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第1章 事件の始まり
2話 被害者編2と事情聴取・第1発見者
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「あ、お前……、こんな所で何油売ってるんだ?」
久屋大通駅に設置された公衆トイレ。その脇でぷかりぷかりと煙を燻らせている祐川の姿を、たまたま有休を取って栄の商業施設「SHINE SAKAE」に向かう途中で久屋大通駅を訪れた同僚の菊地に目撃された。
「そういや、祐川、お前ぇー。同僚の小椋さんの脚をわざと引っ張るような事してたよな? いくらなんでも小椋さんの資料だけ会議の前日に紛失したように装っていただろ!」
「そ、そんな事してない! 言い掛かりにも程がある!」
「何を言うかと思いきや……取って付けたような言い訳だな! 俺は見たんだぞ? ──あれは五月中旬かな。書類が置かれた小椋さんのデスクから人目を忍んで漁っていた事もあるではないか!」
──何を根拠に、恰も見たかのように言うんだ。
祐川の顔に嘘を溢している事がばれそうになっている事への焦りが面白いぐらいに滲み出ていた。動揺を露にした祐川を見る菊地の目が鋭い眼光に変わっている事を祐川は薄ら薄らとだけ気付いていた。
前々からの事だった。祐川には気にくわない人が現れる度、周囲には気付かれない程度のモラハラを仕掛けたような節の言動が見られていた。本人はその一つ一つの言動が、モラハラに値するとも思わず鈍感な人、いや他人が傷つく事もお構い無しに何も感じないような無頓着な人であった。祐川にはこういう一面や経緯がある。周囲からはなぜ尼野部長に可愛がられているか? 不思議がられる一面を祐川は持ち合わせていた。
「男に愛嬌は不必要なモノ」と言う古臭い考えがまだ横行する平成初期の人間の菊地。それに対比するように、対照的な「とりあえず笑って誤魔化せ」精神でいる祐川。当然人間誰しも対立感情を抱くのだが、会話の勢いが加熱していく中、とりあえず「ごめん、すまなかった」と謝る祐川。先に謝られては立つ瀬がなく立場がなくなり、これ以上この話を言及しづらくなった菊地。両者の口論のやり取りは、祐川の策略によるモノか、祐川が先に折れる事で早々に話が終わった。
祐川は、口論で興奮した脳が沸き立つ感覚を覚えたまま時間が経過するのを腕に嵌めた腕時計の針が語る。午後四時三十二分を指し、もう定刻を過ぎていたのだ。とりあえず先方には「向かっている最中です」と電話を入れておく事に決めた。が、どうにも寒気がするのだ。風邪なのかわからないが、丁度目と鼻の先にトイレがあるので用を足しておく事に決めた。
※※※第一発見者
「これが遺体ですか」
「だなぁ、ま、被害者に合掌しときますか!」
永瀬清人警部補と何名かの刑事が、発見者の守永成一の通報を受けて駆けつけたのだ。
「とりあえず、鑑識に回せ」
「ですな! 鑑識に任せて、此処は第一発見者に話しを聞くか」
永瀬警部補が、遺体発見時の被害者の状態の鑑識が終わるまでの間、第一発見者の守永成一から事情聴取をする事になった。
「えー、では、貴方の名前の方を確認します! 守永……成一……さんですね?」
「はい、そうです! 守永成一です」
「遺体発見時、貴方は此処に用を足しに立ち寄った……とは既にちらっと伺っていますが……。実際どうでしたか?」
「ええ、確かにもよおして立ち寄りました」
「その時の状況を教えてください」
「わかりました……」
第一発見者の守永成一は、小難しそうに眉をひそめて、警察に通報した時のようなよく通る普段通りの声の大きさではなく、小声で経緯の説明をしだした。第一発見者の守永成一が、家庭教師のアルバイトに遅刻して傘を用意できなかった為に、雨で濡らした身体を冷やしてもよおして立ち寄った駅で──と言う恥ずかしい話しを身振り手振りを用いて端的に伝えた。
「……と言う事なんですよ、警部補さん」
「なるほど、話しは分かりました。そう言う事でしたか」
「えぇ……」
久屋大通駅に設置された公衆トイレ。その脇でぷかりぷかりと煙を燻らせている祐川の姿を、たまたま有休を取って栄の商業施設「SHINE SAKAE」に向かう途中で久屋大通駅を訪れた同僚の菊地に目撃された。
「そういや、祐川、お前ぇー。同僚の小椋さんの脚をわざと引っ張るような事してたよな? いくらなんでも小椋さんの資料だけ会議の前日に紛失したように装っていただろ!」
「そ、そんな事してない! 言い掛かりにも程がある!」
「何を言うかと思いきや……取って付けたような言い訳だな! 俺は見たんだぞ? ──あれは五月中旬かな。書類が置かれた小椋さんのデスクから人目を忍んで漁っていた事もあるではないか!」
──何を根拠に、恰も見たかのように言うんだ。
祐川の顔に嘘を溢している事がばれそうになっている事への焦りが面白いぐらいに滲み出ていた。動揺を露にした祐川を見る菊地の目が鋭い眼光に変わっている事を祐川は薄ら薄らとだけ気付いていた。
前々からの事だった。祐川には気にくわない人が現れる度、周囲には気付かれない程度のモラハラを仕掛けたような節の言動が見られていた。本人はその一つ一つの言動が、モラハラに値するとも思わず鈍感な人、いや他人が傷つく事もお構い無しに何も感じないような無頓着な人であった。祐川にはこういう一面や経緯がある。周囲からはなぜ尼野部長に可愛がられているか? 不思議がられる一面を祐川は持ち合わせていた。
「男に愛嬌は不必要なモノ」と言う古臭い考えがまだ横行する平成初期の人間の菊地。それに対比するように、対照的な「とりあえず笑って誤魔化せ」精神でいる祐川。当然人間誰しも対立感情を抱くのだが、会話の勢いが加熱していく中、とりあえず「ごめん、すまなかった」と謝る祐川。先に謝られては立つ瀬がなく立場がなくなり、これ以上この話を言及しづらくなった菊地。両者の口論のやり取りは、祐川の策略によるモノか、祐川が先に折れる事で早々に話が終わった。
祐川は、口論で興奮した脳が沸き立つ感覚を覚えたまま時間が経過するのを腕に嵌めた腕時計の針が語る。午後四時三十二分を指し、もう定刻を過ぎていたのだ。とりあえず先方には「向かっている最中です」と電話を入れておく事に決めた。が、どうにも寒気がするのだ。風邪なのかわからないが、丁度目と鼻の先にトイレがあるので用を足しておく事に決めた。
※※※第一発見者
「これが遺体ですか」
「だなぁ、ま、被害者に合掌しときますか!」
永瀬清人警部補と何名かの刑事が、発見者の守永成一の通報を受けて駆けつけたのだ。
「とりあえず、鑑識に回せ」
「ですな! 鑑識に任せて、此処は第一発見者に話しを聞くか」
永瀬警部補が、遺体発見時の被害者の状態の鑑識が終わるまでの間、第一発見者の守永成一から事情聴取をする事になった。
「えー、では、貴方の名前の方を確認します! 守永……成一……さんですね?」
「はい、そうです! 守永成一です」
「遺体発見時、貴方は此処に用を足しに立ち寄った……とは既にちらっと伺っていますが……。実際どうでしたか?」
「ええ、確かにもよおして立ち寄りました」
「その時の状況を教えてください」
「わかりました……」
第一発見者の守永成一は、小難しそうに眉をひそめて、警察に通報した時のようなよく通る普段通りの声の大きさではなく、小声で経緯の説明をしだした。第一発見者の守永成一が、家庭教師のアルバイトに遅刻して傘を用意できなかった為に、雨で濡らした身体を冷やしてもよおして立ち寄った駅で──と言う恥ずかしい話しを身振り手振りを用いて端的に伝えた。
「……と言う事なんですよ、警部補さん」
「なるほど、話しは分かりました。そう言う事でしたか」
「えぇ……」
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