ハズレスキル【すり抜け】を極めたら世界最強のチート能力に覚醒しました〜今更帰って来いと言われても、あの時俺を役立たずとして捨てましたよね?〜

玖遠紅音

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第1章

17話 出会い

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「んー、仕方ねえな。これで妥協するか」

 俺を攫ってどこかへ運ぼうとしていた三人を斬り殺してから約10分後。
 上の服だけ脱ぎ捨てて、荷物を覆っていたやや大きめの布を衣代わりにして身にまとった俺は、いくつか必要なものを近くに転がっていたカバンに詰め込んで荷車を降りた。
 時期的に若干風が冷たいが、流石にあの服で町に入るわけにもいかないし我慢だ我慢。
 ズボンは色的になんとか誤魔化せている……気がする。大丈夫だ多分。

「――よっと。これでよし。じゃあせいぜい成仏してくれよな」

 そう言って俺は、周囲に燃え移る可能性が低いことを確認してから三人分の死体を載せた荷車に火をつけた。
 俺の死体が上がっていない時点で燃やして証拠隠滅しても意味ないだろうが、このまま放っておくのも気分的に嫌だったからな。
 ここでやらなきゃ俺が焼かれる側になっていただろうから、こいつらにかける言葉はこれで十分だろう。

 よし、さっさと先へいく――か?

「――こっちだ! 急げ!」

 チッ、どうしてこう良くないことというのは連続するんだ。
 やや遠くから聞こえてくる足音と声からして少なくとも5人以上がこちらへ向かってきている。

 ここは恐らく山中の馬車街道。商人が町を往来するための道と行ったところだ。
 そんな道を複数人グループで走ってきているとなれば、強盗や窃盗を目的としたヤバい奴らの可能性だって十分ある。
 どちらにしろ、今ここで見つかるのは拙い。

「今すぐはな――っ!?」

 背筋に強烈な悪寒が走る。
 奥の方からゴォ、という音が聞こえたのはそのすぐ後だった。
 俺は身の危険を察知し、大慌てで右斜め上方向へ駆け出し、そのまま生い茂る草むらへと飛び込んだ。

 直後、莫大な量の水が俺の真横を通過した。
 横向きに渦巻く水流は大木を軽々となぎ倒し、抉り取っていく。
 その勢いはまるで新幹線。破壊力は津波をも上回るのではないかとすら感じさせる。

(な、なんだよこれっ! ふざけてやがる!!)

 こんな山の中であれほどの量の水が暴れる事なんてありえない。
 明らかに人為的な攻撃だが、到底人に向けていいような威力じゃないだろ!
 ほら見ろ! さっきまで俺が載せられていた馬車も、あっさり鎮火された上に粉々になってるじゃねえか!

 もしあれが俺の身に直接叩き込まれていたと思うとゾッとする。
 ふざけんじゃねえと一言文句を言ってぶん殴ってやりたいところだが、流石にこんなバカげた攻撃を仕掛けてくるような相手にケンカを売りたくはない。

(くそっ、近づいてくる……)

 聴覚を拡張しなくても分かる位置から、こちらに向かって走ってくる足音が聞こえてきた。
 この攻撃の主も間違いなくその足音に含まれているだろう。 
 今すぐここから離れるべきだ。そう判断した俺はすぐさま起き上がって走り出したのだが、

「――がっ!?」

「いだぁっ!? あっ、ちょ、まずい!」

「え――んぐぅっ!?」

 突如として目の前に現れた誰かと衝突し、思わず声を上げてしまった。
 やや子供っぽい中性的な声と一緒に痛みが脳に響くが、その次の瞬間俺はそいつに強引に押し倒されて両手で口を押さえつけられた。

(なにすんだお前っ!!)

「しぃっ! ごめん! ちょっと今だけ我慢して!」 

 小声だが張りのある声で俺に大人しくするよう言ってくる。
 なにが起きているのか状況がさっぱり呑み込めなかったが、ここで暴れると奴らに見つかる可能性が頭をよぎって一旦抵抗をやめた。
 次に目に入ったのは、美しい少年の顔だった。

 やや長めの銀髪を風に靡かせ、真っ白な額にはじんわりと汗がにじんでいるが、その顔立ちはまるで神が創り出した人形のように精巧で美しい。
 まだ垢ぬけていないが、それでも思わず息を呑んでしまうほどの淡い妖艶さを併せ持っている。
 だけど彼が身に纏っているのはくたびれたシャツにショートパンツ。
 ところどころ穴が開いていたり土ぼこりで汚れていたりと、とても高貴な生まれには見えなかった。

(なんなんだコイツは……)

 そんなことを思っていると、すぐ近くから荒々しい声が聞こえてきた。

「あのクソガキィ……どこへ消えやがった。手間ァかけさせやがって!!」

「あ、アニキ。流石にこれはマズいんじゃ……」

「あァ!? てめえ、俺のやり方にケチつけてる暇があるならさっさとあのクソガキを引きずり出してここへ連れて来やがれ! それともここで死んでおくかァ!?」

「ひっ、すみませんっ!?」

 走って表れたのは身の丈ほどの大槍を背負った大男と、それに付き従う形で囲む武装した男数名5人。
 逃げ出した誰かを探している様子だが、クソガキってまさか俺の事じゃないだろうな!?
 俺が逃げ出したことが伝わって後々追手が来るのは分かるが、いくらなんでも早すぎる。

「んん? ンなところに馬車かよ。ったくタイミングがわりぃなクソが」

「これは――おそらく商人の馬車ですね。アニキ、どうしますか?」

「ふん、バラバラになっちまって盗れるモンもなさそうだな。残念だがまァいい。さっき派手にブチかましたのを見て兵士どもがやってきたら面倒だ。とりあえずそう遠くへは逃げちゃいねェハズだからてめェらもさっさとバラけてガラァ抑えに行けや!」

「は、はいっ!!」

 大男の指示で四方に散る男たち。
 幸い俺たちは上手く茂みに隠れていたおかげで奴らの視界に入ることはなかったようだ。

「リオンの野郎、舐めやがって……必ずとっ捕まえて己の身分を分からせてやらねェとなァ……」

 そう言って大男もまた、そのまま奥の方へと歩き進んでいった。
 ひとまず奴らが狙っているのはリオンという奴で、俺ではなかったことが分かってほっとした。
 そして奴が去ってからしばらくして、ようやく俺の口は解放された。

「――っは! げほっ! ったく、なんなんだよもう……」

「ごめんごめん。ぼくさ、今ちょっと追われててね……」

 そう苦々しい顔で謝罪してくる美少年。
 なるほど、コイツがリオンか。

(またクソ面倒くさいことになってきたな……)

 己の運の悪さに今一度心の中で深いため息をつきながら、俺は残してきたマナの顔を思い浮かべた。

(昨日まではアレだけ楽しかったのになぁ……マナは俺がいなくなっても大丈夫かなぁ……)

 戻りたいけど戻りたくはないという矛盾しつつも複雑な己の気持ちを前に、やはりもう一度ため息をついてしまう俺だった。
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