足掻くオメガ

モト

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同棲編

六 7

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よく知っている二人の声がボソボソと聞こえる為、目を開けた。

真っ白な天井。少し視界に入るクリーム色のカーテン。どこか独特の匂いがする空間。
どこだっけ……?

「六。目覚ましたか?気分はどう?」
一気に視界が近藤の顔で埋まる。
「近藤…?あれ?ここどこだ?」
「病院だよ!!スーパーの前で倒れたんだよぉ。」

そういえば、近藤と買い物に出掛けていて、出たところでふらりと貧血で倒れたっけ?
視線を下げると東吾もいる。

その近藤の頭をガシッと掴んで後ろに下げる東吾。
「オッサンッ!!頭掴むなっ!!」
オッサン?東吾が!?
「ちんちくりん。人の番に近寄りすぎた。」
ち、ちんちくりん!?近藤の事か?
「……。」
俺の知らない間に二人の間で何かあったのは、一瞬にして分かった。

近藤と場所交替した東吾。ブーっと口を膨らませた近藤が渋々後ろに下がる。
「大丈夫か?」
「あぁ…。もう気分悪くねぇよ。」
俺の腕には点滴が繋がっていた。
「医師からは気分が悪くなければ、点滴後、帰っていいそうだ。」
淡々と話す東吾。
「そうか。大学中に悪かったな。近藤も迷惑かけたな。ありがとう。」

近藤が東吾とは反対側にくるりと回ってきた。
「六~。このオッサンからイジメられてない?しんどくなったらいつでも俺の家に来ていいからな。」
そう言って点滴のしていない手をぎゅうっと握った。

何か…色々訂正が。何から言えばいいんだ?

困ったように東吾を見るが、東吾はちょっと不機嫌な無表情だ。
「えっと、近藤と俺は確か同じ年だよな?東吾も同じ年なんだ。オッサンではないんだ。」
「うっそ。老けてる!10歳くらいはサバ読んでるよっ!!」
老けてる……。確かに中身はもっと老けてる気がする。10歳くらいサバ読んでいる気がしてこなくもない。
「東吾。10歳もサバ読むなよ。」
ざまぁねぇ。くくっと笑ってからかう。
「何の冗談だ。」
からかわれているのに眉一つ動かさない。けっ面白みのない奴。

しかし、近藤の奴、肝が据わっているのか鈍感なのか。俺は一度だって東吾にそんな暴言吐く奴に出会ったことがないぞ。
「近藤。お前の家には遊びに行きたいけど番もいるし、俺が行ったら迷惑だろう。」
「いいよ。縁はなんだかんだで優しいから。六ならいつでも来てよ。」
「そうか。じゃ、また今度遊びに行くわ。」
「やった。」
近藤が楽しそうに話し始める。それから、東吾を見て、「べーー。」と舌を出した。
おい。本当にこの二人の間で何があったんだ。

しばらくすると、近藤のスマホから電話が鳴り、都合があると言い近藤は帰っていった。
二人になるとまた、静かな空間に戻った。

「近藤との間に何があったんだ?」
俺が寝ている間に二人に何かあったのだろう。そうでなければ、初対面の二人がこれほどいがみ合う必要もない。
「……。」
東吾は荷物が入っている鞄から首輪を出してきた。
そういえば、首元がやたらスース―すると思った。俺、首輪外されているんだ。

気道確保のためにも意識のない人間の首輪を外すのは当然だ。
じゃ、首の黒ずんだ痣を近藤は見たのか。黒ずんだ皮膚上にさらに内出血を残すような歯型を…?

「サディストと詰られても仕方ない。当然の反応だ。」
東吾が飄々とそれを言った。
「っ!お前…それ以上、何か近藤に言っていないだろうな?」
「何を?」
「何をって…。」
例えば、俺と東吾が事故で始まったとか。俺が一度東吾から離れたとか。
そういうデリケートな所だよ。頭のいい東吾なら分かるだろう。分かっているのにイチイチ聞いてくる東吾が腹立たしい。
「何も言っていない。ちんちくりんが一方的に詰ってきただけか。」
何も話していない。そのことに少し安心した。

「お前にしては、珍しく暴言吐かれていたよな。」
思い出してふふっと笑いが口から漏れる。
ちょっとスッキリしたかもしれない。東吾の圧に負けず言い返すなんて凄い奴だ。俺ですら時折言い返せない時があるのに。
「それより、あぁいう友人が六にいるとは知らなかった。」
「俺にも友達くらいいる。」
中学・高校見てきた東吾には、俺がボッチだってことは知っているだろうけど、ここは少し見栄をはった。
「そうか。」
東吾は俺の髪の毛を撫でた。優しい手つき。
「俺はお前の事、何も知らないな。」
それには、返事せずに黙った。
俺が黙ったら東吾も黙り、点滴が終わるまでただ静かに過ごした。


点滴が終わると、医師の診察を受け、病院を出た。
車を用意するという東吾を断り、電車に乗った。
当たり前のように文句を言わずに俺についてくる東吾。

電車に揺られていると、止まったホームから数人の男が電車の中に入ってきた。
その男達は、アニメキャラのキーホルダーやアイドルグッツを手に持っていた。オタ会か何かの集まりでもあったのだろうか。
人の趣味に対して興味のない俺は、ぼんやりとその男たちを横目に見た。
「俺の推しがぁ!控えめに言っても神ぃっ!!」
「分かります。誇りがあって強いのに可愛いとかぁ。滾りますねっ!!」
その男達は興奮しているのか、迷惑ではないが結構な音声で話していた。
車両内には、通勤通学タイムではなかったので、まだまだ座席が空いている。

それを聞いていた向かい席の女の人が聞こえるように「ないわ。」「ありえない。」「キモい。」と席を立ち、隣の車両へ移動した。
その男たちは、聞こえていたのだろう。その途端、ははっと苦笑いが聞こえた。


「理解できないな。」
その様子を自分しか聞こえない声で呟いていた。
最寄りの駅に付き、電車から降りた。
すっかり慣れてしまった同棲している家への帰り道。
「さっき、理解できないと言ったのは、オタクが嫌いなのか?」
あ?聞いていたのか?すんげぇ小さい声だったのに。
「いや。別に人の趣味とか興味ねぇから。嫌いでも好きでもない。」
それを言うなら、俺だって鍛えるのが好きなオタクと言われる人種なのかもしれないしな。

「俺は“好き”を誰にも貶されたくないな。」
目立つように好きなモノを語りそれを否定されて、ははっと笑っていられるのは理解できない。秘密にしておけば誰からも批判されないのに。

「……とりあえず、六が好むプロテイン味が変でも貶すことはしないでおこう。」
お。さっそく貶されている。
「おい。ケーキ味は旨いだろうが。他の味より甘めで飲みやすいって。お前こそ、フルーツ味以外も飲んでみろって。」
「さすがに無理だ。飲み込めない。」
「チョコミント味もイケるぜ!今度黙って差し入れしてやる。」
それはいいかもしれない。東吾は甘党ではないから最高の嫌がらせになるに違いない。
そんな小学生みたいな意地の悪い事を考えると、横で東吾が笑っている。

「何?」
「いや。六があのちんちくりんにばかり笑顔を見せるから少し妬いていた。」
「馬鹿か。番持ちのオメガ同士だぞ。」
軽くあしらってこの話題は終わろうと思っていたら、首輪に東吾の長い指を一本内側に入れられた。丁度歯型がある部分。

「そうだな。」
その低い声にゾクリと背筋が凍る。

俺は、瞬時にその手を叩くように振り払った。パチンと思ったより大きな音が出た。
その音に気まずさを感じ、ハッとしたが、前を向き直した。


俺が歩く歩調を早めると俺の後から東吾が話しかけてきた。
「六。」
「……何?」
俺が何をやっても本当にへこたれないな。


「今度、お前の好きなモノを教えてくれ。」
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