猫の手、貸します。

りー

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猫の手、貸します。1話

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ルカは教室の自分の席に座っている。
今は休み時間で、窓辺の席には明るい日が差し込み、窓の外ではサッカーをしたり走っている人がいてワイワイと声が響いている。

ルカは中学1年生の勉強が好きな女の子だ。
どの教科も成績が良く、学校の先生からも評価が高かった。天才肌ではなく完全に努力家なタイプであるが、勉強が好きなので楽しみながら勉強に取り組んでいたのだった。

ルカは初めから成績が良かった訳ではなく、小学3年生の時に飼っていた猫のシルクが突然居なくなってしまい、ショックを忘れる為に勉強に打ち込んだのだった。

シルクは白い毛並みの黄色と水色のオッドアイでとても美しい猫である。
シルクとは学校に行っている時間以外は一緒に過ごしていた。

何もしない時間があるとシルクとの思い出が蘇り、悲しみで心が潰れてしまいそうになっていた。

「シルクが居なくても、勉強を頑張ればきっと大丈夫。」
勉強をしていると無心になれて、落ち込まずに済んだのだ。

そんなルカの様子をクラスメイトは心配してくれる人もいたが、学校の先生が褒めているのを羨む人も出てきた。

勉強以外には全く興味の持てないルカは、そんなクラスメイトの様子も我関せずといった様子だった。

勉強をしていなかった頃よりも学校の授業が楽しく思えて、どんどん勉強にのめり込んでいった。

勉強にひたすら打ち込み、中学生になった今でもルカは変わらなかった。

小学生の時とは違い、他の地域から来る人もおり、メンバーが少し変わっていた。

メンバーが変わっても、ルカは相変わらず勉強にしか興味が持てず、クラスメイトとも仲良くする気はなかった。

「○○小学校の出身だよね?よろしくね!」
「…よろしくね。」

挨拶は返しても、その子の名前を覚えるほどの興味が全く湧かなかった。

「ルカちゃんは好きな芸能人はいる?」
「芸能人はよく分からないかな。」

「クラスでかっこいいと思う男子って誰?」
「うーん、居ないかな。」

「昨日のドラマ観た?面白かったよね!」
「テレビはニュースくらいしか観ないんだよね。」

始めは話しかけてくれた人もいたが、噂話やテレビ番組などの話題に全く興味が持てなくて、クラスメイトと話が合わなかった。

「なんでそんなくだらない話ばっかするんだろ。馬鹿みたい。」
ルカは心の中で毒を吐いた。
クラスメイトの事を見下していた。

チャイムが鳴り、話していた人達も席に着いた。
数学の授業が始まった。
宿題が出ていて、先生が当てた人は黒板に数式と答えを書くことになっている。

「じゃあ出席番号3番の人、問1を解いて。」
「ルカちゃん。ノート貸してくれる?宿題忘れちゃって。」
「ごめん。見せられない。」
「ルカちゃんやってるでしょ?なんで?」
「なんで私がやった宿題をあなたに見せないといけないの?」

「何を揉めてる?課題を忘れたのか?」

「…先生ごめんなさい。忘れました。」

「先週から出てた課題だろ。次からは忘れないようにして。じゃあ代わりに4番の人、解いて。」

「はい。」
ルカは席を立ち、黒板に問1の問題の数式と回答を書いた。

「うん。正解。問2と問3は出席番号の5と6の人が解いて。」

「「はい。」」
出席番号5と6の人が席を立ち、黒板に書いた。

先生が解説をしている間、ノートを見せて欲しいと言った人がこちらをずっと睨んでいた。

「自分が忘れたのが悪いのになんで睨まれないといけないわけ。」
ルカは理解出来なかった。

授業が終わるチャイムが鳴ると、皆、席を立ったり、話をする声でザワザワしている。


「さっきの態度、何なの?」
前の席の人がこちらを振り返り、文句を言ってきた。
「何の話?」
ルカは突然文句を言われる意味が分からず、イラついていた。
「困ってるんだからノートを見せてくれても良くない?ルカちゃんは困らないじゃん。」
「逆に何でノートを黙って見せないといけないの?」
「華が困ってるんだから助けてくれても良くない?!」
意味が分からなかった。なんで怒られなければいけないのか意味不明である。

「怒られる意味も分からないし。自分が忘れたんだからいけないんじゃん。」

本音がこぼれてしまった。怒ってるなら謝るべきなのかもしれない。
でも仲良くもないのに何でそこまで気を遣わないといけないのか分からないし、頑張って取り組んだ課題を努力もしない人に貸したくもなかった。

「はあ?そんなことあんたに言われたくないんだけど。マジでこの人頭おかしいわー。普通さ、困ってるって言ってるんだから見せるでしょう。」

「それはあなたの普通でしょ?私にあなたの常識を押し付けないで。」

ルカの感情は抑えられなくなり、怒り口調になっていってしまった。

「華、大丈夫?」
私達の言い合いを聞いて、4人くらいの人が話しかけてきた。

「自分が悪いのに逆ギレとかこわ!華、こいつと関わるの辞めるわー!」

さっきまでザワザワしていた教室もシーンと静まり返っていた。

「はー。もう最悪。無理すぎ!」
「華は悪くないから大丈夫だよ。飲み物買いに行こ?」

「この人、華って言うんだ。」
人に興味が無さすぎて分からなかったけど、クラスの中心的な人だったようだ。
教室から出た後、他のクラスメイトもルカの事を見てコソコソと噂をしていた。

「華、可哀想。」
「自分が悪いのにキレてるとか怖いんだけど。」
「自分だけ成績上げようとしててヤバいよね。」
「サイコパスじゃない?あの人。」

酷い言われようだった。自分の態度でこんなにも周りの接し方が変わる事も怖く感じた。
今になって、自分の立場が弱くなっていることに気付いた。

次の授業が終わり、お昼休みになった。

ルカは一緒にお昼を食べる仲だった友達に話しかけた。

すると2人は目を見合わせて、ルカを無視した。
「ねぇねぇ、今日はどこで食べる?」
もう一度話しかけると、何も言わずに早歩きで逃げられてしまった。

「なんで何も言わずに行っちゃうの?待って!」
2人はそのまま戻ってこなかった。

どうにもならなかったので、ルカは自分の机でご飯を食べた。

自分のやってしまったことが深刻に感じてきた。
謝れば済むのだろうかと迷ったが、初めに強い言い方で断ってしまったので、今更相手に話しかけることは出来なかった。

その日は上の空で授業を受けて、家へと帰った。

「ただいまー。疲れたー。」
「おかえりー。学校どうだった?」
お母さんが聞いてきた。

「今日、クラスの子に数学の課題を忘れたからノートを見せてくれと言われたんだけど、仲良くもないし頑張って解いた問題を見せたくなくて断ったんだ。そうしたら他の子たちにも嫌われちゃったみたいで、最悪な事になっちゃったんだ。」

「あら、そうだったの。」
お母さんは驚いた様子だった。今まであまりお母さんに学校の話をする事がなかったからだと思う。

「せっかくの仲良くなるチャンスを無駄にしてしまったのね。困ってるなら、見せてあげれば良かったんじゃないの?」

「話さなければ良かった。お母さんはあいつと同じ思考回路なんだ。見せてもらって当たり前なんだ。信じられない。」
足早に自室に向かいドアをバタンと大きな音を立てて閉めた。

「ルカ!どうしたの?話を続けて?」
「もう話すことは無いから。」
ルカの気持ちを分かってもらえると思ったのに、全く理解されなかったので悲しくて泣いた。ルカは誰も分かってくれないんだと感じたのだった。

次の日、朝起きると学校に行くのがとても憂鬱だった。でも、中間テストが近々あるので休む訳にもいかなかったので学校へ行くことを決めた。

「気をつけて行ってらっしゃい。」
お母さんが笑顔で見送ってくれたが、話したくないので無視して玄関のドアを強く閉めた。

学校に向かって早足で歩いていたが、周りの人達が皆、ルカの悪口を言っているように感じた。

玄関に着くと、自分の下駄箱を開け、上履きを取り出して履いた。

また教室に入ると悪口を言われるんじゃないかと怖くなったが、自分が悪いことをしていないという自信はあったので半ば意地になって、教室のドアを開けた。

ドアを開けると皆こちらを見て、コソコソと何か話していた。

ルカは自席に向かうと、落書きだらけのボロボロになっていた。

ガリ勉、いい子ぶりっ子、性悪、陰キャ、ひどいやつ…。
散々な悪口を机に書かれていて、ショックで泣いてしまった。

「華に意地悪したからバチが当たったんだね。」
「あそこまで書かなくてもねー?クスクス。」

クラスメイトは小声でルカのことを話していた。

ルカは思ったよりもショックを受けていて、何も言い返せなかった。

クラスには誰も味方は居なくて、この人たちはそれを知っていてわざとこんなことを言ってきたんだ…。
そう思うと怖くて今にも教室から逃げ出したいと思った。

ルカはショックで呆然としていた。
こんなことを書かれて、でも誰も助けてくれないことが辛かった。

華は他のクラスの子と話しながら、ルカの方を向いて、「ざまあ。」と口パクで言った。

「やっぱり華がやったんだ…。」
「みんなこの状況に対して何も感じないの?みんな見て見ぬふりをしてるなんておかしい。」
「なんで私がこんな目に遭わないといけないの?」

そう思っているうちに吐き気がきてしまった。トイレに向かって走ったが、間に合わずに廊下で吐いてしまった。

「わー!吐いてる人がいる、大丈夫?!」
「先生、体調不良者です!」
廊下を通った先生に手を引かれて、保健室へと連れていかれた。

保健室には保健室の先生だけがおり、ルカに話しかけてきた。

「朝から体調が悪かったの?」

「いいえ、学校についてから嫌な事があって。それで吐いてしまいました。」

ルカは素直にそう答えた。

「嫌な事があったのね。私でよければ話を聞くわよ。」

先生は優しい口調でルカにそう言った。

「実はクラスメイトにノートを貸してって言われて断ったんです。そうしたら今日机に悪口を書かれてしまってて、ショックを受けてしまいました。」

「そんなことがあったのね。辛かったわね。」

ルカは先生がそう言ってくれたことが嬉しくて、泣いてしまった。

「でも、その机に書いた人をそのクラスメイトと決めつけるのはいけないわね。実際に書いたところを見たの?」

ルカはガッカリした。
先生は共感してくれた訳ではなく、現状を知るためにただ事務的に励ましの言葉を言っただけだと感じた。

「…確かに見てはいませんが、本人からはざまあみろと言われて笑われました。私はそれでその人が書いたと確信しました。」

「いいえ、それでは証拠が不十分だわ。」

何だこの人…。味方どころかルカを責めているようだった。

「私が嫌な気持ちがした事も証拠にはなりませんよね。では、ここで話しても何も意味がないですね。」

先生は困惑した表情でルカを見た。

「そんな事ないわ。困っている人の相談に乗ることは大切な事だと思うわよ。」

「先生は相談に乗ってると思っているようですが、これはただの尋問です。私は責められているように感じて不愉快です。」

「責めてなんかいないわ。このまま話を続けてもらえる?」

ルカは話を続ける気は全くなかった。
せめて否定せずにそのまま話を聞いてくれれば良かったのに…。

先生に話しても解決できないんだと感じたルカは帰り支度を始めた。

「待って!まだ話は終わってないわ!」

「いいえ、私の話を聞く気がないようなのでもう話すことはないです。帰ります。」

「ここに座ってもう一度話しましょうよ。新たに分かることがあるかもしれないわ。」

「分かることはないですし、あっても先生には理解して貰えないと思います。体調が悪いので、帰ります。」

「…待って!ちょっと待って!」

「さようなら。」
ルカは引き止めようとしている先生を無視し、事務的な言い方で挨拶をして学校を後にした。

このまま家に帰ってもお母さんが居て、色々詮索されるだろうと思い、憂鬱になった。
今日は図書館に行って一日を過ごそうと決めた。

図書館はとても静かで、落ち着く環境だった。
今日の授業で使う歴史のテキストを開いて予習していた。
歴史の授業は、タイムスリップしているような感覚になれるので好きな教科のひとつだった。
集中して勉強していると、気付いたら夕方になっていた。

「いけない。早く帰らないとお母さんに怒られる。」
帰る準備をして、足早に家へと向かった。

「ただいまー。疲れたー。」
「おかえり。ルカ、どこにいたの?何やってたの?」
保健室の先生がお母さんに体調不良で家に帰ることを伝えたようだった。
私の話を否定する先生だし、お母さんに告げ口をするしで最悪だと思った。

「学校から電話があったのよ。ルカ、説明して。」

ルカはまた吐き気がして、走ってトイレに向かった。

「ルカ、大丈夫?」
お母さんがトイレに様子を見に来てくれた。
「気持ち悪い。」
「ほら水を飲んで。とりあえずソファに座って。」
肩を抱いて、ソファへと運んでくれた。

「朝から体調が悪かったの?」
「気持ち悪くて吐いた。学校に行きたくない。しばらく学校を休みたい。」
ルカはお母さんにそう伝えた。
「今日はまずゆっくり休みなさい。明日のことはまた明日考えよう。」
お母さんからそう言われ、ベッドまで運んでもらった。
「お母さんありがとう。おやすみなさい。」
そう言って眠りについた。

その後も朝になると吐き気がきて吐いてしまう日々が続き、とうとう学校に行けなくなってしまった。

お母さんはルカを責めることはなかったが、ルカは何となく学校を休む罪悪感や外の世界に出るのが怖くなって、部屋からしばらく出られなくなった。

1ヶ月ほど経ち、少しずつ回復してきたルカは、家で勉強をしたりお母さんと話したり出来るようになった。

お母さんからリハビリをするように言われ、近所へ散歩に出かけた。

「…カ…。」
「…ルカ…。」
何かに呼ばれた気がした。
聞いたことのない声だが、何だか懐かしいような感覚に陥った。ルカは声が聞こえる方へと歩いて行った。

呼ばれた先には神社があり、境内に入っていった。周りには誰も居なくて、ルカしか居なかった。午前10時ということもあり、境内は日が差し込んでいて明るい。
突然強い風が吹き、思わず目を閉じた。

「ルカ、久しぶり。ようやく会えた。」

目を開けると見上げるくらいの大きな猫がいた。
その猫は小さい頃に飼っていた猫、シルクにそっくりだった。


「シルク…?シルクなの?」
半ば疑いながら、ルカはシルクにそっくりな大きな猫に話しかけた。

「うん。そうだよ。シルクって呼ばれてたね。」
一緒に暮らしていた時は人の言葉を話さなかったが、今話している姿をみてシルクだと確信した。

「シルク、何であの時、家を出たの?居なくなってもう死んじゃったかと思った。すごく寂しかったんだよ?」

「ルカ、話すと長くなりそうだから、あそこのベンチに座って話してもいいかな?」

ルカは立って話していたが、シルクの言う通り10メートル先くらいにあるベンチへと歩いた。

「話をさえぎってごめんね。さあ、ここに座って話そう。」

そう言うとシルクはベンチの前に座った。少し砂埃が立っていた。

「実は僕には弟が居るんだけど、その弟もペットとして飼われていた。ある時突然、弟の声が聞こえて、声の先に向かうと交通事故に遭った弟が居たんだ。」

シルクはうつむきながら深呼吸をして、また話を続けた。

「…あと少しで死んでしまいそうで、呆然と立ち尽くしていたら、突然黄色い大きな光がさしたんだ。」

「光…?」

「この神社の氏神様が現れて、僕に弟を助ける代わりに、猫又として何でも屋をして欲しいと言われてね。僕は弟を助けたい一心で猫又として何でも屋をすることを決めた。」

「…話してくれてありがとう。そんな大変な事があったんだね。」

「ルカとお父さん、お母さんが大好きだし、もっと一緒に居たいと思ってたよ。でも弟を助けてもらった恩返しをしないといけなかったんだ。」

神様に弟を助けてもらう代わりに猫又になり、何でも屋をやることになったようだ。

突然居なくなってしまっただけで、私たちと離れたかった訳ではないと知って、ルカは嬉しかった。

「色んな依頼があって、僕と弟、その他の猫又たちと依頼を受けてから仕事をしているんだけど、有難いことに依頼が増えてきて人手が足りないんだ…。」

「そうなんだ。大変なんだね。」

「僕の方は仲間がいるから何とかまだ平気ではあるけど、ギリギリの状態って感じかな。」

シルクは一呼吸置いて、話し始めた。

「実はルカの様子を度々見に行っていたんだ。最近、学校には行けていないよね…?」

「うん。クラスメイトと揉めちゃって、学校に行けなくなったの。前よりはましになったけど、辛いことには変わりないんだ。」

「そうだよね。僕はルカの事が心配なんだ。少しでも楽しいことを経験して欲しくて、今回ルカを呼んだ。迷惑だったかな。」

「ううん。迷惑なんかじゃないよ。話しかけてくれて嬉しかった。」

「それなら良かった…。」

「ルカが良ければ、何でも屋の手伝いをしてみない?少しずつでも全然良いからさ。」

「私なんかで良かったら、シルクの手伝いをしてみたい!でも、私は猫又ではないし、特別な力はないけど、出来ることってあるの?」

「ルカは小さいけど力を持っているんだ。だから僕たちの声が聞こえたし、神社に入ることが出来たんだよ。この神社は結界が張られていて、許可を得た人だけが入れるんだ。」

「そうだったんだ。そう言われると選ばれし者って感じがして嬉しい!」

「怖がったりすると思ってたけど、意外とすんなり受け入れてくれるんだね。ルカは昔から肝が座ってるね。」

「そんなことないよ。私なんかなんにも出来ない人間なんだから…。」

シルクはどんどん暗くなっていく、ルカの表情を悲しそうに見つめていた。

「何でも屋には名前があるんだ。どんな名前だと思う?」

「うーん。シルクの何でも屋さんとか?」

「そのまんまだね。たしかに分かりやすくて良いけど、僕以外にも何でも屋さんのメンバーはいるから違うんだ。」

「そうだよね。えー、分からないなぁ。」

「答えはね、猫の手、貸しますっていう名前なんだ。」

「それもある意味、そのまんまの名前だね!猫又たちの手を借りるわけだし。可愛い名前だね。」

「ありがとう。猫の手も借りたいくらい忙しい人達の役に立てますようにっていう願いを込めて付けたんだ。」

「きっと上手くいく!私も手伝いたい!」

「それならば、ルカには早速やる事があるんだ。これから一緒について来てくれる?」

「うーん。それは出来ないや。お母さんから買い物を頼まれてるから、それを放置することは出来ないの。」

シルクはニヤリとルカの話を聞いて笑った。

「え?私、何かおかしいこといった?」

「いや、普通はそう思うよなーって思って!
妖怪世界では、人間界と時の流れが違うんだ。
だからこれから依頼に行って帰ってきたとしても、人間界では1分くらいしか経過していない事になる。それなら、その後に買い物したとしても間に合うでしょ?」

「そうなんだ!だから笑ってたのね!それなら、今から一緒に行くよ!」

「ルカ、ありがとう。準備を整えたら早速向かおう。」

「氏神様、氏神様。どうかルカの姿を、妖怪の姿にしてくださりませ。」

そう言うと静かに風が吹き、大量の黄色い花びらが舞った。
その後に、シューっという音がして、煙であたりは包まれていた。

「何が起きたの?」

「ルカ、この鏡を見て。」

「え?なに?」

「僕と氏神様の趣味で、ルカにはこんな妖怪の姿になって欲しいと思って今回の姿へ変身してもらったんだ。」

「変身?どれどれ?」

シルクが持ってくれている鏡で自分の姿を見てみると巫女服を着ていた。
そして猫耳が生えていた。

「え?!猫耳が生えてる!なんで?」

「妖怪世界に行くのに人間の姿で居ると他の妖怪に警戒されるからね。猫耳、似合ってるよ。」

「ええー!これって元に戻る?戻らないとお母さんに何か言われちゃう!どうしよう!」

「仕事の依頼を受ける時だけこの姿に僕が変身させるだけだから大丈夫だよ。」

「それなら良かった。安心して仕事の依頼を受けられるかな!」

ルカはシルクの顔を見て安堵し、笑った。
こんなにワクワクする気持ちは久しぶりだった。

「よし、準備が整ったから移動するよ。手を繋いで!」

ルカは男性と手を繋ぐのは初めてだったので、とても恥ずかしくて赤面して自分からは手を繋ぐことは出来なかった。

シルクはルカの手を握り、ルカにこう言った。

「こうやって手を繋いで、移動するんだよ。」

「すごいね!魔法みたい!」

「魔力を使ってるから魔法で間違いないよ。」

ルカは頷いて、移動するのを待っていた。
ルカとシルクが光に包まれて風が吹いている。

目を開けると光の中にいた。ピンクや緑色、黄色の光が交わってキラキラと輝いている。
ピーターパンのように空中を飛びながら移動している。

「空を飛んでる!信じられない!」

「空中を移動するんだ。そうすると人間にも気付かれないんだ。」

「わー!すごい!綺麗!イルミネーションみたい!」

周りの景色ばかりを見ていたが、ふとシルクを見ると人間のような姿に変わっていた。

銀髪にオッドアイの瞳で細身の長身イケメンになっていた。そして、白い猫耳が生えている。

「あれ?シルク、人間になってる?」

「妖怪の世界へ行くと、人間の姿になるんだ。そうすると魔力を使いやすくなるんだよね。猫又の姿だと体も大きすぎて移動も少し不便なんだ。」

「へえー!すごい!そういう理由なんだ!人間の姿だとこんな感じなんだね!カッコイイ!」

「ルカ、褒めすぎ。恥ずかしいよ。」

ルカがずっと近くで凝視してくるので、シルクは恥ずかしがっていた。

ルカは何処吹く風という様子で、周りの景色に視線を移していた。

「ねぇねぇ!これは瞬間移動みたいなもの?」

「そうだね。魔力を使って早いスピードで移動するんだ。すぐに着くから便利なんだよ。」

「すごい便利だね。」

「ほら、もう着くよ!神社が見えてきた!」

光の先に空が見え、森が見えた。
もうすぐ神社に着くようだ。

「空の上から見下ろすとこんなに美しいんだね。飛行機よりも低い位置だけど、とっても綺麗に見えるね!」

「妖怪の世界へようこそ。」

ふわっと浮遊感を感じると、もう地面に着いていた。

「わぁー!さっきの神社よりもずっと広いね!」

ルカは妖怪の世界が珍しくて、辺りをキョロキョロと見回しては笑顔でシルクに話しかけている。とても楽しそうだ。

「山の中にある大きな神社なんだ。広いよね。これから仕事の依頼を受けた弟がやってくるから、ここで待ってよう。」

「シルクの弟かー!私も初めて会うから楽しみだな。兄弟だからやっぱり似てる?」

「どうだろう?他人よりは似てるだろうけど、見た目はあんまり似てないよ。」

「そうなんだ。私は一人っ子だからさ、兄弟って不思議な感覚。自分に似てる存在がいるって面白いよね。」

「うーん。双子ではないから、すごい似ている訳ではないな。1番近い他人って感じだよ。」

「へえ!そんな感じなんだ。早く会いたいわ。」

「ごめんごめーん!」
遠くから声が聞こえ、すごい速さで目の前にやってきた。

彼は黒髪ロングで背丈はシルクと同じくらいで長身で黒い猫耳が生えていた。

「兄さん、ようやくルカちゃんに会えたんだ!良かったー!俺は弟のシュバルツって言うんだ。よろしくね。」

弟のシュバルツは兄のシルクと対照的だった。

「ほらね、兄弟でもあんまり似てないでしょ?僕が白猫でシュバルツは黒猫なんだ。」

「たしかに!兄弟なら見た目も似てるものなのだと思った!」

「あー、2人は似てないって話をしてたんだね。性格も見た目もあんまり似ていないと思うよ!俺は活発でうるさいタイプだけど、兄さんは冷静なタイプだもんね。」

「そうだね。個性があって素敵だと思う!」

ルカは弟に会えたことが嬉しかった。

「よし、メンバーも揃ったし、早速祭りの準備をしよう。他の猫又たちはもう準備を始めてるかな?」

シルクは冷静に現状の確認を始めた。
シュバルツは笑いながら答えた。

「屋台と提灯の手配も完了!結界の準備が出来ていないのと盆踊りの楽器隊を探さないといけないんだ。」

「そっか。分かった。僕とルカは一緒に盆踊りの楽器隊を探しに行ってくるから、シュバルツは結界を張ってくれるかな?」

「分かった!じゃあ結界を張る準備をしてくる!」

「シュバルツ、よろしくね!ルカ、じゃあ盆踊りの楽器隊を探しにいこうか。」

「うん!」
ルカは新たな出会いに心を躍らせていた。


※こちらはnote、アルファポリス、小説家になろうで公開しています。
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