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第4章 後宮潜入編

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王宮での晏寿達の部屋で支度をしていると秀英と景雲が入ってきた。

「お、晏寿。仕事の準備か?」
「ええ。今回は三人一緒じゃないのね」
「だな。ま、俺と秀英はまた一緒だ」
「そうなの?」

晏寿がそれぞれを見ると、景雲は肩をすくませ、秀英はちらりと視線を合わせただけですぐに自分の作業に戻る。
いつもの態度のようだが何だか秀英の態度がとても素っ気なく晏寿には感じた。

しかし秀英のそんな態度にも理由があった。

紅露が晏寿のことを慕っていること、そして紅露が自分の姉にしたがっているのが晏寿ではないかということになんとなく感づいてから、秀英は晏寿のことを意識し始めていた。

だから先程晏寿と景雲が話しているのを見ていては、今まで感じたことのないものを感じていたり、晏寿と目が合ったときは、どことなく気恥ずかしさを感じていた。

そんな秀英のことなどお構いなしに二人は会話を続ける。

「今度の二人の仕事は何?」
「まぁ言うなれば人事、というところだ」
「今度は室内なのね」
「事務的な仕事もあり、視察もあり。言えることは畑仕事はないというとこだな」
「ふふ、そう」
「晏寿は?」

景雲に尋ねられて、晏寿は言葉につまってしまった。
殿下の教育係と言ってもいいのだろうか。

しかし、これから仮とはいえ皇太子妃となる。
また表向きには仮ではない。それがうっかり外部に漏れてしまえば、多大な失態である。

だから晏寿は、
「貴族の…御子息の教育係かな」
と言葉を濁しておいた。

これに関しては追及せず、さらりと終わったので晏寿をほっと胸をなでおろした。
そして支度が済んだので、晏寿は一足先に向かうことにした。

「それじゃ二人とも頑張ってね」
「晏寿もな」
「…ああ」

晏寿の挨拶にようやく秀英が声を出したので、笑みを浮かべながら晏寿は指示された場所へと向かうのだった。


「人事、とはよく言ったものだな」

晏寿がいなくなった部屋で秀英がぽつりと呟いた。

「仕方なかろうに。そう表現するしかなかった。まさか奴隷調査などと晏寿に言えるか」
「晏寿には耐えきれないだろうな。だから俺と景雲だけ任命されたのだろう」
「ああ。しかし晏寿にだけ別の仕事があってよかった」

ふうとため息をつく景雲。
それを横目でちらりと秀英は見る。

「あいつの家、表面上は落ちぶれた良家だが、実際は糸家が大きく絡んでいて糸家の支配に遭っているようなもんだもんな」
「どういうことだ?」

景雲の発言に眉をひそめる。
景雲は驚いたというように目を見開いた。

「知らないのか?晏寿の母親は今奉公という形で糸家に人質にとられていて、なお且つ晏寿自身も奉公に出ろと言われたんだぞ」
「そうなのか…!?」
「ああ。だからそれから逃げるためにあいつは官吏試験を受けたんだ。もし奉公に出ていたら、下手すりゃ妾だったろうよ」
「…そうか。しかし何故そんな内密な話をお前は知っている?晏寿が話したのか」

自分が知らない晏寿のことを違う男の口から聞くとなんとも腹立たしい。
そう感じながら景雲をじとっと睨む。
そんな視線をするりとかわしながら景雲は答えた。

「晏寿からは直接聞いていない。だが俺の情報網をなめるなよ」

ふふんと威張る景雲に脱力する秀英だった。
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