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第3章〜新たな出発〜
第49話 キッズサーカス
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『ここにキッズサーカスがあるって聞いたの。そこに行ってみたい』
タネルはノートを見て何故か少し戸惑ったような顔をして、「この状況だから、練習なんてしていないだろう」としどろもどろに答えた。
『私の入ってたサーカス団に、イスラエルのキッズサーカスに入ってた女の子がいたの。すごくジャグリングが上手い子だった。せめてどんな場所で練習してたかだけでも見てみたいの』
タネルは渋ったのち、観念したみたいに大きく息を吐いた。
「分かった、だが危険だと判断したらすぐに戻ってこいよ」
車はしばらく逆方向に走り、公民館のような小さな建物の前で車を停めた。タネルはついてこなかったので1人で車を降りた。
中からはマットに何かがぶつかるような音と子どもの声が聴こえた。
私はそっと入口のドアを開け中に入った。
中には小さなホールあり、マットの上でバク転をする10歳くらいの男の子がいた。そのやんちゃそうな男の子は私に気づくと不思議そうに首を傾げた。
「誰?」
私はただ微笑んで、リュックからノートを取り出して文字を綴て見せた。
『クラウンのアヴリルよ』
私はリュックから3つのボールを出してジャグリングをして見せ、落とした一つを右足で蹴って頭の先でヘディングし、キャッチして見せた。すると男の子はにこりと笑った。
今度は手に持ったボールをハンカチで隠して消し、もう一度ハンカチで手を覆い、ハンカチを外したときには萎んだ状態の紙風船が握られているというマジックをやった。男の子は不思議そうにあげた紙風船を眺めていた。手品のタネ明かしをしてほしいとねだられたが、『タネも仕掛けもありません』とノートに書いたら男の子はむくれていた。
男の子と接してみて分かった。言葉が話せなくてもショーはできる。誰かを笑顔にできる。その発見が私を救った。
男の子はお礼に私に後方3回捻りを披露してくれた。空中でくるくるくると身体を捻らせて回転し、綺麗にマットに着地した彼は拍手を送られ得意げな顔をした。
「こら、カリーム。そろそろ帰る時間よ」
後ろから声がして振り向くと、1人の女性が立っていた。彼女の姿を見てはっと息を呑んだ。窓から差し込む光に照らされて、彼女はとても神聖な存在に見えた。ルチアによく似た銀色の長いウェーブのかかった髪に緑色の目をした、色白の女性だった。
女性は不思議そうに私を見て、「どちら様?」と首を傾げた。このとき私は確信していた。彼女がアンジェラに違いない、ルチアとミラーの母親に違いないと。
心臓が激しく脈打った。一度落としたノートを拾い上げ、ペンを走らせた。カリームは練習に夢中で私たちの様子に気を配ってはいない。
『あなたはもしかして、アンジェラさんですか?』
ノートをかざして見せると、女性は目を見開いてしばらく硬直したあと首を振った。
「違います、私は……」
『あなたのお子さん2人を、ルチアとミラーのことを私は知っています』
それを見た瞬間、女性は途端に目を潤ませ口を手で覆った。やはり彼女は彼らの母親だったのだ。そうでなければこんな顔をするはずがない。
『私はアヴリルという名前です。彼らと同じ列車で生活していました。彼らはあなたに会いたいと思っています。どうか、会いに行ってくれませんか?』
アンジェラは首を振った。そして震える声で答えた。
「私にその資格はない。だって私は、彼らを見捨てて逃げてきたんだもの」
『事情はミラーたちから聞きました。当時の状況を考えたら、仕方がなかったと思います。彼らはあなたを恨んでません。今も大切に思っています』
アンジェラの目から涙が零れ落ちた。あまり悲惨な運命を辿り精神的痛手を負った彼女は、泣く泣く置き去りにしなければならなかった2人の子どものことをずっと案じ、自分のしたことを悔いて生きてきたに違いない。だがどんなに離れていても彼らは紛れもない母子で、お互いを想う気持ちに変わりはないのだ。
タネルはノートを見て何故か少し戸惑ったような顔をして、「この状況だから、練習なんてしていないだろう」としどろもどろに答えた。
『私の入ってたサーカス団に、イスラエルのキッズサーカスに入ってた女の子がいたの。すごくジャグリングが上手い子だった。せめてどんな場所で練習してたかだけでも見てみたいの』
タネルは渋ったのち、観念したみたいに大きく息を吐いた。
「分かった、だが危険だと判断したらすぐに戻ってこいよ」
車はしばらく逆方向に走り、公民館のような小さな建物の前で車を停めた。タネルはついてこなかったので1人で車を降りた。
中からはマットに何かがぶつかるような音と子どもの声が聴こえた。
私はそっと入口のドアを開け中に入った。
中には小さなホールあり、マットの上でバク転をする10歳くらいの男の子がいた。そのやんちゃそうな男の子は私に気づくと不思議そうに首を傾げた。
「誰?」
私はただ微笑んで、リュックからノートを取り出して文字を綴て見せた。
『クラウンのアヴリルよ』
私はリュックから3つのボールを出してジャグリングをして見せ、落とした一つを右足で蹴って頭の先でヘディングし、キャッチして見せた。すると男の子はにこりと笑った。
今度は手に持ったボールをハンカチで隠して消し、もう一度ハンカチで手を覆い、ハンカチを外したときには萎んだ状態の紙風船が握られているというマジックをやった。男の子は不思議そうにあげた紙風船を眺めていた。手品のタネ明かしをしてほしいとねだられたが、『タネも仕掛けもありません』とノートに書いたら男の子はむくれていた。
男の子と接してみて分かった。言葉が話せなくてもショーはできる。誰かを笑顔にできる。その発見が私を救った。
男の子はお礼に私に後方3回捻りを披露してくれた。空中でくるくるくると身体を捻らせて回転し、綺麗にマットに着地した彼は拍手を送られ得意げな顔をした。
「こら、カリーム。そろそろ帰る時間よ」
後ろから声がして振り向くと、1人の女性が立っていた。彼女の姿を見てはっと息を呑んだ。窓から差し込む光に照らされて、彼女はとても神聖な存在に見えた。ルチアによく似た銀色の長いウェーブのかかった髪に緑色の目をした、色白の女性だった。
女性は不思議そうに私を見て、「どちら様?」と首を傾げた。このとき私は確信していた。彼女がアンジェラに違いない、ルチアとミラーの母親に違いないと。
心臓が激しく脈打った。一度落としたノートを拾い上げ、ペンを走らせた。カリームは練習に夢中で私たちの様子に気を配ってはいない。
『あなたはもしかして、アンジェラさんですか?』
ノートをかざして見せると、女性は目を見開いてしばらく硬直したあと首を振った。
「違います、私は……」
『あなたのお子さん2人を、ルチアとミラーのことを私は知っています』
それを見た瞬間、女性は途端に目を潤ませ口を手で覆った。やはり彼女は彼らの母親だったのだ。そうでなければこんな顔をするはずがない。
『私はアヴリルという名前です。彼らと同じ列車で生活していました。彼らはあなたに会いたいと思っています。どうか、会いに行ってくれませんか?』
アンジェラは首を振った。そして震える声で答えた。
「私にその資格はない。だって私は、彼らを見捨てて逃げてきたんだもの」
『事情はミラーたちから聞きました。当時の状況を考えたら、仕方がなかったと思います。彼らはあなたを恨んでません。今も大切に思っています』
アンジェラの目から涙が零れ落ちた。あまり悲惨な運命を辿り精神的痛手を負った彼女は、泣く泣く置き去りにしなければならなかった2人の子どものことをずっと案じ、自分のしたことを悔いて生きてきたに違いない。だがどんなに離れていても彼らは紛れもない母子で、お互いを想う気持ちに変わりはないのだ。
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