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14.複雑な感情
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目の前にいる正志君は、申し訳なさそうに私の顔を見ている。彼の暴露ともいえる初恋の話は、一つの物語を語っているみたいだった。
ただ彼が裏切りについて話してくれたことで、ずっと知りたかった真実が見えてきたわ。
「私が小野君からフラれた理由は、正志君の行動が一因していたのね」
「ああ、そのとおりだ」
「小野君が私のことを【淫乱】【ヤリマン】と酷い言葉を浴びせたのも…」
「ごめん、文香さん。まさかそこまで見下した言葉を言っていたなんて…。全て俺が悪い、君は何一つ悪くない!可憐で清らかな人だと、わかっているから!」
最後の言葉は再び私を苦しめ胸を締め付ける。確かに正志君と同窓会で再会した時はまだ清らかなままで、男性を受け入れたことのない処女だった。
でも、今は違う。目の前のいる彼氏の正志君だけではなく、無理矢理とはいえ小野君とも肌を重ねてしまった。そして、あの頃のような惹かれ合うキスもしている。これは彼の言う【清らかな人】とは程遠い。そんな汚れている私を彼が知ってしまったら、ずっと好きでいてくれる自信がない。
「やっぱり…俺を許せないか」
正志君は落ち込んでいるけど、それは私が無言で考え込んでいるから、怒っていると勘違いしているのね。
「違うの。あなたが今までしてきたことは、もう恨んでいないわ」
「でも、俺のせいで二人は別れたんだ。恨まれて当然のことはしている」
「きっかけはね。でも、その噂を信じてしまったのは、当時の彼氏だった小野君でしょ?私は一方的に別れを告げられて、理由もわからないまま今日まで過ごしてきたから」
そう。小野君がもし私のことを信じてくれれば、この状況とは大きく変わったかもしれない。だけど、彼は親友の言葉を疑うことなく信じてしまい、私から一切の反論の余地なく別れている。それは信頼も愛情も小野君には届かなかった結果だわ、私も悪いの。
「文香さんに酷い思いをさせたことは申し訳なく感じている。ずっと俺を恨んでいても良い。だけど、俺と別れないでくれ…頼む」
正志君は私の肩に顔を伏せて表情を見せないようにしているけど、切実に懇願しているのがよくわかる。初恋の相手がどれほど大切な存在なのか、正志君自身がより理解しているのね。
私はそっと正志君の背中へ両手を回すと、彼の左肩を2回優しく叩いた。
「心配しないで。あなたとお付き合いするって私は決めているから。でもね…」
まだ正志君には伝えていない。昨晩ここで何が起きたのかを。
彼は学生の頃にしたことを正直に伝えてくれた。だけど、私は未だ隠している。言ってしまったら、彼は私のことを捨てるかもしれない。そんな不安があるから、少し前から私の身体が震えだしている。
「大丈夫?」
そっと正志君も私を両腕で包んでくれた。やはり正志君は学生の頃よりすごく優しくなっている。いいえ、本当は元から優しい性格だったのね。学生だった私が気付けなかっただけ。
「うん、ありがとう。おかげで私も勇気が出たわ。お願い…このままでいいから聞いてくれる?」
「いいよ、何?」
恥ずかしいけど、見せるしかない。私はゆっくりとパジャマのボタンを上から順に外す。
「え、文香さん!?急に、どうした…」
左側だけを開けさせて、左胸元が見えるようにした。そこにはホクロの他に、赤い痕が色濃く付いている。正志君も痕に気付いたようで、彼の視線は胸元のまま言葉を詰まらせてしまった。
「これ…ま、まさか…」
私はこの連休に起きたことを全て話した。小野君から「来週も会いたい」と連絡が来ていること、また「やり直したい」と告げられていること。
そして、小野君に抱かれた時の話を始めようとしたら、涙が再び溢れ始めた。怖い、苦しい。この話をしたら「別れよう」と告げられるかもしれない。でも、隠したままで付き合うのはもっと苦しい。正志君は黙って私の顔を見つめている。彼を信じたい。
「昨晩、正志君が酔い潰れた時に…小野君に抱かれてしまったの」
「うそ…だろ…」
手首にも薄っすらとだけど跡がある。私は両腕を揃えて正志君へ見せやすくした。
「無理矢理って…本当に怖いの。私の意思なんて要らないみたい」
正志君の表情が険しくなっている。でも、最後まで言わなくてはいけない。
「それなのに優しくされたら、許してしまう自分がいて変なの!憎んでいいはずなのに、嫌いになっていいはずなのに…」
「くそっ!あのヤロー、文香さんを苦しめやがって!!一発殴らないと、気が済ま…」
「待って、止めて!」
立ち上がった正志君に対し、私は服を引っ張り注意を引きつけた。
「落ち着いて、正志君」
「これが落ち着いていられるか!俺の彼女が小野に抱かれたんだぞ!?文香さん自身は辛くないのか?」
「辛いわ」
「だろう?それなら」
「私の【中途半端な態度】に対してよ」
何に悩まされてのか、わかってきた。
中学の頃からずっと私のことが好きで、小野君と別れさせてでも付き合いたいと思っていた正志君。私は抱かれた後に彼の一途な想いに気付き、きっかけはどうあれ付き合い始めた。
だけど、それは昨晩の小野君の時と状況がよく似ている。私と正志君が付き合い始めたことがわかり、小野君も無理矢理、私を抱いた。そして、高校の時のように再び告白している。事後に小野君とのキスを許してしまったのは「初恋相手がまだ私のことを好き」という嬉しさから。
2人に「嫌われたくない」「捨てられたくない」と想う自分が居て、更に欲を言えば「2人の友情を壊したくない」と願う自分がいる。他人から見れば、私は小野君の言うとおり二股をしている【淫乱な女】でしかない。
「こんな私は…清らかじゃないわ!」
正志君が惚れていた頃の私は、もうどこにもいない。
ただ彼が裏切りについて話してくれたことで、ずっと知りたかった真実が見えてきたわ。
「私が小野君からフラれた理由は、正志君の行動が一因していたのね」
「ああ、そのとおりだ」
「小野君が私のことを【淫乱】【ヤリマン】と酷い言葉を浴びせたのも…」
「ごめん、文香さん。まさかそこまで見下した言葉を言っていたなんて…。全て俺が悪い、君は何一つ悪くない!可憐で清らかな人だと、わかっているから!」
最後の言葉は再び私を苦しめ胸を締め付ける。確かに正志君と同窓会で再会した時はまだ清らかなままで、男性を受け入れたことのない処女だった。
でも、今は違う。目の前のいる彼氏の正志君だけではなく、無理矢理とはいえ小野君とも肌を重ねてしまった。そして、あの頃のような惹かれ合うキスもしている。これは彼の言う【清らかな人】とは程遠い。そんな汚れている私を彼が知ってしまったら、ずっと好きでいてくれる自信がない。
「やっぱり…俺を許せないか」
正志君は落ち込んでいるけど、それは私が無言で考え込んでいるから、怒っていると勘違いしているのね。
「違うの。あなたが今までしてきたことは、もう恨んでいないわ」
「でも、俺のせいで二人は別れたんだ。恨まれて当然のことはしている」
「きっかけはね。でも、その噂を信じてしまったのは、当時の彼氏だった小野君でしょ?私は一方的に別れを告げられて、理由もわからないまま今日まで過ごしてきたから」
そう。小野君がもし私のことを信じてくれれば、この状況とは大きく変わったかもしれない。だけど、彼は親友の言葉を疑うことなく信じてしまい、私から一切の反論の余地なく別れている。それは信頼も愛情も小野君には届かなかった結果だわ、私も悪いの。
「文香さんに酷い思いをさせたことは申し訳なく感じている。ずっと俺を恨んでいても良い。だけど、俺と別れないでくれ…頼む」
正志君は私の肩に顔を伏せて表情を見せないようにしているけど、切実に懇願しているのがよくわかる。初恋の相手がどれほど大切な存在なのか、正志君自身がより理解しているのね。
私はそっと正志君の背中へ両手を回すと、彼の左肩を2回優しく叩いた。
「心配しないで。あなたとお付き合いするって私は決めているから。でもね…」
まだ正志君には伝えていない。昨晩ここで何が起きたのかを。
彼は学生の頃にしたことを正直に伝えてくれた。だけど、私は未だ隠している。言ってしまったら、彼は私のことを捨てるかもしれない。そんな不安があるから、少し前から私の身体が震えだしている。
「大丈夫?」
そっと正志君も私を両腕で包んでくれた。やはり正志君は学生の頃よりすごく優しくなっている。いいえ、本当は元から優しい性格だったのね。学生だった私が気付けなかっただけ。
「うん、ありがとう。おかげで私も勇気が出たわ。お願い…このままでいいから聞いてくれる?」
「いいよ、何?」
恥ずかしいけど、見せるしかない。私はゆっくりとパジャマのボタンを上から順に外す。
「え、文香さん!?急に、どうした…」
左側だけを開けさせて、左胸元が見えるようにした。そこにはホクロの他に、赤い痕が色濃く付いている。正志君も痕に気付いたようで、彼の視線は胸元のまま言葉を詰まらせてしまった。
「これ…ま、まさか…」
私はこの連休に起きたことを全て話した。小野君から「来週も会いたい」と連絡が来ていること、また「やり直したい」と告げられていること。
そして、小野君に抱かれた時の話を始めようとしたら、涙が再び溢れ始めた。怖い、苦しい。この話をしたら「別れよう」と告げられるかもしれない。でも、隠したままで付き合うのはもっと苦しい。正志君は黙って私の顔を見つめている。彼を信じたい。
「昨晩、正志君が酔い潰れた時に…小野君に抱かれてしまったの」
「うそ…だろ…」
手首にも薄っすらとだけど跡がある。私は両腕を揃えて正志君へ見せやすくした。
「無理矢理って…本当に怖いの。私の意思なんて要らないみたい」
正志君の表情が険しくなっている。でも、最後まで言わなくてはいけない。
「それなのに優しくされたら、許してしまう自分がいて変なの!憎んでいいはずなのに、嫌いになっていいはずなのに…」
「くそっ!あのヤロー、文香さんを苦しめやがって!!一発殴らないと、気が済ま…」
「待って、止めて!」
立ち上がった正志君に対し、私は服を引っ張り注意を引きつけた。
「落ち着いて、正志君」
「これが落ち着いていられるか!俺の彼女が小野に抱かれたんだぞ!?文香さん自身は辛くないのか?」
「辛いわ」
「だろう?それなら」
「私の【中途半端な態度】に対してよ」
何に悩まされてのか、わかってきた。
中学の頃からずっと私のことが好きで、小野君と別れさせてでも付き合いたいと思っていた正志君。私は抱かれた後に彼の一途な想いに気付き、きっかけはどうあれ付き合い始めた。
だけど、それは昨晩の小野君の時と状況がよく似ている。私と正志君が付き合い始めたことがわかり、小野君も無理矢理、私を抱いた。そして、高校の時のように再び告白している。事後に小野君とのキスを許してしまったのは「初恋相手がまだ私のことを好き」という嬉しさから。
2人に「嫌われたくない」「捨てられたくない」と想う自分が居て、更に欲を言えば「2人の友情を壊したくない」と願う自分がいる。他人から見れば、私は小野君の言うとおり二股をしている【淫乱な女】でしかない。
「こんな私は…清らかじゃないわ!」
正志君が惚れていた頃の私は、もうどこにもいない。
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