罠に嵌められた悪役令嬢は流刑先の辺境で聖女と讃えられる

まるぽろ

文字の大きさ
14 / 24

1-14

しおりを挟む
 ぼろぼろの衣服の隙間から見える、痣だらけで痩せぎすの白い身体。ぽっこり膨らんだお腹が、むしろ悲痛さを際立たせている。
 元々の色を失ったのか、髪はくすんだ銀。窪んだ眼窩から覗いている、全てを諦めているかのような金の瞳は生気がなく、私の心を締め付けた。

 いったい、どんなひどい目にあえばこんな姿に……。
「……ノア君、あなたの職業についてベアト君から聞いたの。少しだけでいいから、お話できないかな?」
 彼は無言で首を横に振り、虚ろな目で私を見つめる。誰も信用していない、そんな悲しい瞳。
「ノア、ごめん。俺、居ても立っても居られなくて……」
 ここまで案内してくれていたベアト君が、ノア君に駆け寄った。彼はバツの悪そうな顔で、ノア君の顔色を窺っている。

「……ベアト」

「あんな顔するから、お前が死んじゃうんじゃないかって」

 私たちに貸し与えられた家に来たとき、彼はひどく取り乱していた。友達の様子がいつもと違う、俺が職業を授かったからなどとまくし立てる彼の様子で、ただ事ではないことだけは分かっていた。でも、こんなのってあんまりだ。

「僕にそんな勇気なんてないよ」

「でも……」

 冷たい言い方をするノア君だけれど、ベアト君の姿を見たときから明らかに雰囲気が変わってる。
 全てを拒絶するかのようなノア君の暗い瞳に、蝋燭の光のように頼りないけれど、ほのかな光が灯ったような感じがする。
「……わかったよ。それで、僕の職業のことでしたね」

 浅くため息をついたノア君は諦めた様子で私の方に向き直った。ベアト君のおかげで、スタート地点には立てた。後は、私ががんばらないと。

「ええ」

「五年前に授かった職業は【農民】、恩恵はありません」

 【農民】、最も数が多い職業で重宝される職業だ。植物の声が聞こえる彼らのおかげで、この世界は不作がかなり少ない。

「話してくれてありがとう。ノア君は作物の声が聞こえないと聞いたのだけれど」

「ええ。これっぽちも聞こえません」

 そんなことあり得るのだろうか。確かに恩恵には個人差がある。でも、まったく聞こえないというのは今まで聞いたことがない。

「あなたが儀式を受けたとき、他の子たちは職業を発現したの?」

「もちろん」

 ということは、少なくとも神官や魔導具は本物か。

「……儀式で何か気になることはなかった?」

「特に何も」

「どんな小さなことでもいいの。例えば、魔導具は光っていた?」

「光っていました。ベアトは光らなくて、まだ早いって言われたのを覚えています」

「そうそう。あんときは、親父もまだ何も言わずに儀式を受けさせてくれそうだったのにさ」

 ベアト君の方が少し年下なんだ。栄養不良のためだろう、ノア君の方がかなり幼く見える。それよりも、魔導具は正しく機能している。ではなぜ……。

「他に何かないかしら」

「ん~、疲れてたみたいで神官様の顔色が悪かったくらいかな。急いでいたところを無理やりお願したみたいで、儀式が終わると祭りにも参加せずに帰ったって親父が言ってたよ」

 ベアト君が何気なく言った言葉に、私は引っ掛かりを覚えた。……顔色が悪い?

「ノア君が儀式を受けた順番って覚えてる?」

「あの日は俺と夜遅くまで話してて寝坊したから、ノアが最後だったよな?」

「そうだったね」

 ベアト君は確認するように話を振り、ノア君はこくりと頷いた。恩恵がないノア君、顔色が悪い神官、順番……。そして、この儀式は魔力の要求量が多い。顔色の悪さは……魔力切れの症状? だとすると……。

「……ノア君は本当に職業を授かったのかな?」

 ノア君の分の儀式に必要な魔力が足りなかった。こう考えると、全てのつじつまが合う。

「確かめてみない?」

 そう言いながらロザリオを取り出そうとした私に掛けられたのは、予想もしていなかった言葉だった。

「いいえ。必要ありません」

 またこの目、拒絶するかのような虚ろな瞳。……私は何か間違った?

「なんでだよ!」

「さっき僕が聞いた質問、覚えてる?」

 叫んだベアト君にノア君が冷ややかな視線を向けると、ベアト君は言葉に詰まり黙り込んでしまった。

「……ベアト君に何を聞いたの?」

 彼が抱えている問題は何?

「僕が職業を授かったからといって、何年間も酷いことをしてきた人たちと元の関係に戻れると思いますか?」

 はっとした。言われて初めて気が付いた。彼の問題は、もはや職業がどうこうという問題ではなかった。家族と五年間虐げられてきた子という関係が、綺麗に元通りになるなんて思えない。

「それは……難しいでしょうね」

「でしょ。恩恵が戻ったからといって、職業を授かったからといって、解決なんかしない。むしろ、できることが増えれば、やらされることが増えるんですよ。どうせ搾取されるなら、できることなんて増えなくていいんです」

 彼の言葉が胸に突き刺さる。意気揚々と首を突っ込んでおいてこの様、彼に苦しい思いをさせてしまっただけだ。結局、私には何もできないの?

 かける言葉が見つからず、家族や村にどう説明すればいいのか、どうすれば彼が搾取されずに生活できるのか考えていたとき、背後からパステルののんびりした声がかけられた。

「お嬢、簡単な解決策があるにゃ。そのノアって子を攫えばいいにゃ」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...