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1.心配な後輩
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午後8時。
仕事帰りの電車の中で私はその日あったニュースを見ていた。
すると、スマホの画面にピコンとメッセージを受信する通知が届いた。
親指で軽くタップし、素早く暗証番号を入力してメッセージアプリを開いてみれば、そこには大学時代の友人ハルカからのメッセージが表示されていた。
「久しぶり~!ねえ、最近忙しい?時間あったら、後輩の相良と一緒に3人で飲もーよ!」
ハルカは私と同級生の女子で今は婚活アプリに関する会社で働いているはずだった。そして、相良というのは私達の1学年下の男の子で、女子と話すときは目を合わせられず、もじもじしながら喋る後輩男子のことだ。
仕事はほどほどに忙しかったが、家と職場の往復の生活に飽き飽きしていた私は、すぐにハルカに「明日でもいいくらい行きたい!」と返信メッセージを送ったのだった。
♢♢♢
「お待ちしておりました、お席はこちらになります」
通された半個室の扉を開けると、そこにはハルカが座っていた。
「わあ!久しぶり!元気してた~?」
ハルカは学生時代と変わらず髪の毛を明るめの茶色に染めてゆるいパーマをかけていた。
「元気元気!ハルカこそ!元気そう~。1年ぶりくらい?」
私達2人はしょっちゅう連絡を取って食事をしたりするような関係ではなく、1年に1度か2度ほど食事をするような関係だった。連絡を取らない期間が長くてもそれで疎遠になるような関係ではないということだ。
「そうだね、1年ぶりくらいじゃない?ホント久しぶり~!」
ハルカは割とハキハキと喋るタイプで、声も高くてよく通る。
「いやいや、あたしも家と職場の往復で飽きてたところよ。相良は?連絡あったの?」
「もうすぐ来るって。さっき連絡あった」
メニューを広げてペラペラめくっているが、その瞳は真剣にメニューを見ていないようだ。
「・・・ってかハルカ、相良と連絡取ってたんだね。・・・もしかして、『私達実は・・・』的な報告ですかあ~?」
学生時代、相良とハルカが・・・というような素振りは一切なかった。ハルカは自分が見ていたメニューのうち飲み物のページを開いたまま私に手渡す。
「ははは、そんなわけないじゃーん!いやさ、実はさ、あたしの会社のアプリに、相良が登録してきてさ~」
「ええ!あの相良が婚活を!?」
「そうなの!あ、これ、相良から言ってもいいって言われたから喋ってるんだけどさ。ま、詳しくは本人から聞こうよ~あたしもどういうことか聞きたくって聞きたくって!」
ハルカの報告に驚きが隠せなかった。
私の中の相良といえば、私の1学年年下で、女子と2人きりだともじもじしちゃって話すことができない、そんな男子だった記憶しかない。
それが、まさかハルカの勤務先の婚活アプリに登録したと聞いて、驚いてしまったのだ。
「・・・相良って、ハルカがそこで働いてるって知ってたの?」
「んー?知らないんじゃないかな~?会社名までは言ってなかったはずだし・・・」
ひょっとしたら、相良が実は昔からハルカに片思いをしていて、ハルカが働いている婚活アプリに登録することで「ぼく、結婚したいんです!」っていうアピールをしているのかもと思ったんだけど・・・。
その時ちょうど、私たちの半個室の扉の向こう側で、何やら男性の話し声が聞こえてきた。きっと相良が到着したのだろう。
「・・・・・・遅くなりました!」
扉が開くと、そこにはラフな服装の相良の姿があった。
大学院時代と変わらず、相良は髪の毛を染めることもなく、真っ黒な髪で、シンプルなシルバーのフチの眼鏡をかけていた。
「おお~~~相良~~!」
「久しぶり~~!」
ハルカも満面の笑みで相良に声をかける。
「・・・・・・わ、お久しぶりです!お待たせしちゃいましたか・・・・・・?」
「女同士はお喋りが尽きないくらいなんだから、ちょっとくらい遅れて来ても問題なーし!」
ハルカが私の隣に座るように相良を促した。
「ちょっと、相良~久しぶりじゃんか~!」
「・・・・・・リコ先輩こそ、お久しぶりです」
3人そろったところで挨拶もそこそこにまずは乾杯の飲み物を頼むことになった。まずは3人ともビールから飲むことにする。
相良は女子と2人きりの会話は苦手だが、不思議なことに、ハルカや私とは、ゆっくりながらも時々目を合わせて会話もできるのだ。
おつまみを数品頼み、お酒も進んだところでそろそろ聞いてもいいかな・・・と思い、相良に顔を向けた。
「ってか相良!あんた、婚活してんの!?」
「・・・・・・あ、ああ~・・・。えーっと、うん、まあ、そうなんです・・・・・・」
聞けば、相良も30歳を迎え、従兄弟の結婚、出産の話が聞こえてくるようになってきた。そして、親から「あんた、いい人いないの?」という、いわゆる彼女やら結婚事情をリサーチされるようになってきたことをきっかけに、婚活を始めてみようという気持ちになったらしい。
「今彼女いないんだ?」
「・・・・・・あ・・・・・・はい、まあ・・・・・・」
なんとも歯切れが悪い。
「出会いは?どっかないの?」
「・・・・・・職場は男性が多いですし、かといって積極的にイベントに行ったりも苦手ですし、正直出会いがないんですよね・・・・・・」
とはいえ相良は見た目が悪いわけでもなく、服装も清潔感のある服装だし(センスは分かんないけど)、背だって170センチ後半はありそうだから、全く女性ウケが悪いという感じもしない。
「職場の先輩の紹介とかは?」
「・・・・・・あ・・・・・・そういうので、その、紹介していただいた方もいたんですけど・・・・・・その・・・・・・うまくいかなくて」
何が原因で上手くいかなかったのか全く分からないが、ひょっとしたら女性と話すのが得意じゃないから女性側から『なんとなく話にくい』とか『あんまり私に興味ないのかも』とか思われてしまったのだろうか。
「そっか~。じゃ、婚活アプリ頑張らなきゃじゃん!マッチングはしてるの?」
ハルカがすかさず進捗状況を伺いにでる。
「・・・・・・それが・・・・・・写真とデータだけで選ぶというのが苦手みたいで・・・・・・自分からイイネとか押せなくて・・・」
「え~!ちょっとー!それじゃ話が進まないじゃーん!じゃんじゃんイイネ押していけばいいんだよぉ~!下手な鉄砲も数うちゃ当たるっていうじゃーん!」
ハルカが相良にとにかく攻めろと言わんばかりのアドバイスをする。
「女の子はさ、やっぱりこう、グイグイ多少強引に来てくれる方が好きだったりするもんだよー!」
「・・・・・・僕・・・・・・やっぱり・・・・・・苦手で・・・・・・」
自信なさげに俯いてしまった相良。
そしてそんな頼りなさげな後輩を見て、私の中の姉御肌気質がむくむくと沸きあがる。
「よし、相良!先輩のあたしに任せな!あたしが相良の婚活応援するわ!」
相良も驚きながらも嬉しそうに「・・・・・・じゃあ、お願いします」と言ってくれるもんだから、私は相良と連絡先を交換して、この日は3人で盛り上がったまま解散となったのだった。
仕事帰りの電車の中で私はその日あったニュースを見ていた。
すると、スマホの画面にピコンとメッセージを受信する通知が届いた。
親指で軽くタップし、素早く暗証番号を入力してメッセージアプリを開いてみれば、そこには大学時代の友人ハルカからのメッセージが表示されていた。
「久しぶり~!ねえ、最近忙しい?時間あったら、後輩の相良と一緒に3人で飲もーよ!」
ハルカは私と同級生の女子で今は婚活アプリに関する会社で働いているはずだった。そして、相良というのは私達の1学年下の男の子で、女子と話すときは目を合わせられず、もじもじしながら喋る後輩男子のことだ。
仕事はほどほどに忙しかったが、家と職場の往復の生活に飽き飽きしていた私は、すぐにハルカに「明日でもいいくらい行きたい!」と返信メッセージを送ったのだった。
♢♢♢
「お待ちしておりました、お席はこちらになります」
通された半個室の扉を開けると、そこにはハルカが座っていた。
「わあ!久しぶり!元気してた~?」
ハルカは学生時代と変わらず髪の毛を明るめの茶色に染めてゆるいパーマをかけていた。
「元気元気!ハルカこそ!元気そう~。1年ぶりくらい?」
私達2人はしょっちゅう連絡を取って食事をしたりするような関係ではなく、1年に1度か2度ほど食事をするような関係だった。連絡を取らない期間が長くてもそれで疎遠になるような関係ではないということだ。
「そうだね、1年ぶりくらいじゃない?ホント久しぶり~!」
ハルカは割とハキハキと喋るタイプで、声も高くてよく通る。
「いやいや、あたしも家と職場の往復で飽きてたところよ。相良は?連絡あったの?」
「もうすぐ来るって。さっき連絡あった」
メニューを広げてペラペラめくっているが、その瞳は真剣にメニューを見ていないようだ。
「・・・ってかハルカ、相良と連絡取ってたんだね。・・・もしかして、『私達実は・・・』的な報告ですかあ~?」
学生時代、相良とハルカが・・・というような素振りは一切なかった。ハルカは自分が見ていたメニューのうち飲み物のページを開いたまま私に手渡す。
「ははは、そんなわけないじゃーん!いやさ、実はさ、あたしの会社のアプリに、相良が登録してきてさ~」
「ええ!あの相良が婚活を!?」
「そうなの!あ、これ、相良から言ってもいいって言われたから喋ってるんだけどさ。ま、詳しくは本人から聞こうよ~あたしもどういうことか聞きたくって聞きたくって!」
ハルカの報告に驚きが隠せなかった。
私の中の相良といえば、私の1学年年下で、女子と2人きりだともじもじしちゃって話すことができない、そんな男子だった記憶しかない。
それが、まさかハルカの勤務先の婚活アプリに登録したと聞いて、驚いてしまったのだ。
「・・・相良って、ハルカがそこで働いてるって知ってたの?」
「んー?知らないんじゃないかな~?会社名までは言ってなかったはずだし・・・」
ひょっとしたら、相良が実は昔からハルカに片思いをしていて、ハルカが働いている婚活アプリに登録することで「ぼく、結婚したいんです!」っていうアピールをしているのかもと思ったんだけど・・・。
その時ちょうど、私たちの半個室の扉の向こう側で、何やら男性の話し声が聞こえてきた。きっと相良が到着したのだろう。
「・・・・・・遅くなりました!」
扉が開くと、そこにはラフな服装の相良の姿があった。
大学院時代と変わらず、相良は髪の毛を染めることもなく、真っ黒な髪で、シンプルなシルバーのフチの眼鏡をかけていた。
「おお~~~相良~~!」
「久しぶり~~!」
ハルカも満面の笑みで相良に声をかける。
「・・・・・・わ、お久しぶりです!お待たせしちゃいましたか・・・・・・?」
「女同士はお喋りが尽きないくらいなんだから、ちょっとくらい遅れて来ても問題なーし!」
ハルカが私の隣に座るように相良を促した。
「ちょっと、相良~久しぶりじゃんか~!」
「・・・・・・リコ先輩こそ、お久しぶりです」
3人そろったところで挨拶もそこそこにまずは乾杯の飲み物を頼むことになった。まずは3人ともビールから飲むことにする。
相良は女子と2人きりの会話は苦手だが、不思議なことに、ハルカや私とは、ゆっくりながらも時々目を合わせて会話もできるのだ。
おつまみを数品頼み、お酒も進んだところでそろそろ聞いてもいいかな・・・と思い、相良に顔を向けた。
「ってか相良!あんた、婚活してんの!?」
「・・・・・・あ、ああ~・・・。えーっと、うん、まあ、そうなんです・・・・・・」
聞けば、相良も30歳を迎え、従兄弟の結婚、出産の話が聞こえてくるようになってきた。そして、親から「あんた、いい人いないの?」という、いわゆる彼女やら結婚事情をリサーチされるようになってきたことをきっかけに、婚活を始めてみようという気持ちになったらしい。
「今彼女いないんだ?」
「・・・・・・あ・・・・・・はい、まあ・・・・・・」
なんとも歯切れが悪い。
「出会いは?どっかないの?」
「・・・・・・職場は男性が多いですし、かといって積極的にイベントに行ったりも苦手ですし、正直出会いがないんですよね・・・・・・」
とはいえ相良は見た目が悪いわけでもなく、服装も清潔感のある服装だし(センスは分かんないけど)、背だって170センチ後半はありそうだから、全く女性ウケが悪いという感じもしない。
「職場の先輩の紹介とかは?」
「・・・・・・あ・・・・・・そういうので、その、紹介していただいた方もいたんですけど・・・・・・その・・・・・・うまくいかなくて」
何が原因で上手くいかなかったのか全く分からないが、ひょっとしたら女性と話すのが得意じゃないから女性側から『なんとなく話にくい』とか『あんまり私に興味ないのかも』とか思われてしまったのだろうか。
「そっか~。じゃ、婚活アプリ頑張らなきゃじゃん!マッチングはしてるの?」
ハルカがすかさず進捗状況を伺いにでる。
「・・・・・・それが・・・・・・写真とデータだけで選ぶというのが苦手みたいで・・・・・・自分からイイネとか押せなくて・・・」
「え~!ちょっとー!それじゃ話が進まないじゃーん!じゃんじゃんイイネ押していけばいいんだよぉ~!下手な鉄砲も数うちゃ当たるっていうじゃーん!」
ハルカが相良にとにかく攻めろと言わんばかりのアドバイスをする。
「女の子はさ、やっぱりこう、グイグイ多少強引に来てくれる方が好きだったりするもんだよー!」
「・・・・・・僕・・・・・・やっぱり・・・・・・苦手で・・・・・・」
自信なさげに俯いてしまった相良。
そしてそんな頼りなさげな後輩を見て、私の中の姉御肌気質がむくむくと沸きあがる。
「よし、相良!先輩のあたしに任せな!あたしが相良の婚活応援するわ!」
相良も驚きながらも嬉しそうに「・・・・・・じゃあ、お願いします」と言ってくれるもんだから、私は相良と連絡先を交換して、この日は3人で盛り上がったまま解散となったのだった。
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