思い出のおにぎり

おしり

文字の大きさ
1 / 1

思い出のおにぎり

しおりを挟む
私は中学生の頃父をなくした。
病名はガンだった。病院に行ったときにはもうて遅れだった。ガンがあちこちに転移していて即入院となった。手術はできないんですか?母が興奮気味に医者に聞いた。残念ながら。そんな。母はその場にがくりと崩れ落ちた。
延命治療が始まった。私は毎日学校帰りに電車で病院に行き父と面会した。お父さん大丈夫?大丈夫だ。さえは将来何になりたいんだ。まだわかんない。さえのなりたいものなら何でも応援するよ。本当ならさえを最後まで見届けたかったけど来年の桜が咲く頃には俺はいないかもな。私は胸がいたくなった。そんなこと言わないでよ。あぁスマンスマン。これが父と交わした最後の会話だった。私が帰ったあと容態が急変して帰らぬ人となった。
私は父の死をきっかけに医者になりたいと思った。私は猛勉強して難関高校に受かった。お父さん高校に受かったよ私医者になるためにがんばると写真に話しかけた。高校に入っても友達などは作らずひたすら勉強に打ち込んだ。受験まであと3ヶ月。私は睡眠時間を削って夜中まで勉強した。最近は模試の結果がうまくいかない。私は焦っていた。努力は身を結ぶと信じて勉強した。
さえ入るよ。そろそろ寝たら。まだ勉強しないと。無理はしないでね。夜食机においとくね。
私はせっかく作ってくれた夜食を食べないわけにはいかない。食欲はなかったがお盆に乗ったおにぎりに手を伸ばした。
暖かい。のりが巻かれた母が握った少し不恰好なおにぎり。お米の甘い香りがする。私はそれを一口食べた。美味しい。久しぶりにちゃんと食べたご飯。涙が出た。絶妙な塩加減のりが巻かれたシンプルなおにぎり。でもそこがいい。私のお腹を優しく満たしてくれる。お盆に乗った出来立てのインスタントの味噌汁を一口飲んだ。アちっ。私はフーフーといきを吹いた。白味噌の香りが鼻腔をくすぐる。食欲がわいた。私は久しぶりの食事をじっくり味わった。
私は母のお陰で無事大学に受かった。
お父さん私無事に受かったよ。
私は研修を得て無事に医者になった。私はたくさんの患者を救う。それが私の指名なのだから。
私はもう30代母は最近帰らぬ人となった。
私は墓参りにおにぎりと味噌汁を備えた。
お母さんお疲れ様。味噌汁の湯気が空にたっていった
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

婚約者の番

ありがとうございました。さようなら
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...