輪廻魔術 ~君が死なない方程式~

モト

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ストーカー編

25 カイル視点

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※カイル視点です。




 魔術学校で暫く魔術を習える事になった。

 リンの口添え一つで部外者の俺が特別待遇だ。
 初めは、他の魔術師と共に講義の後で話を聞くだけと思っていたら、俺専属の教師までついて個人授業だ。

 彼は一体何者なのだろうか。

 リンが自分の事を話したがらない為、自分で推測するしかないが能面野郎以上の立場なのだ。そんな奴が俺のストーカーなどしていると誰が想像できただろう。

 いつも思うが、リンは飄々とし過ぎている。
 その態度で、リンの実力を軽視してしまった自分がいたわけだが、今はもうリンの底知れぬ実力を感じている。


 紙に殴り書きしたメモを見ていたリンが、その文字を細い指でなぞる。

「ふふ。君はこのようなモノの見方をするのだね」

 いつの間にかふわりと傍に来て、一言ボソリと呟く。

 ドキリとする。

 振り向くと長い前髪から見える整った顔が微笑んでいる。いつもは至近距離にならないように心がけているリンだが魔術の事になると気を抜くのか傍に寄ってくるのだ。

「ごめん、邪魔したね」

 邪魔などでは決してない。呟いた声はとても穏やかで心地の良いものだ。まるで優しい先生が見守るような声かけだと思う。

 気にしていないという前にリンは距離をとって少し離れた窓際で本を読み始める。

「……」

 日の光で彼の肌の透けるような白さが特に目立つ。

 王宮でのリンの服装は真っ白で銀の刺繍が施されている。

 リンの身体は細すぎていびつさすら感じていた。そのはずなのに、彼の凄さを感じる度にイメージがどんどん作り変えられる。

 ゴブリンの子供に慈しみの表情を向ける奴なんて初めてみた。きっと、リンは何度もそうやって色んなモノを助けてきたのだろうな。

 キレイな手だ……。

「カイル君?」

 俺の視線を感じてリンが首を傾げた。

 俺は、ハッとして顔が赤くなるのを感じ、リンから顔を背ける。

 ……何、ずっと見ているんだよ? 俺は。自分がキモい。勉強に集中しろよ。


 でも、リンが動く度、またリンの事を見てしまう自分がいた。

 リンは王宮にくるまで四六時中俺にべったりと付きまとっていた。だが王宮では、一日の半数がリンの視線を感じない。

 その些細な変化を気にしている自分はおかしい。
 以前の四六時中付きまとう行為こそおかしいのだ。それに俺は慣らされてしまっているだけ……! それだけだ。





 ☆





 朝になると王宮の外にある広場で剣の素振りをする。

 リンが少し離れた場所から俺を見守っていた。
 リンが嫌がるので、王宮ではリンを鍛錬に付き合わせていない。彼の気が向いた時にまた付き合ってくれればいい。


 すると、能面野郎がやってきてリンと話し始めた。

 能面野郎がリンの腰に手を当てる。手を差し出す。それをリンは受け入れていた。
 リンは、他人には頑なな態度なのに、能面野郎だけは別だ。

 出会った頃からリンは誰に対しても同じような距離感だった。一歩も二歩も距離を置く。
 だから、俺に対しての態度は、リンのパーソナルスペースのようなものだと思っていたのに。

 能面野郎が中腰になり、そいつの耳元でリンが何かささやいている。二人だけの秘め事のように。

「……ちっ」

 彼らは魔術師同士で話す内容も沢山あるのだろう。

 俺が変だと感じ始めたのは、リンが能面野郎と話している時、俺から視線が離れる。
 それがイライラする。
 リンに見られていない事が嫌だなんておかしい。見られすぎて感覚がおかしくなっている。

 能面野郎はリンに頭を下げるとどこか別の場所へ向かった。

 また、リンの視線が俺に戻った。

 俺は振り返り、リンの視線に合わすと困ったように肩をすくめる。なんで困るんだと苦笑いすると、前髪で隠れたリンの顔がふにゃりと笑う。

 ……どうして近くに寄らないのだろうか。

 なんでも話してくれればいいのに。まだ……そこまで仲良くなれていないのだろうか。
 分からない。今まで適当に友達を作ってきたから。
 いざ、本気で仲良くなりたいと思える同士を見つけた時、どうすれば仲良くなれるのか分からない。



 王都はとても賑やかで騒がしいのに王宮の中はとても静かであった。
 この国は魔術師が結界を張っている。誰もが知る事実。さらにこの王都にも王宮にも結界が張られている。

 王宮がこの国で一番安全な場所だ。

 王宮に滞在して7日目には魔術師と交戦させてもらえる事になった。

 いつもは体術を使い魔術師を力ずくで倒していたが、それらの体術を全て使わず魔術だけで交戦するよう指示される。


 俺は元々魔力が有り余っている。

 術式、原理の知識を理解する事が出来たら、初歩的な魔術を使い始める事など容易かった。
 でも、彼らと交戦してもやはりリンや能面野郎のように面白さは感じない。
 あの二人は、強さの桁が違い過ぎる。


 講義の後、いつものように図書室で本を読んでいると、リンがふわりとやってくる。

 鍛錬の時もいなかったし、顔を合わせるのが今日は初めてだ。



 隣に座るように椅子を引く。そこに静かに座るリン。


 ……おい。隣で座られて嬉しいとか―――……、俺って本当にどうしたんだよ。

 悶々として彼の方をまともに見ることが出来ない。すぐに視線を外してしまう。


 だが、それがいけなかった。

 図書館から出ると、彼の顔に血の気がない。真っ青だ。
 声をかけると距離を置かれる。心配しているだけなのに。リンが嫌がるのならと前を向いた。

 だが。

「あ―――。ダメだ!心配するだろうっ!」

 そんな真っ青な顔でうろつかせられない。抱き上げようと思って振り返った時、リンの身体が前のめりに倒れそうになる。
 地面に倒れる前に支えると、立ち眩みかなと謝ってくる。
 リンの身体が冷たい。魔力欠乏を起こしている。

 自分の部屋がここから一番近い。リンの身体を抱き上げて自室のベッドに横にならせる。
 ぼんやりと虚ろな表情。相当辛くなってきたのだろう。自覚症状はなかったのか?…いやあっても大丈夫と思った結果がこの状態だろう。

 俺は、リンの服の袖をめくり、腕を握り魔力を注いだ。
 ジワリと魔力を注いだ腕から気持ちよさを感じる。魔力を流されたリンはもっと呼吸を荒くして首を振った。

 いやだ……と呟いている。こんな状況になって選り好みしている状況じゃないだろう。

 だが、「マキタ」と呟いた時は、頭と首の付け根がぐぅっと熱くなり痛みを感じる程沸騰した。

「なんで……? 俺にだって頼れよ」

 前髪を寄せると、真っ青な顔に真っ赤な目をしたリン。
 いやだと口にしながら、リンは目を閉じた。


「……魔力が減りすぎて意識が保てなくなったか」

 俺は腕からの魔力をもっと強くする。

 だが、触っている身体がどんどん冷たくなっていく。あのドラゴンの山で崖下に落ちた状況より悪い……。どうしてこんなに体調が悪くなっているんだ。何かがあったのか……!?

 あの能面野郎はどうした。あれはお前の供だろう。お前の役に立っていないのかよ!
 リンと能面野郎の事を考えると腹が立つが今は、リンの体調の方を何とかしなければ。

 俺もベッドに座り、リンを布団に巻き付け自分の身体に抱き寄せた。


 普段真っ赤な唇は青白くなっている。つぅっと指でリンの唇をなぞる。

 柔らかい。

「……」

 惹きつけられるように顔を近づけ、リンの唇に唇を重ねる。唇から魔力を注ぐ。

 魔力を注ぐと口腔内が熱くなる。
 リンの顎を引いて、口腔内へ舌を入れる。粘膜同士が最も魔力を注ぎやすい。

「ん……、はぁ…」

 意識がないが気持ちいいのだろう。
 俺の魔力に反応して吐息が甘くなっていくのを感じる。
 以前の人工呼吸の際でも同じような反応がみられた。だが、まだ、身体が冷たい。俺はぎゅうっと抱きしめてリンに口づける。

 魔力を注ぐ量が増える度、俺自身も気持ちよくなる。
 脳の奥からジワリと蕩けそうな感じがする。魔力の相性がいいとこれほどに心地がいいものだろうか。

「はぁ…、……ん」

 リンが無意識に俺の舌をハムリと咥え、舌を味わうかのように甘噛みする。

「ふぉい……(おい)」

 ゆっくりだが小さい舌が俺の舌に絡んでくる。軽くチュウっと吸われると背筋がゾクリと震えた。何度も甘噛みされては吸われる。幼児がおもちゃを気に入ったみたいな単純な動きだ。

 こいつ……意識は? いや……意識はない。

 だが、リンがこのような口づけをすることに衝撃をうけた。

 単調だが、キスすることが初めての動きではない。一体誰と……、あの能面野郎ともこんな風に口づけしてんじゃねぇだろうな。

 それを想像するとまた頭がかぁっと熱くなる。感じた事のないドス暗い気持ちになる。

 嫌すぎる。そう思うと身体を抱く力も入ってしまうし口づけも深くなる。

 魔力注入するだけなら粘膜同士が触れていればいいだけだ。分かっているのに止まらない。
 角度を変えて何度もリンの口を貪る。

 リンが苦しそうにくぐもった声を上げる。
 ハッと抱きしめる力を緩め少し口を離す。すると、リンの赤い舌が追いかけてくるように伸びてきた。真っ赤な小さい舌。健気に追ってくる舌は普段のリンそのもののようだ。

 パクリと俺の口の中に入れてやる。

 口の中に入れれば何か動くのかと思ったが俺の舌にチロチロと触れるだけ……。ゆっくりと絡めてやると甘い吐息が聞こえる。

 これでは、もう人工呼吸ではないと頭の中でツッコミながら、やめられない。
 リンの舌が小さくて気持ちいいから、先ほどリンがしたようにチュウっと吸う。

「……ん、はぁん……ん、……カイル……」

「……」


 なんだよ。

 やっぱり俺じゃん。



 意識なく喘ぐ言葉はいつも俺の名前。頭にズンッと衝撃が走りブルリと身体が震える。

 胸が痛くなるくらい嬉しくなっているのに気付く。

「リン」

 口づけの合間に俺も呼ぶ。ちゃんと魔力注入も忘れていないけれど、もうこれはキスだ。

 リンの唇を甘噛みしながら整った歯並びを舌でなぞる。


 リンの手がピクリと動き、俺の手に重なる。意識が戻ったのか?
 リンの目が少し開いている。だが、まだどこかぼんやりとしている。

 魔力が戻って顔色が良くなっている。唇は真っ赤だ。

 色っぽい。

 そうだ。顔だって、こんな髪の毛切ってしまえば痩せているが凄くキレイだ。でも、そうしたら、他の奴もリンのキレイさに気が付いてしまう。フルラのように……。

 あれ?


「……もっと……」

 熱に浮かされた目で俺を見る。

 もっと、俺にキスして欲しいと言っているのか。

「あぁ。もっと傍にきてくれ」

 すると、リンの手が俺の背中にゆっくり回された。リンから初めて求められたのではないか。

 ……なんだよ。俺、なんでこんなに嬉しがっているんだよ。

 ゆっくりと深まっていくキスに頭が熱くて溶けそうだ。


 ようやく、分かった。


 いつからなのかは分からない。だけど、初めて見た時からリンが気になっていた。

 傍に付き添われるだけでは物足りなくなって、同士だと仲良くなりたかった。上手く友達のように仲良くなれないし、能面野郎がいるし。俺だけのストーカーでいてもらえなくなるのが子供のように嫌だったのだ。



 好きになった奴が自分の事好きとか最高か。



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