柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

文字の大きさ
37 / 133
第3章 休暇編

2

しおりを挟む
「二人とも家の前で何をしてたの?」

あの後二人をそのままにしてはおけなかったので、晏寿はひとまず家の中に招き入れた。
怜峯と話していた部屋に通して、茶を出す。

「いや、まぁ、一度家には帰ったんだが、どうも暇でな。
それに今までは村の中では一人のただの男だったが、久しぶりに『容 景雲』扱いされても違和感を感じて落ち着かないんだ」

苦笑しながらそう漏らした景雲。
晏寿は景雲の言うことには一理あるように思えた。

村では身分というものがなかったのだ。
皆で田畑を耕さなければ、明日食べることに困る。
一人で部屋を独占しようものなら、誰かが雨風にさらされる可能性がある。

そんな生活を一年こなしてきたのだから、染みついていてもおかしくはない。
しかしこちらに戻ってくれば身分が発生し、皆が特別扱いしてくる。
一年前では当たり前のことだったが、今ではそれが居心地悪いものになっているのだった。

「秀英は?」
「俺も家にいて落ち着かなかったから散歩に出た。そしたら道中で景雲と会って」
「秀英と会ったら、これは晏寿にも会うしかないとなったんだ」

晏寿は二人が自分に会いたいと思ってくれたことには嬉しく感じた。
けれど如何せん、朝まで一緒にいたのだ。
まだ寂しくなるほど時間は経っていないのでは、と反面思っていたのだった。

「とりあえず、これから夕食の支度しないといけないから。二人も食べていく?」
「いいのか?」
「大人数のほうが楽しいし」

久々の家族団欒もいいが、楽しく食事もしたい。
それに簡単に景雲が尻をあげるとも思えなかったので、晏寿は誘ったのだ。
とりあえず、二人が来たことを怜峯に伝えにいった。

「兄様、今ちょっといい?」
「なんだ?」

仕事をしていた怜峯の背に声をかけると、怜峯は振りかえった。

「あのね、仕事の同僚が来て夕食に誘ったんだけど」

晏寿がそう言うと怜峯は大きな音を立てながら立ちあがり、晏寿に詰め寄った。

「同僚って…伯 秀英か?容 景雲か?」
「え、どっちも」
「!!」

晏寿の発言で怜峯は愕然とする。
膝から崩れそうな勢いだった。

「ど、どうしたの?何か問題があった?」

いきなり二人を迎え入れたことがまずかったのかと、晏寿は焦る。
どことなく疲労感を増した怜峯が弱々しく言った。

「いや…まさかこんなに早くお前が男を連れ込むとは思わなくてな…
しかも二人も。そしてそれが伯 秀英と容 景雲だとは…」

「兄様、それじゃ聞こえが悪いよ。
それに連れ込んだんじゃなくて、夕食に誘っただけ」

晏寿が弁解するも、なかなか怜峯には理解してもらえなかった。
しかし、いつまでも二人を放置しておくわけにもいかないので、怜峯を放置して夕食の準備に向かった。

「今兄様に二人のこと言ってきたから。これから準備するね」
「ああ。悪いな」

二人に一声かけて、晏寿は料理にとりかかる。
大根を洗って適当な大きさに切って、皮をむく。
しゅるしゅると皮を一息にむいていると、

「ほぉ、手慣れたもんだな」
「!!」

背後から声をかけられ、晏寿は息をのむ。
振りかえれば、景雲が晏寿の手元を覗きこんでいた。

「け、景雲、まだできないから、向こうで待っててよ」
「んー、秀英と話してるのにも飽きてな。なら晏寿と話してようかとな」
「いや、私忙しいから。
あ、そうだ、暇なら手伝ってよ」

妙案とばかりに提案する。
しかし、相手は名家の息子の景雲である。
畑作業は北楊村で散々やってきたが、料理は全くやったことがない。

一度お茶菓子をひっくり返して以来、北楊村でも茶器に触れようともしなかったのだ。
晏寿は頼んだあとにしまったと思ったが、本人がやる気になってしまったため、後に退けなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

処理中です...