真田幸子を攻めとりたい。〜僕たちの恋愛攻城戦〜

末渡士旻

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第二話 部員勧誘

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 朝。地球と太陽とが存在し続ける限り必ず訪れるもので、これは世の学生社畜を絶望のどん底に陥れてくれるステキなものだ…

 それが月曜日の朝ともなれば、我々人間に覆いかぶさる憂鬱はより一層激しいものになり、通学通勤へのやる気を奪っていく。

 かくいう僕、武田虎太郎も気だるい空気と制服を身に纏い玄関から一歩を踏み出した。

 僕の家から松西高校までは歩いて15分ほどのところにある。今日も僕はこの道のりをゆっくりと歩いて登校している。

「よっ!虎太郎!」

 しばらく歩いていると、後ろから僕にどつきながら話しかけてくる奴がいた。

「珍しいじゃん。遠野の方から話しかけてくるなんて」

「いつもは虎太郎が陰キャのオーラ全開だから近づきにくいんだよ」

「なんだよそれ(笑)」

 この男は遠野慎生とおのしんせい。サッカー部のルーキーストライカーで、僕とは小学校の頃からの友達だ。

 僕の運動不足を心配した母親が半ば無理やりサッカーチームに入れたとき、既にそのチームでエースストライカーとして活躍していたのが遠野だった。

 明るく面倒見がいい性格で、顔立ちも爽やかな感じで整っているものだから友達からの高印象が止まらず、彼女に困ったことは無いんだとか。全くムカつくやつだ。

「そうだ。虎太郎の陰キャオーラが消えたついでにサッカー部入らない?」

「入らない。」

「そう言わずにさぁ~」

「入らないってば!」

 中学で合流した僕と遠野は同じサッカー部で活動していたのだが、松西高校に進学したあと僕はサッカーを辞めた。今は帰宅部として毎日部活動に励んでいる。

 そんな僕のことを遠野はしきりに勧誘してくるのだが、正直言って僕が戦力になるとは思えないし、お世辞にほかならないのは分かっている。

 分かっているのだが、余りにも本気の勧誘をしてくるので遠野が何を考えているのか、まったく持って分からなくなってくる。

 学校近くまで来ると同じ学年のサッカー部員が遠野の下によって来たので、何というか気まずい空気が漂い始めた。

 他クラスの男子で、お互い顔は見知っている。と思うのだが、よく話すとか仲がいいとかでは無かったから僕は自然と歩くペースを速めて遠野たちのグループから距離をおこうとしていた。

「どーこ行くんだよ。虎太郎。」

 遠野が僕のリュックに付いている持ち手を掴んで歩みを止めさせた。しかも結構強い力だったので反動で遠野の身体に軽くぶつかってしまった。

「遠野~こいつは?」

 遠野の周りにいたうちの一人が言った。

(あ、僕認識されてなかったんだ。)

「こいつは武田虎太郎。俺の親友だよ。」

 遠野がそう言うと取り巻きの人たちから冷たい視線が僕に向かって注がれる。友達が多い遠野だが、親友という単語は滅多に使わない。恐らく彼らはその事を知っていたのだろうか。

 ジロジロと舐め回すように見られていると、何だか動物園の折の中に閉じ込められているような気分になる。

 サッカー部員による検閲を受けた結果、特に害がないとみなされたのか、今度は彼らの態度が急に馴れ馴れしくなり、僕は朝から大変な目にあった。

 このとき絡まれたサッカー部の三人はそれぞれ身長の高い高瀬、平均くらいの布施、小さめの古瀬で3人とも違うクラスだ。

* * *

 遠野とサッカー部3人衆と別れて一人教室に向かう。朝から少し乱されてしまったけれど、ここからはいつもどおりの僕の生活が始まる。

 筈だったのだが、教室へ行くと僕の求めていた平穏は明後日の方向へ投げ捨てられることが確定したのだった。

 理由は僕の席に真田が座っていたから。

「お、おはよう。そ、そこ僕の席なんだけど……」

「知ってる。」

 怒っている?のだろうか。声のトーンは彼女らしからぬ低さで、僕の方を見ようともしない。

 どうしたものかと迷っていると真田はすくっといきなり立ち上がった。それから右手で僕の肩を掴むと言った。

「お願い!写真部に入って!」

 いつもどおりの真田らしい口調で僕に言う。普段の彼女に戻ったのはいいのだが、その代わりといってはアレだが先程から恐る恐る向けられていた視線がより多くなっていた。

「ちょっと待って、話が全然見えないだけど」

「昨日家に帰ったあとにブログを読んだの。そしたら何よ!何であんなに面白いのよ!」

 褒められてるんだか貶されてるんだか分からないな。まあきっと後者だろうけど…

 困惑する僕を置いて真田はさらに言葉を続ける。

「今ね、写真部が存続の危機なの!生徒会から6月までに一人でも部員を入れないと廃部って言われてるの!」

「一旦落ち着いて。そもそもなんでそんな状況になってるの?」

 僕が言うと真田はどこかバツが悪そうに言葉を濁して答えた。

「それはぁほら、に、人気がぁ、ないから?」

「でしょうね」

 僕は写真部が人気ないことを肯定したが、よく考えてみれば写真部には真田と一緒に部活ができるという特典がある。一部の男子相手ならいくらでも部員を稼げそうだ。

 僕が主張すると、そういう男子が実は苦手なこと、即戦力が必要なことなどを理由に却下された。

 とにかく僕を写真部に入れたい彼女は半ば無理やり入部届を書かせようとするも、流石に僕もそこまで馬鹿ではないので簡単に回避したが、流石に次の言葉には心が揺らいだ。

「写真部遠征って事にすれば、時間的にも費用的にもコスパよく城巡りできるんじゃない?」

 こんな口説き文句で心を揺るがせた僕は自分が情けなくなってきた。

「とにかく、今日の放課後仮入部ということで私に付き合うこと!」

 クラスメイトからの視線もあり、僕はこの強引な仮入部に対して首を縦に振るほか選択肢が無かった。
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