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第三章 Fifty-Fifty. Despair of Whale.

10.

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『――Deliele Ga Full Flowa【BREADブレッド】――Convertコンバート――っ!』

 黒く、途方もないほどに大きなクジラの見た目をしたネガエネミーを正面へと見据えながら、わたしは迷わず詠唱する。

 そして、再び――あの大きな口を開かせるためのである、巨大なコッペパンが落とされる。

 ――ゴオオオオオォォォォォッ! と激しい風音を唸らせつつも、そのまま落下していくそれを、その大きさ故に動きが鈍く、避けることができない相手は……ぱかあっ! と、こちらの狙い通りにその口を開く。

 こうなれば、飲み込んで噛み砕くか、あの白い光線で撃ち返すかの二択しかないはず。

 前者ならば最初の作戦通り、その隙に潜り込めばいいだけで。もし、後者でも――わたしと八坂やさかさんを背に、藍色の髪をなびかせながら浮かぶ魔法少女――氷乃京香ひの きょうかは。

「――Follor Mee Arl Rure『SIGNサイン』――Convert……」

 詠唱を紡いだ後、彼女の前に――赤く、三角形をした『』が現れる。そこには、白い文字で『止まれ』――と、そう書かれている。

「これが氷乃ひのさんが言っていた『』……?」

 街を歩いていれば、幾度となく目にする、交通標識。彼女の目の前に浮かぶ、交差点なんかに立っているこの『止まれ』の標識であれば、そこを通る車は止まらなくてはならないという……それこそが、彼女の固有魔法『SIGNサイン』だったのだ。

「私の魔法は『力』で止める訳ではありません。『法則ルール』で止めるのです。ルールという概念は絶対――それこそ、法則を覆すような攻撃でない限りは例外なく止める事が可能です」

 そう言い切った直後、大きなクジラは――があっ! と口を開けて――その奥が一瞬、白く光る。

「朝野さん、八坂先輩――攻撃が来ます。私の後ろへ下がってください」

「分かったわ。無茶を任せてしまってごめんなさい。それじゃあ朝野さん、一度離れましょうか」

 そう言われ、わたしはまだ不安が残るが……八坂さんと共に一度、彼女の後ろへと引いた。

 そして――ギュウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥウウッ!!

 破壊を象徴するかのような激しい音と共に、わたしたちを撃ち抜いたあの白い光線が放たれる。それは真っ直ぐに、氷乃さんが生み出した赤い標識へと向かって進み――バチバチバチバチバチィィッ!!

 金属を溶接しているような、そんな耳障りな音を鳴り響かせながら、その白い光線は文字通り――標識の前で停止する。

 その赤い標識へぶつかると共に、その攻撃が見えない結界に阻まれているかのように。氷乃さんの出した標識がなければ、今すぐにでもあちこちへと光線が暴れ出してしまいそうな――そんな勢いを残したまま、止まっていた。

「行きましょう、朝野さん!」

「……はいっ!」

 一秒一秒、刻一刻と威力が増していく光線の合間を縫って、わたしと八坂さんは大きく開いたクジラの口の中へと飛んで、潜り込んでいった。
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