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はじまりでおしまい
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たとえ、それがすべてのはじまりで、すべてのおしまいだったとしても。
私は、止まれなかった。
雪が降っていた。
わたしの上にも雪が降り積もる。
真っ白な雪がわたしに降り積もるたび真っ赤に変わっていく。
きれいだ、な
とうの昔に四肢の感覚は無くなっていた。
もう声さえもでない。
わたしたちは歌って呪うというのに。
きっと、もう、死ぬ
とく、とく
心臓の音が聞こえる。
いきてる…?
なんで、どうして。
あいも変わらず声はでなかった。
それでも、いきてる。
カミサマとやらに感謝すべきなのだろう。
でも、素直に感謝するのはなんだか癪だった。
みんな、みぃんな、死んでしまったのに、わたしだけが生きている。
わたしの方がずっと、ずっと死ぬべきだったのに。
死ねなかった。
カミサマとやらはずいぶんと捻くれているらしい。
わたしの喉はもう、音を紡げない。
呪い歌を紡ぎ歌うことはもう出来ない。
だけど、わたしには四肢がある。
四肢の感覚がなぜだかはしらないが戻っている。
ならば、戦える。
わたしはまだ、動ける。
さぁ、この、腐りきった世界に、あらがってみせようじゃないか。
目指すは魔王城。
幾度となく人間が当たって砕けていた場所だ。
それでも、死に損ないのわたしには魔王の相手が相応しいだろう。
「お前が?お前が魔王様を殺すと?笑わせるな、呪歌さえ紡げぬしにぞこないが」
若い魔族がわたしをあざ笑った。
死に損ないだからだよ
わたしは声なき声でいった。
わたしの手持ちはボロボロの剣が一振り。
それだけだ。
でも、殺すことくらいはできる。
わたしは、そういうものなのだから。
わたしたちは、道具で、兵器だ。
そうして、バケモノだ。
なのだから。
さあ、殺し合おうじゃないか。
わたしの世界から音が消える。
すべてが止まってみえて。
あれだけいた魔族は、皆一様に地面に伏していた。
……血まみれで。
私の世界に音が帰る。
辺りに満ちる、うめき声が聞こえた。
血溜まりの中に私はいた。
やがて、うめき声は聞こえなくなった。
私は振り返った。
そこに、一振りの剣を持った魔王がいた。
「ようやくきたか。俺を殺せるバケモノが」
どこか嬉しそうに魔王がいった。
「俺は結局のところ、ただの死に損ないでしか無いからな」
もう見送るのは飽きたんだ、十分過ぎるほどしたから
だれにともなく魔王の言ったその言葉は、どこまでも私の言葉と同じだった。
生きてきた時間も場所も、成り立ちさえも違うけれど。
ある意味において、魔王は私で私は魔王なのだと気付かされた。
ならば、彼の望みのまま殺すのが礼儀だろう。
まあ、そのために来たのだけれど。
さあ、はじめよう
声なき声で私はいう。
「ああ、はじめよう」
魔王がいう。
世界から音が消える。
魔王と私の剣が交差する。
澄み渡る視界、澄み渡る音。
魔王の剣が、頬をかする。
私の剣が魔王をかする。
ただ、ただ楽しいと感じた。
終わらせるためにはじめたけれど、終わらせたく無くなった。
でも。終わらせなければいけない。
世界が、止まる。
私の剣が魔王の心臓を貫いた。
「ありがとう、な」
血を吐いて魔王が倒れる。
世界が動き出す。
世界に音が戻る。
私は、しばらく血溜まりの中に立っていた。……立ち尽くしていた。
私は一度ゆっくりとまばたきをしてから背を向けて歩き出した。
そうして、二度と振り返らなかった。
誰もいない、城の中。
私の靴音だけが響いていた。
……たとえ、これがすべてのはじまりで、すべてのおしまいだったとしても。
私は止まらなかった。
───────────
読んで下さり、ありがとうございます
良ければ他作品も読んで下さい
思い付いたので書きました
連載中の他作品は書いている最中です…。本当に、近日投稿予定です…頑張ります
私は、止まれなかった。
雪が降っていた。
わたしの上にも雪が降り積もる。
真っ白な雪がわたしに降り積もるたび真っ赤に変わっていく。
きれいだ、な
とうの昔に四肢の感覚は無くなっていた。
もう声さえもでない。
わたしたちは歌って呪うというのに。
きっと、もう、死ぬ
とく、とく
心臓の音が聞こえる。
いきてる…?
なんで、どうして。
あいも変わらず声はでなかった。
それでも、いきてる。
カミサマとやらに感謝すべきなのだろう。
でも、素直に感謝するのはなんだか癪だった。
みんな、みぃんな、死んでしまったのに、わたしだけが生きている。
わたしの方がずっと、ずっと死ぬべきだったのに。
死ねなかった。
カミサマとやらはずいぶんと捻くれているらしい。
わたしの喉はもう、音を紡げない。
呪い歌を紡ぎ歌うことはもう出来ない。
だけど、わたしには四肢がある。
四肢の感覚がなぜだかはしらないが戻っている。
ならば、戦える。
わたしはまだ、動ける。
さぁ、この、腐りきった世界に、あらがってみせようじゃないか。
目指すは魔王城。
幾度となく人間が当たって砕けていた場所だ。
それでも、死に損ないのわたしには魔王の相手が相応しいだろう。
「お前が?お前が魔王様を殺すと?笑わせるな、呪歌さえ紡げぬしにぞこないが」
若い魔族がわたしをあざ笑った。
死に損ないだからだよ
わたしは声なき声でいった。
わたしの手持ちはボロボロの剣が一振り。
それだけだ。
でも、殺すことくらいはできる。
わたしは、そういうものなのだから。
わたしたちは、道具で、兵器だ。
そうして、バケモノだ。
なのだから。
さあ、殺し合おうじゃないか。
わたしの世界から音が消える。
すべてが止まってみえて。
あれだけいた魔族は、皆一様に地面に伏していた。
……血まみれで。
私の世界に音が帰る。
辺りに満ちる、うめき声が聞こえた。
血溜まりの中に私はいた。
やがて、うめき声は聞こえなくなった。
私は振り返った。
そこに、一振りの剣を持った魔王がいた。
「ようやくきたか。俺を殺せるバケモノが」
どこか嬉しそうに魔王がいった。
「俺は結局のところ、ただの死に損ないでしか無いからな」
もう見送るのは飽きたんだ、十分過ぎるほどしたから
だれにともなく魔王の言ったその言葉は、どこまでも私の言葉と同じだった。
生きてきた時間も場所も、成り立ちさえも違うけれど。
ある意味において、魔王は私で私は魔王なのだと気付かされた。
ならば、彼の望みのまま殺すのが礼儀だろう。
まあ、そのために来たのだけれど。
さあ、はじめよう
声なき声で私はいう。
「ああ、はじめよう」
魔王がいう。
世界から音が消える。
魔王と私の剣が交差する。
澄み渡る視界、澄み渡る音。
魔王の剣が、頬をかする。
私の剣が魔王をかする。
ただ、ただ楽しいと感じた。
終わらせるためにはじめたけれど、終わらせたく無くなった。
でも。終わらせなければいけない。
世界が、止まる。
私の剣が魔王の心臓を貫いた。
「ありがとう、な」
血を吐いて魔王が倒れる。
世界が動き出す。
世界に音が戻る。
私は、しばらく血溜まりの中に立っていた。……立ち尽くしていた。
私は一度ゆっくりとまばたきをしてから背を向けて歩き出した。
そうして、二度と振り返らなかった。
誰もいない、城の中。
私の靴音だけが響いていた。
……たとえ、これがすべてのはじまりで、すべてのおしまいだったとしても。
私は止まらなかった。
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読んで下さり、ありがとうございます
良ければ他作品も読んで下さい
思い付いたので書きました
連載中の他作品は書いている最中です…。本当に、近日投稿予定です…頑張ります
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