魔法少女・朝野こむぎはフランスパンで殴る。【完結】

束音ツムギ

文字の大きさ
3 / 52
序章 Magical girl No.1501_BREAD.

3.

しおりを挟む
 サポポンが言っていたことは本当だった。

 半信半疑であったその言葉も、自分のこの目で見てしまった以上、それを信じるしかないだろう。

 ……玄関へと向かう際にすれ違った両親が、ピタリと、止まっていたのを。

 近くでよーく観察してみると、ミリ単位で。ほんの少しずつ、微かに動いているのが分かる。どうやら本当に――わたしの1秒は、周りにとっての1000秒――らしい。

『さっきも言ったとおり、完全に止まってる訳じゃないけどね。だから、ピッタリ同じところで長居すると見られてしまう危険性もある。……普通に動いていれば、そんな事は起こり得ないけど』

 半信半疑、あり得ないと思っていた事象が、本当に起こっているという事は。サポポンがこれから話すであろう……魔法少女だとか、そんなメルヘンチックな話も事実として受け入れなければならない、という事になってしまう。

「サポポン、だっけ。その……魔法少女とかいきなり言われても、全然わからないんだけど……」

『大丈夫! ボクが魔法少女について、実際に戦いながら教えてあげるから。さあ、ついてきて!』

 サポポンはそう言うと――なんと、空高くに向かって一直線に、飛んでいってしまう。

 ……全く大丈夫じゃない。ついてきて――って、あんな高く飛んでいってしまった彼に、どうやってついていけばいいのだろう?

「ちょ、ちょっとー! あなたは飛べるかもしれないけど、わたしにはム――あわ、あわわわわわっ!?」

 鳥のように翼も生えていない、サポポンのように空を飛べる能力だって持っていない、ただの人間であるわたしを置いて、さっさと飛んでいってしまうサポポンに……このまま置いてけぼりにされてはまずいと、無理を承知でジャンプした。

 すると。あろうことか、体がそのままふわりと浮かび上がり――そのまま、地面に足がつくことは無かった。……つまるところ。わたしも、


 こんな訳の分からない状況に一人、取り残されてたまるかと――空を飛べてしまった自身に宿る、信用ならないこの感覚でなんとか空を駆け――すぐにサポポンの元へと追いついた。

 初めての『生身で空を飛ぶ感覚』に感じたのは、素肌へと突き刺さるすさまじい風。そして、あまりの速さと高さによる――とてつもない恐怖だった。

『どうかな。初めて空を飛んだ感想は』

「……怖かった……。一人でさっさと行っちゃうなんてひどいよ、サポポン」

『ごめん。空を飛ぶ……とはいっても、正確に飛び方を教えるよりは、今のこむぎみたいに本能と感覚で、身体で覚えるのが一番手っ取り早いからね。ほら、もう飛ぶのにも慣れてきた頃でしょ?』

 そう言われて、わたしはやっと気がついた。飛び方なんて知るはずもないのに、己の感覚だけで――もう既に、何の違和感もなく――この空を飛び続けていることに。

 それが分かっていて、彼はわざとわたしを置いていったのだ。……たしかに、その通りなのかもしれないけど……騙されたようで、少し腹立たしいような、そんな気もする。

「それで、今はどこに向かってるの? ずっと飛んでるけど……」

 ある方向を目指して、まっすぐに飛び続けるわたしとサポポン。魔法少女について教えてくれる――そう言っていたので、目的もなくただ飛んでいるだけという訳ではないだろう。

『「ネガエネミー」の所さ。……魔法少女が戦うの元へとね』

「『ネガエネミー』……?」

 もはや当然のように飛び込んできた、聞き覚えのないその単語に、わたしは首をかしげる。

『ほら、あれだよ』

 サポポンがそう言うと、目の前には――刃渡り10メートルほどの、超巨大な『包丁』が――鋭利な刃物が浮かび、動いていたのだった。

「な、なななな、なにあれぇぇぇぇ――ッ!?」

 初めて空を飛んだ際に感じた恐怖とは、別のベクトルの――また違った恐怖で、わたしは思わず悲鳴を上げてしまう。

 まさか、あれと戦え……なんて事じゃないよね……? そう思いたいが――これから何が起こるのか、予想さえもできないこの超展開の中、そんなイヤな予感だけは当たってしまう。

『あれが「ネガエネミー」で、倒すべきターゲット。まずはネガエネミーという存在について、教えておこうか』

 ……逃れられないであろう、この巨大な包丁との戦い。あんな刃で斬られれば――わたしの体は真っ二つだろう。せめて、そうならない為にも――サポポンの説明を、ちゃんと聞いておく事にしよう。


 ――『ネガエネミー』とは、悪意や感情、噂に都市伝説。
 そんな実体を持たないネガティブな概念が具現化したもので、魔法少女にしか見えない存在。
 それは、ありとあらゆる方法でネガエネミー自身の心を満たそうとする。
 殺意ならば殺害で。ストレスには破壊で。あらゆる噂話や都市伝説は、その通りの事象を引き起こす。

 ……それを止めるのが『魔法少女』の役割なのだ――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...