罠に嵌められた悪役令嬢は流刑先の辺境で聖女と讃えられる

まるぽろ

文字の大きさ
1 / 24

1-1

しおりを挟む
「『シェリィ・ベルナールにグランゼにて12年間の奉仕活動を命じる』──か。結局、陛下も性悪女の嘘を見抜けなかった訳ね」

 3日前、王の御前で秘密裏に行われた査問会。いじめ、脅迫、私刑、賄賂、淫行、読み上げられる身に覚えのない罪状の数々──その結果がこれ。

「シェリィ、なんでこんなことに……」

 お母様が私を責めるでもなくそう言って縋りついてくる。あれからずっと泣いているのだろう。赤く腫れたまぶたが罪悪感を抉り、胸がぐっと締め付けられる。

 でも、泣いてはダメだ。こうなる可能性が高いことは分かっていた。陛下までひっぱり出してくるとは想定していなかったが、こうなったきっかけはあの女の悪事をしたためた一通の訴状を送ったことだから。

「お母様、私は──」

「──黙りなさい!」

 お父様が通達書を握りつぶし、顔を真っ赤にしてがなり立てた。

 こんなに激昂しているのを見るのはいつ以来だろう。……陛下の御前で娘が非道な悪役令嬢だとされたらそれも当然か。

 御前ではほとんど発言を許されなかった。あの場で無理に発言し、不敬罪やら侮辱罪まで上乗せされることは避けなければならなかった。でも、お父様にはちゃんと話しておかないと。

「……黙りません。査問会でも釈明した通り、私は何一つしておりません。それらは神に仕えるにも関わらず、いつもやたらと胸を強調する服を着ているあの女がやったことです」

「シェリィ、穢れ無き聖女様に対して何たる言い草だ」

「穢れ無きとは? まさか、お父様もあの色ボケ女のことを信じた訳ではないですよね?」

「御前で純潔を示した聖女様に、よくもそのようなことを……」

 純潔を示したって……マザーアンナがスカートの中に潜り込んで処女膜を確かめるっていう、あのいかれたパフォーマンスのこと?

「あの場に肝を冷していた者がいたのも知らずに呑気なものですね。マザーアンナが検める際、おどおどと挙動不審な姿は滑稽でしたよ」

 それに、あの女が出したわざとらしい嬌声。明らかな演技に、ゲスな目を向けてにやつく男ときたら……。

「馬鹿なことを言うな。どこにそんな態度を取る理由がある」
 
「ありますよ。あの場にいた男の中には、『自分が聖女の純潔を散らした』と思っていた輩もいたのですから」

「純潔を確かめたマザーアンナのことも信じられないのか?」

 いやいや、むしろマザーアンナが一番信じられないって表情だったじゃない。

「マザーアンナのことは信じています。しかし、関係を持ったすぐ後に自慢の回復魔法で治しているとあの女が言っていたのですよ。それで皆が純潔を信じたと」 

「そんな秘密があったとして、なぜ聖女様がお前に言うのだ? わざわざそんな弱みを言う理由がどこにある」

 よく分からない自慢でマウントを取ってくる奴って意外といるのよ……って言ってもお父様には分からないわよね。

「あの馬鹿女は勝ち誇った顔をしていましたけど、後ろめたいことがあるものたちは疑心暗鬼に駆られていますよ。彼女と寝たのはなんだったのかとね」

 それに、査問会が開かれることになった以上、教会や国の広告塔である聖女に勝つことなど初めから期待していない。

「相手は聖女だぞ? あの場にいた要職にある貴族が手をだす訳がないだろう」

 ああもう、序列五位のくせに側室ももたないし、お母さま一筋のお父様はこれだから! 相手が聖女と呼ばれてる女だからこそ、危ない橋を渡ってでも関係を持ちたいって思う貴族なんてそこら中にいるのに。

「でもこの話が事実だとしたら? 国の要職に付いている方々が一人の女を取り合ったら、大変なことになると思わない?」

「聖女様が『傾国』だと?」

「その通りです。学園時代のちゃちな嫌がらせとは違い、最近は明らかに度を越しています。嫌な胸騒ぎが止まらないの」

「証拠はないのだろう」

「ありません」

 カメラかボスレコーダーでもあればいくらでも証拠は揃えられたけど、この世界にそんな便利なものはない。

 私の真意を探るように、お父様はじっと私の瞳をのぞき込んでくる。私が目を逸らさずに見つめ返していると、やがてお父様は首を横に振った。
 
「…………胸騒ぎで人は裁けん。ここでいくら話しても仕方のないことだ。シェリィ、明日の朝にはここを発ちなさい」

 やっぱり、なんの証拠もない私がいくら吠えても信じてはもらえないか。お父様は他人の悪口を言うのを嫌うから、見放されちゃったかな。

「今まで育てて頂いた御恩は生涯忘れません」

 肩を落として部屋を出ていく父の背中に、そう声をかけることしかできない自分に吐き気がする。いっそ、全てを打ち明けられたらいいのに。

「シェリィ……」

「お母様、心配しないで。私は大丈夫。それに、良かったじゃない」

「良かった?」

「あの様子だど、お父様はあの女の毒牙にかかっていないわ」

「馬鹿っ! 貴女は自分がこれからどんな辛い目に合うかわかってるの!?」

 軽口を叩く私の肩を掴み、お母様が赤く腫れ上がった目を剥いた。

「わかっていないわ。でも、ちょっとだけ楽しみなの。私、小さい頃は幼稚園──いえ、孤児院のシスターになりたかったのよ。グランゼの文化省支部には孤児院が隣にあるんですって」
 
 お父様が政務次官を任されている文化省。その辺境支部に娘の私が送られるなんて思ってもみなかった。お父様はこれからどんな気持ちでグランゼからの報告書を読むんだろうか。

「シェリィ……12年、12年も辺境の地にいなければならないのよ? そしたらあなた30になっちゃうじゃない」

 12年……そういえば、妙に罰が軽い。あの罪状なら投獄や姓を取り上げて放逐するとか、もっと重い罰が妥当なはず。つまりは……陛下もあの女の全てを信じた訳ではない?

「何を笑ってるの!」

「少しだけ希望を持ってもいいのかと思って」

 それに、これは私が待ち焦がれた王都の外に出る機会でもあった。

「迷惑をかけてばかりでごめんなさい」

 そういう意味では、私は賭けに勝った──これから家族にかかる多大な迷惑というチップと引き換えに。それでも、私は外に出て何かを成さなければならなかった。
 
 それが、私に『祝福』というギフトをくれた女神様との約束だったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

年の差にも悪意がみなぎりすぎでは????

頭フェアリータイプ
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢?に転生した主人公。でもこんな分かりやすい状況でおとなしく嵌められるはずもなく。。。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...