柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

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第2章 北楊村編

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「お姉ちゃん、景雲お兄ちゃんはー?」

今回は晏寿が子供達へ勉強を教える当番だったので、子供達のところに行くとさっそく景雲のことを聞かれた。
景雲は暇を見つければ、子供達と遊んでいた。
だから子供達が気付くのも必然だった。

「景雲は仕事で村の外に行ったわ」
「えー!お兄ちゃんはいつ帰ってくるの?」

遊び相手がいなくなったから、それが不満なのだろう。

「そうね、軽く十日は帰ってこないかな」
「そんなに!?」
「きっとぐったりして帰ってくると思うから、元気に『おかえり』言ってあげよう?
景雲喜ぶから」
「…うん」

どこか納得していないようだったが、勉強する時間なのでこの話はここで打ち切りとなった。


そして景雲は晏寿が言った十日もかからず、七日ほどで帰ってきた。疲れているかと思っていれば、全くそんなそぶりもない。

「おかえり…早かったね」

晏寿と秀英は呆気にとられながら、景雲に声をかける。

「お兄ちゃん、おかえりー!」
「おお、ただいま」

景雲の足元に子供達は嬉しそうに集まり、一番近くにいた男の子の頭を景雲は撫でる。
背負っていた荷物を下ろし、首を捻った。

「あー、疲れた」
「景雲、全て売ったのか?」
「ああ。俺にかかればこんなもんだ。
とりあえず建物の中に入らせてくれ。そこで説明するから」

景雲が疲れているということで、ひとまず三人は仕事場に行くことにした。
仕事場に着き、秀英と景雲はそれぞれ座った。
晏寿は茶の用意をしてから、椅子に座る。

「それで、成果は?」

秀英はすぐに本題を聞いてきた。
一口茶を飲んでから、景雲は話しだす。

「まぁ、そう焦るなって。
土産に城下で饅頭買ってきたから、それも食べよう」
「景雲、この箱のこと?」
「ああ。晏寿、すまないが饅頭出してくれ」
「わかった」

三人でいるときは基本晏寿が茶や菓子を出す。
一度晏寿が不在のときに秀英が茶を淹れたのだが、茶の葉の量を間違えてだいぶ濃い茶になってしまった。
またあるときは景雲が菓子を出そうとしたが、誤って全てひっくり返してしまった。
二人にとってそれが苦い思い出となってしまって、茶器や菓子を触らなくなった。
晏寿が饅頭を用意したことで、景雲は話し始めた。

「城下で酒を村の名を伏せて売った。
初日は全然売れなかったから、城下だけが噂を流す場ではないと俺は考えた」
「それで?」
「一旦家に帰って着替えてから、友人達を呼んで宴会を開いた」
「はぁ!?」

晏寿は驚愕で目を見開く。
秀英も厳しい顔で景雲を睨むように見ている。

「まぁまぁ。ちゃんと会費は出させたから、無賃ではないぞ」

景雲の話はこうだった。

宴会を開いて友人達に酒を振る舞い、その中に村で作った酒を忍びこませた。
酒に詳しい友人がいたので、すぐに銘柄を知らない酒に気付き、景雲に酒のことを尋ねた。
景雲は「自分が携わって作った酒」とだけ教え、どんどん飲ませた。
そして皆酒を気に入り、土産に持って帰った。

景雲は友人達が飲んだことを口実とし、次の日街で

「上流貴族も好んで飲んだ酒を安価で振る舞う」

という売り文句をつけて売ったところ昨日とは打って変わって売れていった。

四日ほど過ぎた頃、酒の在庫も半分ほどとなったので、毎日買いに来ていた一人の客に尋ねた。

「あんた、毎日買いに来てくれてるだろう?
何故だ?」
「そりゃあこの酒が旨いからな。貴族と同じものってのもなかなか口にはできないし。
それに、どこで作られているのかわからないっていうのも気になるから、こうやって兄さんと話してんだよ」
「…あんたにだけどこで作られているか教えてやろうか」
「本当か!?」
「ああ、だかできれば隠密にな」
「わかった!」

そうして景雲はこの客にだけ北楊村でこの酒を作っていることを教えた。
客は大層驚いたが、しっかり酒は買って帰った。

ここに景雲の作戦があった。

「自分だけ」が知っている情報というのは誰かに話したくなるもの。
ましてや、「秘密に」などと念押しされれば殊更話したくなる。

景雲はこれを見越してよくしゃべりそうな客を選んで情報を流したのだった。
案の定、村で作られたという情報はあっという間に知れ渡り、「北楊村」という名前を聞いて来なくなる客もいた。

しかし村で作られたということを知っても変わらず来てくれる者、興味を持ってやってくる者に景雲は重点をそもそも置いていた。
こういった客は「物自身」を見ている。
村の名前を知って来なくなった者は所詮上辺っ面だけなのだ。

村の名前を聞いてもなお買いにきてくれた顧客を景雲は大事に扱った。
そして最初に村のことをばらした客だが、次の日には訪れなかった。
秘密にと言われたのに次の日にはこれだけ広まってしまったのだ。
景雲は仕方ないと思っていたが、酒の味を忘れられなかったのか、バツの悪そうな顔をしながらそのまた次の日に買いにやってきたのだった。
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