ネコハラ

たらこ飴

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手術へ④

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 大合唱をする猫たちの見送りが済むと、本格的に家の周りが静かで寂しくなった。夕飯前になると足の周りに集まり餌くれコールをする猫たちがいないと、まるで全く別の場所にいるみたいなおかしな感覚になる。いつも庭で追いかけっこをしていて、私が家から出ていくと静かに足元に寄ってくるようかん、高い声を出して顎に額を擦り付け甘えてくる甘えん坊なあずき、大きな顔を近づけて円な瞳で見つめて、何か話しかけてくるおしゃべりなみそしる、みそしるに甘えすぎてたまにうざがられるが、臆せず接近を試みるタビ。いつもどれだけ私の生活に猫が溢れていたか、こんなときにわかる。猫がいない生活はあまりに空っぽだ。サンコとクリームツインズが家にいることだけが救いだ。

 長妻さんが去り、存田さんは道子さんに勧められるまま夕ご飯を食べていくことになった。夕飯は道子さん特製の海鮮鍋で、海老やずわい蟹、鮑などが野菜と一緒にふんだんに使われていた。親戚の家で漁業を営んでいて、よく新鮮な海産物を届けてくれるのだという。

「何やこれうま! これ毎日食べたいわ、配達してほしい」

 存田さんはうまいうまいと連呼しながらペロリと皿で2杯食べた。ちなみに私は〆の雑炊も合わせて7杯食べた。よく食べる女が居候していると食費が嵩むおそれがありまくりだが、その分猫たちのお世話で挽回しよう。

 酔った道子さんと存田さんが若い頃の恋愛の話で盛り上がり始めたので、恋バナに疎くついていけない私はむっつりと黙りこくる善二さんのコップに日本酒を注いだ。善二さんはすまんなと一言言いぐびっと飲んで干し、「庭に猫がおらんとおかしな感じだな」とつぶやき、いつもようかんとあずきたちが遊び回る庭を見つめた。

「そうですね、猫たちがいるのが当たり前になりすぎて、いないと不思議な感覚です」

 猫たちは完全に私の日常の一部になっていた。彼らが庭で走り回りじゃれ合いご飯を競い合って食べる姿は日常的な光景になっていて、いないとまるで風呂桶のお湯の栓がいきなり抜けて、一気にお湯がなくなっていくような喪失感におそわれる。私の心をあたたかいお湯でいっぱいにしてくれていたのは、他でもない猫たちだったんだと気づく。猫たちのためなら疲れても傷ついても構わない。今私を生きていると感じさせる数少ないものがあるとしたら、紛れもなく猫たちなのだから。

 帰り際存田さんは「来週から仕事来るんやろ? バックれる気やないやろな?」と訊ねた。

「まさか、バックれませんよ。図書館の仕事好きですし……たくさん休んじゃって申し訳なかったです、本当に」

「図書館好きやったとか初耳やな、楽しいわな確かに」

「松井さんとか怒ってないですか?」

「怒っとらんで。毎日忙しい忙しい言うとるし細っかいことでガミガミ言われるけど、いつものことやし」

「本当に迷惑かけてすみません……。また来週からよろしくお願いします」

「おん。ここに来てみて、あんたがどんだけ頑張っとるかよう分かったわ。猫が好きすぎて必死になるのは分かるけど、こん詰めすぎんでな」

「はい、ありがとうございます」

「ほなまた図書館でな」

 存田さんが帰ったあと、着ぐるみを忘れて行ったことに気づいた。試しに着てみたらものすごくカビ臭くて、思わずうっ、と声が出た。捕獲を手伝ってもらったお礼に日干しして返そうと思った。
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