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第三章 Fifty-Fifty. Despair of Whale.
9.
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「……止まってる……?」
空を飛び、再びネガエネミーの元となった場所、命岐橋へとやってきたわたしは――そこで、不思議な光景を目にする。
わたしが倒れていた間に操られてしまい、今にも危険が迫る人々を助け、時間稼ぎをしていたという八坂さんと、おそらく蓮見さんに京香と呼ばれていたもう一人の魔法少女――藍色の髪を伸ばし、タキシードのような、スーツのような、魔法少女らしくないシュッとした衣装に身を包んだ綺麗な女性が、橋から飛び降りようとする人を掴んだまま――空中で静止している。
『これが「ラプスモード」だよ。時間の感覚を変えずに、ネガエネミーにも干渉せずに魔法少女の力を使うことができるんだ。
もちろん、人に見られてしまう危険があるから無闇に使えないけど、彼らみたいにネガエネミーに操られていて、記憶が残らないような人を助ける分には問題ないからね』
後を追ってきたサポポンが、さっきちらっと蓮見さんの言っていた『ラプスモード』……について解説する。
わたしが普段、魔法少女になったときの不思議な世界――時間が周りからすれば止まっていると感じるほどにとてつもなく長く感じて、ネガエネミーという見えないはずの敵が目視できる、そんな状態には行かずに魔法少女になれるということらしい。
しかし、そう便利な代物ではなく――魔法少女以外の人間に見つかってはいけない訳で、それこそ今のような、ごくごく限られた状況じゃなければ使えない。そんな代物らしい。
「……で、どうしたらその『ラプスモード』になれるの?」
『簡単だよ。いつもの変身する時の詠唱に、一言付け加えればいいんだ。……これも、感覚的な部分が大きいから、具体的で明確なやり方っていうのは存在しないんだけどね』
「……こう……かな? ――Lapse『BREAD』――っ!」
わたしは再び、魔法名と共に――ラプス、そう口にすると――突如、自分が急激に加速しているような、そんな感覚に襲われる。
目の前で、飛び降りようとする人たちを助けていた、二人の魔法少女が――ゆっくりと、少しずつ、動き出し――
「……朝野さん! 待ってたわよ!」
「朝野こむぎさんですね。八坂先輩から話は聞いています。――この街、鳴繰市で頼れる仲間が見つかった――と」
やがて、二人と同じ時間の流れへと合流する。――いや、元の流れの中に戻ってきた、という方が正しいのかもしれない。
「……ごめんなさい、わたしが倒れていたばかりに……」
「気にしないで。ひとまず、朝野さんが戻ってくるまで時間は稼げたようだし、ラプスモードは解除しましょうか」
――『BOTTLE』――
――『SIGN』――
――『BREAD』――
解除――と言われても、どうすればいいか分からなかったわたしは、二人の見よう見まねでなんとかやってみる。とは言っても、普段の変身と同じ要領でやれば良かっただけ……らしい。
詠唱の後、目を開けると――二人が変わらず動き、飛んでいたので、どうやら同じ時間の流れの中にいるのだろう。無事、上手くいった……みたいだ。
サポポンにはよく感覚、と言われるが……本当にその通りだなと思う。ラプスモードだって、やり方なんてよく分からないのになんだかんだで上手くいっているようだし。
わたしはただ、もうどうにでもなれ――! といったように、その感覚に身を任せているだけなのだけれど……。
「では、改めまして」
藍色の髪と、黒いタキシードのような衣装を纏った魔法少女が、丁寧な口調と仕草で、自己紹介を始める。
「氷乃京香と申します。私は魔法少女としての経験はまだ浅く、微力ながら――助太刀させて頂きます」
『そして、京香様のサポートを務めておりますサポポンです。どうぞ、宜しくお願いします』
続けて、傍らに浮かぶ白い雪玉のような見た目をしたサポポンも、彼女と同じく丁寧に、挨拶を始める。
経験が浅い――そうは言っても、一週間前に魔法少女になったばかりのわたしよりは、色々な経験を積んでいるはず。
「そんなっ、かしこまらないでください……。わたしの方が年下ですし……」
明らかに彼女のほうが年上であり、先輩であるにも関わらず、あまりにも堅く、へりくだった様子で自己紹介をする彼女に違和感を覚えて、わたしはそう言うが……。
「ああ……。氷乃さんは誰に対してもこんな感じだから、あんまり気にしないで。
それに、私も分からないでもないしね。砕けた話し方って、気付かぬうちに相手を傷つけちゃう事だってあるから、案外難しいことだと思うし」
そんな事を気にも留めずに、氷乃さんは変わらず、丁寧な口調で続ける。
「作戦については八坂先輩から伺っています。ネガエネミーの体内に潜り込み、コアを直接破壊すると聞きました」
「そうね。でも、あと一歩の所で反撃を受けてしまったわ。あの大きな口から放たれた、白い光線にね」
あの攻撃がある限り――中に入り込むなんて、不可能に近い。しかし、助っ人に駆けつけてくれた魔法少女、氷乃京香は――
「――私の魔法なら、その攻撃をも受け止める事が可能かと思われます」
「私もそう思ったんだけど……。でも、やっぱり危険すぎるわよ。あの攻撃と真正面に向かい合うなんて……」
魔法少女の切り札である『チャージ』をしたわたしたちを、容易く吹き飛ばした一撃。それを受け止めるなんて無謀だ。彼女の実力をよく知らないわたしでさえも、そう思う。しかし、
「私の魔法は、どんな物でもその通りに従わせる標識。標識の内容は絶対。――必ず、どんな攻撃でも止めることが可能です」
……そう、断言する。八坂さんは、その言葉を聞き、頭を右手で押さえながらも悩んだ末に――
「……分かったわ。私は氷乃さんを信じる」
そう決断する。人に任せるのが怖かった――そう言っていた彼女には、重い決断だったのかもしれない。……それでも。
「私と朝野さんで中に潜り込んで、コアを壊す。……あの攻撃は任せてしまっても大丈夫かしら?」
「承知しました。こちらはお任せを」
自ら経験が浅いと言っていた――しかし、とてもそうとは思えないほどに、絶対的な自信を宿した彼女はその堂々たる佇まいで言う。
空を飛び、再びネガエネミーの元となった場所、命岐橋へとやってきたわたしは――そこで、不思議な光景を目にする。
わたしが倒れていた間に操られてしまい、今にも危険が迫る人々を助け、時間稼ぎをしていたという八坂さんと、おそらく蓮見さんに京香と呼ばれていたもう一人の魔法少女――藍色の髪を伸ばし、タキシードのような、スーツのような、魔法少女らしくないシュッとした衣装に身を包んだ綺麗な女性が、橋から飛び降りようとする人を掴んだまま――空中で静止している。
『これが「ラプスモード」だよ。時間の感覚を変えずに、ネガエネミーにも干渉せずに魔法少女の力を使うことができるんだ。
もちろん、人に見られてしまう危険があるから無闇に使えないけど、彼らみたいにネガエネミーに操られていて、記憶が残らないような人を助ける分には問題ないからね』
後を追ってきたサポポンが、さっきちらっと蓮見さんの言っていた『ラプスモード』……について解説する。
わたしが普段、魔法少女になったときの不思議な世界――時間が周りからすれば止まっていると感じるほどにとてつもなく長く感じて、ネガエネミーという見えないはずの敵が目視できる、そんな状態には行かずに魔法少女になれるということらしい。
しかし、そう便利な代物ではなく――魔法少女以外の人間に見つかってはいけない訳で、それこそ今のような、ごくごく限られた状況じゃなければ使えない。そんな代物らしい。
「……で、どうしたらその『ラプスモード』になれるの?」
『簡単だよ。いつもの変身する時の詠唱に、一言付け加えればいいんだ。……これも、感覚的な部分が大きいから、具体的で明確なやり方っていうのは存在しないんだけどね』
「……こう……かな? ――Lapse『BREAD』――っ!」
わたしは再び、魔法名と共に――ラプス、そう口にすると――突如、自分が急激に加速しているような、そんな感覚に襲われる。
目の前で、飛び降りようとする人たちを助けていた、二人の魔法少女が――ゆっくりと、少しずつ、動き出し――
「……朝野さん! 待ってたわよ!」
「朝野こむぎさんですね。八坂先輩から話は聞いています。――この街、鳴繰市で頼れる仲間が見つかった――と」
やがて、二人と同じ時間の流れへと合流する。――いや、元の流れの中に戻ってきた、という方が正しいのかもしれない。
「……ごめんなさい、わたしが倒れていたばかりに……」
「気にしないで。ひとまず、朝野さんが戻ってくるまで時間は稼げたようだし、ラプスモードは解除しましょうか」
――『BOTTLE』――
――『SIGN』――
――『BREAD』――
解除――と言われても、どうすればいいか分からなかったわたしは、二人の見よう見まねでなんとかやってみる。とは言っても、普段の変身と同じ要領でやれば良かっただけ……らしい。
詠唱の後、目を開けると――二人が変わらず動き、飛んでいたので、どうやら同じ時間の流れの中にいるのだろう。無事、上手くいった……みたいだ。
サポポンにはよく感覚、と言われるが……本当にその通りだなと思う。ラプスモードだって、やり方なんてよく分からないのになんだかんだで上手くいっているようだし。
わたしはただ、もうどうにでもなれ――! といったように、その感覚に身を任せているだけなのだけれど……。
「では、改めまして」
藍色の髪と、黒いタキシードのような衣装を纏った魔法少女が、丁寧な口調と仕草で、自己紹介を始める。
「氷乃京香と申します。私は魔法少女としての経験はまだ浅く、微力ながら――助太刀させて頂きます」
『そして、京香様のサポートを務めておりますサポポンです。どうぞ、宜しくお願いします』
続けて、傍らに浮かぶ白い雪玉のような見た目をしたサポポンも、彼女と同じく丁寧に、挨拶を始める。
経験が浅い――そうは言っても、一週間前に魔法少女になったばかりのわたしよりは、色々な経験を積んでいるはず。
「そんなっ、かしこまらないでください……。わたしの方が年下ですし……」
明らかに彼女のほうが年上であり、先輩であるにも関わらず、あまりにも堅く、へりくだった様子で自己紹介をする彼女に違和感を覚えて、わたしはそう言うが……。
「ああ……。氷乃さんは誰に対してもこんな感じだから、あんまり気にしないで。
それに、私も分からないでもないしね。砕けた話し方って、気付かぬうちに相手を傷つけちゃう事だってあるから、案外難しいことだと思うし」
そんな事を気にも留めずに、氷乃さんは変わらず、丁寧な口調で続ける。
「作戦については八坂先輩から伺っています。ネガエネミーの体内に潜り込み、コアを直接破壊すると聞きました」
「そうね。でも、あと一歩の所で反撃を受けてしまったわ。あの大きな口から放たれた、白い光線にね」
あの攻撃がある限り――中に入り込むなんて、不可能に近い。しかし、助っ人に駆けつけてくれた魔法少女、氷乃京香は――
「――私の魔法なら、その攻撃をも受け止める事が可能かと思われます」
「私もそう思ったんだけど……。でも、やっぱり危険すぎるわよ。あの攻撃と真正面に向かい合うなんて……」
魔法少女の切り札である『チャージ』をしたわたしたちを、容易く吹き飛ばした一撃。それを受け止めるなんて無謀だ。彼女の実力をよく知らないわたしでさえも、そう思う。しかし、
「私の魔法は、どんな物でもその通りに従わせる標識。標識の内容は絶対。――必ず、どんな攻撃でも止めることが可能です」
……そう、断言する。八坂さんは、その言葉を聞き、頭を右手で押さえながらも悩んだ末に――
「……分かったわ。私は氷乃さんを信じる」
そう決断する。人に任せるのが怖かった――そう言っていた彼女には、重い決断だったのかもしれない。……それでも。
「私と朝野さんで中に潜り込んで、コアを壊す。……あの攻撃は任せてしまっても大丈夫かしら?」
「承知しました。こちらはお任せを」
自ら経験が浅いと言っていた――しかし、とてもそうとは思えないほどに、絶対的な自信を宿した彼女はその堂々たる佇まいで言う。
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