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16.デジャヴ
首にあざなんかあったかなぁ?
全然覚えてない。
俺は首を撫でながら、SEIのマンションからの帰っていると、自宅前にて目を見開いた。
黒くてピカピカの高級車。
築40年ハイツの出入り口に横づけされた黒光りする外車が停まっていたのだ。
デジャヴュ。
被っていた帽子を深く被って、そのまま通り過ぎようとすると、ガチャリと車の後部ドアが開いた。出てきたのは、スーツ姿なのにサングラスをかけた人達だ。やたらとニコニコしているのに人相が悪い。
これまたデジャヴュ。
「お久しぶりです。三栗七生さん、覚えていらっしゃいますよねぇ?」
「……」
覚えているも何も俺を漁船に乗せようとした人ですよね。
俺の人生のうちで一番怖かった日ですので、そう簡単に忘れられません。
固まる俺の肩をガシリと仲良しみたいに掴んだ。
「その節はどうもぉ。ここじゃなんですからぁ」
二人いるうちの一人が後部座席を開いた。普通っぽい青年だけど、ニカッと笑う前歯がない。
ぐいっと後部座席に、……乗らされたくないっ!
「ひぃ! 待ってください。俺、借金も何もしてませんよぉ、勘弁してください!」
「やぁだなぁ。ちょっとお話がしたいだけですよぉ。ちょっとで済みますからねぇ」
怖くない怖いです怖くない……
なんて怖いお兄さんたちと押し問答した後、強引に後部座席に押し込まれた。
発車した車内で、お菓子食うか、タバコ吸うか、酒を飲むかと色々気を使われるが、この車内のヤニ臭さで気分が悪くなる。
また事務所に連れていかれるかと思ったら、〇々苑の個室だった。
鉄板に火を付けられるとビビる。え。この鉄板で焼かれたりはしないよな? 焼かれるお高い肉を見ているだけなのに何故か冷や汗が出てくる。
「いやぁ三栗さん。先日は沢山怖がらせちゃってすみませんねぇ。お詫びに沢山食べてくださいよぉ」
「ほら、遠慮せず!」
トングを持った若手が、焼き上がった肉を自分たちの皿より早く俺の皿に入れてくれる。
どういうことかと思ったけど、ヤクザの二人が俺を攫ったのは、先日の詫びらしい。
いや、詫びもなにも返済を遅らせていた沢谷のせいだし。ヤクザはそれが仕事なのだから俺に詫びる必要はない。
「……ほ、本当のところは?」
それを言うと、はははと笑うので、俺も愛想笑いするしかない。じゃんじゃか皿の上に肉を入れられ勧められる。
頑張って肉を頬張ってみるが味が全然楽しめない。
「俺らのことはこれでチャラってことにしてもらえませんか?」
「え?」
「いやぁ、これでも八乙女先生には色々世話になっているもんで。俺らが原因だとな?」
「アンタが先生の“運命の番”だなんてこれっぽっちも思わなかったんですよ」
今日、ずっと猫撫で声で色々親切にしてくれるのは、そういうことか。
八乙女に何か言われて来たのかと言うと、二人は違う違うと首を振る。
何も言われていないけれど、八乙女が色っぽい顔で溜め息三昧なのは、“三栗七生”のせいだと決まっているらしい。
「先生、それは、ずーっと君のこと考えとってなぁ。好き、というか物凄い好きなんですわ」
「それにしても、別の意味でアンタは凄いですよ。あの美貌の先生に情熱的に告白されて平気なんですから。声聞くだけで腰砕け。事務所に来た女どもなんて、先生を見ただけで発情した猫みたいになりますからね」
「テクニックなしでも先生ならいけるでしょう?」
「……」
テクニックもあると思うよ。言わんけど。
「まぁ、だから俺らの事は忘れて。機嫌も直しやしょうぜ、な?」
「三栗さんは、先生の“運命”なんだから頼みますよぉ。俺らもう関わり合いませんからねぇ」
お土産に肉が入った箱を持たされて、これっきりにするからと言う彼等と別れた。
◇ ◇ ◇
──あの人達にあんなことを言われたあと、俺はちょっと考えた。
お試し期間はあと五日。
強いフェロモンを付けられても、さっぱり分からない俺。
なのにずっと一途に勘違いし続けている八乙女。
そんなことを考えながら、休暇明けに八乙女宅へ向かう。
「八乙女さん、食事の作り置きは冷蔵庫にありますので」
「はい。ありがとうございます」
キッチンに立つ俺の横に、八乙女が近づいてきて、食器の片づけを手伝ってくれる。
「そういえば、先日作ってくださった西京漬けも美味しかったです。牛蒡のきんぴらも」
「それは良かったです」
「僕も覚えたいです」
ずくん。
「和食も洋食も。しっかり味付けも覚えますので」
「……」
八乙女は家事を覚えなくても金もあり不自由もない。今までそうしてきたんだろう?
それを覚えたいのは、アルファが意中のオメガを囲い込み、世話を焼くためだ。
オメガのための行為。
俺の胸の奥が、微かな痛みを覚えて、あーしまった。と俺の顔が引きつる。
「七生さん、どうしました?」
とにかく、しまった。
この感覚になるとは思ってなかったので、すっぱり言った。
「八乙女さん、俺は運命ではありません。もうごっこはやめましょう」
全然覚えてない。
俺は首を撫でながら、SEIのマンションからの帰っていると、自宅前にて目を見開いた。
黒くてピカピカの高級車。
築40年ハイツの出入り口に横づけされた黒光りする外車が停まっていたのだ。
デジャヴュ。
被っていた帽子を深く被って、そのまま通り過ぎようとすると、ガチャリと車の後部ドアが開いた。出てきたのは、スーツ姿なのにサングラスをかけた人達だ。やたらとニコニコしているのに人相が悪い。
これまたデジャヴュ。
「お久しぶりです。三栗七生さん、覚えていらっしゃいますよねぇ?」
「……」
覚えているも何も俺を漁船に乗せようとした人ですよね。
俺の人生のうちで一番怖かった日ですので、そう簡単に忘れられません。
固まる俺の肩をガシリと仲良しみたいに掴んだ。
「その節はどうもぉ。ここじゃなんですからぁ」
二人いるうちの一人が後部座席を開いた。普通っぽい青年だけど、ニカッと笑う前歯がない。
ぐいっと後部座席に、……乗らされたくないっ!
「ひぃ! 待ってください。俺、借金も何もしてませんよぉ、勘弁してください!」
「やぁだなぁ。ちょっとお話がしたいだけですよぉ。ちょっとで済みますからねぇ」
怖くない怖いです怖くない……
なんて怖いお兄さんたちと押し問答した後、強引に後部座席に押し込まれた。
発車した車内で、お菓子食うか、タバコ吸うか、酒を飲むかと色々気を使われるが、この車内のヤニ臭さで気分が悪くなる。
また事務所に連れていかれるかと思ったら、〇々苑の個室だった。
鉄板に火を付けられるとビビる。え。この鉄板で焼かれたりはしないよな? 焼かれるお高い肉を見ているだけなのに何故か冷や汗が出てくる。
「いやぁ三栗さん。先日は沢山怖がらせちゃってすみませんねぇ。お詫びに沢山食べてくださいよぉ」
「ほら、遠慮せず!」
トングを持った若手が、焼き上がった肉を自分たちの皿より早く俺の皿に入れてくれる。
どういうことかと思ったけど、ヤクザの二人が俺を攫ったのは、先日の詫びらしい。
いや、詫びもなにも返済を遅らせていた沢谷のせいだし。ヤクザはそれが仕事なのだから俺に詫びる必要はない。
「……ほ、本当のところは?」
それを言うと、はははと笑うので、俺も愛想笑いするしかない。じゃんじゃか皿の上に肉を入れられ勧められる。
頑張って肉を頬張ってみるが味が全然楽しめない。
「俺らのことはこれでチャラってことにしてもらえませんか?」
「え?」
「いやぁ、これでも八乙女先生には色々世話になっているもんで。俺らが原因だとな?」
「アンタが先生の“運命の番”だなんてこれっぽっちも思わなかったんですよ」
今日、ずっと猫撫で声で色々親切にしてくれるのは、そういうことか。
八乙女に何か言われて来たのかと言うと、二人は違う違うと首を振る。
何も言われていないけれど、八乙女が色っぽい顔で溜め息三昧なのは、“三栗七生”のせいだと決まっているらしい。
「先生、それは、ずーっと君のこと考えとってなぁ。好き、というか物凄い好きなんですわ」
「それにしても、別の意味でアンタは凄いですよ。あの美貌の先生に情熱的に告白されて平気なんですから。声聞くだけで腰砕け。事務所に来た女どもなんて、先生を見ただけで発情した猫みたいになりますからね」
「テクニックなしでも先生ならいけるでしょう?」
「……」
テクニックもあると思うよ。言わんけど。
「まぁ、だから俺らの事は忘れて。機嫌も直しやしょうぜ、な?」
「三栗さんは、先生の“運命”なんだから頼みますよぉ。俺らもう関わり合いませんからねぇ」
お土産に肉が入った箱を持たされて、これっきりにするからと言う彼等と別れた。
◇ ◇ ◇
──あの人達にあんなことを言われたあと、俺はちょっと考えた。
お試し期間はあと五日。
強いフェロモンを付けられても、さっぱり分からない俺。
なのにずっと一途に勘違いし続けている八乙女。
そんなことを考えながら、休暇明けに八乙女宅へ向かう。
「八乙女さん、食事の作り置きは冷蔵庫にありますので」
「はい。ありがとうございます」
キッチンに立つ俺の横に、八乙女が近づいてきて、食器の片づけを手伝ってくれる。
「そういえば、先日作ってくださった西京漬けも美味しかったです。牛蒡のきんぴらも」
「それは良かったです」
「僕も覚えたいです」
ずくん。
「和食も洋食も。しっかり味付けも覚えますので」
「……」
八乙女は家事を覚えなくても金もあり不自由もない。今までそうしてきたんだろう?
それを覚えたいのは、アルファが意中のオメガを囲い込み、世話を焼くためだ。
オメガのための行為。
俺の胸の奥が、微かな痛みを覚えて、あーしまった。と俺の顔が引きつる。
「七生さん、どうしました?」
とにかく、しまった。
この感覚になるとは思ってなかったので、すっぱり言った。
「八乙女さん、俺は運命ではありません。もうごっこはやめましょう」
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