【完結】私を振った元カレからプロポーズされました

葉月光

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4.10年ぶりのデート(前編)

 結局、あの日は一道からの告白に心臓がドキドキしっぱなしのまま解散になった。一道は私を地下鉄の改札口まで送り届けた後、「今日はありがとう」という一言だけメッセージをくれた。「連絡待ってるから」みたいな強引さはなく、ただ一言お礼だけのメッセージが心地いい。でも私はそれに返事ができず、何度も何度もメッセージの画面を見てはドキドキする理由を考えていた。
 

 一道のことは本当に嫌いではない。だが、異性として好きかと問われれば、いくら考えてもよく分からないのだ。家族のような愛なのか、実は自分が気が付いていないだけで異性としての愛なのか。
 
 週末のほとんどの時間を一道のことを考えて出した結果が、「とにかくまた食事に行ってみよう」だった。考えても頭の中で答えが出ないのであれば、直接会って判断するしかない。

 私は日曜日の夜になって、一道に「とりあえず、またご飯に行こう」と送った。一道からはその夜のうちに「何が食べたいか考えておいて。」というメッセージと一緒に、いくつか日程が送られてきた。


 そんなわけで今日は土曜日のお昼に一道と映画館で待ち合わせをすることになった。事前に座席は一道が取ってくれた。映画館の入口で待っていると、白いTシャツの上にストライプのシャツを羽織り、濃いめのジーンズというカジュアルな服装の一道が現れた。背が180センチくらいですらりとした一道は、38歳よりはもう少し若く見えるかもしれない。
 
 「ごめん、また待たせた」
 
 「平気平気、私も今来たところだから」
 
 本当は少しメイクを直したいこともあって、約束の時間より20分ほど前から待っていたけれど、椅子に座って待っていたから疲れてはいなかった。
 
 「どうする、ポップコーンとか食べる?」
 
 「この後ご飯行くんだよね?だとすると私はポップコーンはいいかな。あ、でも、一道が食べるなら少しはもらうけど」
 
 「いや、俺もポップコーンはいいかな。映画に集中しちゃうと思うし。じゃ、飲み物はラウンジに行って選ぼうか?」
 
 「・・・ラウンジ?」
 
 飛行機でもあるまい、映画でラウンジなんて聞いたことがなかったが、何やら一道は映画館のスタッフさんにスマホの画面を見せている。
 
 「瑞希、こっち」
 
 笑顔で振り向く一道の後をついていくと、確かにラウンジに案内された。ふかふかのじゅうたんが敷かれていて靴の音が聞こえない。さらには映画が始まる前に座ったら立てなくなるんじゃないかと思うくらい素敵なソファや椅子が並んでいる。
 
 ドリンクコーナーに向かうと、コーヒー、紅茶を始め色々なドリンクが用意されていることが分かった。
 
 「瑞希は?どれにする?」
 
 フレッシュな果物のドリンクなども美味しそうだけど、映画の上映中に身体が冷えるのが心配だった私は定番の温かい紅茶にすることにした。
 
 「この前も思ったけど、瑞希、紅茶好きなの変わってないな」
 
 「うん、そうだね。コーヒーより紅茶の方が好きかも」
 
 昔から私がコーヒーより紅茶の方が好きだったことを一道が覚えていてくれたことに少し嬉しさを感じる。
 
 2人で飲み物を買って、上映する映画のシアターに入ると、一道は座席番号を確認するまでもなく、階段をスタスタ上がっていく。
 
 「ここ」
 
 一道が事前に取ってくれたのはどうやらペアシートらしい。あることはもちろん知っていたけど、利用したことはなかった。
 
 「ペアシートじゃん!」
 
 「まあね」
 
 そういって一道は買って来た紅茶を座席にセットしてくれた。ちなみに後から知ったのだが、ここはプレミアム・ペアシートと呼ばれる場所のようで、椅子と椅子の間に肘置きがなく、2人かけの、しかもふかふかで座り心地のいいソファが用意されており、足元には膝が伸ばせるようにスツールまで用意されていた。さらに、体が冷えないようにブランケットまで用意されていた。
 
 それにしても座り心地がよさそうに見えるソファは単純に嬉しいが、真ん中の肘掛けがないので、どう座ればいいのだろうか。どちらか片側に体重をかけるか?気にせず真ん中にポンと座ればいいのか?くっついたりしないかな?
 
 一人で座るシチュエーションを頭の中で繰り広げているというのに、一道はなんてことないようにソファの真ん中よりは左側に座ってしまった。これではあまり極端に右端に座ると逆に意識してるように思われてしまうだろうか・・・。いい加減座らないと本当に意識していると思われてしまいそうだ。私は何気ない感じを装い、ちょうど足を伸ばせばスツールの真ん中にきそうな位置に座ることにした。これなら不自然に端に寄っていないし、真ん中に寄り気味とはいえ、左に座る一道と肘が当たるなんてこともないだろう。
 
 「冷えるかもしれないから、ブランケット」
 そういって一道が私にブランケットを渡してくれる。よく見ると、足元にはカバンを直接床に置かなくて済むように、荷物入れまで用意されていた。
 
 「ほら、カバンも。ここ入れなよ」
 
 「うん、ありがとう。ていうか、ねえ、ここいくら?半分出すから」
 
 「いいよ、こういうの座ってみたかったのオレだし。」
 
 そういって一道は優しく微笑んで、あとは自分の荷物を荷物入れにいれたりし始めてしまった。
 
 『ランチ代、多めに出そうかな・・・』
 
 それすらお断りされてしまいそうだなと思いつつ、館内が暗くなったこともあって、私は映画に集中することにした。
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