【完結】私を振った元カレからプロポーズされました

葉月光

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7.ご挨拶

 一道にプロポーズされた翌月、私は一道のご実家に来ていた。上場企業の社長の自宅とあって、最寄駅がいわゆる高級住宅街として名高い駅だった。

 私は新調したワンピースの上にジャケットを羽織り、百貨店で購入した日持ちする焼き菓子を手にしていた。自分のためにとはとても買えない額のお菓子にドキドキしたが、いつか自分にも買って食べてみようとも決心した。

 「瑞希!」

 駅の改札口まで一道が迎えに来てくれたので、並んで一道の家まで向かうことにした。

 「駅からすぐだから、歩きで来たんだ」

 一道のご実家は駅から徒歩5分かからない場所にあった。タワーマンションではなく、低いマンションだよと言われていたが、こんな高級住宅街にあるんだから低いマンションとはいえ高級マンションなんだろう。

 「ここ。2人とも待ってるから、入って」

 「うん・・・」

 私はもう緊張で心臓が飛び出てくるんじゃないかと思うくらいバクバクしていた。私の心臓、もつのだろうか?今日、ドキドキしすぎて何か誤作動とか起こしてしまいそうだ。

 一道がカードを使ってオートロックを開錠した。鍵じゃない。カードキーで開けるタイプか!

 「顔、固まってる」

 「そりゃそうでしょ!初めての経験なんだし・・・!」

 一道はエレベーターの中でくすくす笑っている。自分の親に彼女を紹介するのに、緊張しないのだろうか。私の心臓の音を聞かせてやりたい。

 5階でエレベーターを降りた一道はエレベーターホールを抜けて扉の前に立った。おかしい、このドア以外に、このフロアにドアが見当たらない・・・。ここしかお部屋がないのだろうか・・・?

 「ただいま」

 一道がドアを開けて中に入る。私も後に続いて玄関に入ると、玄関だけですでに結構な広さだ。靴は1足も出ていないし、フレグランスのいい香りがする。ふと見ると生花が飾ってある。白、ピンク、黄色の花が飾られ、緑がよく映えている。

 一道に案内されながら廊下を歩き、ドアを開けて中に入れてもらってビックリした。

 いったい何畳あるのか分からないくらい広々としたリビングが広がっている。革張りのソファが並べられていて、10人は着席できそうだ。窓も180度に渡って全面が広がっており、目の前は道路を挟んで木々が生い茂り、隣の家からお互いの部屋の中が見えるなんてこともない。

 低層階ながらワンフロアが100㎡を超えているであろう広々とした居住空間ってこんな感じなのかな、と思う余裕は私にはない。

 「いらっしゃい」

 ソファとは反対側のダイニングから声が聞こえたので背筋がピンっと伸びた。一道のお父さんとお母さんが立って私を迎えてくれている。

 「初めまして!橘瑞希と申します。今日はお忙しい中お時間をいただきましてありがとうございます!」

 「全然、緊張しないでね。一道、瑞希さんにも座っていただきなさい」

 「瑞希、こっち」

 一道に肩を抱かれてダイニングのテーブルに案内される。カウンターキッチンの上もすっきりと整理されており、ここにも生花が飾られていた。ただし、玄関ほど大振りではなく、テーブルの上に花を添える控えめなサイズだった。

 「あのこれ、お口に合うか分かりませんが!いえ、食べ慣れてるかもしれませんが!」

 「あ、ここのクッキー好きなの。ありがとう。コーヒーでも入れましょうか」

 「はい!ありがとうございます!」

 「母さん、瑞希は紅茶が好きなんだけど」

 「あ、そうなのね。じゃあ紅茶にしましょっか」

 普段の会話をしているだけだというのに、全く口を挟めない。緊張してしまって、脳が回転していないようだ。

 テーブルに座って俯いてしまう。視線をどこにやったらいいのか分からなかった。正面には紅茶を用意してくれた一道のお母さんが、その隣には一道のお父さんが座っている。

 「瑞希さんが買ってきてくれたクッキー、さっそく出しちゃったの。ここの、美味しいわよね。瑞希さんもお好きなの?」

 「いえ、あの、食べたことがないのですが」

 まさか食べたことがないものを買って来るなんてと思われてしまうだろうか、今のは嘘でも好きだと言えば良かったかな、なんて瞬間的に後から思いついてしまう。

 「じゃ、食べましょうよ!どうぞどうぞ。って私が言うのもおかしいわね」

 「ありがとうございます」

 緊張でとてもクッキーに手を伸ばせる雰囲気でも気分でもないが、正直、食べたい。だってこんなに高いクッキー、自分のために買ったことない!

 「それで、改めて紹介するけど、こちら橘瑞希さん。俺、瑞希さんと結婚するから」

 一道がズバっと言い切った。自然と視線がテーブルの上に移り、恐る恐る一道のお父さんとお母さんを見る。

 「一道、瑞希さんとはどちらで知り合ったの?」

 「・・・大学4年のとき」

 「あら、そんなに前から?お付き合いはいつからなの?」

 どうしよう。10年前に別れて、最近偶然再会して、結婚することになりましたってちょっと性急過ぎると思われて反対されるかな。指先の温度がさらに冷えて、太ももの上で冷たくなっていくのが分かる。

 「昔付き合ってたんだけど、3ヶ月前偶然再会したんだ。それで、その」

 一道もご両親に自分の恋愛話をするのが照れくさいんだろう、最後はゴニョゴニョしてしまい、全員沈黙してしまう。

 「瑞希さんのご両親にご挨拶には行ったのか」

 ずっと黙っていた一道のお父さんが一道に尋ねる。

 「いや、今度伺う予定だよ。」

 「そうか。失礼のないようにな」

 「・・・結婚、認めてくれるのか?」

 「認めるも何も、お前もうすぐ40だろう。お前もいい大人なんだ。親が反対するのもおかしいし、反対されたら結婚しないつもりなのか」

 「そんなことないけど」

 あっさり一道のお父さんに結婚を承諾されてしまったが、お母さんの方はどうだろう。よく、息子は彼氏というではないか。1人息子だし、どこぞの女に取られると思うと、気分がよくないのではないだろうか。

 「それで?偶然再会して、どうなったの?」

 むしろ結婚のことは分かったから息子の馴れ初めをじっくり聞きたいというように、一道のお母さんは話を掘り下げようとする。

 「母親にそんなこと言えるかよ」

 一道がこの話これ以上はナシだと言わんばかりに話を遮る。

 「いいわよ、今度瑞希さんと2人きりの時に聞くから。ね、瑞希さん、今度絶対聞かせてちょうだいね」


 どうしよう、何と答えればいいのか・・・!一道と相談しなければと硬く決心する。

 「じゃあ、瑞希のご両親に挨拶に行ったらまた報告するから」

 一道が用は済んだとばかりに帰ろうとする。

 「もう帰るの?」

 「ああ、瑞希も緊張してると思うから」

 「私は全然大丈夫!」

 一道が黙りっぱなしの私が緊張していることを察してくれたようだ。一道のご両親との初顔合わせは悪くない印象を持ってもらえたと思うが、あまり長居すると後で疲れがどっと襲って来そうではある。

 「そう、残念。瑞希さん、また今度ね。一道、瑞希さんのご両親との顔合わせの日程早めに相談してね」

 「あの、今日は本当にありがとうございました!これからどうぞよろしくお願いします」

 「こちらこそよろしくお願いしますね。瑞希さん、また遊びにいらしてね」

 一道のお父さんは表情では優しく微笑んでいるが、声を発するのは主にお母さんばかりだった。日ごろからこんな感じで、寡黙なお父さんとお喋りなお母さんという感じなんだろうか。
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