草花の祈り

学園祭④

　翌日は遅くまで稽古が行われた。

　劇の他に、ソニアと私たち教え子役のキャスト6人が歌う『耳を澄ましてみて』という歌の練習も行われた。

　リアナは特に歌が上手かった。彼女の母がRihannaの大ファンで、元々リアナという名前は歌手のRihannaからとったらしい。リアナのその力強い歌声は、プロの歌手であるソニアを唸らすほどだった。

「どうやったらそんな声が出るの？」

　リアナに聞くと、彼女は首を傾げて「自分でもよく分からないわ」と答えた。

「Linkin Parkのチェスターと同じこと言ってら」

　オーシャンがふざけてチェスター・ベニントンの歌う"Given Up"のサビの真似をするものだから、私たち二人は笑い転げた。

「オーシャンだけその歌い方で行ったらいいわ」

　とリアナが茶化すと、オーシャンは「そんなふざけたことしたら、アレックスに殺されるよ」と目を大きく開いて変顔をした。

「三人とも、ふざけてないで真面目にやれ！」

　言ったそばからアレックスの檄が飛び、ピアノを弾いていたソニアが私たちに笑いながら目配せをした。

　私の歌うのは一章節目の三行目なのだが、私は元々歌が得意な方ではない。ソニアに音程の不安定さを指摘され、何度も繰り返すうちに少しずつ音程を掴んでいった。

　その日は遅くまで、ソニアに頼んでボイストレーニングをしてもらった。オーシャンやレンカなど、歌に苦手意識を持つ生徒たちと一緒に。

　歌と芝居を両立させるのは、確かに一筋縄では行かない。担任や監督のアレックス、ソニア、ケイティはしょっちゅう意見をぶつけ合っている。私たち役者もコミュニケーションを取り合いながら練習を進めていて、雰囲気自体は良く、程よい緊張感もある。

　何より驚くべきは、クレアの演技力だ。彼女の芝居を間近で見て、彼女が天才と呼ばれている所以が分かった。彼女の台詞が始まると、講堂の椅子に座って見学している他のクラスメイトたちや、舞台袖にいるスタッフや役者たちはしんと静まり返った。そして、彼女の出演シーンが終わるとあちこちからパチパチと拍手が上がった。

　クレアは私によく芝居のアドバイスをしてくれた。私が悩んでいれば親身になって相談に乗ってくれた。彼女のアドバイスは誰よりも的確だった。彼女が相手役で、本当に心強かった。