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2.夢の途中と、大切な恩人。
2#1 仲間
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『ルー=フェル』とは街の名だ。別名『冒険者の街』。言い換えれば冒険者であれば知っていて当たり前の街ってとこだな。
その名の意味は『幸多き遺風』。ちなみにルー=フェルからルーを取ったフェリ――接頭修辞の子音共有による末尾変化が消えてフェルからフェリに戻る――だけとなると意味はだいぶ辛気臭く変わる。すなわち、『亡者』だ。
ルー=フェルという町は、今から約五百年前までは『フェリの里』――つまり『亡者の里』と呼ばれていた。その不名誉で陰湿な名前の裏には、当時の世界情勢が絡んでいる。
今でこそ『中央大陸ゴーズ』は平和を享受しているが、つい百年前までは北の『サライオ帝国』およびその属国と、南の『スラディア皇玉国』との間で激しい領土争いが繰り広げられていた。
フェリの里はその戦火に炙り出された難民や殺し合いに飽いた逃亡兵たちが、隠れて生きるために身を寄せあった結果生まれた隠れ里なのだ。
それが冒険者を魅了する一大自治区となった背景には、ある地理的条件がかなり影響している。
元々ルー=フェルの周りは険阻な山脈とわずかな平地、台地を深く隠した樹海が織りなす峻厳な天然の迷路だった。そんな未開の地であれば、当然エーテル濃度も高くなりがちだったろう。そうなれば自然と魔物の発生数も多くなり、迷いやすい上に直接的な危険まで闊歩しているというデンジャラスゾーンが形成されていたはずだ。
それでも彼らは戦争のむごさよりもこの危険地帯の方に希望を見出した。死ぬかもしれない土地に逃げ込むしか生き残る途がないって、どんだけひどかったんだろうな戦乱の時代って。
しかもその逃亡が彼らの知りえなかった事情からなんとも皮肉な選択となるのだが……。
長い時間と大勢の犠牲を払ってエーテルの薄い場所を見つけ出し、根深い森を開墾し、細々と生活していけるだけの土地を切り開いた彼らの努力――なんて生易しいものじゃないだろうが――はなんとか実を結び、それはそれは質素な里を形成した。それが『ルー=フェル』の前身、『亡者の里フェリ』だった。
彼らの選択の皮肉とは、戦禍を逃れてきたはずの彼らの足元に新しい火種が埋まっていたという点だ。しかもそれは人類史上これ以上ないド級の火種だった。もう何かの悪意が働いてるとしか思えない皮肉だ。
難民達が開墾した未開の地には、一国家も垂涎の超古代アイテム『ガジェット』が路傍の小石のごとく眠っていたのだ。
『ゴーズ大陸』の戦火の理由は領土争いだ。領土争いなんてどんな人類にもある欲望の顕れ方だが、この世界でもそれは通用した。つまり、俺の元故郷で言うなら石油、鉱物、沃土などなどの土地資源の奪い合いだ。
だけどこの世界『アステラ』は少し事情が異なる。それはその土地資源の期待が『ガジェット』に大きく偏っていたということだ。その『ガジェット』が出土する遺跡を確保するために土地を侵略し、その遺跡から『ガジェット』を掘り起こしてそれで国力を増強してまた他所の土地を攻める――という具合の悪循環がこの時代の特徴だ。
話は変わるが『ガジェット』はすごい。とにかくすごい。いろんな意味ですごい。
どれもこれも仕組みを理解できない以前に解体すら叶わず、かろうじて動力源がエーテルなのだろうということ以外どうやって動いているのかサッパリわからない。
でも大抵の『ガジェット』は筐体のどこかに必ず取扱説明書――これがまた空中投影表示のハイテク機構――が内蔵された親切設計なので、古代の文字は読めないにしても図解でなんとか利用することが出来ている……んだが実は俺、その誰も読めないはずの古代文字が読めたりする。だってその古代語、普通に日本語なんだもん。
どう見ても日本語にしか見えない言語が何故にこの世界で使われていたのかは謎――というかご都合主義にすら感じるが、読めてしまうものはしょうがないので結構いろんなところで活用させてもらってる。昔は取説って読まない主義だったけど、いろいろ気付きにくい機能とかもちゃんと説明されていて、取説大事だなって最近思い始めてんだよね。
しかし俺が古代語を読める事は他人どころか仲間にも――幼馴染のリリカにすら秘密にしている。話したら絶対面倒なことになるのは目に見えてるからだ。なのでこの事は俺の中で当面話す予定もつもりもない秘事中の秘事となっている。
あー、話が逸れた。『ガジェット』のすごいところってのはそのオーバーテクノロジーかつブラックボックスっぷり……じゃあなくて、単純に利用価値が高いってとこだ。と言ってもその効果はピンキリなんだけど。
例えばインク切れのないペン、絶対コゲつかないフライパン、誰もが納得の程よいトンガリを実現する鉛筆削り――そういった小市民的なものから、弾切れのない拳銃や切れ味の落ちないナイフ、はては戦略兵器になりうる超高火力兵器まで、およそ人間が便利と感じるものは大抵揃っている豊富さだ。
そう、『ガジェット』には兵器としか思えないものが確かに存在する。だけど危険を上回る便利さによって、現代の生活を支える重要な要素にまでなっちまってるのが現状だ。どんな世界を探しても、『ガジェット』ほど貴重で珍しくもないものなんてそうそうないだろう。
でもまあ、道具に危ない使い方があるのは当然っちゃ当然のことで、ここで問題になるのはその危険を理解している人間が意外と少ないって点だろうな。便利な部分ばかり見て、危険を顧みない一般人ってのはどこにでもいるもんだ。
ここで気になってくるのは門晶術だろう。門晶術もこの世界の生活基盤を支える技術だし、危険も少なくないからな。
たしかに火力だけで言えば門晶術だってガジェットに引けは取らない。でもそんな高火力を才能にかかわらず誰でも扱えるってところにガジェットの危険の根本がある。苦しい修行もなしに指先一つで門晶術と同等かそれ以上の結果を出せるなら、誰だって『ガジェット』を欲しがるし利用したがるわな。
それは国家においても同じことだった。そして『ガジェット』が山のように眠っているフェリの里の存在を知れば、放っておくわけがない。実際、その存在を知った両大国は、我先にと触手を伸ばしてきたのだ。
ガジェットが眠る遺跡は大陸中至る所に点在している。俺が昔住んでいた屋敷の近所にも一つあった。あまり愉快な思い出はないけど。
その遺跡がなぜかこの山深い渓谷の樹林に集中していた。それを見つけたのは戦禍から逃れてきた難民たち。
当時の記録はほとんど残っていないのだが、俺の考えでは彼らはきっと発見当初はこの遺跡群の存在を可能な限り秘密にしてと思う。だって、ここに『ガジェット』が大量にあると外部に漏れれば、戦禍の火種が万難を排してこの隠れ里に牙を剥くのが目に見えていたから。きっといろいろな掟を作って、この秘密を死守しようとしていたはずだ。
それじゃあ何故、フェリの里の遺跡群は他国が知るところとなったのか? 理由は単純。人間はどんな状況でも欲望に耐え切れるもんじゃないんだ。
現代じゃ『ルー=フェル』といえども遺跡迷宮の奥深くまで探索しなければ『ガジェット』の影も形もつかめないが、まともな調査・発掘も行われていなかった当時はきっと地面の上に『ガジェット』が転がっていた、くらいにありふれていたと思う。うらやましい限りだ。
そういった『ガジェット』をその真の価値を知っている奴で拾えばどうなるか。自由を求めて危険を冒したはずなのに、実際は掟にがんじがらめで毎日追手におびえて細々と暮らさなきゃいけない。こんなシケた里とはオサラバしたい。そう考えるのが自然な流れじゃなかろうか。
彼らは力――腕力あるいは権力、もしくは金力がない故に逃げおおせなければいけなかった人達だった。そのどれか一つでも手に入れれば、戦禍に苛まれる人間から戦禍を操る人間へ成り上がれるんだから、その欲望に抗える人間はどうしても限られる。
そして『ガジェット』は権力以外の力を瞬時に与えてくれる道具だった。それがその辺に落ちているんだから、手に入れた力の気安さに心も軽くなろうってもんだ。
せめてその入手が多くの代償の上に成り立っているならその意味がもう少し重くなり、想像力を働かせて結果を考えたのかもしれないが……俺がどう思いを馳せたところで歴史に『もしも』はない。
やがてフェリの里の秘密は公然のものとなり、南北の大国の貪欲に濁った眼差しが宝の山を捉えてしまう。
それは事態のより深刻な状況への推移を招く事になる。
『フェリの里』を巡って、『スラディア皇玉国』と『サライオ帝国』の領土争いは総力を挙げての全面戦争へと発展した。百年にもわたる血みどろの諍(いさか)いはたくさんの悲劇と救いようのない喜劇を産み落としたが、ここでは省略しておこう。実のところ俺は興味なくってほとんど知らないから。
結果だけ言えば、『スラディア皇玉国』の辛勝だった。
『サライオ帝国』は長い戦乱の中で国家としての基礎が揺らぎ、瓦解。その瓦解のきっかけになったのは、『サライオ帝国』が属国として半自治を約束していた周辺諸国の離反だ。国力が低下した『サライオ帝国』に、属国を従えるほどの威力がなくなってしまったのだ。
しかし国力の低下は『スラディア皇玉国』とて似たり寄ったりだった。戦争を続けることができなくなった二国は、終戦のために『スラディア・サライオ講和基本条約』を締結、その条約中にフェリの里周辺を共同管理の特別自治区とする旨を明記して、手の打ちどころとした。この条約締結の日から『フェリの里』は『ルー=フェル』と名前を変える。
それにしても疑問は残る。ついこの間までお互い蛇蝎(だかつ)のごとく忌み嫌って殺し合いに興じていた二国が、どうしてこうもすんなり講和を結べたか?
実はその回答に『冒険者の街』の所以(ゆえん)があるのだ。その所以とは、条約締結に一役買ったのが『東方大陸メウズ』に発足した労働組合『冒険者協会』だったからだ。
今でこそ『中央大陸ゴーズ』、『東方大陸メウズ』の二大陸中で知らぬ者はいない――どころか一部の人間はその名を聞いただけで震え上がる『冒険者協会』だが、その歴史は意外と浅い。ついこの間、『冒険者協会』百二十周年の記念式典があったから、終戦直後じゃまだ二十歳にも満たない若輩組織だったはずだ。
その若輩組織がどうやって二大国家の仲裁役なんて大事業を担うことができたのか?
まあ、組織なんて若い頃の方が勢いはあるし、それを抑え込める対抗者がいなければ自然とその勢力は増す。当時の疲弊したゴーズ大陸には新進気鋭のベンチャーグループを牽制するだけの余裕なんてなく、強(したた)かで賢(さか)しい冒険者達で構成された『冒険者協会』の辣腕(らつわん)もその勢いを助けた。
スラディア皇玉国と『サライオ共王国』――帝国が解体して共生王朝という政体に属国と融和した新政府――二国間の譲歩と『冒険者協会』の思惑が重なり、『指定法規特区ルー=フェル』は戦乱の終幕を飾る時代の寵児としてゴーズ大陸の中央に誕生する。
時代が母だとすれば、その父は二大国ではなく冒険者協会ということになるか。冒険者協会の意向でふんだんに彩られたこの街は、司法と政治をそれぞれ二大国が管轄し、一番うまみのあるガジェットの採掘・管理は第三者機関である『冒険者協会』が一手に担った。
その特権に対する冒険者協会の言い分は巧妙だ。曰く『争奪の的となったガジェットに関して、二国で管理すれば感情的衝突が起こるであろうし、どちらか片方の国に管理を任せれば任されなかった方の猜疑を生む。しかるに第三者、しかも公的機関である冒険者協会が公明正大な対処をもってこれにあたることとする。』だそうだ。
つまり、冒険者協会は玩具を取り合う子供の首根っこをわっしと押さえて喧嘩の仲裁をする格好で、ガジェットの独占管理権といっても過言ではない権益を確立した。これが決定的となり、一労働組合でしかなかった『冒険者協会』はいまや国家にも表立った発言権を持つまでに成長している。
その栄光の陰にどんな陰謀があったか探ろうにも、百二十年後の今じゃ歴史の堆積物に邪魔されて困難を極める。そもそも俺は興味ないしな。
そもそも冒険者である俺としては、今の冒険者協会の隆盛は大歓迎だ。過去にどんな悪辣な方法で基礎を築いたとしても、今の『冒険者協会』が俺たち冒険者にとって暴君でないのなら俺はぶっちゃけどうでもいい。
だってさ、冒険者なんて呼び方で格好つけてるけど、根本的には大金求めて世界中をうろついてる根無し草だ。ならず者って呼び方が嫌なら山師でもいいだろう。
確かに魔物退治の依頼や旅路の護衛を主にして社会へ大きく貢献してる冒険者もいるけど、それはやっぱり少数派だ。少数派な上、政府公式の自衛組織ってわけじゃないから、国家権力とはいろんなところで衝突していたりもする。その辺の小競り合いを収めているのも協会のありがたいところなんだが。
結局、冒険者の醍醐味はやっぱりその名が示す通り、未知に飛び込み真実を得てそれを名誉と富に変えるって点にあると思うんだよ、うん。あくまで俺の持論だけど。
で、何の話してたっけ? えーと……あれだ、『ルー=フェル』の話だ。
要するに、冒険者協会が一番偉くて、冒険者垂涎の『ガジェット』が眠る『遺跡迷宮』がゴロゴロしてて、完全中立地帯であるこの『ルー=フェル』という街は冒険者にとってとても住みよい街なのだ。それが、『ルー=フェル』が『冒険者の街』である所以である、と。
しかし組合が実質支配している街ともなるとやはり資本主義に傾きがちなのか、明確な貧富の差が生じている。いや、組合云々じゃなくてこの場合は冒険者って部分が原因なんだろうな。
一獲千金の夢を抱いて『ルー=フェル』に上京――冒険者仲間の間じゃ、『ルー=フェル』を拠点にすることをこう呼ぶ――したはいいが、実力か運か、あるいはそのどちらも不足していた場合、ソイツは冒険の途中で命を失うか街で希望を失うかの二択を迫られる。
そこで後者を選んだ奴は、この街の一般市民として平々凡々な人生を送るわけだ。そんな平凡人生を生き抜く才能があればいいけど、それすらなかった人間は『下町』と呼ばれる、まあいわゆる貧民窟でうだつの上がらない人生を送ることになる。
この街の具体的な運営はそうした冒険者崩れの一般市民で出来上がっていた。それも『ルー=フェル』が冒険者を受け入れやすい、というか理解しやすい土壌の形成に一役買っているわけだ。
そんな冒険者脱落組の多くが、この下町に暮らしていた。
もちろん貧乏な現役冒険者もここに拠点を置いているわけで、この町は期待と不安と共感と嫉妬が絡み合った複雑な感情に空気が濁っているようだった。実際にルー=フェルの中じゃ治安も悪い方で、統治側――皇玉国の『総督府』と共王国の『監察府』にとっては目の上のタンコブ、とまではいかないものの顎に出来たニキビくらいには厄介に思われているだろう。
そんなあんまり良いイメージのない、というか得体のしれない深みも持ち合わせた下町だが、俺は嫌いじゃない。正確には嫌いになれない。ここには俺に親切にしてくれる人達がいたし、何より俺はこの町に救われたのだ。
その救いもただの偶然でラッキーだっただけかもしれないけどさ、ここが悪いだけの場所じゃないって、信じたいんだよな。
その下町の薄暗く湿った路地を、十六歳になった俺ことシューレリア・オル・ティストは買い物袋を片手に歩いていた。
隣に肩を並べるのは――いや、俺の肩と並んでるのはヒョコヒョコ動くトンガリ帽子なんだけど……まあとにかく、隣を歩く溌溂(はつらつ)とした女の子は、門晶術士のルル・ロロララだ。
あれから五年。ここに至るまでも色々な事があった。楽しい事も悲しい事も、辛い事も腹立たしい事も、愉快な事も不本意な事も。本当に五年という時間に収まりきらない思い出と経験を通過して、今、俺はここにいる。
冒険者のメッカ『ルー=フェル』に。
この街に来たのも十歳の時にルゥ婆から託された願い――遺言を守るためだった。
必死に修行して、ようやく一端の冒険者として力と経験を身に着け、世界を見て回るための本格的な第一歩としてここで軍資金を稼ぐ。そしてそれを元手に東方大陸へ向かう船に乗って、まだ見ぬ異郷の地をこの足で歩き、肌で風を感じたい。
そう考えて、いたのだが……ぶっちゃけ、現状はそんな青写真のように清々しくはなかった。
今も、その心意気だけを胸に歩いている。
「それでですね、ぉねぃさま――ぉねぃさま、聞ぃてます?」
鼻にかかった声が、独特なイントネーションで俺を呼ぶ。決して頭が悪いわけではないのだが、この娘は妙に甘ったるい猫撫で声で俺に接するのだ。他の人に対してはもっと落ち着いた声音で話しかけたりしているから、やたらと懐かれてるのが原因だと思うんだが、たまに無性にこそばゆくなる時があって困る。
帽子の日除けの下から楽しそうにこちらを見上げる白い顔は小造りで、その積極的な性格と打って変わって控えめな鼻と口が忙しなく動いて多彩な感情の展覧会を催している。
俺はその様子を愉快に思いながら、そこだけはクリクリと大きな濃い紫の瞳を見返し、小首を傾げることで話の先を促した。
ルルは小柄な女の子だ。年の頃は十代半ばだが、十代未満と言っても通るかもしれない。
そんな彼女は自分の背丈と同じくらいの大きな黒い帽子を、月の明るい夜空のような紫色の髪の上にズッシリと乗せている。帽子からはみ出した長髪はゆったりとした三つ編みにして背中に垂らされていた。
まだまだ女性らしさを感じさせない細いだけの身体を包むのも黒いローブで、シルエットラインにフィットしたそれは布ではなく何かの革で出来ていた。その点からもローブというよりワンピースドレスと呼んだ方が適切かな。
ルルはその細腕に二つの仕事をさせている。
右手には俺と同じくついさっき買いこんできた日用品や食料が詰まっている紙袋を。左手には妙に印象に残る木製の杖を持たせていた。
持ち主の身長と同じくらいの長い杖はよじれた蔓のごとくで、斜陽をじっくりと煮詰めたような橙色の宝珠が鎮座している。うすい靄(もや)や星のような煌きが封じられたそれは琥珀のように見えるが、本当はなんていう宝石なのか聞いてないからわからない。
その宝珠から落ち着いた光を湛(たた)える杖は優美な老婆のような佇まいで、ルルの溢れる活力に別の精彩を加えていた。
「――ぉかしぃですょね、ぉねぃさまもそぅ思ぃませんか?」
「そうね」と返して微笑む。俺の同意がもらえてか、ルルも満足そうに微笑み返してくれた。俺に対してはやたらとお喋りな彼女の口は、そのまま仲間の一人に話題を移していく。
ルルを見ていると思い出さずにはいられない人がいるけど、幸いなことに彼女とルルじゃあまりにも歳が離れている。それが防波堤となって俺の感情の荒波をかろうじて防ぎとめてくれていた。
喜怒哀楽がわかりやすくて快活な調子のルルだが、彼女が俺のパーティに加わった経緯は少し複雑なものだ。
初めて顔を合わせたとき、俺とルルは敵対していたのだから。
三か月前、俺はルー=フェルに上京するにあたり、ついでに隊商の護衛クエストを受けてその途上にいた。
ルー=フェルは山間にあるため農地に乏しく、酪農も限定的だ。農作物だけじゃなく日用品もほとんどを他所の地域に頼っている。その隊商はルー=フェルに送る物資を平野部の街で集積し、一挙に運搬する役目を担った公用車だった。
その公用車を狙い、義賊気分の山賊が襲撃してきた。
物資運搬を受け持つ商社はこの業務に慣れた公社で、冒険者協会の出資で運営されている。その護衛も普段は専任の冒険者だけが担う仕事なのだが、ここ最近出没するようになった野盗対策で追加の募集があったのだ。
この募集はあくまで野盗に対する示威目的――保険のはずだった。俺自身もこの野盗の噂は聞いていて、個人経営の商人ばかり狙うケチな野盗だと聞いていた。だからまさか警備の厳重な公社隊商を狙うとは考えなかったんだよ。
そんな思惑から、キャラバンにくっついて砂漠を横断する旅人よろしく、これ幸いと護衛任務を受注したのだ。これなら野宿の時に不寝番する時間が短くて済むし、何より屋根のある馬車内で寝られるのは野宿と天地の差なんだもん。
滅多に遭遇しない野盗、野宿の負担が分散されて楽チン。道中楽ができると踏んでこの仕事を貰ってきたのだが……ほんとに出るとは思わなかった。
ルルはその野盗の用心棒として、俺たちの前に立ちはだかったのだ。
こんなちっちゃな娘が用心棒? なんて疑惑を挟む余裕はなかった。嵩(かさ)にかかった野盗達が一挙に押し寄せてきたからだ。そして野盗達を嵩にかけられるだけの実力を、このちっちゃな門晶術士は持ち合わせていた。
三論数の門晶術を顔色一つ変えずに無詠唱で連発し、戦略に基づいた戦術思考も堂に入ったものだった。
彼女を中核に押し寄せる野盗の数はこちらの純戦闘員を凌駕しており、個々の戦力を鑑みても彼我戦力は五分五分といったところ……だと思ったんだけど、戦闘は意外にあっさりと終了した。もちろん、俺たちの勝利で。
戦力的に五分五分だと見積もった俺の見立ては間違ってなかった。間違いは野盗側にあった。
それはルルの力の使い方――無理解だ。ルルの晶種は――門晶術の属性は――寄りにも寄って、雷属性だったのだ。
そして場所はルー=フェルに向かう途中の山道。馬車がすれ違える程度に整備されているとはいえ、片方は吹く風もうそ寒い懸崖(けんがい)、もう片方は登るのも躊躇われる絶壁、逃げ場なんてないのだ。
山賊流の戦略ならそれでいい。急転身できない馬車をこうした一本道で襲撃するのは理にかなっている。だけど、わざわざ護衛がついている馬車を狙ったのはルルの門晶術恃(だの)みだったんだろうが……この地形はその門晶術――雷属性が最も苦手とする状況を演出してしまった。
要するに、逃げ場がない道の上に仲間がうろちょろしていて、ルルは門晶術での援護がまともに出来なかったのだ。
ルルの援護が適切に働いていたら、俺たちの戦力じゃ被害を最小限に抑えるために運搬物を囮に逃――戦略的撤退を敢行していただろう。しかし援護がなければ彼ら程度の使い手は今の俺達の敵じゃなかった。
ルルが役にたたないとわかるや否や、山賊どもは蜘蛛の子を散らすように逃げ散った。
その時だ、頭目格の男が腹いせか知らないが、ルルにナイフをちらつかせて迫っていった。責任転嫁も甚だしい蛮行だ。突然、味方だと思っていた仲間にナイフを突きつけられた少女だったが、しかし場数を踏んでいるのか冷静にその攻撃に対処するルル。そして俺は敵方の仲間割れをどうしたものかと迷いながら観戦していた。
ルルは意外と器用な身のこなしでそれを避けていたが、ここでも足場の悪さがいたずらをした。ルルが足を滑らせて崖際から転落したのだ。
あたら若い命が……と悔恨に浸りかけた俺だったが、なんだか様子がおかしい。頭目格の男が崖下に耳障りな哄笑を落としている。よく見れば、崖の縁(ふち)に小さな指が掛かっているのが見て取れる。
今度は迷わなかった。ついさっきの悔恨を帳消しにするべく、俺は男の背中めがけて駆け出し、ナイフが振り下ろされるより早くその背中に華麗な飛び蹴りをお見舞いしてやった。
これだけのことをしでかしたんだ、このまま連行されれば間違いなく獄門台行きだろう。男がここで落下死したとしても、裁判と執行の手間を省いただけの話だ。
どうして彼女を助けたのか、俺自身も理由を確信してるわけじゃなかった。
でもこうして回想していると……やっぱり、似てたからなんじゃないかと思う。
ルルと彼女――ルゥ婆は似てる。
いやまあ確かに身長と同じくらいの黒い鍔広トンガリ帽子とか、同じくらい長い杖とかの見た目の酷似もあるんだけど――雷門晶術士は特にバックファイアが激しい晶種なのでみんな似たり寄ったりな姿になるらしい――それ以上になんというか雰囲気が似てる気がするんだよな。
「――それで腹が立ったからガーラさんのぉ酒にヒマシ油を入れてゃったんですょー。そしたらガーラさん、顔を赤くしたり青くしたりしながらそれでも口にしたぉ酒を吐き出さずに飲み下したんですょねー。小気味ょかったと同時にその執念に呆れ果てましたょ、ホント」
やっぱそれほどでもないかも……。
イシシ、と悪戯っぽく笑ってから肩をすくめて嘆息するという忙しさで表情を変える彼女を見ていたら錯覚のような気がしてきた。ルゥ婆はもっと万事おっとりしたザ・おばあちゃんだったもんな。
まあ、そんなこんなで元々金銭契約以上の義理もなかったルルは、俺たちと一緒に行動するようになったワケだ。俺の仲間には専門の門晶術士がいなかったから、彼女の参入は願ったり叶ったりの渡りに船なんだが……まあちょっと、個人的に手放しで喜べない点も……。
「――それでですね、ぉねぃさまはどぅぉ考ぇですか?」
ほとんどくっつくように――というかこの鍔広帽がなければ間違いなく俺の腕にまとわりつかん勢いで迫りくるルルに、俺は愛想笑いを浮かべて答えた。
なんかね、助けた恩義以上の好意が重たいんですよ……。
一緒にいる時は四六時中俺にベタベタしてるし、それだけならいいんだけど周囲の他人を妙に警戒して威嚇するもんだから他者との意思疎通もままならず……俺を取られまいと警戒するのはなかなかいじらしいと思うけど、モノには限度ってもんが、ねえ?
そんな風にお喋りを楽しむ帰り道も、気が付けばゴールに到着していた。
馬車が一台辛うじて通れるかどうかといった古ぼけた道の周囲は、狭い土地を奪い合うようにくすんだ色合いの建物が押し合い圧(へ)し合いして下町の空を狭く切り抜いている。
そいつらと比べたら幾分か立派な佇まいではあるが、おっつかっつな建物が俺の目の前にも一軒。古びて塗装の剥がれ落ちた漆喰、窓の木枠は雨のシミだらけで鼻を近づけなくてもカビ臭い香りを放つ。そんな鬱陶しい三階建てが、今の俺たちの住居だった。
ルー=フェルに到着して一週間だけはもう少し清潔な冒険者協会の宿舎に寝起きしてたんだけど、やむを得ない事情からそこを引き払ってこのアパートに二部屋を借りて、パーティの仲間とシェアしている。
「ただいまー」
胸高のスウィングドアを押しのけると、ドアが不平を垂れるように蝶番(ちょうつがい)をきしませる。もしかしたら「おかえり」と帰宅の挨拶をしてくれてるのかもしれないけど、辛気臭いうなり声は文句にしか聞こえない。
「おかえりなさぁい~」
そんな不景気な音を吹き飛ばすように、フワフワした女の子の声が俺を出迎えてくれた。
このアパート、一階部分は大家さんの居住空間と酒場があって、表のスウィングドアは酒場の出入り口でもあるのだ。
どうして酒場なのに表に看板の一つもかかってなかったのか? っていう疑問も当然だと思うが、なんでも数年前の嵐で吹っ飛んでから別に不自由もしていないからそのままなのだという。この店に来るのは店の常連かその常連の知り合いばかりなんだそうで。顔馴染みの客ばかりで成り立つのも、マスターの人徳のなせる業なのかね。一応名前は『狗尾亭(えのころてい)』っていうらしい。
下町の威勢のいい男共の汗と喧騒が染み込んだ店内も、日の高い内は準備中で森閑としている。でも誰もいないわけじゃない。見知った顔の女性が三人、店内にはいた。
俺たちが寝起きする1Kの部屋を四つ並べたくらいの店内には乱暴に扱われて傷だらけの机が四台並び、同じくボロボロの椅子は片側の壁に積まれて片付けてあった。その一脚を出してきてテーブルの一角に陣取っている背の高い女が一人。
店の奥にはカウンターがあり、さらに奥の壁にしつらえられた棚には天井一杯までマスターこだわり古今東西の酒が立ち並んでいる。そのカウンターに寄りかかった黒い長髪の女性が一人。
最後はカウンター奥の通用口から顔だけ出した女の子が一人。この娘が最初に俺を声で出迎えてくれた娘だ。しかし彼女はすぐに顔を引っ込めて、元の作業に戻っていってしまった。
「おや、今日は早かったね」
カウンターに寄り掛かっていた女性、この店のマスターでありアパートの大家さんであるクリエラ・モースさんが切れ長の目を更に細めて入り口の俺達を見た。少し目じりの下がった彼女がそうすると微笑んだように見えるが、多分外の光が眩しかっただけだろう。別段笑っていなかった口元が少しほころんだのは、俺とルルの姿を視界に収めてからだった。
彼女みたいなのを“臈長(ろうた)けた美貌”って呼ぶんだろうな。引き締まったナイスバディを露出高めのナイトドレスに包み、大人の余裕を感じさせる微笑を涼やかな口元にたたえた妙齢の――って言ってあげたいんだけど……こないだアパートの住人から実年齢を聞かされてから、ちょっと見る目が変わってしまって……この人本当に人類なんだろうか? いやでも面倒見が良くって、元冒険者だからその知識も度胸も頼りがいがあって、みんなに敬われる姉御肌っていうのは間違いがなくて――。
「シュー……あんたいま、アタシの歳のこと考えていただろう」
涼しい笑顔はそのままに、その女性としてうらやましくなる身体からえも言われぬ圧迫感が放射される。心がひしゃげてそこから絞りだされた脂汗が、額から頬を伝う。
「いや、そんなことは……」
口では否定したけど、俺の凍り付いた愛想笑いを見ればクリエラさんでなくても真実は見分けられるだろうな……。
「ふぅん……? ま、そういうことにしておこうか」
口元に冷笑めいたものをよぎらせて、クリエラさんは俺への追及をやめた、というか保留にしてくれた。剣呑な気配もまるで嘘のように一瞬で消え去る。
この人、すごく頼もしい人なんだけど勘が良すぎるのが玉に瑕なんだよね……。
「シューちゃんお帰りなさい~、怪我とかしなかった~?」
その時、あったかい雲のようなフワフワした声が俺の身体ごと心を包み込んで、ささくれた心を癒してくれた。
カウンター奥の厨房へ続く通用口からお手てを拭き拭き姿を現したのは、高潔そうな白いローブの上に着古したエプロンを付けた女の子。この狗尾亭のお手伝いをしている俺の幼馴染、リリカだ。
薄赤色の髪を揺らしながら駆け寄ってくると、細い腕と指を伸ばして俺の手から荷物を受け取った。
緩い癖のついた赤髪は腰に届きそうなくらい長く伸びている。歳を経た赤褐色の髪はまるで伸ばしたから薄くなったように薄赤色に落着き、柔らかそうな肢体と共にリリカのフンワリとした雰囲気を強調している。
丸顔は相変わらずで、顔のパーツに冴えはないが均衡は取れているだろう。その顔に昔なかったものとしては、大きな目にかかる丸眼鏡がある。
丸眼鏡の効果で余計にのほほんとして見える笑みを見返しつつ、俺は苦笑した。
「あの程度のクエストじゃ怪我なんてしようがないわよ」
ちなみに今日の仕事は『畑に出没する魔獣が目当てにしているアブラムシの除虫』だった。もちろんアブラムシはあのちっちゃいアブラムシだ。似たような名前の魔獣とかじゃない。
このクエストの依頼主は抜け目ない人で、魔獣退治となると報奨金にそれなりの出費がかかるからそもそも魔獣が目的にしている害虫駆除の方をクエスト目的にして難度を下げて必要経費を削減にかかったのだ。
確かに危険はないが、髪の毛の先ほどしかない小虫を畑に屈み込んで一匹ずつつまみ上げ、最後にまとめて焼く作業はかなりの心労があった。これなら魔獣を退治してた方が楽だったなと、痛む腰をさすりつつ呻いたものだ。
「でも転んだりしたら膝をすりむいちゃうでしょ~?」
「あたしゃ子供か」
苦笑の度合いを強くして、リリカのほっぺを少し強くつつく。程よく押し返してくる弾力とリリカのぬくもりが心地よい。
両手を紙袋にふさがれて俺の手を払いのけることもできず、されるがままにほっぺを凌辱されるリリカ。面白いから、とりあえず身体ごと逃げればいいことに気付くまでは続けることにしよう。
え? リリカは修道院で修行してたんじゃないかって?
確かにリリカとは実家を出る時に離れ離れになったけど、そのなんというか……口にするとちょっと照れくさいんだが、俺のこと追いかけてきちゃったんだよね、リリカ。
マリベル聖教神会のお勤め――修行には段階があって、入会当初は修道院でマリベル様の御心を学びながら功徳をコツコツと積む。
その次が修道院周辺の村や町に出向いて簡単な怪我の治療や応急処置、日常作業のお手伝いをして功徳を積む。
そんでリリカが今この段階なんだけど、世界中の聖教神会修道院を巡りながら旅をして功徳を積むってな具合だ。
旅をするなら冒険者協会に登録しておくと格段に負担が減るってことで、この段階の神会教徒は冒険者の資格を持っていることが多い。リリカもそうだ。聖教神会の教徒に限った話ではなく、冒険者のパーティにヒーラーとして参加してるのはだいたいがそういう修行中の信徒なのだ。
リリカはたった四年でその段階まで到達した。これは結構すごいことらしい。そうして、聖教神会の教えを破ることなく俺のパーティに合流してくれたのが一年前。
「リリカさんばっかずるいです! ルルも、ルルもー!」
「えぇ? して欲しいの?」
「して欲しいです」
「そ、それじゃあ……」
なんか変な成り行きになってきたな……。
この時には生暖かい笑みを顔に張り付けていたクリエラさんは厨房に引っ込んでおり、酒場には俺の仲間だけが勢ぞろいする形で残された。
俺とルルとリリカと、そしてこの酒場に入った時から居た三人の内の一人、女性としては大柄な身体を窮屈そうにテーブル席に押し込んでいるのがガーランド・ラントことガーラだ。
そう、彼女はさっきルルの話の中で酒にヒマシ油を入れられたあのガーラだ。
まあ、ルルもちょっとやりすぎじゃないかと思うけど、原因はガーラの怠慢にあるのだからどっちもどっちか。何よりガーラがそのことを気にした風もない。
今だって、俺達を肴にマイペースでゴブレットを傾けている。精悍な顔立ちに飄々とした笑みを浮かべて。もちろんゴブレットの中身は酒だろう。
「ガーラ、今日は早かったのね」
今日“は”と強調する。
ガーラがやや首を動かすと、ポニーテールに纏めた長い濃緑の髪が蛇のように動く。
「あー……まあ昨日はやむを得ず外泊したんだ」
ガーラは昨日アパートに帰ってこなかった。多分、外で酒を飲みすぎてどっかで眠りこけていたんだろう。
「まったく、ほどほどにしてよね……」
「すまんすまん」
と悪びれた様子もなく言って、言ったそばから酒を喉に流し込む。
「ぉねぃさまは甘ぃです! ぁまぁまです! カスドースょり甘ぃです!」
その時、それまで険しい顔で俺とガーラの問答を眺めていたルルが爆発したように叫んだ。
カスドースってのは甘いスポンジケーキを煮たてた糖蜜と卵黄に浸してさらに甘くしたお菓子の名だ。あれより甘いとかどんだけだよ……ってうなりたくなるほど甘い。
あ、ちなみにリリカはこの雰囲気にオロオロしてるばかりね。臆病な性分は相変わらずだ。
俺が諦めた怒りを引き継いだようにプリプリしているルルにも言い分はある。誰だって、自分が働いてるのに他の仲間が遊んでいれば腹も立つだろう。
じゃあなんで誘い合わせてみんなで仕事――クエストを貰いに行かないのかって聞かれれば、それは相対的に効率が悪いからだ。
確かに俺、リリカ、ガーラ、ルルの仲間四人で挑まなきゃいけないほどの高難度クエストであれば稼ぎも一気に効率が上がる。だがそういうクエストは得てして時間もお金も掛かるのだ。大掛かりなものだと一回のクエストに半月掛かることもザラにあり、その間の燃料や食料、水、運搬に動物を使うならその貸出料etc……とてもじゃないけど今の俺たちの手持ちじゃ賄(まかな)えない。
そうなのだ、恥ずかしながら今の俺達はとっても貧乏なのだ。
だから小口の依頼――畑を荒らす魔獣退治とか街の中の失せ物探しとか野菜の収穫のお手伝いとか……そういった一人でもなんとかなるクエストを各々で解決して――リリカは狗尾亭のアルバイトで――日銭を稼ぐ日々だった。
俺たち四人はパーティメンツであり運命共同体だ。その運命共同体は今、貧乏だ。貧乏だから稼がなきゃいけない。
だのに、ガーラは朝帰りの上で朝酒だ。酒だってタダじゃない。ルルが怒り心頭に目くじらを立てるのも当然っちゃ当然なのだ。
じゃあどうして俺がすぐに矛先を収めたかというと、ガーラとの付き合いが長いから。知っているのだ、彼女が本気を出せば俺やルルが受けてくる仕事より難度の高いものをいともたやすく片付けられることを。
だってガーラは俺の師匠だから。
話せば長くなるから要点だけ話すけど、ユールグと一緒に屋敷を出た俺はそれから二年はユールグと共に冒険者としてあちこちを放浪していた。
しかしある日、ユールグは俺に一言も断りなく姿を消した。そして何の説明もなしに「後釜で今日からお前の面倒を見る」と現れたのがガーランド・ラントだった。
まだ十三歳だった俺は俺を見捨てたユールグにも傍若無人で厚かましいガーラにも反感を抱いて荒れたが、そんなものは歯牙にもかけないガーラにいつしか懐の深さすら感じるように――っていうかもうある種の諦観だったんだろうな……。
とりあえず冒険者として、戦士としての彼女は群を抜いて優秀だったし、尊敬できなくもない点は少なからずあったから、俺がガーラに慣れるのもそれほど難しいことじゃなかった。
それにさ、彼女がいなかったら俺はきっと道を間違えてた。ユールグに捨てられたと彼を恨んで、性根を捻じ曲げていっただろう。下手しなくてもアマルのシューの二の舞だったろうな。
だから俺はガーラに感謝しているし、やればできるって信じられるだけの土壌もある。けどルルにはそれがない。それですぐ噛みついてくんだろうけど――。
「ぉねぃさまだってぉ菓子を我慢して毎日毎日汗水垂らして頑張ってるとぃぅのに貴女とぃぅ人は無駄酒ばかりかっくらって! そもそもルル達がこんな目に遭ってるのも貴女の酒癖が――!」
それにしてもすごい剣幕だ。
それに対してガーラはそんな怒気をそよ風とも感じていない涼しい顔。
まあ、ルルはひとしきり感情を爆発させたらそれで後腐れなくその件は忘れるタイプだし、ガーラはそもそも泰然として気にしないタイプだから、俺もあんまり難しく考えずにほっとけるんだけどさ。
あ、リリカが涙目で慌てふためくのもいつも通りの光景ね。まあこっちは後でちゃんと慰めてあげないと心配ばかりかけることになっちゃうんだけど。
そんな風に俺が蚊帳の外を決め込んでいたにもかかわらず、ガーラの投擲(とうてき)した爆弾の爆風は、無情にも俺を思いっきり巻き込んできた。
「知らんのか、ルル」
「ん何をですかっ!?」
「シューの奴、私らに黙ってこっそりお菓子を買ってるんだぞ」
「んなっ! なんでガーラがそのこと知ってんのよ!?」
「……ぉねぃさま……?」
こちらを振り返ったルルの紫水晶の瞳の中で、陰湿な火が燃えている。怖い。
「いやでもあたしはちゃんと働いてるし、お菓子だってそんないっぱいは買ってないのよっ? それより問題はガーラのNEETっぷりでしょう!」
「そぅでした! ガーラさんっ、貴女はそもそも――!」
見向きあっていた俺とルルが示し合わせたようにガーラの座る机の方を振り返ると、
「あの~……ガーラさんならもう出てっちゃいましたよ~?」
既に影も形もなくなった机の上には空になった酒瓶とゴブレットと酒代がひっそりと置いてきぼりにされていた。
「ぁの飲んだくれーっ!」
ルルが叫んだ。それが呪文だったかのようにルルの身体を青白い蛇のような雷電が這い回り、それこそ稲妻のような速さでルルの身体がスウィングドアを吹き飛ばさん勢いですっ飛んでいった。
雷門晶術の身体強化だ。ルゥ婆も昔やっていた。四論数を無詠唱とか、怒りに任せたとはいえ無茶をしなさる……まあでもこれでとりあえず俺にルルの癇癪が向かうのは当分先延ばしになったわけだ。
「あたし、部屋で汗を拭いてくるね……」
身体だけじゃなく精神的にも重くのしかかる疲労が声に出た。ガーラが作ってくれたこの時間で言い訳を考えなきゃな……。
「うん、わかった~」
階段を上る俺の背中をリリカのフンワリとした声が押し上げてくれる。
湿気った階段を三階まで昇り、板張りの軋む廊下を歩き、飾り気のない合板の扉を開けて自室へ。
簡単な流し場とベッドがあるだけの簡素な部屋。俺は部屋の隅に寄せてある衣類カゴから普段着を取り出すと、ベッドの上に放り投げてそのまま流し場の水瓶に柄杓を突っ込んだ。木桶に二杯三杯と注いで流し場に水を張ると、手近にあった手拭きをそれに浸す。
正面を見やると自分の顔があった。俺の部屋の中で一番高価な私物がこの壁掛け鏡だ。女性として身だしなみは最低限のマナー……っていうのは建前で、俺は自分の顔――シューレリアの顔を見るのが好きだった。
線の細い輪郭をなぞり、鏡の中から俺を見つめる青い瞳を見返す。
子供から大人へと移り変わる途上の柔らかさと優美さを兼ね備えた眦(まなじり)、芸術家が描いたような眉、すっと鼻梁の通った鼻筋、花弁のような桃色の唇。畑仕事の泥と汗に塗れも隠れきれない肌の透明感と滑らかさ。そしてそれらを包み込む輝かんばかりの金糸の髪……うむ、何度何時までも見飽きない理想の美少女だ。
いや、ナルシストだなぁってのは自分でも思うけどさ、俺の根っこにはやっぱ天堂宗がいてアマルのシューがいるんだよ。だからどうしても美しい少女には心惹かれるものがあってだな……まあ、とにかく、自分の顔だってのはわかってるんだけど、どこか他人めいた錯覚が消えねえんだ、この顔は。
成長するに従って大きくなる錯覚を振り払うように金髪の頭(かぶり)を振り、俺は蒸れて気持ちの悪い革鎧の留め具を外しにかかった。
その名の意味は『幸多き遺風』。ちなみにルー=フェルからルーを取ったフェリ――接頭修辞の子音共有による末尾変化が消えてフェルからフェリに戻る――だけとなると意味はだいぶ辛気臭く変わる。すなわち、『亡者』だ。
ルー=フェルという町は、今から約五百年前までは『フェリの里』――つまり『亡者の里』と呼ばれていた。その不名誉で陰湿な名前の裏には、当時の世界情勢が絡んでいる。
今でこそ『中央大陸ゴーズ』は平和を享受しているが、つい百年前までは北の『サライオ帝国』およびその属国と、南の『スラディア皇玉国』との間で激しい領土争いが繰り広げられていた。
フェリの里はその戦火に炙り出された難民や殺し合いに飽いた逃亡兵たちが、隠れて生きるために身を寄せあった結果生まれた隠れ里なのだ。
それが冒険者を魅了する一大自治区となった背景には、ある地理的条件がかなり影響している。
元々ルー=フェルの周りは険阻な山脈とわずかな平地、台地を深く隠した樹海が織りなす峻厳な天然の迷路だった。そんな未開の地であれば、当然エーテル濃度も高くなりがちだったろう。そうなれば自然と魔物の発生数も多くなり、迷いやすい上に直接的な危険まで闊歩しているというデンジャラスゾーンが形成されていたはずだ。
それでも彼らは戦争のむごさよりもこの危険地帯の方に希望を見出した。死ぬかもしれない土地に逃げ込むしか生き残る途がないって、どんだけひどかったんだろうな戦乱の時代って。
しかもその逃亡が彼らの知りえなかった事情からなんとも皮肉な選択となるのだが……。
長い時間と大勢の犠牲を払ってエーテルの薄い場所を見つけ出し、根深い森を開墾し、細々と生活していけるだけの土地を切り開いた彼らの努力――なんて生易しいものじゃないだろうが――はなんとか実を結び、それはそれは質素な里を形成した。それが『ルー=フェル』の前身、『亡者の里フェリ』だった。
彼らの選択の皮肉とは、戦禍を逃れてきたはずの彼らの足元に新しい火種が埋まっていたという点だ。しかもそれは人類史上これ以上ないド級の火種だった。もう何かの悪意が働いてるとしか思えない皮肉だ。
難民達が開墾した未開の地には、一国家も垂涎の超古代アイテム『ガジェット』が路傍の小石のごとく眠っていたのだ。
『ゴーズ大陸』の戦火の理由は領土争いだ。領土争いなんてどんな人類にもある欲望の顕れ方だが、この世界でもそれは通用した。つまり、俺の元故郷で言うなら石油、鉱物、沃土などなどの土地資源の奪い合いだ。
だけどこの世界『アステラ』は少し事情が異なる。それはその土地資源の期待が『ガジェット』に大きく偏っていたということだ。その『ガジェット』が出土する遺跡を確保するために土地を侵略し、その遺跡から『ガジェット』を掘り起こしてそれで国力を増強してまた他所の土地を攻める――という具合の悪循環がこの時代の特徴だ。
話は変わるが『ガジェット』はすごい。とにかくすごい。いろんな意味ですごい。
どれもこれも仕組みを理解できない以前に解体すら叶わず、かろうじて動力源がエーテルなのだろうということ以外どうやって動いているのかサッパリわからない。
でも大抵の『ガジェット』は筐体のどこかに必ず取扱説明書――これがまた空中投影表示のハイテク機構――が内蔵された親切設計なので、古代の文字は読めないにしても図解でなんとか利用することが出来ている……んだが実は俺、その誰も読めないはずの古代文字が読めたりする。だってその古代語、普通に日本語なんだもん。
どう見ても日本語にしか見えない言語が何故にこの世界で使われていたのかは謎――というかご都合主義にすら感じるが、読めてしまうものはしょうがないので結構いろんなところで活用させてもらってる。昔は取説って読まない主義だったけど、いろいろ気付きにくい機能とかもちゃんと説明されていて、取説大事だなって最近思い始めてんだよね。
しかし俺が古代語を読める事は他人どころか仲間にも――幼馴染のリリカにすら秘密にしている。話したら絶対面倒なことになるのは目に見えてるからだ。なのでこの事は俺の中で当面話す予定もつもりもない秘事中の秘事となっている。
あー、話が逸れた。『ガジェット』のすごいところってのはそのオーバーテクノロジーかつブラックボックスっぷり……じゃあなくて、単純に利用価値が高いってとこだ。と言ってもその効果はピンキリなんだけど。
例えばインク切れのないペン、絶対コゲつかないフライパン、誰もが納得の程よいトンガリを実現する鉛筆削り――そういった小市民的なものから、弾切れのない拳銃や切れ味の落ちないナイフ、はては戦略兵器になりうる超高火力兵器まで、およそ人間が便利と感じるものは大抵揃っている豊富さだ。
そう、『ガジェット』には兵器としか思えないものが確かに存在する。だけど危険を上回る便利さによって、現代の生活を支える重要な要素にまでなっちまってるのが現状だ。どんな世界を探しても、『ガジェット』ほど貴重で珍しくもないものなんてそうそうないだろう。
でもまあ、道具に危ない使い方があるのは当然っちゃ当然のことで、ここで問題になるのはその危険を理解している人間が意外と少ないって点だろうな。便利な部分ばかり見て、危険を顧みない一般人ってのはどこにでもいるもんだ。
ここで気になってくるのは門晶術だろう。門晶術もこの世界の生活基盤を支える技術だし、危険も少なくないからな。
たしかに火力だけで言えば門晶術だってガジェットに引けは取らない。でもそんな高火力を才能にかかわらず誰でも扱えるってところにガジェットの危険の根本がある。苦しい修行もなしに指先一つで門晶術と同等かそれ以上の結果を出せるなら、誰だって『ガジェット』を欲しがるし利用したがるわな。
それは国家においても同じことだった。そして『ガジェット』が山のように眠っているフェリの里の存在を知れば、放っておくわけがない。実際、その存在を知った両大国は、我先にと触手を伸ばしてきたのだ。
ガジェットが眠る遺跡は大陸中至る所に点在している。俺が昔住んでいた屋敷の近所にも一つあった。あまり愉快な思い出はないけど。
その遺跡がなぜかこの山深い渓谷の樹林に集中していた。それを見つけたのは戦禍から逃れてきた難民たち。
当時の記録はほとんど残っていないのだが、俺の考えでは彼らはきっと発見当初はこの遺跡群の存在を可能な限り秘密にしてと思う。だって、ここに『ガジェット』が大量にあると外部に漏れれば、戦禍の火種が万難を排してこの隠れ里に牙を剥くのが目に見えていたから。きっといろいろな掟を作って、この秘密を死守しようとしていたはずだ。
それじゃあ何故、フェリの里の遺跡群は他国が知るところとなったのか? 理由は単純。人間はどんな状況でも欲望に耐え切れるもんじゃないんだ。
現代じゃ『ルー=フェル』といえども遺跡迷宮の奥深くまで探索しなければ『ガジェット』の影も形もつかめないが、まともな調査・発掘も行われていなかった当時はきっと地面の上に『ガジェット』が転がっていた、くらいにありふれていたと思う。うらやましい限りだ。
そういった『ガジェット』をその真の価値を知っている奴で拾えばどうなるか。自由を求めて危険を冒したはずなのに、実際は掟にがんじがらめで毎日追手におびえて細々と暮らさなきゃいけない。こんなシケた里とはオサラバしたい。そう考えるのが自然な流れじゃなかろうか。
彼らは力――腕力あるいは権力、もしくは金力がない故に逃げおおせなければいけなかった人達だった。そのどれか一つでも手に入れれば、戦禍に苛まれる人間から戦禍を操る人間へ成り上がれるんだから、その欲望に抗える人間はどうしても限られる。
そして『ガジェット』は権力以外の力を瞬時に与えてくれる道具だった。それがその辺に落ちているんだから、手に入れた力の気安さに心も軽くなろうってもんだ。
せめてその入手が多くの代償の上に成り立っているならその意味がもう少し重くなり、想像力を働かせて結果を考えたのかもしれないが……俺がどう思いを馳せたところで歴史に『もしも』はない。
やがてフェリの里の秘密は公然のものとなり、南北の大国の貪欲に濁った眼差しが宝の山を捉えてしまう。
それは事態のより深刻な状況への推移を招く事になる。
『フェリの里』を巡って、『スラディア皇玉国』と『サライオ帝国』の領土争いは総力を挙げての全面戦争へと発展した。百年にもわたる血みどろの諍(いさか)いはたくさんの悲劇と救いようのない喜劇を産み落としたが、ここでは省略しておこう。実のところ俺は興味なくってほとんど知らないから。
結果だけ言えば、『スラディア皇玉国』の辛勝だった。
『サライオ帝国』は長い戦乱の中で国家としての基礎が揺らぎ、瓦解。その瓦解のきっかけになったのは、『サライオ帝国』が属国として半自治を約束していた周辺諸国の離反だ。国力が低下した『サライオ帝国』に、属国を従えるほどの威力がなくなってしまったのだ。
しかし国力の低下は『スラディア皇玉国』とて似たり寄ったりだった。戦争を続けることができなくなった二国は、終戦のために『スラディア・サライオ講和基本条約』を締結、その条約中にフェリの里周辺を共同管理の特別自治区とする旨を明記して、手の打ちどころとした。この条約締結の日から『フェリの里』は『ルー=フェル』と名前を変える。
それにしても疑問は残る。ついこの間までお互い蛇蝎(だかつ)のごとく忌み嫌って殺し合いに興じていた二国が、どうしてこうもすんなり講和を結べたか?
実はその回答に『冒険者の街』の所以(ゆえん)があるのだ。その所以とは、条約締結に一役買ったのが『東方大陸メウズ』に発足した労働組合『冒険者協会』だったからだ。
今でこそ『中央大陸ゴーズ』、『東方大陸メウズ』の二大陸中で知らぬ者はいない――どころか一部の人間はその名を聞いただけで震え上がる『冒険者協会』だが、その歴史は意外と浅い。ついこの間、『冒険者協会』百二十周年の記念式典があったから、終戦直後じゃまだ二十歳にも満たない若輩組織だったはずだ。
その若輩組織がどうやって二大国家の仲裁役なんて大事業を担うことができたのか?
まあ、組織なんて若い頃の方が勢いはあるし、それを抑え込める対抗者がいなければ自然とその勢力は増す。当時の疲弊したゴーズ大陸には新進気鋭のベンチャーグループを牽制するだけの余裕なんてなく、強(したた)かで賢(さか)しい冒険者達で構成された『冒険者協会』の辣腕(らつわん)もその勢いを助けた。
スラディア皇玉国と『サライオ共王国』――帝国が解体して共生王朝という政体に属国と融和した新政府――二国間の譲歩と『冒険者協会』の思惑が重なり、『指定法規特区ルー=フェル』は戦乱の終幕を飾る時代の寵児としてゴーズ大陸の中央に誕生する。
時代が母だとすれば、その父は二大国ではなく冒険者協会ということになるか。冒険者協会の意向でふんだんに彩られたこの街は、司法と政治をそれぞれ二大国が管轄し、一番うまみのあるガジェットの採掘・管理は第三者機関である『冒険者協会』が一手に担った。
その特権に対する冒険者協会の言い分は巧妙だ。曰く『争奪の的となったガジェットに関して、二国で管理すれば感情的衝突が起こるであろうし、どちらか片方の国に管理を任せれば任されなかった方の猜疑を生む。しかるに第三者、しかも公的機関である冒険者協会が公明正大な対処をもってこれにあたることとする。』だそうだ。
つまり、冒険者協会は玩具を取り合う子供の首根っこをわっしと押さえて喧嘩の仲裁をする格好で、ガジェットの独占管理権といっても過言ではない権益を確立した。これが決定的となり、一労働組合でしかなかった『冒険者協会』はいまや国家にも表立った発言権を持つまでに成長している。
その栄光の陰にどんな陰謀があったか探ろうにも、百二十年後の今じゃ歴史の堆積物に邪魔されて困難を極める。そもそも俺は興味ないしな。
そもそも冒険者である俺としては、今の冒険者協会の隆盛は大歓迎だ。過去にどんな悪辣な方法で基礎を築いたとしても、今の『冒険者協会』が俺たち冒険者にとって暴君でないのなら俺はぶっちゃけどうでもいい。
だってさ、冒険者なんて呼び方で格好つけてるけど、根本的には大金求めて世界中をうろついてる根無し草だ。ならず者って呼び方が嫌なら山師でもいいだろう。
確かに魔物退治の依頼や旅路の護衛を主にして社会へ大きく貢献してる冒険者もいるけど、それはやっぱり少数派だ。少数派な上、政府公式の自衛組織ってわけじゃないから、国家権力とはいろんなところで衝突していたりもする。その辺の小競り合いを収めているのも協会のありがたいところなんだが。
結局、冒険者の醍醐味はやっぱりその名が示す通り、未知に飛び込み真実を得てそれを名誉と富に変えるって点にあると思うんだよ、うん。あくまで俺の持論だけど。
で、何の話してたっけ? えーと……あれだ、『ルー=フェル』の話だ。
要するに、冒険者協会が一番偉くて、冒険者垂涎の『ガジェット』が眠る『遺跡迷宮』がゴロゴロしてて、完全中立地帯であるこの『ルー=フェル』という街は冒険者にとってとても住みよい街なのだ。それが、『ルー=フェル』が『冒険者の街』である所以である、と。
しかし組合が実質支配している街ともなるとやはり資本主義に傾きがちなのか、明確な貧富の差が生じている。いや、組合云々じゃなくてこの場合は冒険者って部分が原因なんだろうな。
一獲千金の夢を抱いて『ルー=フェル』に上京――冒険者仲間の間じゃ、『ルー=フェル』を拠点にすることをこう呼ぶ――したはいいが、実力か運か、あるいはそのどちらも不足していた場合、ソイツは冒険の途中で命を失うか街で希望を失うかの二択を迫られる。
そこで後者を選んだ奴は、この街の一般市民として平々凡々な人生を送るわけだ。そんな平凡人生を生き抜く才能があればいいけど、それすらなかった人間は『下町』と呼ばれる、まあいわゆる貧民窟でうだつの上がらない人生を送ることになる。
この街の具体的な運営はそうした冒険者崩れの一般市民で出来上がっていた。それも『ルー=フェル』が冒険者を受け入れやすい、というか理解しやすい土壌の形成に一役買っているわけだ。
そんな冒険者脱落組の多くが、この下町に暮らしていた。
もちろん貧乏な現役冒険者もここに拠点を置いているわけで、この町は期待と不安と共感と嫉妬が絡み合った複雑な感情に空気が濁っているようだった。実際にルー=フェルの中じゃ治安も悪い方で、統治側――皇玉国の『総督府』と共王国の『監察府』にとっては目の上のタンコブ、とまではいかないものの顎に出来たニキビくらいには厄介に思われているだろう。
そんなあんまり良いイメージのない、というか得体のしれない深みも持ち合わせた下町だが、俺は嫌いじゃない。正確には嫌いになれない。ここには俺に親切にしてくれる人達がいたし、何より俺はこの町に救われたのだ。
その救いもただの偶然でラッキーだっただけかもしれないけどさ、ここが悪いだけの場所じゃないって、信じたいんだよな。
その下町の薄暗く湿った路地を、十六歳になった俺ことシューレリア・オル・ティストは買い物袋を片手に歩いていた。
隣に肩を並べるのは――いや、俺の肩と並んでるのはヒョコヒョコ動くトンガリ帽子なんだけど……まあとにかく、隣を歩く溌溂(はつらつ)とした女の子は、門晶術士のルル・ロロララだ。
あれから五年。ここに至るまでも色々な事があった。楽しい事も悲しい事も、辛い事も腹立たしい事も、愉快な事も不本意な事も。本当に五年という時間に収まりきらない思い出と経験を通過して、今、俺はここにいる。
冒険者のメッカ『ルー=フェル』に。
この街に来たのも十歳の時にルゥ婆から託された願い――遺言を守るためだった。
必死に修行して、ようやく一端の冒険者として力と経験を身に着け、世界を見て回るための本格的な第一歩としてここで軍資金を稼ぐ。そしてそれを元手に東方大陸へ向かう船に乗って、まだ見ぬ異郷の地をこの足で歩き、肌で風を感じたい。
そう考えて、いたのだが……ぶっちゃけ、現状はそんな青写真のように清々しくはなかった。
今も、その心意気だけを胸に歩いている。
「それでですね、ぉねぃさま――ぉねぃさま、聞ぃてます?」
鼻にかかった声が、独特なイントネーションで俺を呼ぶ。決して頭が悪いわけではないのだが、この娘は妙に甘ったるい猫撫で声で俺に接するのだ。他の人に対してはもっと落ち着いた声音で話しかけたりしているから、やたらと懐かれてるのが原因だと思うんだが、たまに無性にこそばゆくなる時があって困る。
帽子の日除けの下から楽しそうにこちらを見上げる白い顔は小造りで、その積極的な性格と打って変わって控えめな鼻と口が忙しなく動いて多彩な感情の展覧会を催している。
俺はその様子を愉快に思いながら、そこだけはクリクリと大きな濃い紫の瞳を見返し、小首を傾げることで話の先を促した。
ルルは小柄な女の子だ。年の頃は十代半ばだが、十代未満と言っても通るかもしれない。
そんな彼女は自分の背丈と同じくらいの大きな黒い帽子を、月の明るい夜空のような紫色の髪の上にズッシリと乗せている。帽子からはみ出した長髪はゆったりとした三つ編みにして背中に垂らされていた。
まだまだ女性らしさを感じさせない細いだけの身体を包むのも黒いローブで、シルエットラインにフィットしたそれは布ではなく何かの革で出来ていた。その点からもローブというよりワンピースドレスと呼んだ方が適切かな。
ルルはその細腕に二つの仕事をさせている。
右手には俺と同じくついさっき買いこんできた日用品や食料が詰まっている紙袋を。左手には妙に印象に残る木製の杖を持たせていた。
持ち主の身長と同じくらいの長い杖はよじれた蔓のごとくで、斜陽をじっくりと煮詰めたような橙色の宝珠が鎮座している。うすい靄(もや)や星のような煌きが封じられたそれは琥珀のように見えるが、本当はなんていう宝石なのか聞いてないからわからない。
その宝珠から落ち着いた光を湛(たた)える杖は優美な老婆のような佇まいで、ルルの溢れる活力に別の精彩を加えていた。
「――ぉかしぃですょね、ぉねぃさまもそぅ思ぃませんか?」
「そうね」と返して微笑む。俺の同意がもらえてか、ルルも満足そうに微笑み返してくれた。俺に対してはやたらとお喋りな彼女の口は、そのまま仲間の一人に話題を移していく。
ルルを見ていると思い出さずにはいられない人がいるけど、幸いなことに彼女とルルじゃあまりにも歳が離れている。それが防波堤となって俺の感情の荒波をかろうじて防ぎとめてくれていた。
喜怒哀楽がわかりやすくて快活な調子のルルだが、彼女が俺のパーティに加わった経緯は少し複雑なものだ。
初めて顔を合わせたとき、俺とルルは敵対していたのだから。
三か月前、俺はルー=フェルに上京するにあたり、ついでに隊商の護衛クエストを受けてその途上にいた。
ルー=フェルは山間にあるため農地に乏しく、酪農も限定的だ。農作物だけじゃなく日用品もほとんどを他所の地域に頼っている。その隊商はルー=フェルに送る物資を平野部の街で集積し、一挙に運搬する役目を担った公用車だった。
その公用車を狙い、義賊気分の山賊が襲撃してきた。
物資運搬を受け持つ商社はこの業務に慣れた公社で、冒険者協会の出資で運営されている。その護衛も普段は専任の冒険者だけが担う仕事なのだが、ここ最近出没するようになった野盗対策で追加の募集があったのだ。
この募集はあくまで野盗に対する示威目的――保険のはずだった。俺自身もこの野盗の噂は聞いていて、個人経営の商人ばかり狙うケチな野盗だと聞いていた。だからまさか警備の厳重な公社隊商を狙うとは考えなかったんだよ。
そんな思惑から、キャラバンにくっついて砂漠を横断する旅人よろしく、これ幸いと護衛任務を受注したのだ。これなら野宿の時に不寝番する時間が短くて済むし、何より屋根のある馬車内で寝られるのは野宿と天地の差なんだもん。
滅多に遭遇しない野盗、野宿の負担が分散されて楽チン。道中楽ができると踏んでこの仕事を貰ってきたのだが……ほんとに出るとは思わなかった。
ルルはその野盗の用心棒として、俺たちの前に立ちはだかったのだ。
こんなちっちゃな娘が用心棒? なんて疑惑を挟む余裕はなかった。嵩(かさ)にかかった野盗達が一挙に押し寄せてきたからだ。そして野盗達を嵩にかけられるだけの実力を、このちっちゃな門晶術士は持ち合わせていた。
三論数の門晶術を顔色一つ変えずに無詠唱で連発し、戦略に基づいた戦術思考も堂に入ったものだった。
彼女を中核に押し寄せる野盗の数はこちらの純戦闘員を凌駕しており、個々の戦力を鑑みても彼我戦力は五分五分といったところ……だと思ったんだけど、戦闘は意外にあっさりと終了した。もちろん、俺たちの勝利で。
戦力的に五分五分だと見積もった俺の見立ては間違ってなかった。間違いは野盗側にあった。
それはルルの力の使い方――無理解だ。ルルの晶種は――門晶術の属性は――寄りにも寄って、雷属性だったのだ。
そして場所はルー=フェルに向かう途中の山道。馬車がすれ違える程度に整備されているとはいえ、片方は吹く風もうそ寒い懸崖(けんがい)、もう片方は登るのも躊躇われる絶壁、逃げ場なんてないのだ。
山賊流の戦略ならそれでいい。急転身できない馬車をこうした一本道で襲撃するのは理にかなっている。だけど、わざわざ護衛がついている馬車を狙ったのはルルの門晶術恃(だの)みだったんだろうが……この地形はその門晶術――雷属性が最も苦手とする状況を演出してしまった。
要するに、逃げ場がない道の上に仲間がうろちょろしていて、ルルは門晶術での援護がまともに出来なかったのだ。
ルルの援護が適切に働いていたら、俺たちの戦力じゃ被害を最小限に抑えるために運搬物を囮に逃――戦略的撤退を敢行していただろう。しかし援護がなければ彼ら程度の使い手は今の俺達の敵じゃなかった。
ルルが役にたたないとわかるや否や、山賊どもは蜘蛛の子を散らすように逃げ散った。
その時だ、頭目格の男が腹いせか知らないが、ルルにナイフをちらつかせて迫っていった。責任転嫁も甚だしい蛮行だ。突然、味方だと思っていた仲間にナイフを突きつけられた少女だったが、しかし場数を踏んでいるのか冷静にその攻撃に対処するルル。そして俺は敵方の仲間割れをどうしたものかと迷いながら観戦していた。
ルルは意外と器用な身のこなしでそれを避けていたが、ここでも足場の悪さがいたずらをした。ルルが足を滑らせて崖際から転落したのだ。
あたら若い命が……と悔恨に浸りかけた俺だったが、なんだか様子がおかしい。頭目格の男が崖下に耳障りな哄笑を落としている。よく見れば、崖の縁(ふち)に小さな指が掛かっているのが見て取れる。
今度は迷わなかった。ついさっきの悔恨を帳消しにするべく、俺は男の背中めがけて駆け出し、ナイフが振り下ろされるより早くその背中に華麗な飛び蹴りをお見舞いしてやった。
これだけのことをしでかしたんだ、このまま連行されれば間違いなく獄門台行きだろう。男がここで落下死したとしても、裁判と執行の手間を省いただけの話だ。
どうして彼女を助けたのか、俺自身も理由を確信してるわけじゃなかった。
でもこうして回想していると……やっぱり、似てたからなんじゃないかと思う。
ルルと彼女――ルゥ婆は似てる。
いやまあ確かに身長と同じくらいの黒い鍔広トンガリ帽子とか、同じくらい長い杖とかの見た目の酷似もあるんだけど――雷門晶術士は特にバックファイアが激しい晶種なのでみんな似たり寄ったりな姿になるらしい――それ以上になんというか雰囲気が似てる気がするんだよな。
「――それで腹が立ったからガーラさんのぉ酒にヒマシ油を入れてゃったんですょー。そしたらガーラさん、顔を赤くしたり青くしたりしながらそれでも口にしたぉ酒を吐き出さずに飲み下したんですょねー。小気味ょかったと同時にその執念に呆れ果てましたょ、ホント」
やっぱそれほどでもないかも……。
イシシ、と悪戯っぽく笑ってから肩をすくめて嘆息するという忙しさで表情を変える彼女を見ていたら錯覚のような気がしてきた。ルゥ婆はもっと万事おっとりしたザ・おばあちゃんだったもんな。
まあ、そんなこんなで元々金銭契約以上の義理もなかったルルは、俺たちと一緒に行動するようになったワケだ。俺の仲間には専門の門晶術士がいなかったから、彼女の参入は願ったり叶ったりの渡りに船なんだが……まあちょっと、個人的に手放しで喜べない点も……。
「――それでですね、ぉねぃさまはどぅぉ考ぇですか?」
ほとんどくっつくように――というかこの鍔広帽がなければ間違いなく俺の腕にまとわりつかん勢いで迫りくるルルに、俺は愛想笑いを浮かべて答えた。
なんかね、助けた恩義以上の好意が重たいんですよ……。
一緒にいる時は四六時中俺にベタベタしてるし、それだけならいいんだけど周囲の他人を妙に警戒して威嚇するもんだから他者との意思疎通もままならず……俺を取られまいと警戒するのはなかなかいじらしいと思うけど、モノには限度ってもんが、ねえ?
そんな風にお喋りを楽しむ帰り道も、気が付けばゴールに到着していた。
馬車が一台辛うじて通れるかどうかといった古ぼけた道の周囲は、狭い土地を奪い合うようにくすんだ色合いの建物が押し合い圧(へ)し合いして下町の空を狭く切り抜いている。
そいつらと比べたら幾分か立派な佇まいではあるが、おっつかっつな建物が俺の目の前にも一軒。古びて塗装の剥がれ落ちた漆喰、窓の木枠は雨のシミだらけで鼻を近づけなくてもカビ臭い香りを放つ。そんな鬱陶しい三階建てが、今の俺たちの住居だった。
ルー=フェルに到着して一週間だけはもう少し清潔な冒険者協会の宿舎に寝起きしてたんだけど、やむを得ない事情からそこを引き払ってこのアパートに二部屋を借りて、パーティの仲間とシェアしている。
「ただいまー」
胸高のスウィングドアを押しのけると、ドアが不平を垂れるように蝶番(ちょうつがい)をきしませる。もしかしたら「おかえり」と帰宅の挨拶をしてくれてるのかもしれないけど、辛気臭いうなり声は文句にしか聞こえない。
「おかえりなさぁい~」
そんな不景気な音を吹き飛ばすように、フワフワした女の子の声が俺を出迎えてくれた。
このアパート、一階部分は大家さんの居住空間と酒場があって、表のスウィングドアは酒場の出入り口でもあるのだ。
どうして酒場なのに表に看板の一つもかかってなかったのか? っていう疑問も当然だと思うが、なんでも数年前の嵐で吹っ飛んでから別に不自由もしていないからそのままなのだという。この店に来るのは店の常連かその常連の知り合いばかりなんだそうで。顔馴染みの客ばかりで成り立つのも、マスターの人徳のなせる業なのかね。一応名前は『狗尾亭(えのころてい)』っていうらしい。
下町の威勢のいい男共の汗と喧騒が染み込んだ店内も、日の高い内は準備中で森閑としている。でも誰もいないわけじゃない。見知った顔の女性が三人、店内にはいた。
俺たちが寝起きする1Kの部屋を四つ並べたくらいの店内には乱暴に扱われて傷だらけの机が四台並び、同じくボロボロの椅子は片側の壁に積まれて片付けてあった。その一脚を出してきてテーブルの一角に陣取っている背の高い女が一人。
店の奥にはカウンターがあり、さらに奥の壁にしつらえられた棚には天井一杯までマスターこだわり古今東西の酒が立ち並んでいる。そのカウンターに寄りかかった黒い長髪の女性が一人。
最後はカウンター奥の通用口から顔だけ出した女の子が一人。この娘が最初に俺を声で出迎えてくれた娘だ。しかし彼女はすぐに顔を引っ込めて、元の作業に戻っていってしまった。
「おや、今日は早かったね」
カウンターに寄り掛かっていた女性、この店のマスターでありアパートの大家さんであるクリエラ・モースさんが切れ長の目を更に細めて入り口の俺達を見た。少し目じりの下がった彼女がそうすると微笑んだように見えるが、多分外の光が眩しかっただけだろう。別段笑っていなかった口元が少しほころんだのは、俺とルルの姿を視界に収めてからだった。
彼女みたいなのを“臈長(ろうた)けた美貌”って呼ぶんだろうな。引き締まったナイスバディを露出高めのナイトドレスに包み、大人の余裕を感じさせる微笑を涼やかな口元にたたえた妙齢の――って言ってあげたいんだけど……こないだアパートの住人から実年齢を聞かされてから、ちょっと見る目が変わってしまって……この人本当に人類なんだろうか? いやでも面倒見が良くって、元冒険者だからその知識も度胸も頼りがいがあって、みんなに敬われる姉御肌っていうのは間違いがなくて――。
「シュー……あんたいま、アタシの歳のこと考えていただろう」
涼しい笑顔はそのままに、その女性としてうらやましくなる身体からえも言われぬ圧迫感が放射される。心がひしゃげてそこから絞りだされた脂汗が、額から頬を伝う。
「いや、そんなことは……」
口では否定したけど、俺の凍り付いた愛想笑いを見ればクリエラさんでなくても真実は見分けられるだろうな……。
「ふぅん……? ま、そういうことにしておこうか」
口元に冷笑めいたものをよぎらせて、クリエラさんは俺への追及をやめた、というか保留にしてくれた。剣呑な気配もまるで嘘のように一瞬で消え去る。
この人、すごく頼もしい人なんだけど勘が良すぎるのが玉に瑕なんだよね……。
「シューちゃんお帰りなさい~、怪我とかしなかった~?」
その時、あったかい雲のようなフワフワした声が俺の身体ごと心を包み込んで、ささくれた心を癒してくれた。
カウンター奥の厨房へ続く通用口からお手てを拭き拭き姿を現したのは、高潔そうな白いローブの上に着古したエプロンを付けた女の子。この狗尾亭のお手伝いをしている俺の幼馴染、リリカだ。
薄赤色の髪を揺らしながら駆け寄ってくると、細い腕と指を伸ばして俺の手から荷物を受け取った。
緩い癖のついた赤髪は腰に届きそうなくらい長く伸びている。歳を経た赤褐色の髪はまるで伸ばしたから薄くなったように薄赤色に落着き、柔らかそうな肢体と共にリリカのフンワリとした雰囲気を強調している。
丸顔は相変わらずで、顔のパーツに冴えはないが均衡は取れているだろう。その顔に昔なかったものとしては、大きな目にかかる丸眼鏡がある。
丸眼鏡の効果で余計にのほほんとして見える笑みを見返しつつ、俺は苦笑した。
「あの程度のクエストじゃ怪我なんてしようがないわよ」
ちなみに今日の仕事は『畑に出没する魔獣が目当てにしているアブラムシの除虫』だった。もちろんアブラムシはあのちっちゃいアブラムシだ。似たような名前の魔獣とかじゃない。
このクエストの依頼主は抜け目ない人で、魔獣退治となると報奨金にそれなりの出費がかかるからそもそも魔獣が目的にしている害虫駆除の方をクエスト目的にして難度を下げて必要経費を削減にかかったのだ。
確かに危険はないが、髪の毛の先ほどしかない小虫を畑に屈み込んで一匹ずつつまみ上げ、最後にまとめて焼く作業はかなりの心労があった。これなら魔獣を退治してた方が楽だったなと、痛む腰をさすりつつ呻いたものだ。
「でも転んだりしたら膝をすりむいちゃうでしょ~?」
「あたしゃ子供か」
苦笑の度合いを強くして、リリカのほっぺを少し強くつつく。程よく押し返してくる弾力とリリカのぬくもりが心地よい。
両手を紙袋にふさがれて俺の手を払いのけることもできず、されるがままにほっぺを凌辱されるリリカ。面白いから、とりあえず身体ごと逃げればいいことに気付くまでは続けることにしよう。
え? リリカは修道院で修行してたんじゃないかって?
確かにリリカとは実家を出る時に離れ離れになったけど、そのなんというか……口にするとちょっと照れくさいんだが、俺のこと追いかけてきちゃったんだよね、リリカ。
マリベル聖教神会のお勤め――修行には段階があって、入会当初は修道院でマリベル様の御心を学びながら功徳をコツコツと積む。
その次が修道院周辺の村や町に出向いて簡単な怪我の治療や応急処置、日常作業のお手伝いをして功徳を積む。
そんでリリカが今この段階なんだけど、世界中の聖教神会修道院を巡りながら旅をして功徳を積むってな具合だ。
旅をするなら冒険者協会に登録しておくと格段に負担が減るってことで、この段階の神会教徒は冒険者の資格を持っていることが多い。リリカもそうだ。聖教神会の教徒に限った話ではなく、冒険者のパーティにヒーラーとして参加してるのはだいたいがそういう修行中の信徒なのだ。
リリカはたった四年でその段階まで到達した。これは結構すごいことらしい。そうして、聖教神会の教えを破ることなく俺のパーティに合流してくれたのが一年前。
「リリカさんばっかずるいです! ルルも、ルルもー!」
「えぇ? して欲しいの?」
「して欲しいです」
「そ、それじゃあ……」
なんか変な成り行きになってきたな……。
この時には生暖かい笑みを顔に張り付けていたクリエラさんは厨房に引っ込んでおり、酒場には俺の仲間だけが勢ぞろいする形で残された。
俺とルルとリリカと、そしてこの酒場に入った時から居た三人の内の一人、女性としては大柄な身体を窮屈そうにテーブル席に押し込んでいるのがガーランド・ラントことガーラだ。
そう、彼女はさっきルルの話の中で酒にヒマシ油を入れられたあのガーラだ。
まあ、ルルもちょっとやりすぎじゃないかと思うけど、原因はガーラの怠慢にあるのだからどっちもどっちか。何よりガーラがそのことを気にした風もない。
今だって、俺達を肴にマイペースでゴブレットを傾けている。精悍な顔立ちに飄々とした笑みを浮かべて。もちろんゴブレットの中身は酒だろう。
「ガーラ、今日は早かったのね」
今日“は”と強調する。
ガーラがやや首を動かすと、ポニーテールに纏めた長い濃緑の髪が蛇のように動く。
「あー……まあ昨日はやむを得ず外泊したんだ」
ガーラは昨日アパートに帰ってこなかった。多分、外で酒を飲みすぎてどっかで眠りこけていたんだろう。
「まったく、ほどほどにしてよね……」
「すまんすまん」
と悪びれた様子もなく言って、言ったそばから酒を喉に流し込む。
「ぉねぃさまは甘ぃです! ぁまぁまです! カスドースょり甘ぃです!」
その時、それまで険しい顔で俺とガーラの問答を眺めていたルルが爆発したように叫んだ。
カスドースってのは甘いスポンジケーキを煮たてた糖蜜と卵黄に浸してさらに甘くしたお菓子の名だ。あれより甘いとかどんだけだよ……ってうなりたくなるほど甘い。
あ、ちなみにリリカはこの雰囲気にオロオロしてるばかりね。臆病な性分は相変わらずだ。
俺が諦めた怒りを引き継いだようにプリプリしているルルにも言い分はある。誰だって、自分が働いてるのに他の仲間が遊んでいれば腹も立つだろう。
じゃあなんで誘い合わせてみんなで仕事――クエストを貰いに行かないのかって聞かれれば、それは相対的に効率が悪いからだ。
確かに俺、リリカ、ガーラ、ルルの仲間四人で挑まなきゃいけないほどの高難度クエストであれば稼ぎも一気に効率が上がる。だがそういうクエストは得てして時間もお金も掛かるのだ。大掛かりなものだと一回のクエストに半月掛かることもザラにあり、その間の燃料や食料、水、運搬に動物を使うならその貸出料etc……とてもじゃないけど今の俺たちの手持ちじゃ賄(まかな)えない。
そうなのだ、恥ずかしながら今の俺達はとっても貧乏なのだ。
だから小口の依頼――畑を荒らす魔獣退治とか街の中の失せ物探しとか野菜の収穫のお手伝いとか……そういった一人でもなんとかなるクエストを各々で解決して――リリカは狗尾亭のアルバイトで――日銭を稼ぐ日々だった。
俺たち四人はパーティメンツであり運命共同体だ。その運命共同体は今、貧乏だ。貧乏だから稼がなきゃいけない。
だのに、ガーラは朝帰りの上で朝酒だ。酒だってタダじゃない。ルルが怒り心頭に目くじらを立てるのも当然っちゃ当然なのだ。
じゃあどうして俺がすぐに矛先を収めたかというと、ガーラとの付き合いが長いから。知っているのだ、彼女が本気を出せば俺やルルが受けてくる仕事より難度の高いものをいともたやすく片付けられることを。
だってガーラは俺の師匠だから。
話せば長くなるから要点だけ話すけど、ユールグと一緒に屋敷を出た俺はそれから二年はユールグと共に冒険者としてあちこちを放浪していた。
しかしある日、ユールグは俺に一言も断りなく姿を消した。そして何の説明もなしに「後釜で今日からお前の面倒を見る」と現れたのがガーランド・ラントだった。
まだ十三歳だった俺は俺を見捨てたユールグにも傍若無人で厚かましいガーラにも反感を抱いて荒れたが、そんなものは歯牙にもかけないガーラにいつしか懐の深さすら感じるように――っていうかもうある種の諦観だったんだろうな……。
とりあえず冒険者として、戦士としての彼女は群を抜いて優秀だったし、尊敬できなくもない点は少なからずあったから、俺がガーラに慣れるのもそれほど難しいことじゃなかった。
それにさ、彼女がいなかったら俺はきっと道を間違えてた。ユールグに捨てられたと彼を恨んで、性根を捻じ曲げていっただろう。下手しなくてもアマルのシューの二の舞だったろうな。
だから俺はガーラに感謝しているし、やればできるって信じられるだけの土壌もある。けどルルにはそれがない。それですぐ噛みついてくんだろうけど――。
「ぉねぃさまだってぉ菓子を我慢して毎日毎日汗水垂らして頑張ってるとぃぅのに貴女とぃぅ人は無駄酒ばかりかっくらって! そもそもルル達がこんな目に遭ってるのも貴女の酒癖が――!」
それにしてもすごい剣幕だ。
それに対してガーラはそんな怒気をそよ風とも感じていない涼しい顔。
まあ、ルルはひとしきり感情を爆発させたらそれで後腐れなくその件は忘れるタイプだし、ガーラはそもそも泰然として気にしないタイプだから、俺もあんまり難しく考えずにほっとけるんだけどさ。
あ、リリカが涙目で慌てふためくのもいつも通りの光景ね。まあこっちは後でちゃんと慰めてあげないと心配ばかりかけることになっちゃうんだけど。
そんな風に俺が蚊帳の外を決め込んでいたにもかかわらず、ガーラの投擲(とうてき)した爆弾の爆風は、無情にも俺を思いっきり巻き込んできた。
「知らんのか、ルル」
「ん何をですかっ!?」
「シューの奴、私らに黙ってこっそりお菓子を買ってるんだぞ」
「んなっ! なんでガーラがそのこと知ってんのよ!?」
「……ぉねぃさま……?」
こちらを振り返ったルルの紫水晶の瞳の中で、陰湿な火が燃えている。怖い。
「いやでもあたしはちゃんと働いてるし、お菓子だってそんないっぱいは買ってないのよっ? それより問題はガーラのNEETっぷりでしょう!」
「そぅでした! ガーラさんっ、貴女はそもそも――!」
見向きあっていた俺とルルが示し合わせたようにガーラの座る机の方を振り返ると、
「あの~……ガーラさんならもう出てっちゃいましたよ~?」
既に影も形もなくなった机の上には空になった酒瓶とゴブレットと酒代がひっそりと置いてきぼりにされていた。
「ぁの飲んだくれーっ!」
ルルが叫んだ。それが呪文だったかのようにルルの身体を青白い蛇のような雷電が這い回り、それこそ稲妻のような速さでルルの身体がスウィングドアを吹き飛ばさん勢いですっ飛んでいった。
雷門晶術の身体強化だ。ルゥ婆も昔やっていた。四論数を無詠唱とか、怒りに任せたとはいえ無茶をしなさる……まあでもこれでとりあえず俺にルルの癇癪が向かうのは当分先延ばしになったわけだ。
「あたし、部屋で汗を拭いてくるね……」
身体だけじゃなく精神的にも重くのしかかる疲労が声に出た。ガーラが作ってくれたこの時間で言い訳を考えなきゃな……。
「うん、わかった~」
階段を上る俺の背中をリリカのフンワリとした声が押し上げてくれる。
湿気った階段を三階まで昇り、板張りの軋む廊下を歩き、飾り気のない合板の扉を開けて自室へ。
簡単な流し場とベッドがあるだけの簡素な部屋。俺は部屋の隅に寄せてある衣類カゴから普段着を取り出すと、ベッドの上に放り投げてそのまま流し場の水瓶に柄杓を突っ込んだ。木桶に二杯三杯と注いで流し場に水を張ると、手近にあった手拭きをそれに浸す。
正面を見やると自分の顔があった。俺の部屋の中で一番高価な私物がこの壁掛け鏡だ。女性として身だしなみは最低限のマナー……っていうのは建前で、俺は自分の顔――シューレリアの顔を見るのが好きだった。
線の細い輪郭をなぞり、鏡の中から俺を見つめる青い瞳を見返す。
子供から大人へと移り変わる途上の柔らかさと優美さを兼ね備えた眦(まなじり)、芸術家が描いたような眉、すっと鼻梁の通った鼻筋、花弁のような桃色の唇。畑仕事の泥と汗に塗れも隠れきれない肌の透明感と滑らかさ。そしてそれらを包み込む輝かんばかりの金糸の髪……うむ、何度何時までも見飽きない理想の美少女だ。
いや、ナルシストだなぁってのは自分でも思うけどさ、俺の根っこにはやっぱ天堂宗がいてアマルのシューがいるんだよ。だからどうしても美しい少女には心惹かれるものがあってだな……まあ、とにかく、自分の顔だってのはわかってるんだけど、どこか他人めいた錯覚が消えねえんだ、この顔は。
成長するに従って大きくなる錯覚を振り払うように金髪の頭(かぶり)を振り、俺は蒸れて気持ちの悪い革鎧の留め具を外しにかかった。
0
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*表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。
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