トワレ殺人事件簿《完結》

第5章 事件解決編その1

28話 犯人はほにゃらら。そして動機とは如何に？

 その誘拐犯は、母親の梓乃が娘のひろ子を発見し、ガムテープを口から剥がしたりロープをほどいている光景を、事前にロッカーに細工して設置しておいた監視カメラを利用して覗いていた。

 誘拐犯が「隙あり」と母親の注意が娘に気を取られて逸れている隙を見計らうと、バンって勢いよく社員用ロッカーのある更衣室の扉を開けて、誘拐犯は躊躇ちゅうちょなく素早く娘に気を取られている母親の梓乃の首に後ろから手を回して首を絞めようと強く、更に強く絞める腕に力を込めながら、母親の梓乃に対して一方的に話をしだした。

「貴女が舩木ひろ子の母親ですね？ ……いや、あんたが伏見工業の社員の舩木梓乃ふなきしのだ！」
「うっぐるし……い……それが……何なのよ」
「その反応はまだ何も気付いてないようですね。私の真意に」
「うっ。な、何？ 何なのよ？ あなたは誰？」

 舩木梓乃の頭には幾つもの疑問符が飛び出していた。

（私の名前と勤めている社名に何か、ひろ子の誘拐事件と関わりがあるのか？）

 舩木梓乃は誘拐犯に首を絞められ呼吸が徐々に酸欠で弱々しくなっていく中、そんな事を頭に過よぎらせていた。

「ねぇ、本当に私の目的が何か分からない？」
「ガハッガハッ、分かる訳無いじゃない！ 解りたくもないわよ！」

 誘拐犯の問いかけに毒づいて抵抗しようと試みる舩木梓乃。舩木梓乃の脳裏には、とにかく誘拐犯の真意を聞き出して、この窮地を打開する事をひたすら考えて反撃する機会を伺うかがおうと必死でいた。

「実は貴女にはお願いがあるのよ？ お願いしたい事があって貴女に接触をする為に、誘拐を企くわだてたの」
「……っ！ 私に会うのが目的……？ お金欲しさじゃなくって？」
「そ。舩木梓乃。あんたが目的さ。アハハ」
「何が面白いのよ？ 私に会えて何かおかしい事でもあるのかしら？」

 気付けば誘拐犯が、舩木梓乃の首を絞める力が弛ゆるんでいた。その締め付けの弛みには、誘拐犯が行った誘拐の目的である舩木梓乃と会い、話す事が関係している為らしかった。

「私達の会社がめちゃくちゃになるきっかけを、あんたらが作った事実を突き詰めた時から、あんたの娘を誘拐する事が決まったのさ」
「なんですって？ 私達の会社？ 知らないわ、 そんな事。それも会社がめちゃくちゃですって？ 何があったのよ」
「此処ここが何処か忘れたの？ 此処は──」
「豊科とよしな……豊科工業だわ！ てことは、まさか！」
「ようやくお分かりのようね！ 私は豊科工業の──だわ」
「まさか！ 誘拐の目的って──」