トワレ殺人事件簿《完結》

第6章 事件解決編その2～すべての解答編～

31話 ある人物の過去（4／11 20時修正）

 豊科工業の従業員が次々辞めていき、最期の砦でもあった従業員の青戸祐哉までも辞めていき、廃業を迫られていた豊科社長は、差出人不明の手紙を入手していた。
 
 手紙の内容は──岩越銀行の融資担当の『紫垣順也』が豊科工業の新製品開発情報を横流しリークしている。オマケにその情報で賄賂わいろしている。紫垣順也が融資担当の銀行員と言う立場を利用して得た情報を、他企業の伏見工業に横流ししている──というような内容である。

 豊科夫妻は、おおよそ誰かのイタズラだろうと処理しようとしていたが、この手紙の文面にあるような「伏見工業」という同業他社も玩具製造メーカー大手TOMIYAのラジコン部門撤退の煽りを受けて豊科工業と同様の苦難の道を歩んでいるらしい事は話に聞いていた。

 しかし、この手紙が気になって個人的に伏見工業の業績を調べた所、V字回復とまでは行かないが、概ね業績が赤字から黒字に転じていた。

 ここまで調べても、豊科社長の顔にはあまり衝撃が走ることがなかった。ここからが、本題である。

 手紙の内容には実は続きがあったのだ。このように綴られていた。──豊科工業の社員のなかに裏切る者が居て残念だ。祐川勇司がその人である──とあった。

 豊科社長は、書いた人物が何者かは分からなかったが、その人物に心から敬服の感情を表にすると同時に、その裏切り者と岩越銀行の銀行員の紫垣順也に対し、恨みを抱くようになった。日に日に膨らむ借金の返済に目が回らない事もあり、金銭面だけでなく精神面も困窮するようになっていたのである。

 その頃、当人の豊科社長は手紙を持って紫垣順也のもとを訪れ、手紙を読み上げて、岩越銀行にて問い詰めていた。

「紫垣さん。貴方がこの手紙にある通りの悪い事に手を出したのは割れてるんですよ！ いい加減白状したらどうですか？」

 紫垣順也は問い質ただされた内容に対し、終始無言で否定をしようとしていた。

 しかし、豊科社長の憤怒に燃えた目が、紫垣順也のその無言の否定に動揺が隠されている事を見抜くのは造作もない事であった。この時、収賄・贈賄及び会社の機密情報の横流しと言う悪巧みによって一稼ぎしようとする紫垣順也らの考えの一端が露呈ろていした瞬間であり、この二人の会見が、大きく事を動かすのである。