その勇者の中には、神から授かった聖剣を携えた者も含まれていた。
その『魔王』を討伐するための部隊――それが『特攻隊』というが……それは名ばかりで、実際は侵攻を一時的に止めるための生贄部隊でしかない。
この国ではそれを利用して、死刑判決又は永久追放を受けた大罪人を選別して、魔王がいる魔城へ向かわせるのが暗黙の了解で行われている。
つまり、この状況は……クロアを生贄として向かわせるということだった。
その言葉に貴族たち、家族も同調し、罵声罵倒の数々を彼女に浴びせた。
「そうだ出ていけ‼︎」
「阿婆擦れめ‼︎」
「穢らわしい……」
「この罪人めがッ!」
「正に『魔王』の生贄が相応しいわ……」
誰も、クロアを味方する者はいなかった。
だが、それでも、クロアは反論した。
「それは何かの間違いです! 決してそのようなことはしておりません! ましてや、この国の未来を揺るがすようなことなど――ウルド様を裏切るようなことなど、絶対にしません!」
――クロアはウラドを愛していた。
……いや、必死になって愛そうとしていた。過去を掻き消すように。
貴族同士の結婚という貴族の中では当たり前でありきたりな事だが、クロアはそれでも必死にウラドに尽くすように、今まで公務の仕事を引き受けて功績を上げてきた。
そこに不正など、あり得なかった。
だが……
「黙れ! 薄汚い魔女め! お前の声を、言い分を聞くたびに反吐が出る。私の目の前から失せるがいい!」
バチンッ!
ウラドがクロアの頬を叩く音が響く。反動で膝から崩れ落ちる。
結って整っていた長い黒髪が、乱れてくしゃくしゃになる。
「連れて行け!」
ウラドが兵士に命じて、クロアを連れて行ってしまった。
ゴミを見るような目つき。
吐き捨てるように言われた暴言。
それら全て、愛していた人から発せられたという事実。
そして――実家で蔑まれて暮らしていたクロアに、亡き祖父以外で唯一寄り添ってくれたはずの、妹。
「ざまあみろ。他人さん」
クロア見えないところで歪んだ笑みを浮かべ、クロアにしか聞こえないほどの小声で、カーラはそう言った。
彼女が抱いていた淡い希望を砕くには、十分すぎる非道だった。
そうしてすぐにクロアは来ていたドレスを脱がされ、手入れが行き届いていない魔法の杖と、刃こぼれした剣。そして防具は年季が入って錆びた鎧と、一部に穴が空いている衣服を与えられた。ついでと言わんばかりに、わずかな食料も持たされて。
そんな装備で、そのまま国境付近まで三日かけて馬車で連れて行かれて、魔王城へ続く道半ばで放り出された。
「う、うぅ……」
あてもなく、その道へ真っ直ぐ進みながら、ボロボロに泣いた。
服もボロボロのせいで、冷たい風を防ぐものすらない。
それでもアイラは進み続けた。それら全てを無視して進み続けた。その先は魔王城しかないが、他に行くところすらない。それでも歩き続けた。途中からは走っていた。武器も防具も脆いので、走っている最中で折れて使い物にならなくなったり、紐とかが切れて外れて落としてしまった。
全てから逃げたしたくて。早くあんなところから離れたくて。
一度でもいいから祖父の墓に行きたかったが、それももう叶いそうもない。
このまま、魔王に殺されるんだ。
(ごめんなさい……おじいちゃん……)
私は、もう、幸せになることが出来ません。親不孝でごめんなさい。
クロアはそうやって、天国にいるであろう祖父に謝り……魔王城へ辿り着いた――
が。
そこにあったのは、遺跡のようにある魔王城の残骸で。
その中で、『彼』に再会した。
今日、この日。
クロアの地獄のような日々が、唐突に終わりを告げた。
突然の宣言だった。
貴族が集まる夜会にて、シェルハル王国の王太子、ウルド・シェルハルから婚約破棄を言い渡された。
その相手は、クロア・アルミダ。
この小国、シェルハル王国の公爵令嬢として王太子と婚約していた、この国の未来の王妃になるべき姫だった。
「何故でしょうか……? ウルド様……」
琥珀色の瞳が、驚きで大きく見開く。
それ以上の疑問を口にしようとするが言葉にならず、クロアは口をはくはくと動かすことしかできなかった。
ウラドはそんな様子の彼女を、まるで親の仇を見ているかのように睨み付けながら言った。
「男を手玉に取り、その男たちに囲まれて鳴くなど汚らしい。それだけに飽き足らず、不正を働いて功績を上げていたなど……お前がそんな悪事を働いているとは思わなかった。
共に過ごした時間が我が人生の汚点だ。今日を以って婚約を破棄し、代わりに新しい婚約者を迎える。お前の悪事を暴いた彼女こそ、私の妻として最も相応しい。来なさい、カーラ」
「はい……ウルド様」
そう言われて舞台に立ったのは、クロアの妹のカーラだった。
幸せそうに身を寄せ合う二人。それを祝福する貴族たち。そこにはクロアの家族も含まれていた。
異様な光景だ。そんな勝手なことは許されないはず。
それに抗議しようとして……それを遮るように、この会場にいた国王は宣言した。
「そしてクロア・アルミダ。お前は、わざとこの国の結界を緩ませ魔族の侵入を許した。これはこの国の人間としてあるまじき行為だ! 大罪人であるお前をここにはおけん! 今日を以って『特攻隊』として、魔王討伐の任を与える!」
『特攻隊』。その単語を聞いて、クロアは顔を青ざめた。
この世界に突然に現れ、蹂躙をし続けている魔族の長――『魔王』アルシエル。
闇の世界に棲む、《原初の悪魔》という最強最悪の悪魔族であり、他の悪魔達を束ねる王。数々の勇者が彼を倒す為に立ち向かったが……未だ倒せずにいる化け物だ。その勇者の中には、神から授かった聖剣を携えた者も含まれていた。
その『魔王』を討伐するための部隊――それが『特攻隊』というが……それは名ばかりで、実際は侵攻を一時的に止めるための生贄部隊でしかない。
この国ではそれを利用して、死刑判決又は永久追放を受けた大罪人を選別して、魔王がいる魔城へ向かわせるのが暗黙の了解で行われている。
つまり、この状況は……クロアを生贄として向かわせるということだった。
その言葉に貴族たち、家族も同調し、罵声罵倒の数々を彼女に浴びせた。
「そうだ出ていけ‼︎」
「阿婆擦れめ‼︎」
「穢らわしい……」
「この罪人めがッ!」
「正に『魔王』の生贄が相応しいわ……」
誰も、クロアを味方する者はいなかった。
だが、それでも、クロアは反論した。
「それは何かの間違いです! 決してそのようなことはしておりません! ましてや、この国の未来を揺るがすようなことなど――ウルド様を裏切るようなことなど、絶対にしません!」
――クロアはウラドを愛していた。
……いや、必死になって愛そうとしていた。過去を掻き消すように。
貴族同士の結婚という貴族の中では当たり前でありきたりな事だが、クロアはそれでも必死にウラドに尽くすように、今まで公務の仕事を引き受けて功績を上げてきた。
そこに不正など、あり得なかった。
だが……
「黙れ! 薄汚い魔女め! お前の声を、言い分を聞くたびに反吐が出る。私の目の前から失せるがいい!」
バチンッ!
ウラドがクロアの頬を叩く音が響く。反動で膝から崩れ落ちる。
結って整っていた長い黒髪が、乱れてくしゃくしゃになる。
「連れて行け!」
ウラドが兵士に命じて、クロアを連れて行ってしまった。
ゴミを見るような目つき。
吐き捨てるように言われた暴言。
それら全て、愛していた人から発せられたという事実。
そして――実家で蔑まれて暮らしていたクロアに、亡き祖父以外で唯一寄り添ってくれたはずの、妹。
「ざまあみろ。他人さん」
クロア見えないところで歪んだ笑みを浮かべ、クロアにしか聞こえないほどの小声で、カーラはそう言った。
彼女が抱いていた淡い希望を砕くには、十分すぎる非道だった。
そうしてすぐにクロアは来ていたドレスを脱がされ、手入れが行き届いていない魔法の杖と、刃こぼれした剣。そして防具は年季が入って錆びた鎧と、一部に穴が空いている衣服を与えられた。ついでと言わんばかりに、わずかな食料も持たされて。
そんな装備で、そのまま国境付近まで三日かけて馬車で連れて行かれて、魔王城へ続く道半ばで放り出された。
「う、うぅ……」
あてもなく、その道へ真っ直ぐ進みながら、ボロボロに泣いた。
服もボロボロのせいで、冷たい風を防ぐものすらない。
それでもアイラは進み続けた。それら全てを無視して進み続けた。その先は魔王城しかないが、他に行くところすらない。それでも歩き続けた。途中からは走っていた。武器も防具も脆いので、走っている最中で折れて使い物にならなくなったり、紐とかが切れて外れて落としてしまった。
全てから逃げたしたくて。早くあんなところから離れたくて。
一度でもいいから祖父の墓に行きたかったが、それももう叶いそうもない。
このまま、魔王に殺されるんだ。
(ごめんなさい……おじいちゃん……)
私は、もう、幸せになることが出来ません。親不孝でごめんなさい。
クロアはそうやって、天国にいるであろう祖父に謝り……魔王城へ辿り着いた――
が。
そこにあったのは、遺跡のようにある魔王城の残骸で。
その中で、『彼』に再会した。
今日、この日。
クロアの地獄のような日々が、唐突に終わりを告げた。
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