トワレ殺人事件簿《完結》

第6章 事件解決編その2～すべての解答編～

32話 一連の真相の一端が明らかに 《4／23加筆》

 岩越銀行の紫垣順也を筆頭に情報の横流しリーク・賄賂を行い、豊科工業の機密情報を持ち出し、同業他社の伏見工業に身を売った祐川勇司。

 人一倍自社の豊科工業に愛着を持っていただけに、そんな祐川勇司を憎にくく想い憎悪に染まった心を持つようになった豊科社長。

 彼の心にはいつの日にかその生涯を復讐心に燃やす生活をしてやる、と言う歪んだ感情が表れていた。

 豊科社長はこの時、既に幻聴を患っていた。彼の豊科工業に対する愛着があるが故ゆえに、怨嗟えんさの声が引っ切り無しに彼の脳内に直接反響していた。元社員の祐川勇司や銀行員の紫垣順也を頭に思い浮かべるだけで生じた小さな怨恨えんこんの感情が、次第に寄せては返す波のようにうねりを伴って、怨嗟の声として、段々と強く強制力が生じ、確信を得た「神の啓示」のように、彼の脳内で会話が聞こえていた。

 豊科社長が聴いた怨嗟の声が、確かに恨み辛みはあれど、彼の温厚な人格からは到底知りようもない殺人衝動に変化していったのである。

 その上、その恨みを晴らすと言う行為を十二分に満たす為に、ただ豊科社長自身が殺害を企くわだて実行するのではなく、末代まで呪う腹積もりで彼自身の自殺すら、彼は利用しようとしたのである。

 つまるところ、怨嗟渦巻く精神状態の豊科社長は一連の殺人事件の発起人ほっきにんである。

 豊科社長が立てた計画は──俺自身が自殺したら、その死体を豊科夫人がいずれは発見されるような場所と人通りや往来が比較的少ない時間に遺棄する事。
 又、死体遺棄発見後に警察に捜査されて豊科夫人に足がつかないように死体遺棄現場同士を近い場所にして似たような場所に遺棄する事。
 重要な要素として豊科社長自身の死因が自殺ではなく他殺であるように装う事。
 また、輸血用血液を病院からくすねておく事。それを遺体遺棄現場にばらまき、捜査をかく乱させておく事。
 更に、一連の計画を企てた要因となった賄賂・情報の横流しリークと言う愛すべき豊科工業が潰された結果を招いた犯罪を告発し犯人を擦り付けて、連続殺人事件に見せかけて殺人事件の幕引きを謀る事──である。