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私たちは角馬の背に乗り、屋敷を出る。幼いころから、お父様が招待された様々な催事に参加してきたため、ここには顔見知りがたくさんいる。その皆に浮かない顔は見せられない。胸を張って、堂々と行こう。
掛けられた声に答え、挨拶をかわしながら、ルゥとパステルの二人を左右に伴って王都の主要道路を進む。何事もなく進み、私たちは王都の外へと出ることができた私は、ほっと息を吐く。そんな私の肩を、ルゥとパステルがぽんと叩いてくれたのが少し誇らしかった。
春の陽気の中、角馬の背に乗った私たちが街道を進んでいると、ルゥが鼻をすんすんと鳴らし、パステルが耳をぴくぴくと動かして振り返る。
「お嬢、後ろから騎馬隊が来る」
「鎧の音もするにゃ」
まさか追っ手? いや、こんな王都の目と鼻の先で刺客っていうのは考えすぎだとは思うけど、何だろうか。
私たちは手綱を引いて止まり、王都の方を見つめる。しばらく待っていると、白馬に跨ったきらびやかな衣服を着た金髪の男性と、白いローブのフードを目深にかぶった女性らしき者を先頭に十騎ほどの騎士たちがこちらへ向かって来るのが見えた。
「あれは……殿下?」
殿下がいるということは、もう一人の女はまさか……。
嫌な予感を感じつつも街道の脇に馬を寄せて下馬し、片膝をついて頭を垂れた。騎馬隊の多くは少し手前で停止し、すぐそばまで近づいてきた二騎から二名が下りてきたのが気配で分かる。
「驚かせてすまない。どうしても一言挨拶をしたいと言ってね。顔を上げてくれないか」
顔を上げた私の目の前にいたのは、この国の王太子であるハーヴィル殿下だった。査問会のことを知っているのだろう、殿下はやや胡乱気な目つきで私のことを見ている。その横にいたのは、プリシア──私を罠に嵌めた聖女その人──だった。
「少しでいいから話をしたかったの……」
プリシアはそう言って、街道から外れた平原を視線で示した。ルゥの方をちらりと見ると、彼は私のアイコンタクトを理解した様子で僅かに頷く。
しゃなりしゃなりと歩くプリシアの後を追い、ある程度進んだところで彼女の背中に声をかける。
「このあたりでいいでしょう。いったい何の用?」
「私は、王都を去る幼馴染に別れを告げたくて……」
「プリシア、いつもの口調はどうしたの?」
私がそう言うと、彼女は穏やかそうに微笑んでいた表情を歪め、口角を上げて笑う。
「せっかく、感動のシーンにしようとしてたのにー。くふふ、ねえ? 今どんな気持ち? 悔しい? 悲しい?」
他人を苛つかせる口調と鼻にかかる声。これが、私の前でみせる彼女の姿。
「いいえ。あなたは?」
「私? とっても幸せ! ようやく目の上のたんこぶがいなくなるんですもの!」
「そんなに嫌われること、貴方に何かしたかしたかしら?」
「んー、何もかも? まずはその澄ました顔!」
「生まれつきね」
そもそも、私が無表情になるのは貴方の前くらいだから。
「何でも分かってますーみたいな態度!」
「分からないことだらけよ」
特に貴方のことは全く理解できない。
「学園での成績も! 貴方のせいで、私は一度も一位を取れなかった!」
「努力したもの。それに私は三番以内をキープできていただけで、いつも一番という訳じゃなかったわよ?」
「それでも私が一番になれなかったのは貴方のせいなの!」
「そんなことを言われても……」
ここまで来るとただの言いがかりだ。そういえば、彼女はいつもこの調子で、他人の成果を妬んでいた。
「それに、聖女の私には及ばないけど、それなりの回復魔術が使えるのも!」
「回復魔術に関しては貴方が勝ってるんだからいいじゃない」
「回復魔術は断トツじゃないと嫌なの! 大体、おかしいでしょ!? たかが白魔導士の癖に!」
「それも努力したもの。職業を授かってから毎日、魔力が空になる寸前まで練習したわ。貴方は努力したの?」
しているわけがない。大した努力もせずに強力な回復魔術が使えるほうがおかしいとは思わないのかしら。
「うるさい! 下級貴族たちに気軽に声をかける八方美人なとこも嫌い!」
「王族や公族を含め、親の身分に関わらず交流を深めるように言われたでしょう。それが王国の結束に繋がると」
身分が高かったり、裕福な領地を持っていたりする貴族の子どもたちばかりに擦り寄る貴方の方がどうなのよ。
「うるさいうるさい! あ! 貴方、陰でなんて呼ばれてるから知ってる?」
「いいえ。知らないわ」
「くふふ、気になる? 知りたい?」
「そうね。気になるわ」
「えー、どうしよっかなー。傷ついたりしない? 泣いちゃったりしない?」
「ええ。安心して。貴方の言葉で泣いたりなんてしないわ」
「くふふっ、強がっちゃってー。お目々が赤くなってるよー?」
はあ……心底鬱陶しい。プリシアと話していると、頭が痛くなる。さっきまでの決意が台無しになった気がする。
「それで、言うの? 言わないの?」
「くふふ、似非聖女ですって! いくら頑張っても貴方は聖女にはなれない。所詮偽物なの!」
「あら、いい渾名じゃない」
「はあ? 偽物なのに?」
「まがい物にしろ、私のやってきたことを善だと思っていたんでしょう? そういえば、貴方にも渾名があったわね。確か……白卑兎だったかし──」
「──その呼び方で私を呼ぶな!!」
聖女然とした表情とも、さきほどまでの意地の悪そうなにやついた表情とも違う、鬼気迫る表情で目を剥いて凄むプリシアに、私は面を食らってしまっていた。
掛けられた声に答え、挨拶をかわしながら、ルゥとパステルの二人を左右に伴って王都の主要道路を進む。何事もなく進み、私たちは王都の外へと出ることができた私は、ほっと息を吐く。そんな私の肩を、ルゥとパステルがぽんと叩いてくれたのが少し誇らしかった。
春の陽気の中、角馬の背に乗った私たちが街道を進んでいると、ルゥが鼻をすんすんと鳴らし、パステルが耳をぴくぴくと動かして振り返る。
「お嬢、後ろから騎馬隊が来る」
「鎧の音もするにゃ」
まさか追っ手? いや、こんな王都の目と鼻の先で刺客っていうのは考えすぎだとは思うけど、何だろうか。
私たちは手綱を引いて止まり、王都の方を見つめる。しばらく待っていると、白馬に跨ったきらびやかな衣服を着た金髪の男性と、白いローブのフードを目深にかぶった女性らしき者を先頭に十騎ほどの騎士たちがこちらへ向かって来るのが見えた。
「あれは……殿下?」
殿下がいるということは、もう一人の女はまさか……。
嫌な予感を感じつつも街道の脇に馬を寄せて下馬し、片膝をついて頭を垂れた。騎馬隊の多くは少し手前で停止し、すぐそばまで近づいてきた二騎から二名が下りてきたのが気配で分かる。
「驚かせてすまない。どうしても一言挨拶をしたいと言ってね。顔を上げてくれないか」
顔を上げた私の目の前にいたのは、この国の王太子であるハーヴィル殿下だった。査問会のことを知っているのだろう、殿下はやや胡乱気な目つきで私のことを見ている。その横にいたのは、プリシア──私を罠に嵌めた聖女その人──だった。
「少しでいいから話をしたかったの……」
プリシアはそう言って、街道から外れた平原を視線で示した。ルゥの方をちらりと見ると、彼は私のアイコンタクトを理解した様子で僅かに頷く。
しゃなりしゃなりと歩くプリシアの後を追い、ある程度進んだところで彼女の背中に声をかける。
「このあたりでいいでしょう。いったい何の用?」
「私は、王都を去る幼馴染に別れを告げたくて……」
「プリシア、いつもの口調はどうしたの?」
私がそう言うと、彼女は穏やかそうに微笑んでいた表情を歪め、口角を上げて笑う。
「せっかく、感動のシーンにしようとしてたのにー。くふふ、ねえ? 今どんな気持ち? 悔しい? 悲しい?」
他人を苛つかせる口調と鼻にかかる声。これが、私の前でみせる彼女の姿。
「いいえ。あなたは?」
「私? とっても幸せ! ようやく目の上のたんこぶがいなくなるんですもの!」
「そんなに嫌われること、貴方に何かしたかしたかしら?」
「んー、何もかも? まずはその澄ました顔!」
「生まれつきね」
そもそも、私が無表情になるのは貴方の前くらいだから。
「何でも分かってますーみたいな態度!」
「分からないことだらけよ」
特に貴方のことは全く理解できない。
「学園での成績も! 貴方のせいで、私は一度も一位を取れなかった!」
「努力したもの。それに私は三番以内をキープできていただけで、いつも一番という訳じゃなかったわよ?」
「それでも私が一番になれなかったのは貴方のせいなの!」
「そんなことを言われても……」
ここまで来るとただの言いがかりだ。そういえば、彼女はいつもこの調子で、他人の成果を妬んでいた。
「それに、聖女の私には及ばないけど、それなりの回復魔術が使えるのも!」
「回復魔術に関しては貴方が勝ってるんだからいいじゃない」
「回復魔術は断トツじゃないと嫌なの! 大体、おかしいでしょ!? たかが白魔導士の癖に!」
「それも努力したもの。職業を授かってから毎日、魔力が空になる寸前まで練習したわ。貴方は努力したの?」
しているわけがない。大した努力もせずに強力な回復魔術が使えるほうがおかしいとは思わないのかしら。
「うるさい! 下級貴族たちに気軽に声をかける八方美人なとこも嫌い!」
「王族や公族を含め、親の身分に関わらず交流を深めるように言われたでしょう。それが王国の結束に繋がると」
身分が高かったり、裕福な領地を持っていたりする貴族の子どもたちばかりに擦り寄る貴方の方がどうなのよ。
「うるさいうるさい! あ! 貴方、陰でなんて呼ばれてるから知ってる?」
「いいえ。知らないわ」
「くふふ、気になる? 知りたい?」
「そうね。気になるわ」
「えー、どうしよっかなー。傷ついたりしない? 泣いちゃったりしない?」
「ええ。安心して。貴方の言葉で泣いたりなんてしないわ」
「くふふっ、強がっちゃってー。お目々が赤くなってるよー?」
はあ……心底鬱陶しい。プリシアと話していると、頭が痛くなる。さっきまでの決意が台無しになった気がする。
「それで、言うの? 言わないの?」
「くふふ、似非聖女ですって! いくら頑張っても貴方は聖女にはなれない。所詮偽物なの!」
「あら、いい渾名じゃない」
「はあ? 偽物なのに?」
「まがい物にしろ、私のやってきたことを善だと思っていたんでしょう? そういえば、貴方にも渾名があったわね。確か……白卑兎だったかし──」
「──その呼び方で私を呼ぶな!!」
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