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開始②
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主人公は売れない女性歌手ルイーズ。彼女はかつて前仏を賑わした大人気シンガーだったが、酒に溺れて事務所をクビになり、ライブハウスやバーなどで歌を歌って生計を立てていた。夢に敗れた彼女は希望がなく、未だにアルコールに頼って荒れた生活をしている。
同じ頃、両親を亡くした14歳の姉と12歳の弟が孤児院に引き取らる。姉のエマは気が強く男勝り。一方の弟のリュカは病弱で、優しい心を持っているが気が弱い。そんな弟を待ちうけていたのは、他の孤児たちからの激しい虐めだった。エマはリュカを助けるために彼らと闘い、それが原因で二人の孤立は深まる。二人はある日孤児院を逃げ出し、路上で暮らし始める。河原の橋の下で雨風を凌ぎ、夜は駅の中で眠る。飢えを凌ぐために畑から野菜を、市場からパンを盗んで暮らす。
だが、飢えと寒さでリュカは日に日には衰弱し、エマは弟を助けるために泥棒を繰り返す。ある日、エマが人攫いに攫われそうになっていたところを、一人の女性に声をかけられる。その女性は二人を自分の家に連れて行き、ご飯を食べさせ、シャワーを浴びさせてくれる。ルイーズというその女性は、二人を家に置くことにする。弟の容体は回復し、元気に姉と遊び回るようになる。
ある日ルイーズは、庭の木の下で歌う二人の声を聴く。高温で透き通った姉のソプラノ、それを優しく包む弟のテノール。女性は二人に才能を見出し、本格的に歌を教える。
女性が歌を教えているという話を聞きつけた近所の親たちは、こぞって自分の子どもを教えてくれとたのみにきた。根がお人好しの女性は断りきれず、姉弟も合わせて6人ほどの子どもたちに、無償で歌を教えることになる。万引きや喧嘩など悪さばかり繰り返すフリッツという男の子、スラムに住むオルファという貧しい黒人の女の子、学校で酷い差別を受けたことがきっかけで、過去に失語症を患った内気な日本人のハナという女の子、美しい容姿を持つも、先天的な知的障害を持っているために虐げられてきた少年パール。最初は親に言われるがまま嫌々参加した生徒もいたが、女性のユーモアと愛情に溢れた授業で、歌う喜びを見出していく。
最後に生徒たちは、先生の勧めでフランスのオーディションに出場する。
それから10年後、音楽の先生になったリュカが、合唱の指揮をとるところで幕は閉じる。
「これすごくいいわ、現代版『サウンド・オブ・ミュージック』みたいで!」
脚本を読み終わったクレアは目を輝かせている。
「この劇、ミュージカルにしたら面白いんじゃない?」
私の提案に、クレアとケイティは顔を見合わせた。またおかしなことを言ってしまっただろうか。一抹の不安が過ぎる。
「いい考えね! どのみち歌を歌うわけだし、半端にするよりもミュージカルというジャンルに振り切ってしまった方がいいかも」
クレアが言う。
「問題は、歌なのよ。歌詞や曲作りについては私は全くの素人だから……」
ケイティは困ったような表情を浮かべている。
「それならソニアに作ってもらったらいいわ」
私のアイデアに、クレアがそうねと頷く。
「引き受けてくれるかしら……」
未だに不安げなケイティの背中をクレアがぱしんと軽く叩く。
「あなたは心配しなくていいわ、私たちで頼んでみる。それよりも、あなたすごい才能よ! こんな劇を作れるなんて」
「そうよ、脚本を読んだだけでこんなに感動したのは生まれて初めてよ。自信持っていいわ!」
私たち二人から贈られた賞賛の言葉に、ケイティはまた顔を赤らめながら戸惑いがちに笑った。
「ありがとう。私、小さい頃から何も取り柄がなくて……。自分の見た目にも自信がなくて、引っ込み思案になってたの。そのおかげでよく他の子どもからいじめられたわ。だけど、文章を書くのだけは自信があった。一度子どもの頃にテレビで『シェルブールの雨傘』っていうミュージカルを観たの。こんな人を感動させられる脚本を書けたらいいなと思って、脚本を書き始めたんだけど……。あなたたちに褒めてもらえて、少し自信がついたわ」
ソニアは私たちのお願いを、あっさりと引き受けてくれた。
「だけど私、今までミュージカルの曲って作ったことないんだよね。とりあえずやってみるけど……」
その後でソニアは、「歌はいいけど、ミュージカルってことはダンスもすんでしょ? 一から振り付けを考える訳だから、ダンサーを探さないとじゃない?」と言った。
「そんな難しい振り付けでなくてもいいとは思うんだけど……。誰か踊りができる人はいないかしら」
腕組みをするクレアに「あなたは?」と聞くと、「踊ったことはあるけど、振り付けは考えたことがないのよ」と答えた。
「確か、ダンスならティファニーができるはずだよ」
ソニアが言った。
幼い頃からダンサーとして活躍していたティファニーは、よくYouTubeにカバーダンスの動画をあげているらしい。いつも同じような華やかな女子たちと連んでいる彼女と私は別世界の住人に思えて、話したことはおろか挨拶すら交わしたことはなかった。
「ティファニーとは何回も話したことあるんだ。俺が声かけてきてやるよ」
後ろで話を聞いていたオーシャンがやってきて言った。オーシャンのありがたい申し出に、ほっと胸を撫で下ろした。
ティファニーはオーシャンの頼みを条件付きで飲んでくれたらしかった。
「あいつとデートする約束しちまったよ」
困ったように頭を掻くオーシャンを、「いいじゃない、ティファニーなら綺麗だしお似合いよ」とクレアがヒューヒューと冷やかす。
「うるせーよ! とりあえずデートは一度だけって約束した。エイヴェリー、俺はティファニーのこと好きじゃねーし、これはコンペのためで浮気とかじゃねーから……」
「別にあなたと付き合ってないし」
「そうだよな、ハハ……」
謎の言い訳のあと落ち込んでいるオーシャンを不思議に思いながら、前に進み始めた計画に胸が高鳴るのを感じていた。
同じ頃、両親を亡くした14歳の姉と12歳の弟が孤児院に引き取らる。姉のエマは気が強く男勝り。一方の弟のリュカは病弱で、優しい心を持っているが気が弱い。そんな弟を待ちうけていたのは、他の孤児たちからの激しい虐めだった。エマはリュカを助けるために彼らと闘い、それが原因で二人の孤立は深まる。二人はある日孤児院を逃げ出し、路上で暮らし始める。河原の橋の下で雨風を凌ぎ、夜は駅の中で眠る。飢えを凌ぐために畑から野菜を、市場からパンを盗んで暮らす。
だが、飢えと寒さでリュカは日に日には衰弱し、エマは弟を助けるために泥棒を繰り返す。ある日、エマが人攫いに攫われそうになっていたところを、一人の女性に声をかけられる。その女性は二人を自分の家に連れて行き、ご飯を食べさせ、シャワーを浴びさせてくれる。ルイーズというその女性は、二人を家に置くことにする。弟の容体は回復し、元気に姉と遊び回るようになる。
ある日ルイーズは、庭の木の下で歌う二人の声を聴く。高温で透き通った姉のソプラノ、それを優しく包む弟のテノール。女性は二人に才能を見出し、本格的に歌を教える。
女性が歌を教えているという話を聞きつけた近所の親たちは、こぞって自分の子どもを教えてくれとたのみにきた。根がお人好しの女性は断りきれず、姉弟も合わせて6人ほどの子どもたちに、無償で歌を教えることになる。万引きや喧嘩など悪さばかり繰り返すフリッツという男の子、スラムに住むオルファという貧しい黒人の女の子、学校で酷い差別を受けたことがきっかけで、過去に失語症を患った内気な日本人のハナという女の子、美しい容姿を持つも、先天的な知的障害を持っているために虐げられてきた少年パール。最初は親に言われるがまま嫌々参加した生徒もいたが、女性のユーモアと愛情に溢れた授業で、歌う喜びを見出していく。
最後に生徒たちは、先生の勧めでフランスのオーディションに出場する。
それから10年後、音楽の先生になったリュカが、合唱の指揮をとるところで幕は閉じる。
「これすごくいいわ、現代版『サウンド・オブ・ミュージック』みたいで!」
脚本を読み終わったクレアは目を輝かせている。
「この劇、ミュージカルにしたら面白いんじゃない?」
私の提案に、クレアとケイティは顔を見合わせた。またおかしなことを言ってしまっただろうか。一抹の不安が過ぎる。
「いい考えね! どのみち歌を歌うわけだし、半端にするよりもミュージカルというジャンルに振り切ってしまった方がいいかも」
クレアが言う。
「問題は、歌なのよ。歌詞や曲作りについては私は全くの素人だから……」
ケイティは困ったような表情を浮かべている。
「それならソニアに作ってもらったらいいわ」
私のアイデアに、クレアがそうねと頷く。
「引き受けてくれるかしら……」
未だに不安げなケイティの背中をクレアがぱしんと軽く叩く。
「あなたは心配しなくていいわ、私たちで頼んでみる。それよりも、あなたすごい才能よ! こんな劇を作れるなんて」
「そうよ、脚本を読んだだけでこんなに感動したのは生まれて初めてよ。自信持っていいわ!」
私たち二人から贈られた賞賛の言葉に、ケイティはまた顔を赤らめながら戸惑いがちに笑った。
「ありがとう。私、小さい頃から何も取り柄がなくて……。自分の見た目にも自信がなくて、引っ込み思案になってたの。そのおかげでよく他の子どもからいじめられたわ。だけど、文章を書くのだけは自信があった。一度子どもの頃にテレビで『シェルブールの雨傘』っていうミュージカルを観たの。こんな人を感動させられる脚本を書けたらいいなと思って、脚本を書き始めたんだけど……。あなたたちに褒めてもらえて、少し自信がついたわ」
ソニアは私たちのお願いを、あっさりと引き受けてくれた。
「だけど私、今までミュージカルの曲って作ったことないんだよね。とりあえずやってみるけど……」
その後でソニアは、「歌はいいけど、ミュージカルってことはダンスもすんでしょ? 一から振り付けを考える訳だから、ダンサーを探さないとじゃない?」と言った。
「そんな難しい振り付けでなくてもいいとは思うんだけど……。誰か踊りができる人はいないかしら」
腕組みをするクレアに「あなたは?」と聞くと、「踊ったことはあるけど、振り付けは考えたことがないのよ」と答えた。
「確か、ダンスならティファニーができるはずだよ」
ソニアが言った。
幼い頃からダンサーとして活躍していたティファニーは、よくYouTubeにカバーダンスの動画をあげているらしい。いつも同じような華やかな女子たちと連んでいる彼女と私は別世界の住人に思えて、話したことはおろか挨拶すら交わしたことはなかった。
「ティファニーとは何回も話したことあるんだ。俺が声かけてきてやるよ」
後ろで話を聞いていたオーシャンがやってきて言った。オーシャンのありがたい申し出に、ほっと胸を撫で下ろした。
ティファニーはオーシャンの頼みを条件付きで飲んでくれたらしかった。
「あいつとデートする約束しちまったよ」
困ったように頭を掻くオーシャンを、「いいじゃない、ティファニーなら綺麗だしお似合いよ」とクレアがヒューヒューと冷やかす。
「うるせーよ! とりあえずデートは一度だけって約束した。エイヴェリー、俺はティファニーのこと好きじゃねーし、これはコンペのためで浮気とかじゃねーから……」
「別にあなたと付き合ってないし」
「そうだよな、ハハ……」
謎の言い訳のあと落ち込んでいるオーシャンを不思議に思いながら、前に進み始めた計画に胸が高鳴るのを感じていた。
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