4 / 24
1-4
しおりを挟む
いったい何なの? 白卑兎って、白くてふわふわの可愛らしい姿だし、悪い面だと食欲と性欲が旺盛で食肉用に繁殖されてることくらいだったはずだけど……。いや、そうであってもプリシアにとっては何か特別な意味を持つ言葉なんだろう。
なおも私を威嚇するかのように息を荒げているプリシアに、私は頭を下げた。どういう意味を持つのかは分からないけど、私が悪いのは確かだ。
「……ごめんなさい、確かに今のは私が悪かった。初めて口に出したけれど、もう二度と言わないと誓うわ」
「……え?」
「何? もういいでしょ? 貴方が騒いだせいで、殿下が心配そうにしているわよ?」
プリシアがはっとした表情になったのも一瞬のこと。殿下の方へ視線を向け、すぐににこやかな笑顔を作れる演技力の高さには感嘆する。
笑顔を張り付けたまま動こうとしない彼女を放置し、ルゥとパステルの元へと向かう。何か戸惑っている様子の殿下が、呼びかけに答えない彼女の元へと駆け寄っていった。
「どうだった?」
「ああ、問題なく聞こえた。殿下にもそのままの内容を伝えはしたが、半信半疑と言ったところだ」
「ルゥのものまねは傑作だったにゃ!」
ルゥは私のアイコンタクトの意味を正確に理解してくれていた。信じてくれるかどうかは殿下次第だけど、ほんの少し警戒してくれるだけでも構わない。
「しかし、あれがお嬢が危険視する聖女か? 安い嫉妬ばかりで大事を成せる者にはみえなかったが」
「いじめっ子のガキんちょにしか見えないにゃ」
私が黙り込んでいると、二人がプリシアをそう評した。
「私もそう思っていたわ。でも、彼女が聖女の職業を授かって以来、彼女を見るたびに胸騒ぎがするし、それは年を追うごとに強まっているの。それに、彼女は自分の欲のためなら何でもする。平然と自分の体を差し出し、他人を陥れることを躊躇わない。私はそんな彼女が……とても恐ろしく感じる」
それに、さっきの表情が頭にこびりついて離れない。いったい、どれが本当の彼女なんだろう。少なくとも聖女になる前までは、平気で人を傷つけるような子ではなかった。祭事で一緒になったときは、楽しくおしゃべりしたりしたこともある。
角馬に上り、彼女の方を見る。こちらを見つめるプリシアの瞳にどんな感情が込められているか、私にはわからなかった。
(……お嬢、……お嬢)
……誰かが私を呼んでる?
「お嬢! 手綱を引け!」
遠くから聞こえていると思った声が突然耳元で聞こえ、はっとした私は言われるがままに手綱を引いた。ルゥとパステルの二人も手綱を引き、速度を落とした私の横に並ぶ。
「もう一時間近く駈歩で駆け通しだ。そろそろ休ませないといくら角馬でも潰れてしまう」
「……ごめんなさい。ぼんやりしてた」
「もう少し行けば小川があるから、そこで昼ご飯でも食べようにゃ~。私たちが準備するからお嬢は休んでていいにゃ」
「パステル、ありがとう」
パステルが示したほうには石造りの橋が小さく見えていた。並足で10分ほど進めば、 小川のせせらぎが聞こえ始める。ふと後ろを振り返る。目に映るのは街道、草原に森。いつのまにか王都の城壁すら見えなくなっていた。
「落ち着いたか?」
「うん。ルゥもありがとう」
小川に着き、角馬たちを放す。よほど喉が乾いていたのだろう、彼らは川原へ走っていきごくごくと水を飲み始めた。
無理させちゃったかな。そうだ、あれを少しあげよう。背負っていた革袋から巾着を取り出し、中から薄茶色の塊を3つほど選ぶ。
前世の白い砂糖とは違い、この世界で砂糖と言えば、この塊のような黒砂糖に重石を載せて蜜を絞り出した薄茶色のもの。それでも割と高価なんだけど、いっぱい走ってくれたからいいよね。
「ベッセル、ルシーナ、オルフェ」
名前を呼ぶと、三頭は水を飲むのを止めてこちらに寄ってきた。私が騎乗していたベッセルは、くりくりっとした目が可愛い芦毛の雌、ルゥのは青鹿毛で凛とした雌のルシーナ、パステルのが栗毛でイケメンのオルフェ。
一頭一頭撫でながらお礼を言い、砂糖の塊をあげると、ぶるるっと嘶き頭を私にこすりつけてくれた。草をはみ始めた三頭をしばらく眺めてから振り返れば、ルゥとパステルの顔が目の前にあった。
「えっと、二人も食べる?」
高速で首を縦に振る二人。大きく開いたパステルの口に角砂糖くらいの塊を入れると、彼女は緩む頬を両手で押さえ、嬉しそうに飛び跳ね始める。ルゥの方を見れば、彼もまた大きな口をこれでもかというほど広げて待っていた。
ルゥの口と自分の口に砂糖を放り込む。少し癖のある香りとコクのある優しい甘みが広がる。口の中で転がせば、砂糖と一緒に私の不安もほろほろと溶けていくような気がした。
グランゼまでは大型馬車で30日ほど、ベッセルたちの足なら十日と少しで辿り着ける。
なおも私を威嚇するかのように息を荒げているプリシアに、私は頭を下げた。どういう意味を持つのかは分からないけど、私が悪いのは確かだ。
「……ごめんなさい、確かに今のは私が悪かった。初めて口に出したけれど、もう二度と言わないと誓うわ」
「……え?」
「何? もういいでしょ? 貴方が騒いだせいで、殿下が心配そうにしているわよ?」
プリシアがはっとした表情になったのも一瞬のこと。殿下の方へ視線を向け、すぐににこやかな笑顔を作れる演技力の高さには感嘆する。
笑顔を張り付けたまま動こうとしない彼女を放置し、ルゥとパステルの元へと向かう。何か戸惑っている様子の殿下が、呼びかけに答えない彼女の元へと駆け寄っていった。
「どうだった?」
「ああ、問題なく聞こえた。殿下にもそのままの内容を伝えはしたが、半信半疑と言ったところだ」
「ルゥのものまねは傑作だったにゃ!」
ルゥは私のアイコンタクトの意味を正確に理解してくれていた。信じてくれるかどうかは殿下次第だけど、ほんの少し警戒してくれるだけでも構わない。
「しかし、あれがお嬢が危険視する聖女か? 安い嫉妬ばかりで大事を成せる者にはみえなかったが」
「いじめっ子のガキんちょにしか見えないにゃ」
私が黙り込んでいると、二人がプリシアをそう評した。
「私もそう思っていたわ。でも、彼女が聖女の職業を授かって以来、彼女を見るたびに胸騒ぎがするし、それは年を追うごとに強まっているの。それに、彼女は自分の欲のためなら何でもする。平然と自分の体を差し出し、他人を陥れることを躊躇わない。私はそんな彼女が……とても恐ろしく感じる」
それに、さっきの表情が頭にこびりついて離れない。いったい、どれが本当の彼女なんだろう。少なくとも聖女になる前までは、平気で人を傷つけるような子ではなかった。祭事で一緒になったときは、楽しくおしゃべりしたりしたこともある。
角馬に上り、彼女の方を見る。こちらを見つめるプリシアの瞳にどんな感情が込められているか、私にはわからなかった。
(……お嬢、……お嬢)
……誰かが私を呼んでる?
「お嬢! 手綱を引け!」
遠くから聞こえていると思った声が突然耳元で聞こえ、はっとした私は言われるがままに手綱を引いた。ルゥとパステルの二人も手綱を引き、速度を落とした私の横に並ぶ。
「もう一時間近く駈歩で駆け通しだ。そろそろ休ませないといくら角馬でも潰れてしまう」
「……ごめんなさい。ぼんやりしてた」
「もう少し行けば小川があるから、そこで昼ご飯でも食べようにゃ~。私たちが準備するからお嬢は休んでていいにゃ」
「パステル、ありがとう」
パステルが示したほうには石造りの橋が小さく見えていた。並足で10分ほど進めば、 小川のせせらぎが聞こえ始める。ふと後ろを振り返る。目に映るのは街道、草原に森。いつのまにか王都の城壁すら見えなくなっていた。
「落ち着いたか?」
「うん。ルゥもありがとう」
小川に着き、角馬たちを放す。よほど喉が乾いていたのだろう、彼らは川原へ走っていきごくごくと水を飲み始めた。
無理させちゃったかな。そうだ、あれを少しあげよう。背負っていた革袋から巾着を取り出し、中から薄茶色の塊を3つほど選ぶ。
前世の白い砂糖とは違い、この世界で砂糖と言えば、この塊のような黒砂糖に重石を載せて蜜を絞り出した薄茶色のもの。それでも割と高価なんだけど、いっぱい走ってくれたからいいよね。
「ベッセル、ルシーナ、オルフェ」
名前を呼ぶと、三頭は水を飲むのを止めてこちらに寄ってきた。私が騎乗していたベッセルは、くりくりっとした目が可愛い芦毛の雌、ルゥのは青鹿毛で凛とした雌のルシーナ、パステルのが栗毛でイケメンのオルフェ。
一頭一頭撫でながらお礼を言い、砂糖の塊をあげると、ぶるるっと嘶き頭を私にこすりつけてくれた。草をはみ始めた三頭をしばらく眺めてから振り返れば、ルゥとパステルの顔が目の前にあった。
「えっと、二人も食べる?」
高速で首を縦に振る二人。大きく開いたパステルの口に角砂糖くらいの塊を入れると、彼女は緩む頬を両手で押さえ、嬉しそうに飛び跳ね始める。ルゥの方を見れば、彼もまた大きな口をこれでもかというほど広げて待っていた。
ルゥの口と自分の口に砂糖を放り込む。少し癖のある香りとコクのある優しい甘みが広がる。口の中で転がせば、砂糖と一緒に私の不安もほろほろと溶けていくような気がした。
グランゼまでは大型馬車で30日ほど、ベッセルたちの足なら十日と少しで辿り着ける。
0
あなたにおすすめの小説
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く
腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」
――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。
癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。
居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。
しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。
小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる