【完結】私を振った元カレからプロポーズされました

葉月光

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2.食事の約束

 「それにしてもびっくりした。まさかこんなところで会うなんて」
 「それはこっちのセリフ!」

 私、瑞希(ミズキ)と一道(カズミチ)は大学生から数年間付き合っていた元恋人同士だ。
 
 一道は誰もが知る某企業の社長の息子。だけど、大学生時代は接客業でアルバイトをしていた。私が働いていた飲食店に後から入ってきたのが一道だった。就活を終えて社会に出るまでの間、経験の1つとして働き始めたらしい。自分の父親が社長を務める会社だと、どうしても周りが気を遣っているのが分かるため、学生時代のうちは他社で接客業を学びたいんだと言っていた。


 一道とは、一道が28歳、私が27歳ころまで付き合っていた。私が21歳のころから付き合いだしたので、6年ほど付き合っていたのだが、一道から「瑞希とは結婚できない。」と言われて別れることになったのだ。

 とはいえ、あのころは私も就職してやっと仕事にも慣れて落ち着いてきたところで、とくに結婚を考えていたわけではなかった。一道にも、結婚したいとほのめかしたりした記憶もなかった。だけど一道の方は私の将来のことを考えてくれていたんだろう。27歳での別れなら、その後いくらでも出会いはある、と。


 『そっか、私とは結婚できないからって、別れたんだっけ』
 

 別れた直後はそれはもう落ち込んで落ち込んで食欲もなくなったものだ。だけど、1年が経つころには縁が無かったんだと思えるようになった。一道のことは嫌いで別れたわけでもないし、良い思い出にしようと思った。

 その後、出会いもあって何人かとお付き合いもした。しかし、結婚したいと思える人には出会えなかった。子供を産むことを考えたら、結婚を前提にと交際を申し込んでくれた人と付き合って結婚すればよかった。だけど結婚したいと思えないのだ。自分は周りと比べて結婚願望が弱いと結論づけて現在に至る。
 

 『そういう一道は結婚したのかな』と会話の合間に左手を見ようとするけれど、一道は紅茶のカップを右手で持っていて、左手はちょうどソーサーの下に添えられていて確認できなかった。

 『でももし結婚してたとして、元カノとお茶しちゃう男ってどうなのよ』とか色んなことを考えてみたりする。

 

 「瑞希は仕事は?」
 
 「あー、変わってないよ」
 
 会話が広げられない自分に頭の中で『ばかばかー!』と言ってみたりする。どうにか気まずい雰囲気だけは避けたい。昔別れたとき、これが今生の別れなんだと思ったら、これが人生で彼に会える最後の時間なんだと思ったら、笑顔でいようと思えた。私の顔なんて忘れちゃうかもしれないけど、笑顔でさよならしたかった。このままでは、今日この偶然会った時間が人生で彼と会う最後の時間になり、「あー、そういえば偶然本屋で会ったけど、気まずい雰囲気だったな」という記憶だけが彼の中で残ってしまうだろう。今、一道に未練は全くないが、どうせならやっぱり「いい女だったな、幸せになってるといいな」と思われたいのだ。

 「一道こそ、お父さんの会社のままなんでしょ?」
 
 「ああ、うん、そう」
 
 ちょっと、一道も会話を広げてよ!と心の中でツッコミを入れちゃったりする。
 
 会話が続かず、沈黙が流れる時間がいたたまれなくて、私も自分が頼んだロイヤルミルクティーを口にする。ほんのり甘くて温かいロイヤルミルクティーが私を落ち着かせてくれた。
 


 「・・・結婚、してないのか?」
 
 まさか一道から結婚の話が出るとは思わなくて、一瞬ドキっとしてしまった。
 
 「そうなんだよね。一道こそ。結婚・・・したの?」
 
 「いや。俺も独身」
 
 「お互い何してんだろうね。一道は跡取り息子なんだから、頑張らなきゃダメじゃん」
 
 「うん」
 
 一道の表情はなんとなく浮かない。
 
 「彼女とか、いないの?」
 
 口にしてから、探りを入れてると思われたらどうしようとか思ってしまったけど、もう言ってしまったものはどうしようもない。未練があって気になってるわけじゃないよと添えたくなった。
 
 「この間、別れた」
 
 「え!この歳で何してんのよ!出会いには困ってないんだろうけどさー、またここから半年、1年ってお互いを知ってからじゃ、一道、あっという間に40よ?子供成人するとき60になっちゃうよ?」
 
 「もうすぐ40ってだけでも信じられん」
 

 そう言ってお互いフっと笑いあった。なんとなくお互いどういう距離感でいればいいのか分からなくて探り合ってた感じがほどけたみたいだ。
 
 「瑞希こそ、彼氏くらいいるんじゃないのか?」
 
 「私?うーん、実は3年くらいいない」
 
 「・・・どうして」
 
 「どうして、かー。出会いがないよね。マッチングアプリも試したけど、あたしにはあーいうのは合わないみたいで。特に結婚したいわけでもないし、ま、自然の流れに任せてる。で、出会いがない、と」
 
 元カレに話すことなんだろうか。なんだか普通に友達と話してるみたいだ。
 
 「じゃあ、お互い寂しい者同士、今度食事にでも行かないか?」
 
 「お、いいね!行こう行こう!」
 
 その場のノリで食事に行く話はしたが、実は私は一道の電話番号を知らない。昔別れたときに電話帳から消してしまったからだ。その後、SNSのアプリで「あなたの友だちかも?」と一道らしきアイコンが表示されたこともあったが、私はそれすら削除してしまっていたのだ。
 

 「瑞希、Lien(リヤン)やってるだろ?」
 
 「え、あ、うん」
 
 「じゃ、帰ったら予定確認して連絡する」
 
 どうやら一道は本気で食事に行くつもりらしい。
 
 だけどこれは復縁とかじゃなくて、純粋に、学生時代から社会人まで少しの間の時間を共にした友人と食事に行きたがっているだけだろう。案外このまま忘れてしまうかもしれない。
 

 そう思っていたけれど、この日シャワーから出てくると、確かに一道からのメッセージが届いていたのだった。
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