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「攫うってそんなことできる訳が……」
ちょっと待って……案外良いかもしれない。ノア君にとって一番必要なのは、虐待の加害者である家族から離れること。
彼が本来の職業を授かって村の誰かに預けたとしても、500人ほどしかいない狭い村の中ではどうしても顔を合わせてしまう。攫うというのはできないけど……。
「ノア君、私の従者見習いにならない?」
「……従者見習い?」
予想外だったのだろう、虚ろな表情のままノア君は目をぱちぱちとさせた。私もこんなことを言うことになるとは思ってもみなかったよ。
「従者見習いは、雇い主から衣食住を保証された状態で社会勉強をしたり、訓練を積んだりするの。ただし、一人前になるまでは、給金が払われないわ」
「うちの連中が許すとは思えません……」
ノア君は肩を落としてそう言った。せっかく目に灯った光が再び消えかけている。こんな子供に、親や家族を『うちの連中』なんて呼ばせ方をさせるくらい酷い目に合わせる家族っていったい何なの? ともかく、ノア君を説得する機会は今しかない。
「そうね。従者見習いになるのは、その家の家業とは関係ない職業を授かった子だけれど、働き手を手放したりはしないわよね。だから、雇い主側が支度金という名目でお金を支払うの」
「お嬢、父君から預かった資金を使うといい」
ルゥはそう言って、背負っていた革袋を降ろそうとした。だけど、そのお金を当てにしてはダメなことくらいは分かる。
「ルゥ、ありがとう。でも、それはルゥとパステルのお金よ。治療院を手伝っていただいたお金を貯めていたから大丈夫」
ルゥ君の方に視線を戻すと、彼は俯いたまま絞り出すようにか細い声を出した。
「でもそんな大事なお金を……」
積もり積もった大人たちへの不信感はそう簡単に拭えないよね。会ったばかりの私たちを信用できないのは仕方がない。ノア君はできない理由を並び立てているけれど、私には助けて欲しいと叫んでるように聞こえる。
「お金なんてまた稼げばいいの。でも、私がノア君を助けられるチャンスは今しかない。あなたを助けられるのなら、全く惜しくないわ」
「……本当にここから連れ出してくれるの?」
「ええ」
「……僕の職業が使えないものでも捨てたりしない?」
「そんなことしないわ。それに私たちの暮らしは、様々な仕事をする人がいて成り立っているの。役に立たない職業なんてないのよ」
できない理由なんて全部否定してみせる。私はそう決意しながらノア君に一歩近付いた。彼は顔を上げ、びくりと体を震わせる。彼を怖がらせないように、ゆっくり一歩ずつ近付いていく。ロザリオを取り出した手を近づけると、彼は再び体を震わせ目をぎゅっと閉じてしまった。
……差し出された手が怖いのは、殴られた経験があるからだよね。
「大丈夫。怖くないわ。私は、あなたをぶったりなんて絶対にしない」
ロザリオをポケットにしまい、彼を優しく抱きしめた。私の腕の中で、ノア君は細い身体を震わせている。あなたが最後に抱きしめられたのはいつ? 頭を撫でられたのは?
「……服が汚れちゃう」
「大丈夫、汚れたら洗えばいいだけよ」
「僕の頭に魔導具を当てればいいだけじゃ……」
「このロザリオはね。あなたが受け入れてくれないと上手く働かないの。だから心を落ち着けて、ノア君の気持ちを教えて?」
お父様やお母様がしてくれたように、嬉しかったことは全部してあげよう。叱るときは愛情をもって叱り飛ばしてあげよう。ルゥやパステルと一緒に、この子に家族の愛情を伝えたい。
だからお願い。意思を示して。
「……助けて」
とても小さなか細い声。だけど、彼は確かに自分の意思を示してくれた。私を頼ってくれた。
「ありがとう。絶対にあなたを助けてみせる」
そっとロザリオを取り出し、ノア君の頭に当てる。彼は身体をびくりと震わせたが、少し待っているとそれは淡く青白い光を放ち始めた。
「やはりあなたは職業を授かっていないわ。このまま儀式をしてもいい?」
腕の中でこくこくと頷くノア君の背中を優しく撫でる。身体の震えも少し治まってきた。
「いい子。ノア君が信仰している神様は?」
「……いません」
「では、アナスタシア様……いえ、ギルバルト様に祈りを捧げましょう。彼は人神でありながら、レオニウス様の軍師であり、親友でもあるのよ。ちょうど、あなたとベアト君のようにね」
ノア君は顔を動かしてベアト君の方を向き、ベアト君は照れくさそうに笑って力強く頷いた。ベアト君がいてくれてよかった。私だけじゃ、きっと彼は心を開いてくれなかった。
「時は来たれり。神から授けられ、ノアの内に秘められし力よ目覚めたまえ。【開眼】」
再度私の方に顔を動かしたノア君に、ロザリオを通して魔力を送り込んだ瞬間──ぐんっと引っ張れるように、大量の魔力が吸い込まれ始めた。
えっ……!?
ちょっと待って……案外良いかもしれない。ノア君にとって一番必要なのは、虐待の加害者である家族から離れること。
彼が本来の職業を授かって村の誰かに預けたとしても、500人ほどしかいない狭い村の中ではどうしても顔を合わせてしまう。攫うというのはできないけど……。
「ノア君、私の従者見習いにならない?」
「……従者見習い?」
予想外だったのだろう、虚ろな表情のままノア君は目をぱちぱちとさせた。私もこんなことを言うことになるとは思ってもみなかったよ。
「従者見習いは、雇い主から衣食住を保証された状態で社会勉強をしたり、訓練を積んだりするの。ただし、一人前になるまでは、給金が払われないわ」
「うちの連中が許すとは思えません……」
ノア君は肩を落としてそう言った。せっかく目に灯った光が再び消えかけている。こんな子供に、親や家族を『うちの連中』なんて呼ばせ方をさせるくらい酷い目に合わせる家族っていったい何なの? ともかく、ノア君を説得する機会は今しかない。
「そうね。従者見習いになるのは、その家の家業とは関係ない職業を授かった子だけれど、働き手を手放したりはしないわよね。だから、雇い主側が支度金という名目でお金を支払うの」
「お嬢、父君から預かった資金を使うといい」
ルゥはそう言って、背負っていた革袋を降ろそうとした。だけど、そのお金を当てにしてはダメなことくらいは分かる。
「ルゥ、ありがとう。でも、それはルゥとパステルのお金よ。治療院を手伝っていただいたお金を貯めていたから大丈夫」
ルゥ君の方に視線を戻すと、彼は俯いたまま絞り出すようにか細い声を出した。
「でもそんな大事なお金を……」
積もり積もった大人たちへの不信感はそう簡単に拭えないよね。会ったばかりの私たちを信用できないのは仕方がない。ノア君はできない理由を並び立てているけれど、私には助けて欲しいと叫んでるように聞こえる。
「お金なんてまた稼げばいいの。でも、私がノア君を助けられるチャンスは今しかない。あなたを助けられるのなら、全く惜しくないわ」
「……本当にここから連れ出してくれるの?」
「ええ」
「……僕の職業が使えないものでも捨てたりしない?」
「そんなことしないわ。それに私たちの暮らしは、様々な仕事をする人がいて成り立っているの。役に立たない職業なんてないのよ」
できない理由なんて全部否定してみせる。私はそう決意しながらノア君に一歩近付いた。彼は顔を上げ、びくりと体を震わせる。彼を怖がらせないように、ゆっくり一歩ずつ近付いていく。ロザリオを取り出した手を近づけると、彼は再び体を震わせ目をぎゅっと閉じてしまった。
……差し出された手が怖いのは、殴られた経験があるからだよね。
「大丈夫。怖くないわ。私は、あなたをぶったりなんて絶対にしない」
ロザリオをポケットにしまい、彼を優しく抱きしめた。私の腕の中で、ノア君は細い身体を震わせている。あなたが最後に抱きしめられたのはいつ? 頭を撫でられたのは?
「……服が汚れちゃう」
「大丈夫、汚れたら洗えばいいだけよ」
「僕の頭に魔導具を当てればいいだけじゃ……」
「このロザリオはね。あなたが受け入れてくれないと上手く働かないの。だから心を落ち着けて、ノア君の気持ちを教えて?」
お父様やお母様がしてくれたように、嬉しかったことは全部してあげよう。叱るときは愛情をもって叱り飛ばしてあげよう。ルゥやパステルと一緒に、この子に家族の愛情を伝えたい。
だからお願い。意思を示して。
「……助けて」
とても小さなか細い声。だけど、彼は確かに自分の意思を示してくれた。私を頼ってくれた。
「ありがとう。絶対にあなたを助けてみせる」
そっとロザリオを取り出し、ノア君の頭に当てる。彼は身体をびくりと震わせたが、少し待っているとそれは淡く青白い光を放ち始めた。
「やはりあなたは職業を授かっていないわ。このまま儀式をしてもいい?」
腕の中でこくこくと頷くノア君の背中を優しく撫でる。身体の震えも少し治まってきた。
「いい子。ノア君が信仰している神様は?」
「……いません」
「では、アナスタシア様……いえ、ギルバルト様に祈りを捧げましょう。彼は人神でありながら、レオニウス様の軍師であり、親友でもあるのよ。ちょうど、あなたとベアト君のようにね」
ノア君は顔を動かしてベアト君の方を向き、ベアト君は照れくさそうに笑って力強く頷いた。ベアト君がいてくれてよかった。私だけじゃ、きっと彼は心を開いてくれなかった。
「時は来たれり。神から授けられ、ノアの内に秘められし力よ目覚めたまえ。【開眼】」
再度私の方に顔を動かしたノア君に、ロザリオを通して魔力を送り込んだ瞬間──ぐんっと引っ張れるように、大量の魔力が吸い込まれ始めた。
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