罠に嵌められた悪役令嬢は流刑先の辺境で聖女と讃えられる

まるぽろ

文字の大きさ
19 / 24

1-19

しおりを挟む
 その後、私たちは来年の春にまた来ることを約束し、村長宅を辞した。預かってもらっていたベッセルたちに跨り、村人方に見送られながら村を出る。なお、ノア君は後ろを気にしながら、私の前にちょこんと座っている。

「さて、村を無事にでることができたが……どう出るか」

 村からある程度離れたところで、ルゥがそう呟いた。

「え? まだ不安なことがあるかしら? 長老様はぜひ来年もと言ってくれたじゃない」

 魔力ポーションをお返ししたことで、もうこの村には来ないつもりだと勘違いされてしまったけれど、ベアト君が魔導具を修理できるまでは毎年来ることを伝えたら涙を流して喜んでくれたのに。

「お嬢の引きが強すぎたにゃ。錬金術師がいれば、ポーションのことも職業のこともどうにでもなるにゃ。村の秘密と恥部を同時に闇に葬れるチャンスは今しかないにゃ」

「そんなまさか。パステルは疑いすぎよ」

 そう言いながら声がかかった方に視線を向けると、パステルはにやにやといたずらそうな笑みを浮かべていた。まったくもう、からかってるだけなのね。 

「にゃはは、護衛は最悪のことを考えて準備するものなんだにゃ。もしそんな意見が出ても、トラヌスのおっちゃんが上手く取りなしてくれるにゃ」

 パステルはそう言ってからからと笑った。ノア君の家族のような人もいたけれど、私たちの偽りない気持ちは長老方や村の皆さんに伝わってると思うからきっと大丈夫だよ。


 村を出て数時間後──とある約束のため、私たちは最初の迂回路がある川辺で人を待っていると、ルゥとパステルがほぼ同時に村の方向に耳を向けた。

「来たな。気配は……二名だけだ」

「だにゃ。ちゃんと約束を守って感心にゃ」

 二人の言葉に続き、森の中から武器を持った者たちが出てくる。

「ノア!」

「ベアト!」

 お互いに駆け寄り、抱き合うノア君とベアト君。その後ろから、手を上げたベアーズさんが近付いてくる。

「すまねえ。遅くなった」

「問題ありません。ちょうど食事の準備もできたところです」

 待っている間にパステルに頼んで獲ってもらった魚もいい具合に焼けている。昼食のついでに、ベアト君とノア君のお別れ会だ。

「お、いいマスだな。しかし、別れなら村の中でやりゃいいだろうに……」

 ベアーズさんはどこか納得のいかない表情でそう言った。ベアーズさんとしては当然よね。わざわざ魔物がいる魔の森でする理由なんて普通はないし。

「ごめんなさい。どうしても村の中ではできないことがあり、ベアト君と一緒のときがいいと言ってくれたので」

「おじさん、ごめんなさい」

 私の横に並び、頭を下げるノア君。ベアト君まで一緒に頭を下げているのが微笑ましい。それに、こんなちょっとした我儘を言ってくれるって何だか嬉しいもの。

「まあ、息子の友達だからな。いったい、何をするって言うんだ?」

「ノア君の本当の職業は聞きましたか?」

 ベアーズさんは驚いた顔でノア君を見る。ベアト君が話していないのであれば、彼もノア君の職業を【農民】だと勘違いしてるんだから仕方がないよね。

 私はベアーズさんに召喚士について説明し、ノア君の背中にそっと触れる。急に触れられた彼は身体を震わせるが、私だとわかると力を抜いて笑ってくれた。

「ノア君、いける?」

「ほんとに上手くいくかな?」

「ええ、きっと上手くいくわ。心配なのは魔力不足だけど、その場合は私の魔力を分けるから安心して」

 ノア君が安心するように微笑みかけ、彼に触れた右手に魔力を集める。久しぶりに使う、自らの魔力を対象に譲渡する白魔法【天使の息吹アナイメア】。触れてないと使えないけれど、服一枚くらいなら問題ない。

 目を閉じたノア君は、何かに集中し始める。おそらく、【召喚士】の声を聞いているんだろう。はっきりと教えてくれる訳ではないけれど、力の使い方がなんとなく分かるのはとても不思議な感覚だ。

「えっと……召喚するには何か捧げる物が足りないみたいです」

 召喚魔法のことは詳しく知らないけれど、ゲームの定番だと貴重な素材や魔石かしら。

「じゃあ、これは使える? イラトゥスエルクの魔石よ」

 差し出した魔石をノア君が受け取ろうとしたとき、パステルから待ったがかかった。

「お嬢、わざわざ初陣の記念を使わなくても私が持ってるにゃ」

「どうしたのこれ?」

「この前遊びにいったときに、魔石だけ取ってきてたのにゃ」

 パステルが出したのは小さな魔石が十個ほど詰まった革袋だった。彼女は、それをノア君に押し付けるように手渡す。

「……パステルさん、いいの?」

「弟分の門出のお祝いだにゃ。景気よく全部使うにゃ」

 ノア君の頭に手を置き、口をにぱっと開けたパステルはからからと笑う。髪をぐしゃぐしゃにされ、最初は戸惑っていたノア君だったが、最後には嬉しそうに微笑んでいた。

 受け取った魔石を地面に並べ、ノア君は再び目を閉じる。触れている右手を通して、彼の魔力が放出されていくのが分かり、私は【天使の息吹】を発動させて彼に魔力を送り込む。


 ……初めての魔法なのにまだいるのかな?

 十分ほど経っただろうか。私が送り込めば送り込むだけ、ノア君はその魔力を目の前に構築された魔法陣へと注ぎ込んでいた。

 えっと、もう解除した方がいい……あ、もっといるのね。

 私が誰でもない何かの意思に従ってさらに魔力を送り込むことしばらく、ついに魔力の放出が終わり、魔法陣が輝きを放ち始めた。

 まばゆい光に目を瞑り、恐るおそる目を開けた私たちの前に現れたのは──

「これは……」
 
 ──石で作られた巨大な身体を持つ魔導生命体【ゴーレム】だった。

「えっと……どうすればいいの?」

 三メートルはある巨体を見上げ立ち尽くしていたノア君が、縋るような視線を私に向けてくる。

「詳しくは私も……とりあえず、自己紹介してみたらどうかしら」

「僕は、ノア、です。あなたのお名前は?」

 ノア君の呼びかけに、ゴーレムは首を横に振って答えた。よかった、とりあえずノア君の言葉は通じてるみたい。

「名前を付けてあげたらどうかしら」

「えっと、じゃあ……アシュレって名前はどうかな?」

 ノア君が名付けた瞬間、それまで微動だにしなかったゴーレムが動き始めた。ゴーレムは巨体を揺らし、手足を振り回す。ほぼ同時に浮遊感を覚えた私は、ルゥから抱きかかえられていた。

 パステルがノア君を、ベアーズさんがベアト君を抱えて距離をとった私たちは、ゴーレムを遠目に眺める。その様子を見ていた私の口から、ぽつりと言葉がこぼれた。

「……踊ってるの?」

 無機質なはずのゴーレムの動きは、昨日見た村人たちの踊りとどこか似ている気がしていた。





※あとがき※
これで一章が終了です。
次話では、この後の振り返りを書きつつ、シェリィたちがいよいよグランゼに到着します。
第二章もお楽しみいただけると幸いです。

まるぽろ

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

年の差にも悪意がみなぎりすぎでは????

頭フェアリータイプ
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢?に転生した主人公。でもこんな分かりやすい状況でおとなしく嵌められるはずもなく。。。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...