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7.後輩君からの告白(後編)

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 その後も4人でアトラクションを周り、気づけばとっぷり日も暮れて夜になっていた。このテーマパークでは、夜になると毎晩花火が上がる。私達はぎゅうぎゅうになりながらもたくさんの人が集まる花火鑑賞エリアに来ていた。しかし、人が多すぎて、翔さんとカノンさんと少し距離が空いてしまった。身動きも取れないので、翔さんカップルと、私と相良の2組に分かれて花火を鑑賞することにした。
 間もなく花火が打ち上ろうとしたとき、後ろから人に押されて相良と離れそうになる。すると、相良が私の腰に手を回し、離れないようにぎゅっと力を込めたのが分かった。

 「相良・・・」

 そのとき、予定通り、花火が打ち上がる。目の前でパーン!バーン!と打ちあがる花火、そしてテーマパークのお城が色とりどりにライトアップされていて、とても綺麗な光景だった。考えてみたら、このテーマパークで花火を見るのもとても久しぶりだった。私は花火をじっと見上げる。花火の大きな音が体を震わせるようだった。ただ、私は自分の腰に回された相良の腕にも意識がいってしまう。私は花火が終わるまでの間、相良の腕をずっと意識してしまったのだった。

 ♢♢♢

 「はあ~キレイだったね~!」

 花火が終わり、人々がぞろぞろと散り始めたのでようやく翔さんとカノンさんと合流することができた。相良は私達の周りから人が少なくなった時点で腰に回していた手を解放していた。

 「翔くん、私、最後に行きたいところがあるの!夜景がとってもキレイに見えるんだよ~!」

 「いいよ。相良とリコさんはどうします?お土産買いに行っててもいいですし」
テーマパークが閉園するまで残り2時間を切っても翔さんとカノンさんはずっと手を繋いだままだ。

 「先輩、どうします?」

 「私も行きたい!どこだろう、楽しみ!」

 「すっごーくキレイなんですよぉ!じゃ、早く行きましょう!」

 そう言って、翔さんとカノンさんが歩き出す。
 
 『私も、相良と手を繋ぎたいな・・・』と思ったけれど、私と相良は恋人でもなんでもないので「手を繋ぎたい」なんて言い出せるわけもなく、前を行く2人について歩いた。

 到着したのはテーマパークの入口にほど近いエリアで、建物の光が池に反射して、まばゆい光を放っている場所だった。ネットやガイドブックでも「雰囲気が最高」「ムード満点」とされているスポットだ。そのおかげで周りは恋人だらけだった。ベンチに座る恋人たちが寄り添って夜景を見ている。

 少しすると、1組のカップルがベンチから立ち上がった。カノンさんがすかさず空いたベンチを確保し、翔さんを手招きして座る。

 「じゃ、俺ちょっとカノンとゆっくりしてきていい?」

 翔さんが相良に声をかけると「・・・・・・どーぞ」と素っ気なく相良が応える。

 「リコさんも、どこか空いたら座ってくださいね。じゃあ、また後で」

 爽やかに私に挨拶をすると、翔さんはカノンさんの隣に腰を下ろす。そしてカノンさんは甘えるように翔さんに寄りかかり、翔さんはそんなカノンさんの肩を抱き、そしてカノンさんのほっぺにチュっと軽いキスをしているところを見てしまった。

 「えーーっと、ど・・・・・・どうしようか」

 私は動揺してしまい、さっと翔さん達から目線を外した。相良も身体を反転させ、どこへ向かうでもなく歩き始める。

 「・・・・・・ちょっとプラプラしますか?」

 相良はそのまま光が反射する池の周りを歩き始める。すると、ベンチの上に屋根がついている場所から1組のカップルが出て来た。

 「・・・・・・僕たちも、ちょっと座りましょう」

 相良がベンチに腰かけたので、私も相良の隣に座ることにした。ぴったりとくっつくわけにもいかないので、拳1つ分くらいの距離を空けて座る。
 目の前には光が反射している綺麗な池と、ホテルになっている建物から溢れ出ている光でいっぱいで、とてもムードがある場所だった。それでいてベンチの周りは屋根付きのレンガで覆われており、少し人目から離れている。

 「今日、楽しかったね」

 「・・・・・・それならよかった」

 正直、カノンさんの可愛い甘え方が非常に勉強になった。愛され女子というのは、ああいうふうにして可愛く甘えるものなのだ。自分にそれができるか分からないけど、今後の参考にしようと思った。

 そんなことを考えていたら、相良がぐいっと私の真隣に移動してきた。お互いの腕と太ももがくっついてしまうほどの距離だ。びっくりしていると、相良が私の左手をそっと握った。そのまま私の手のひらを仰向けにすると、自分の手を重ねて、恋人繋ぎをする。突然のことにびっくりして言葉が出ないまま相良を見つめていると、相良が意を決したように顔を上げ、私を見つめた。

 「相良、どうし・・・・・・」

 「・・・・・・リコ先輩」

 相良は大きく深呼吸をした。私と繋いだ手をぎゅっと握りしめて、真っすぐに言う。

 「・・・・・・リコ先輩、好きです。僕と結婚を前提に付き合ってください」
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