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学園祭③
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休み明けに登校したとき、オーシャンからシエルが停学になったと聞いた。ジャンヌの取り巻きの一人であるレイラの母は元ソプラノ歌手で、ジャンヌの母とはママ友らしい。さらに、よりによってシエルの音楽学校の学長と幼馴染だという。レイラの妹が声楽科の2年ということもあり、学内でイベントがあるたびに出資をしているのだという。ジャンヌの母から娘の友人がビンタされたと知って怒り狂ったレイラの母は、同じく愛娘の顔を叩かれて怒り心頭のジャンヌ母とともに学校に乗り込み、相手の生徒を退学にしろと学長に訴えたらしい。シエルの言い分を聞いた学長は相手の生徒にも非があったことを鑑み、さすがに退学はやりすぎだと考え、1週間の停学と、今度パリで行われる大会への不参加という罰を与えたようだ。
「シエルは何も悪いことをしていない。ただ私をかばっただけなのよ」
「知ってるよ。だけど校長曰く、暴力を振るったのは事実だから、反省を促すために停学にしたらしい」
「それなら、ジャンヌだって停学になるべきじゃないの?」
暴力を肯定するわけではない。だが友人である私を思うがゆえに行動したシエルが裁かれ、私に暴言を吐いたジャンヌが何の罰も受けずにのうのうと学校に来ていることが許せない。何故世の中というのは、これほどまでに理不尽なのか。何より、これまで努力を重ねてきたシエルが私のためにしたことで大会にも出られなくなり、辛い思いをすることになったことに大きな罪悪感を覚えた。
「シエルは……大丈夫なの?」
彼女は今、どんな精神状態でいるのかーー。考えるだけで胸が痛い。だが私の心配も裏腹に、オーシャンはそれほど深刻でもない口振りで答えた。
「あいつは別に落ち込んでないぜ。悪いことをしたって意識もないみたいだ」
「実際、悪いのはあっちだもの」
「ああ、そうだな。あいつ、久しぶりの長い休みだって悠々自適に過ごしてるよ。ただ、母さんとは毎日のように喧嘩してるけど」
シエルの母は、シエルがしたことによって学校に呼び出されたうえ、ジャンヌの親に謝りに行かなければならなくなったことで娘を責め立てたらしい。そのあとで、
「エイヴェリーと付き合うようになってから、あなたはおかしくなった。前はもっと良い子だったのに!」
と非難したという。友達のことを引き合いに出されて頭にきたシエルは、いつになく激しく母親に反抗したらしい。
「シエルは滅多に怒ったりしないんだ。誰かに手をあげるなんて、普段なら考えられない……。それくらい、お前のことが大切なんだろうな」
まだ付き合いが長いわけではないから彼女の全ては分からないが、シエルは私の前では大抵穏やかに笑っていて、軽快なジョークを飛ばし、時々私を弄って笑った。あんなに怒った彼女を見たのは初めてだった。
「大会に出られないなんてあんまりだわ……。どうにかできないものかしら」
「無理だろうな……。大会に出られないこと自体は気に病んでねーみたいだ。どのみちパリ大会は出来レースだし、本命ではないんだと」
「そう……。彼女に……シエルに会うことはできないかしら」
オーシャンは苦虫を噛み殺すような表情を浮かべた。
「実は、母さんがシエルの携帯をどっかに隠して、お前と連絡が取れないようにしてるんだ」
「何よ、それ……。流石にそれはやりすぎよ」
「俺も何度も言ったさ。今回のことはシエルは悪くない、エイヴェリーはシエルとは良い友達で、悪い奴じゃないってことも。だけど聞き入れない。母さんは、一度こうと思い込んだら人の話を聞かないんだ。お前がシエルに悪い影響を与えてるって、変な誤解してるみてーなんだよ」
オーシャンとシエルの母が、第一印象から私を良く思っていないことにはとっくに気づいていた。娘が大切ゆえに、このような過激ともいえる行動に出ていることも。彼女にとって私は娘を闇の底に引き摺り込む、邪悪な存在とでも思っているのだろうか。彼女が私をどう思おうが構わない。だが、シエルとの交流を制限されてしまうのは辛かった。それほどまでに、シエルは私にとって大切な友達の一人になりつつあったのだ。
「シエルは何も悪いことをしていない。ただ私をかばっただけなのよ」
「知ってるよ。だけど校長曰く、暴力を振るったのは事実だから、反省を促すために停学にしたらしい」
「それなら、ジャンヌだって停学になるべきじゃないの?」
暴力を肯定するわけではない。だが友人である私を思うがゆえに行動したシエルが裁かれ、私に暴言を吐いたジャンヌが何の罰も受けずにのうのうと学校に来ていることが許せない。何故世の中というのは、これほどまでに理不尽なのか。何より、これまで努力を重ねてきたシエルが私のためにしたことで大会にも出られなくなり、辛い思いをすることになったことに大きな罪悪感を覚えた。
「シエルは……大丈夫なの?」
彼女は今、どんな精神状態でいるのかーー。考えるだけで胸が痛い。だが私の心配も裏腹に、オーシャンはそれほど深刻でもない口振りで答えた。
「あいつは別に落ち込んでないぜ。悪いことをしたって意識もないみたいだ」
「実際、悪いのはあっちだもの」
「ああ、そうだな。あいつ、久しぶりの長い休みだって悠々自適に過ごしてるよ。ただ、母さんとは毎日のように喧嘩してるけど」
シエルの母は、シエルがしたことによって学校に呼び出されたうえ、ジャンヌの親に謝りに行かなければならなくなったことで娘を責め立てたらしい。そのあとで、
「エイヴェリーと付き合うようになってから、あなたはおかしくなった。前はもっと良い子だったのに!」
と非難したという。友達のことを引き合いに出されて頭にきたシエルは、いつになく激しく母親に反抗したらしい。
「シエルは滅多に怒ったりしないんだ。誰かに手をあげるなんて、普段なら考えられない……。それくらい、お前のことが大切なんだろうな」
まだ付き合いが長いわけではないから彼女の全ては分からないが、シエルは私の前では大抵穏やかに笑っていて、軽快なジョークを飛ばし、時々私を弄って笑った。あんなに怒った彼女を見たのは初めてだった。
「大会に出られないなんてあんまりだわ……。どうにかできないものかしら」
「無理だろうな……。大会に出られないこと自体は気に病んでねーみたいだ。どのみちパリ大会は出来レースだし、本命ではないんだと」
「そう……。彼女に……シエルに会うことはできないかしら」
オーシャンは苦虫を噛み殺すような表情を浮かべた。
「実は、母さんがシエルの携帯をどっかに隠して、お前と連絡が取れないようにしてるんだ」
「何よ、それ……。流石にそれはやりすぎよ」
「俺も何度も言ったさ。今回のことはシエルは悪くない、エイヴェリーはシエルとは良い友達で、悪い奴じゃないってことも。だけど聞き入れない。母さんは、一度こうと思い込んだら人の話を聞かないんだ。お前がシエルに悪い影響を与えてるって、変な誤解してるみてーなんだよ」
オーシャンとシエルの母が、第一印象から私を良く思っていないことにはとっくに気づいていた。娘が大切ゆえに、このような過激ともいえる行動に出ていることも。彼女にとって私は娘を闇の底に引き摺り込む、邪悪な存在とでも思っているのだろうか。彼女が私をどう思おうが構わない。だが、シエルとの交流を制限されてしまうのは辛かった。それほどまでに、シエルは私にとって大切な友達の一人になりつつあったのだ。
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