罠に嵌められた悪役令嬢は流刑先の辺境で聖女と讃えられる

まるぽろ

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     ◆

「もう一度お聞きしても?」

「……シェリィ様を教会で受け入れることはできません」

 はやる心を落ち着け教会に向かった私は、中にいた文化省の役人に通達書を渡した。王命を示す印を見た彼女は慌てた様子で私たちを小さな部屋に通し、上役と思われる男性がすぐに現れた。ここまでは想定内だったけれど……。

 ぶつぶつと読み上げられる内容、通達書と私の顔を何度も往復する眼、苦渋に満ちた顔──その結果がこれ。いや、ちょっと待って、なんで断られてるの?

「王命なのですよ?」

「……グランゼにて奉仕活動をとはありますが、文化省とも教会とも書かれておりませんので」 

「しかし、奉仕活動の場といえば教会では?」

 いくらお役所仕事だとしても、王命を断るには少し苦しすぎるんじゃないかしら。顔を見れば理由があるのは分かるけれど、私も「はいそうですか」とはいかないの。

「通常はそうでしょう。しかし……」

「理由がおありなのでしたら、おっしゃってください」

「……予算がないのです」

「予算?」

「シェリィ嬢を受け入れれば、奉仕活動とはいえ無給とはいかず食費などもかかります。ここグランゼは寡婦や孤児が数え切れないほどおりますため、人員を増やすくらいであれば食糧費に当てたいのです。……どうか他を当たってくださらないでしょうか」

 そう言って、男性は頭を机にこすりつけるほど深く下げた。微動だにしない彼からは、私たちが出ていくまで頭を上げることはないという強い意思が伝わってくる。何より飢えた子供を楯に取られては、それ以上食い下がることなんてできるはずもなかった。

 はああ……。すごすごと教会の外に出た私から、思わず深いため息がこぼれる。

「どうしよう……」

「父君の名を出せばよかったのではないか?」

「それはカッコ悪すぎるにゃ!」

 パステルの言う通り、お父様の名前なんて出せない。彼が気付いていたかどうかは分からないけれど、無理を押して受け入れられても、教会の負担になってしまっては意味がない。

 いつまでも教会の目の前にいる訳にもいかず、隣にある広場にとぼとぼと向かう。布を敷いて腰を下ろすと、隣に座ったノア君がアシュレと一緒に心配そうな瞳を私に向けていた。

「心配をかけてごめんなさい。大丈夫よ」

 ノア君をびっくりさせないように低い位置からゆっくり手を近づけ、彼の頬を撫でる。それから、アシュレのつるつるした身体に触れて心を落ち着けようとしていると、突然声をかけられた。

「あら、あなた、もしかしてシェリィじゃない?」

 顔を上げた私の瞳に映ったのは、尖った耳が特徴的なエルフ族の神官服を着た女性。数年ぶりに見る、懐かしい顔だった。

「え? あ、フィーナ先輩!?」

「覚えていてくれて嬉しいよ。私が学園を卒業して以来だから二年ぶりくらいかな。それより、こんなところでどうしたの?」

 そう言ってにこりと微笑むフィーナ先輩。お世話になった先輩の笑顔に、私は思わず王都での出来事を話してしまった。

「……大変だったね。でも、私はあなたを信じるよ」

「先輩、ありがとうございます。しかし、教会では受け入れられないと……」

「うーん、確かに余裕はないのよね。グランゼはちょっと特殊だから」

「たくさんの荷馬車が行き交っていて、物は溢れているように感じたのですが、そこまで状況が厳しいのですか?」

「確かに物資は国中から集まってる。けど、ここは冒険者の町だからさ。……親を失った子どもの数が多すぎるの」

 まっすぐ私を見つめて言ったフィーナ先輩の言葉が胸に突き刺さる。冒険者は危険な仕事だということは分かっていた。でも、それが社会に与える影響までは考え切れていなかった。

「シェリィは回復魔術が得意だから魔法省が運営する治療院はどう? 怪我人は沸くようにでてくるから、間違いなく受け入れてもらえるよ」

 治療院……。選択肢としてはありだと思う。でも、現状を知ってしまったからには、子供たちのためにできることをしたい。

「……フィーナ先輩、教会は現物の寄附って受け付けてくれますか?」

「ええ、それはもちろん」

「お嬢?」

 不思議そうな顔をしたルゥが尋ねてくる。孤児院で働くにしても、ルゥとパステルの二人にはノア君と一緒に私も鍛えて欲しいと頼むつもりだったから、ある意味ちょうどいいのかもしれない。

「私、冒険者になろうと思う。そして孤児院に狩った獲物のお肉を寄付するの。それが奉仕活動ってことにならないかしら?」
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