vita cinematografica たらこ飴短篇集

たらこ飴

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四 冬休みの敵

6. 呼び出し

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 冬休みの友の件で僕と松崎の両親が呼ばれたのは、2月末のことだった。担任と副担任は両方の親とそれぞれ面談した。

 僕達は学校帰り親四人とホテルのレストランのテーブルで向かい合った。松崎の両親は凡人感丸出しの僕の両親と対照的に、高そうなスーツを着たセレブ感漂う人々だった。

「二人とも、なぜ冬休みの友をやらない? そんなに頑なにやらない理由があるのか?」

 松崎の父に訊かれ、僕は自分の考えを述べた。

「冬休みの友は僕達の自由時間を奪い勉強に拘束し、休みも休みでなくする敵です。僕達にも自由があって然るべきなのに、皆がやってるからという同調圧力で課題の提出を強制するのはおかしな話です」

 松崎も僕をフォローしてくれ、二人の意見を聞いたあと松崎の父親は言った。

「ふむ。お前達が自分の確固たる意志でやらないというなら、俺は止めない。だが忙しい中頻繁に学校から呼び出されては困る。良い知り合いを紹介しよう」

 松崎の親は別日に僕を家に呼び、リプリー武藤という中年男を紹介した。リプリー武藤は代筆のスペシャリストで、誰の筆跡も完璧に真似できるのだという。

「こいつに冬休みの友の代筆を頼もう。そうして提出すればもううるさく言われなくて済むだろう?」

 松崎父は言った。

 僕はこの時松崎父の素性を疑った。社長と言っているが本職は何なのか? 詐欺などに関わっているんじゃないか。

 その時ずっと浮かない顔だった松崎が口を開いた。

「親父、人を騙すのは流石に良くないよ。そんなことするくらいなら、俺冬休みの友やるよ」

 僕は衝撃を受けた。あんなに小1から頑なに冬休みの友を出しさなかった松崎が、一瞬にして意見を変えた。めちゃくちゃいい奴じゃないか。実のところ僕も同じ気持ちだった。教師はいけ好かないが騙すのは気が引ける。僕は失望するどころかまた松崎への尊敬の気持ちが強くなった。

 すると松崎父はほっと胸を撫で下ろした。

「そう言うと思っていたよ、お前なら。実のところ岳君の両親とも話してたんだ、私に任せてくれって。それで一芝居打ったわけだ。ここで君達が代筆に賛成したら怒るところだった。自分の息子とその友達が正義感の強い子で良かった」

 僕達は呆気に取られた。

「じゃあ、リプリー武藤は……」

「これ俺の友達の古賀」

 松崎父はあっさり言った。武藤ですらなかった。

 僕は吹き出してしまった。つられて松崎も吹き出した。

 僕達は松崎父にまんまとしてやられたわけだ。

「子供のうちはこれ意味あんのか? って思うようなことでも、大人になって振り返って、やっといて良かったと感じることもある。俺もコンプライアンス違反は許せないが……社会に出ると嫌なこと、理不尽なことが山程ある。それに、これから新しくやりたいことが出てきて行きたい学校が決まるかもしれない。休み中の課題は大人になるための、夢を叶えるための切符だと思えばいい、冬休みの友もな」

 松崎父の言葉は妙に納得できた。

 その後僕達は松崎の家で遅くまで一緒に冬休みの友をやり、一週間ほどで終わらせて提出した。先生達もこの冬休みの友問題で大分やつれたみたいだったし、理屈をこねくり回し強がってはいたが僕自身も疲れていた。他の生徒達の異端者を見る目や教師達の小言にも、寝る前脳裏に浮かぶ冬休みの友の残像にも。現代日本において、自分の意見を貫き通すことはそれくらい大変なことなのだ。

 それでも僕達は権力に屈した訳ではなく、自分達なりに納得して提出したのだ。
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