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第五章:諸国漫遊Ⅲ
森の中の魔物
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一方、森の中ではアルたちが必死に誘導を試みようとしていた。
「ウル殿、既に補足されています! 囲まれますよ!」
「ちっ、よりによってシーカーウルフの群れかよっ! 公国からこんなところまで出張って来やがって」
ウルとロイが群れの中に入り込もうと木々に隠れながら近づいたが、シーカーウルフの接近に気付いたロイが叫び、ウルは後方に下がりながら悪態をついた。
ならばと、ウルは魔法で攻撃を加え、距離を保ちながら森の奥に向かう。
「石礫! ほら来い、犬っころ!」
「……くっ、ダメですね。追って来ません」
彼らに向かっていた数頭のシーカーウルフは、群れから少し離れると踵を返して戻ってしまった。シーカーウルフとは魔の森北方に住む探知能力や連携力の高い魔物であり、アルたちは群れを森の奥に誘導するどころか、群れの中に入り込むことも、群れをばらけさせることもできないでいた。
「(ダメだな。相性が悪い上に、上位種までいる)」
その様子を見ていたライが、隣にいるアルにごく小さな声で話しかけた。彼らはまだシーカーウルフに補足されておらず、群れのすぐそばにある藪の中に身を潜めていたのだ。
アルは視線をシーカーウルフの上位種の個体とその獲物である巨大な熊から逸らすことなく返す。
「(諦める訳にもいくまい。奴らも北方からここまで獲物を追い続けて疲弊している。叩くなら今だ)」
シーカーウルフの群れはそのほとんどの個体が全身に怪我を負って体毛を赤く染めており、舌を出して息を荒くしていた。一方、巨大な熊もまた血まみれであり、特に背中には深い傷も多く、右目は切り裂かれて潰れてしまっている。
取り囲まれている巨大熊は上位種と向かい合いながらも逃げ出す隙を窺い、シーカーウルフは交代で体を休めつつ巨大熊の体力が切れるのを待つ、膠着状態に陥っていた。
ライはシーカーウルフがうろつく周囲に注意を向けつつ、小声で話を続ける。
「(森の中での乱戦はあちらが有利だ。せめて街道にいるアサクラ男爵の元まで引っ張っていければいいのだが……)」
「(くっくっく、護衛対象に魔物を差し向けるのか?)」
「(今更だろう? 武力を持つ貴族に武勲を上げる機会を献上するだけのことだ)」
「(そうだな。では、行くか。シーカーウルフが無理なら奴らの獲物を釣るしかあるまい──ん?)」
ライと会話をしていたアルが僅かな気配に気付き、静かに顔を上に向ける。視線の先では、気配を消したシンが音もなく巨大熊の方へ向けて滑空していた。
「(シン!?) くっ、しまった!」
アルが僅かに気配を漏らしたことで、近くにいた一匹のシーカーウルフに補足された。それは唸り声を上げ、その声に反応した数匹がぞろぞろと彼らが身を潜めている藪へと近づいていく。しかし、それはシンにとって僥倖であった。群れの注意が一点に向いた間隙を縫い、地面すれすれを目にもとまらぬ速さで飛行する。
「クーッ!」(風鎌ー!)
シンは四つ足をついた巨大な熊の腹の下をくぐり抜けつつ、両翼の先端に展開した風鎌で腹部と後ろ足を切りつけた。シンはそのまま飛び上がり、近くにある木の枝に留まって首だけをぐるりと回して振り返る。
「クッ? クッ?」(あれ? 浅い?)
シンの風鎌は巨大熊の腹部表面に傷をつけただけであった。シンが首を傾げて巨大熊を眺めていると、後ろの藪から一匹のシーカーウルフが跳び上がり、シンを留まっている枝ごと鋭い爪で切り裂く。
「クッククーッ♪」(残念、幻影でしたー♪)
切り裂かれたのはシンが幻影魔法で作り出した幻であった。気配遮断を解いて姿を現したシンを視認した巨大な熊は、うっすらと血が滲んだ腹部の傷を撫でて咆哮をあげる。
「グオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「クッククーッ♪」(熊さん、こっちらー♪)
巨大熊は激怒し、シーカーウルフなど目にも入っていないといった様相でシンを追いかけ始めた。シンはくるくると回転しながら木々をすり抜けて飛び、巨大熊は木々をなぎ倒して一直線にシンを猛追する。あっけにとられて遅れたものの、シーカーウルフの群れもまた上位種を先頭にシンと巨大熊を追い始めた。
「よくわからんが好機だ! ウルフを散らせるな! 行くぞ、ロイ!」
「はっ! アル殿、我らは南に回ります!」
「承知。ウル、北から行くぞ」
「おう!」
シンの介入により膠着していた状況は、一気に動き出した。
◆
「シン!?」
上空にいたシンが森の中に消えたのを見た朔は、驚きの声を上げた。ナタリアは朔に声をかけつつも索敵に集中する。
「サクさん、落ち着いてください。……シンちゃんがこちらに向かって誘導してくれていますね。間もなく来ます。皆様、迎撃の準備を!」
朔はその場にいる全員に付与魔法をかけ、魔法が使える者は魔力を練り始めた。朔たちからその姿は見えないが、倒れる木々がシンたちがいる位置を彼らに伝えていた。
緊張感が高まっていく中、数分もしないうちにシンがまず飛び出し、続けて雄叫びを上げながら巨大熊が森から現れる。さらに一拍遅れて、十匹を超えるシーカーウルフが森から一斉に駆け出てきた。
「クックーッ♪」(パパ、怖ーい♪)
朔たちを見つけ、喜色溢れる鳴き声を上げて加速するシン。朔がほっと息をついた横で、ナタリアが若干の焦りを含んだ声を出す。
「シーカーウルフに……あれは、デッドリーベア!?」
「ウル殿、既に補足されています! 囲まれますよ!」
「ちっ、よりによってシーカーウルフの群れかよっ! 公国からこんなところまで出張って来やがって」
ウルとロイが群れの中に入り込もうと木々に隠れながら近づいたが、シーカーウルフの接近に気付いたロイが叫び、ウルは後方に下がりながら悪態をついた。
ならばと、ウルは魔法で攻撃を加え、距離を保ちながら森の奥に向かう。
「石礫! ほら来い、犬っころ!」
「……くっ、ダメですね。追って来ません」
彼らに向かっていた数頭のシーカーウルフは、群れから少し離れると踵を返して戻ってしまった。シーカーウルフとは魔の森北方に住む探知能力や連携力の高い魔物であり、アルたちは群れを森の奥に誘導するどころか、群れの中に入り込むことも、群れをばらけさせることもできないでいた。
「(ダメだな。相性が悪い上に、上位種までいる)」
その様子を見ていたライが、隣にいるアルにごく小さな声で話しかけた。彼らはまだシーカーウルフに補足されておらず、群れのすぐそばにある藪の中に身を潜めていたのだ。
アルは視線をシーカーウルフの上位種の個体とその獲物である巨大な熊から逸らすことなく返す。
「(諦める訳にもいくまい。奴らも北方からここまで獲物を追い続けて疲弊している。叩くなら今だ)」
シーカーウルフの群れはそのほとんどの個体が全身に怪我を負って体毛を赤く染めており、舌を出して息を荒くしていた。一方、巨大な熊もまた血まみれであり、特に背中には深い傷も多く、右目は切り裂かれて潰れてしまっている。
取り囲まれている巨大熊は上位種と向かい合いながらも逃げ出す隙を窺い、シーカーウルフは交代で体を休めつつ巨大熊の体力が切れるのを待つ、膠着状態に陥っていた。
ライはシーカーウルフがうろつく周囲に注意を向けつつ、小声で話を続ける。
「(森の中での乱戦はあちらが有利だ。せめて街道にいるアサクラ男爵の元まで引っ張っていければいいのだが……)」
「(くっくっく、護衛対象に魔物を差し向けるのか?)」
「(今更だろう? 武力を持つ貴族に武勲を上げる機会を献上するだけのことだ)」
「(そうだな。では、行くか。シーカーウルフが無理なら奴らの獲物を釣るしかあるまい──ん?)」
ライと会話をしていたアルが僅かな気配に気付き、静かに顔を上に向ける。視線の先では、気配を消したシンが音もなく巨大熊の方へ向けて滑空していた。
「(シン!?) くっ、しまった!」
アルが僅かに気配を漏らしたことで、近くにいた一匹のシーカーウルフに補足された。それは唸り声を上げ、その声に反応した数匹がぞろぞろと彼らが身を潜めている藪へと近づいていく。しかし、それはシンにとって僥倖であった。群れの注意が一点に向いた間隙を縫い、地面すれすれを目にもとまらぬ速さで飛行する。
「クーッ!」(風鎌ー!)
シンは四つ足をついた巨大な熊の腹の下をくぐり抜けつつ、両翼の先端に展開した風鎌で腹部と後ろ足を切りつけた。シンはそのまま飛び上がり、近くにある木の枝に留まって首だけをぐるりと回して振り返る。
「クッ? クッ?」(あれ? 浅い?)
シンの風鎌は巨大熊の腹部表面に傷をつけただけであった。シンが首を傾げて巨大熊を眺めていると、後ろの藪から一匹のシーカーウルフが跳び上がり、シンを留まっている枝ごと鋭い爪で切り裂く。
「クッククーッ♪」(残念、幻影でしたー♪)
切り裂かれたのはシンが幻影魔法で作り出した幻であった。気配遮断を解いて姿を現したシンを視認した巨大な熊は、うっすらと血が滲んだ腹部の傷を撫でて咆哮をあげる。
「グオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「クッククーッ♪」(熊さん、こっちらー♪)
巨大熊は激怒し、シーカーウルフなど目にも入っていないといった様相でシンを追いかけ始めた。シンはくるくると回転しながら木々をすり抜けて飛び、巨大熊は木々をなぎ倒して一直線にシンを猛追する。あっけにとられて遅れたものの、シーカーウルフの群れもまた上位種を先頭にシンと巨大熊を追い始めた。
「よくわからんが好機だ! ウルフを散らせるな! 行くぞ、ロイ!」
「はっ! アル殿、我らは南に回ります!」
「承知。ウル、北から行くぞ」
「おう!」
シンの介入により膠着していた状況は、一気に動き出した。
◆
「シン!?」
上空にいたシンが森の中に消えたのを見た朔は、驚きの声を上げた。ナタリアは朔に声をかけつつも索敵に集中する。
「サクさん、落ち着いてください。……シンちゃんがこちらに向かって誘導してくれていますね。間もなく来ます。皆様、迎撃の準備を!」
朔はその場にいる全員に付与魔法をかけ、魔法が使える者は魔力を練り始めた。朔たちからその姿は見えないが、倒れる木々がシンたちがいる位置を彼らに伝えていた。
緊張感が高まっていく中、数分もしないうちにシンがまず飛び出し、続けて雄叫びを上げながら巨大熊が森から現れる。さらに一拍遅れて、十匹を超えるシーカーウルフが森から一斉に駆け出てきた。
「クックーッ♪」(パパ、怖ーい♪)
朔たちを見つけ、喜色溢れる鳴き声を上げて加速するシン。朔がほっと息をついた横で、ナタリアが若干の焦りを含んだ声を出す。
「シーカーウルフに……あれは、デッドリーベア!?」
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