【完結】私を振った元カレからプロポーズされました

葉月光

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6.プロポーズ

 あれから数度、一道と食事に出かけた。平日の仕事帰りの日もあったし、休日に会うこともあった。一道はいつでも優しくて、私を気遣ってくれていた。

 一道に、忘れられなかった、友だちからやり直したいと言われてから2ヶ月が経っていた。私の中で、そろそろ一道に話をする時かな、という気持ちが芽生えていた。

 今日は土曜日だけど夕方から会うことになっていた。場所は東京で1番高い展望台がある商業施設。雑貨屋さんや本屋さん、アパレルから飲食店までたくさんのお店が入っていて、ここだけで1日が過ごせる場所である。
 
 最寄駅から最短の入口に着くと、先に着いていた一道が柱の側に立っているのが見えた。
 
 「ごめんね!遅れちゃった!」

 「全然、同じ電車だったと思うよ」

 今日の一道はホワイトのTシャツにネイビーのテーラージャケットを羽織り、ベージュのチノパンという服装だ。相変わらず一道によく似合っている。私は無難にシンプルなAラインワンピースと、その上にカーディガンを着て来た。年齢的にも身体にぴったりフィットするような服装は苦しくて耐えられないのだ。

 エスカレーターで1階にあがったところで、一道はエレベーターの方へ向かう。

 「お店、31階だから、エレベーターで行くよ」

 この商業施設にはフードコートもあればレストランもある。事前に一道から何が食べたいか聞かれ、いくつか候補を出した後、一道が予約してくれた。実は昔付き合っていたときに同じお店の別店舗で食事をしたことがあったのだ。この商業施設には、6階にもレストランがあったのだが、かつて一緒に行ったお店があると分かったら、どうしてもそのお店にまた一緒に行きたくなってしまったのだった。

 お店に着くと、「お待ちしておりました」と行って席に案内していただいた。席は個室を用意してもらったようで、落ち着いて話せる雰囲気だった。

 まずはお馴染みのビールを頼み、乾杯をする。その後、いくつかおつまみを頼み、ゆっくり飲みながら食事となった。

 この3ヶ月、一道と改めて向かい合って分かったことがある。それは、私はどうやら一道のことを好きになってしまったようだということ。

 別れてから、私は一道のことを思い出したことがないわけではなかった。だけど、積極的に思い出しては一道のことを想い、感傷的になっていたわけでもない。忘れないけど思い出さない、昔の女性歌手の歌でそんな歌詞があったなと考える程度だった。そうすると、私は一道のことを再度好きになってしまったということなんだろうと思う。

 だけど、一道と復縁するのが正しいのかどうか決められない状態が続いていた。

 そもそも、一道は私と復縁したいと思ってくれたのだろうか?あの日、私の事を忘れられなかった、友だちからやり直さないかと言ってくれたけど、その後こうして3ヶ月の間たまにデートしてどう思ったんだろう?時間を作ってくれているくらいだから、嫌にはなっていないだろうけど、友だちのままでいいと思ってるかもしれない。

 それに、復縁したらその後は・・・結婚は考えてくれているのだろうか?

 私こそ、一道と結婚まで考えているのだろうか?仮に結婚したとして、もう40近い私が、一道の子供を授かることができるのか?無事に産むことができるのか?

 考えれば考えるほど自分のことなのに自分の気持ちがよく分からないのだ。好き、という気持ち以外は。だけどいつまでもズルズルだらだらといることはできない。

 『正直に今私が考えてること、一道に言おう。』

 あとはいつ言うかが問題だった。今言ってこの後の食事が気まずいものになっても困るし、帰りに話して気まずいまま別れるのも気が進まない。

 一道と話していると楽しくて、自分の表情が自然とほころんでいることに気が付く。意識的に口角をあげようなんて思っていない。ただ自然と笑顔を向けたくなるのだ。一道も笑顔でいてくれるから、お互いに微笑み合って会話ができていて、とても居心地がいい。

 食事を終えた私達は、もう1杯だけ飲みなおそうということになった。次は同じフロアにあるバーだ。私達はカウンターで横並びになって座った。

 ドリンクを傾け、この日2度目の乾杯をする。

 落ち着いた店内では、隣に他のお客さんもいないし、バーテンダーも少し離れたところにいる。話すなら今しかない。そう覚悟を決めたときだった。

 「瑞希。話したいことがあるんだ」

 落ち着いた声色に引き寄せられるように一道を見る。さっきまでの笑顔だった一道ではなく、真剣な表情を浮かべている。

 私が無言でいると、一道が続けた。

 「俺は、瑞希と結婚したいと思ってる。俺と結婚して欲しい」
 
 「一道・・・」

 「ごめん、まだ返事ももらってないのに。でも、この数カ月瑞希と過ごしてきて、付き合うだけじゃなくて、結婚したいって思ったから」

 やり直すとかやり直さないとかじゃなくて、その先を考えていてくれたことに嬉しさが旨に広がった。言葉が出せずにいると、一道は上着の内ポケットから折りたたまれた紙を広げた。婚姻届だ。一道が書くべき欄は既に記入済みだった。ボールペンでしっかりと一道の名前が書き込まれている。

 「私、一道に話さなきゃいけないことがある」

 「・・・うん」

 「一道は、社長の息子じゃん。跡取りとか・・・私、年齢も年齢だし、産めないかもしれないじゃん」

 「・・・それは授かりものだからな。今心配しててもしょうがないと思う。チャレンジはしたいけど、子どもができなくても俺はいいよ。会社は誰かが継いで行ってくれればいいんだし。だいたい、同族で続いて行ったらいつかダメになりそうだしな」

 「そう・・・かな。一道のお父さんとかお母さんはそんなふうに思ってないんじゃないかな」

 「仮に親に反対されても俺は瑞希と結婚する。親に反対されたからって諦める程度の気持ちじゃない。この数カ月瑞希と一緒にいて、俺はやっぱり瑞希がいいって思ったから」

 嬉しい、という感情が体中を駆け巡るのが分かった。
 
 嬉しい、喜び、そういう明るくて私をワクワクドキドキさせてくれる感情で身体中がいっぱいになる。幸せ。そう、幸せってこういうことなんだろうな。身体中が幸せでいっぱい。
 
 「瑞希」
 
 一道がそっと婚姻届を私の方に寄せる。
 
 「受け取ってくれないか」
 
 婚姻届を受け取れば、それは了承ということになる。
 
 私は、一道が好きだ。一道のご両親には反対されるかもしれない。
 
 「親御さんに、反対されたらどうするの」
 
 そうなったときに「やっぱりごめん」と言われるのが怖い。また一道と別れることになるのが怖い。
 
 「反対されても説得する。俺は絶対、瑞希と一緒になる」

 私が婚姻届に手を伸ばさないから迷ってると思ったのか、一道が深呼吸をした。

 
 ここで一道と「友だちのままでいたい」なんて言えなかったし、思えなかった。
 
 私はそっと婚姻届に手を伸ばして一道を見た。

 そして、私の指が婚姻届に触れた瞬間、一道の手が私の手に重なった。私はそっと一道を見る。視線がぶつかった。

 「瑞希・・・。ありがとう。絶対に、幸せにするから」
 
 「私も、一道のこと幸せにする」

 そう言って、私達は微笑み合ったのだった。
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