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第五章:諸国漫遊Ⅲ
朔を追うもの
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◆
朔たちがダンジョンを脱出してから数日後のこと。ダンジョン管理局では机が強く叩かれる音に続き、レオナルドの怒声が響いた。
「いないとはどういうことだ!」
机を挟んだレオナルドの反対側では管理局の職員が椅子に深く腰掛けており、彼は一瞬だけ体を震わせつつも淡々と答える。
「アサクラ男爵のクランは既にここを発ちました」
「どこに向かった!」
「分かりかねます」
「くそっ」
レオナルドは再度机を拳で打ち付け、荒々しくドアを開けて管理局を出て行った。彼に相対していた職員は、別の職員らから賛辞される中、へなへなと力が抜けたように机に突っ伏す。
レオナルドが大通りをずかずかと歩けば、民衆からの視線が彼に突き刺さる。それは苛立ちを亢進させ、彼の歩みを速めた。しかし、そんな彼を笑顔で出迎えるものがいた。
「殿下、おかえりなさいませ!」
レオナルドは満面の笑みで彼を迎えたフローディアを一瞥しただけで、立ち止まることなく屋敷の方向へ歩き続けた。彼女は一瞬だけぐっと唇を噛みしめるが、すぐに笑顔を作って彼を追いかける。
「殿下、お怪我もなく、ご無事で何よりです! 他の者から聞くところによると、43階層からの帰還だったのこと! 今までで最速で──」
「──黙れ」
レオナルドの殺気を纏った言葉にビクッと体を震わせるフローディア。しかし、彼女は笑顔を崩さない。
「未だ魔法陣も顕在です! 次の遠征では必ずや良い結果を──」
「──黙れ!」
レオナルドは足を止めると、フローディアの方に振り向いて叫んだ。彼は彼女の肩を掴むと強い口調で詰問する。
「フローディア、俺が強者を求めているのは知っているよな?」
口を少し震わせながらも、フローディアは何とか頷く。
「なぜ、アサクラを引きとめなかった?」
「で、殿下はアサクラ男爵のことを嫌っていたのでは……」
「好き嫌いで攻略が進むとでも思っているのか! 我らより先に戻った彼らを引き留めずに、お前は何をしていたのだ!!」
レオナルドが叫ぶ。フローディアの肩を掴んでいる力がこもり、彼女は顔をわずかにしかめるが、彼女は彼の瞳から眼を逸らさない。
そこに、レオナルドのお抱え魔術師であるコーリンが口を挟む。
「大好きなお風呂にでも入っていたのではないかしら?」
「殿下のお役にたてるようにと、待機中のメンバーともに訓練をしておりましたっ!」
フローディアはコーリンをキッと睨みつけてから、視線をレオナルドへと戻し釈明した。しかし、レオナルドは彼女に残酷な問いを投げかける。
「では、お前は数日で砦を築けるようになったのか?」
「……いえ」
「湖沼を跳び進めるようにする魔導具は作れるか?」
「いいえ」
「沼地に橋が架けられるか?」
「いいえ!」
「我らが逃したのは、それらが全てできるものたちだ。彼らがいればどれだけ攻略に役立ったか……」
「……殿下」
レオナルドは泣きそうな顔を横に振るフローディアの肩を掴んだ手の力を抜き、心底悔しそうな顔でダンジョン都市の外門の方へと視線を向けた。彼女は自身の肩を掴んでいた彼の右手を両手で優しく包み込む。
二人の様子と、『我ら』というレオナルドの言葉を聞いたコーリンが小さく歯ぎしりを鳴らす。嫉妬深い性格の彼女はレオナルドを独占したいという気持ちが強く、彼の周りをちょろちょろするフローディアが目障りで仕方なかったのだ。
コーリンはいつもの妖艶な表情を作ると、レオナルドにもたれかかり、彼の耳元で甘ったるい声で囁く。
「それでは、フローディア様をアサクラ男爵への使者に任命してはどうでしょう? 若々しく男好きのする身体の彼女であれば、男爵の攻略であれば簡単ではないかしら」
「お前も黙れ。帰るぞ」
レオナルドはコーリンを振りほどき、屋敷への道を歩み始めた。一方、フローディアは何か考え事をしながら彼を追いかける。
コーリンは彼女の悩んでいる様子を見てとると、赤い舌でちろりと唇を舐め、ゆっくりと歩き始めた。
そして、次の日の朝。
レオナルドは部屋の机に置いてあった羊皮紙をぐしゃりと握りつぶす。
「あの馬鹿が! コーリンの戯言を真に受けおって!! イーサン!」
「ここに」
レオナルドが呼びかけると、イーサンが音も立てずに扉の近くに、跪いている状態で現れた。
「ディアを連れ戻せ!」
「何故でしょう? どちらにせよ、アサクラ男爵には接触を試みるべきです。フローディア様であれば位も高く、何より殿下の婚約者候補の一人。適当な人選かと」
「貴様、わざと見逃したな?」
イーサンは沈黙をもって答えとし、レオナルドは問いを重ねる。
「アサクラらの行方は分かっているのか! ディアの護衛はどうなっている!」
「酒場にて商人たちに聞き込みを行ったところ、南へ向かうと。また、フローディア様の護衛には、サブメンバーから女騎士を5名と男騎士を3名、武術の心得のある身の回りの世話をする者を2名、もちろん女性です」
怒鳴りつけるようなレオナルドの問いかけに、イーサンは眉ひとつ動かすことなく答えた。レオナルドは小考し、鋭い視線をイーサンへと向ける。
「……足りん。闇烏を出せ。ディアに何かあれば、貴様を殺す」
「御意のままに」
レオナルドは頭を下げたイーサンの横を通り、扉を荒っぽく開けて部屋を出て行った。イーサンはすっと立ち上がると、扉を閉め、小さな声で誰かに命ずる。
「フローディア様を護衛、アサクラ男爵を監視しろ」
「それだけで?」
「万が一、アサクラ男爵が他国に与する疑いがある場合──」
イーサンは、聞き返した男にすっと彼の細い目を向ける。その男はイーサンが団長を務める暗殺者集団『闇烏』の部隊長であるのだが、イーサンの殺気を向けられた男は、蛇に睨まれた蛙のように身動きができなくなっていた。
一拍を置き、イーサンは冷や汗を流しながら縮こまっている男に告げる。
「──奴を殺せ」
朔たちがダンジョンを脱出してから数日後のこと。ダンジョン管理局では机が強く叩かれる音に続き、レオナルドの怒声が響いた。
「いないとはどういうことだ!」
机を挟んだレオナルドの反対側では管理局の職員が椅子に深く腰掛けており、彼は一瞬だけ体を震わせつつも淡々と答える。
「アサクラ男爵のクランは既にここを発ちました」
「どこに向かった!」
「分かりかねます」
「くそっ」
レオナルドは再度机を拳で打ち付け、荒々しくドアを開けて管理局を出て行った。彼に相対していた職員は、別の職員らから賛辞される中、へなへなと力が抜けたように机に突っ伏す。
レオナルドが大通りをずかずかと歩けば、民衆からの視線が彼に突き刺さる。それは苛立ちを亢進させ、彼の歩みを速めた。しかし、そんな彼を笑顔で出迎えるものがいた。
「殿下、おかえりなさいませ!」
レオナルドは満面の笑みで彼を迎えたフローディアを一瞥しただけで、立ち止まることなく屋敷の方向へ歩き続けた。彼女は一瞬だけぐっと唇を噛みしめるが、すぐに笑顔を作って彼を追いかける。
「殿下、お怪我もなく、ご無事で何よりです! 他の者から聞くところによると、43階層からの帰還だったのこと! 今までで最速で──」
「──黙れ」
レオナルドの殺気を纏った言葉にビクッと体を震わせるフローディア。しかし、彼女は笑顔を崩さない。
「未だ魔法陣も顕在です! 次の遠征では必ずや良い結果を──」
「──黙れ!」
レオナルドは足を止めると、フローディアの方に振り向いて叫んだ。彼は彼女の肩を掴むと強い口調で詰問する。
「フローディア、俺が強者を求めているのは知っているよな?」
口を少し震わせながらも、フローディアは何とか頷く。
「なぜ、アサクラを引きとめなかった?」
「で、殿下はアサクラ男爵のことを嫌っていたのでは……」
「好き嫌いで攻略が進むとでも思っているのか! 我らより先に戻った彼らを引き留めずに、お前は何をしていたのだ!!」
レオナルドが叫ぶ。フローディアの肩を掴んでいる力がこもり、彼女は顔をわずかにしかめるが、彼女は彼の瞳から眼を逸らさない。
そこに、レオナルドのお抱え魔術師であるコーリンが口を挟む。
「大好きなお風呂にでも入っていたのではないかしら?」
「殿下のお役にたてるようにと、待機中のメンバーともに訓練をしておりましたっ!」
フローディアはコーリンをキッと睨みつけてから、視線をレオナルドへと戻し釈明した。しかし、レオナルドは彼女に残酷な問いを投げかける。
「では、お前は数日で砦を築けるようになったのか?」
「……いえ」
「湖沼を跳び進めるようにする魔導具は作れるか?」
「いいえ」
「沼地に橋が架けられるか?」
「いいえ!」
「我らが逃したのは、それらが全てできるものたちだ。彼らがいればどれだけ攻略に役立ったか……」
「……殿下」
レオナルドは泣きそうな顔を横に振るフローディアの肩を掴んだ手の力を抜き、心底悔しそうな顔でダンジョン都市の外門の方へと視線を向けた。彼女は自身の肩を掴んでいた彼の右手を両手で優しく包み込む。
二人の様子と、『我ら』というレオナルドの言葉を聞いたコーリンが小さく歯ぎしりを鳴らす。嫉妬深い性格の彼女はレオナルドを独占したいという気持ちが強く、彼の周りをちょろちょろするフローディアが目障りで仕方なかったのだ。
コーリンはいつもの妖艶な表情を作ると、レオナルドにもたれかかり、彼の耳元で甘ったるい声で囁く。
「それでは、フローディア様をアサクラ男爵への使者に任命してはどうでしょう? 若々しく男好きのする身体の彼女であれば、男爵の攻略であれば簡単ではないかしら」
「お前も黙れ。帰るぞ」
レオナルドはコーリンを振りほどき、屋敷への道を歩み始めた。一方、フローディアは何か考え事をしながら彼を追いかける。
コーリンは彼女の悩んでいる様子を見てとると、赤い舌でちろりと唇を舐め、ゆっくりと歩き始めた。
そして、次の日の朝。
レオナルドは部屋の机に置いてあった羊皮紙をぐしゃりと握りつぶす。
「あの馬鹿が! コーリンの戯言を真に受けおって!! イーサン!」
「ここに」
レオナルドが呼びかけると、イーサンが音も立てずに扉の近くに、跪いている状態で現れた。
「ディアを連れ戻せ!」
「何故でしょう? どちらにせよ、アサクラ男爵には接触を試みるべきです。フローディア様であれば位も高く、何より殿下の婚約者候補の一人。適当な人選かと」
「貴様、わざと見逃したな?」
イーサンは沈黙をもって答えとし、レオナルドは問いを重ねる。
「アサクラらの行方は分かっているのか! ディアの護衛はどうなっている!」
「酒場にて商人たちに聞き込みを行ったところ、南へ向かうと。また、フローディア様の護衛には、サブメンバーから女騎士を5名と男騎士を3名、武術の心得のある身の回りの世話をする者を2名、もちろん女性です」
怒鳴りつけるようなレオナルドの問いかけに、イーサンは眉ひとつ動かすことなく答えた。レオナルドは小考し、鋭い視線をイーサンへと向ける。
「……足りん。闇烏を出せ。ディアに何かあれば、貴様を殺す」
「御意のままに」
レオナルドは頭を下げたイーサンの横を通り、扉を荒っぽく開けて部屋を出て行った。イーサンはすっと立ち上がると、扉を閉め、小さな声で誰かに命ずる。
「フローディア様を護衛、アサクラ男爵を監視しろ」
「それだけで?」
「万が一、アサクラ男爵が他国に与する疑いがある場合──」
イーサンは、聞き返した男にすっと彼の細い目を向ける。その男はイーサンが団長を務める暗殺者集団『闇烏』の部隊長であるのだが、イーサンの殺気を向けられた男は、蛇に睨まれた蛙のように身動きができなくなっていた。
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「──奴を殺せ」
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