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「」
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「助けてあげようか?」
そういったあの人の顔を私はもう覚えていない。
「人間嫌いの時計塔の魔女」私がそう言われるようになってから随分時がたった。
何の実験のせいかはこれっぽっちもわからないけれど、私は不老になった。
正直いつからなのかもわからない。
ただ、不老になっていた。
私はただの村娘だった。醜いわけでも美しくもないいたって普通の農民の娘だった。
そしてある冬、人買いに売られた。……それもやっぱりよくあることだった。
私を買ったのは変わり者の魔法使いで、生活能力が皆無な男だった。
ただ、ちゃんといた格好をすればものすごくかっこいい人だった。
私の仕事は主人の身の回りの世話と、研究の助手だった。
主人は学のない私に文字を与えてくれた。
そして、私に魔法を教えてくれた人だった。
あの時代、どこにでもいた魔法使い。
……主人は普通ではなかった。それを知ったのはいつだっただろうか。
研究をして実験をして。
成功したり失敗したりしながら過ごした。
何十年もたって、戦争が起きた。
主人に出頭命令が出るまでは、変わらない日々を過ごした。
「」」
主人が何といったのか、もう覚えていない。
主人は帰ってこなかった。
私に残されたのは、主人の塔とそのすべてだった。
主人の遺言で、私は私自身を買うことができた。
私は自由になった。
私は魔女になった。
時計塔の魔女に。
そして、主人以上に人と関わらなくなった。
そうして、いつしか私は人間嫌いの時計塔の魔女と呼ばれるようになった。
いくつもの季節が過ぎ去り、塔から見える景色もどんどん変わっていった。
幾度となく戦争も起こった。
私は何一つとしてかかわらなかったけれど。
いつだっただろうか。
塔を訪ねてきた男がいた。
微笑みながら人を殺せるくせに平和が好きだという変わり者だった。
その男と私はたぶん、友人だったのだと思う。
いつでも、穏やかに笑う男だった。
風のうわさで彼が学校を創ったと聞いた。
「子供たちに平和な未来を見せたいんだ」
そういって彼は笑った。
「また来るよ」
そういった彼が塔を訪れることは二度となかった。
風のうわさで彼と同じ名前の天才と呼ばれた魔法使いが戦死したと聞いた。
戦争は嫌いだと、平和が好きなのだといったくせに。
何度目かわからない戦争で私の住む塔にも戦火が及んだ時があった。
私はためらいもなく兵士たちを皆殺しにした。
どこかの王だか何だかが私を殺せといったらしく、やけに招かれざる客が多かった時もあった。
やっぱり、皆殺しにした。
季節は移ろい、月日が過ぎ去る。
私だけが置いていかれる。
私は、「」という言葉が嫌いだ。
いつだっただろうか。
この塔を訪ねてきた魔法使いがいた。
「面白そうだから」とかいうふざけた理由できたその魔法使いはどこぞの学校の卒業生らしかった。
……その学校はどこかで聞いたことがあるような気がした。
その魔法使いは「またくる」そう言っていなくなった。
風のうわさで同じ名前の天才魔法使いが死んだと聞いた。
あの魔法使いが来ることは二度となかった。
私は。
私は、「また」という言葉が大嫌いだ。
「 またね 」
といった主人。
「また来るよ」
といった彼。
「またくる」
といった魔法使い。
また。
また、また。
また、また、また。
また、また、また、また。
そう言った誰かは。
誰も。
誰も、誰も。
誰も、誰も、誰も。
誰も、誰も、誰も、誰も。
帰っては来なかった。
私は、誰かと関わることが嫌いだ。
関わらなければ。知らなければ。
失うことを恐れずにすむのだから。
……どこかの森の奥深く。
古い古い、かつて『時計塔』と呼ばれた塔があるのだそうだ。
そこには長い、長い時をただ一人でいる少女がいるのだという。
その少女は老いることなく、ただそこに在るのだという。
まるで、永遠に朽ちることのない人形であるかのように。
かつての人は、幾年も前の人々は。
その少女のことを、悲しみの『人間嫌いの時計塔の魔女』とよんだそうだ。
___
どこかほかの話で、この魔女さんは再登場するかもしれません。
他作品のことで申し訳ありませんが更新はしようと思ってますっ。ホントです。
……できれば気長にお待ちいただけると…。
そういったあの人の顔を私はもう覚えていない。
「人間嫌いの時計塔の魔女」私がそう言われるようになってから随分時がたった。
何の実験のせいかはこれっぽっちもわからないけれど、私は不老になった。
正直いつからなのかもわからない。
ただ、不老になっていた。
私はただの村娘だった。醜いわけでも美しくもないいたって普通の農民の娘だった。
そしてある冬、人買いに売られた。……それもやっぱりよくあることだった。
私を買ったのは変わり者の魔法使いで、生活能力が皆無な男だった。
ただ、ちゃんといた格好をすればものすごくかっこいい人だった。
私の仕事は主人の身の回りの世話と、研究の助手だった。
主人は学のない私に文字を与えてくれた。
そして、私に魔法を教えてくれた人だった。
あの時代、どこにでもいた魔法使い。
……主人は普通ではなかった。それを知ったのはいつだっただろうか。
研究をして実験をして。
成功したり失敗したりしながら過ごした。
何十年もたって、戦争が起きた。
主人に出頭命令が出るまでは、変わらない日々を過ごした。
「」」
主人が何といったのか、もう覚えていない。
主人は帰ってこなかった。
私に残されたのは、主人の塔とそのすべてだった。
主人の遺言で、私は私自身を買うことができた。
私は自由になった。
私は魔女になった。
時計塔の魔女に。
そして、主人以上に人と関わらなくなった。
そうして、いつしか私は人間嫌いの時計塔の魔女と呼ばれるようになった。
いくつもの季節が過ぎ去り、塔から見える景色もどんどん変わっていった。
幾度となく戦争も起こった。
私は何一つとしてかかわらなかったけれど。
いつだっただろうか。
塔を訪ねてきた男がいた。
微笑みながら人を殺せるくせに平和が好きだという変わり者だった。
その男と私はたぶん、友人だったのだと思う。
いつでも、穏やかに笑う男だった。
風のうわさで彼が学校を創ったと聞いた。
「子供たちに平和な未来を見せたいんだ」
そういって彼は笑った。
「また来るよ」
そういった彼が塔を訪れることは二度となかった。
風のうわさで彼と同じ名前の天才と呼ばれた魔法使いが戦死したと聞いた。
戦争は嫌いだと、平和が好きなのだといったくせに。
何度目かわからない戦争で私の住む塔にも戦火が及んだ時があった。
私はためらいもなく兵士たちを皆殺しにした。
どこかの王だか何だかが私を殺せといったらしく、やけに招かれざる客が多かった時もあった。
やっぱり、皆殺しにした。
季節は移ろい、月日が過ぎ去る。
私だけが置いていかれる。
私は、「」という言葉が嫌いだ。
いつだっただろうか。
この塔を訪ねてきた魔法使いがいた。
「面白そうだから」とかいうふざけた理由できたその魔法使いはどこぞの学校の卒業生らしかった。
……その学校はどこかで聞いたことがあるような気がした。
その魔法使いは「またくる」そう言っていなくなった。
風のうわさで同じ名前の天才魔法使いが死んだと聞いた。
あの魔法使いが来ることは二度となかった。
私は。
私は、「また」という言葉が大嫌いだ。
「 またね 」
といった主人。
「また来るよ」
といった彼。
「またくる」
といった魔法使い。
また。
また、また。
また、また、また。
また、また、また、また。
そう言った誰かは。
誰も。
誰も、誰も。
誰も、誰も、誰も。
誰も、誰も、誰も、誰も。
帰っては来なかった。
私は、誰かと関わることが嫌いだ。
関わらなければ。知らなければ。
失うことを恐れずにすむのだから。
……どこかの森の奥深く。
古い古い、かつて『時計塔』と呼ばれた塔があるのだそうだ。
そこには長い、長い時をただ一人でいる少女がいるのだという。
その少女は老いることなく、ただそこに在るのだという。
まるで、永遠に朽ちることのない人形であるかのように。
かつての人は、幾年も前の人々は。
その少女のことを、悲しみの『人間嫌いの時計塔の魔女』とよんだそうだ。
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