世界図書館のラウ・ツェーイ

月夜猫

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第1章

5.私が私でいられる理由

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私が私でいられる理由それは───。

久しぶりに、司書としての挨拶をしたせいだろう、古い記憶がよみがえる。

遙か昔のことだ。
私が、ライ・ファーナでも、ラウ・ツェーイでもなかったときのはなし。
私はラウツィーリカ・ツェーイリアス・アルフィアと言う名前だった。
アルフィア王国の第12王女で、母は、数多くいる側室の一人で身分も低かった。
だから、私は誰にも期待されていなかった。
誰も見向きもしなかった。
だからといって、愛されることを期待していなかった私はずっと書庫に閉じこもり続けていた。
誰も、私に注意を払っていないのが心地よかった。
そんな日々は終わりを告げる。


後ろ盾のない王女などどうなるかはたかが知れていた。
王女の使い道など、決まっている。
‘‘婚姻を結ぶ’’
王子ならばともかく、王女ともなればそれしかない。少なくともアルフィア王国ではそうだった。

私の夫は、隣国の王だった。覇王・暴君・戦好きそんな言葉で飾られることの多い人だった。
優しかった。なのだから、冷酷になった人だった。
顔合わせで本を抱えていた私に、微笑んでくれた人だった。
『本がすきなのかい?わが国には、大陸一の蔵書量を誇る図書館があるよ。今度おいで』
誰がなんと言ったとしても、優しい人だったのだ。
私にとって、‘‘王妃’’という地位は、どうでもよかったがこの人の隣にいたいと思った。

だから、私は司書になったのだ。あの人が、──────だから。
私が私でいられる理由それは、あの人を覚えているからだ。
そうでなければ等に私は朽ち果てていたことだろう。



ああ、いけない。
昔のことを今思い出したってしかたがない。
今は、ここから学園に帰ることをかんがえなくては。
さあ学園まで頑張って帰らなくては。
どれもこれも、時間が掛かりやすぎてしまうが、さて何から始めようか。
「先ほどの言葉は何だ?」

『ようこそ。アルハイム図書館へ。何かお探しの書物はございますか?お探しいたします。なお、この場所には、魔物は侵入してこれませんのでご安心ください』

「図書館を訪れた人に送る定型文です」
───ここには、結界も張ってありますから、魔物も入ってこられないのです。
そう続けて言うと、驚愕される。
何がおかしかったのだろうか。
ここは、図書館だというのに。
図書館とはそういうものであるというのに。

まあ、いいか。
これは、今最優先で考えることではない。
まずは、どうやったら、王子たちに負担をかけずに帰れるかということをかんがえなくては。
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